実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編 作:vwview
異種格闘技界の若きクイーンとして名を馳せていた輝日東高校フルコンタクト部の森島はるかから叩き付けられたタイマン勝負に、マーシャルアーツ部の部長、塚原響は戦うことなく従うことを決めた。後輩の七咲逢にはどうしても納得がいかなかったが、その問いに答える事無く、塚原響はマーシャルアーツ部を去っていった。
この事件は、部活をする者たちの間では、しばらく話題となった出来事ではあったが、数日もたつと忘れ去られ、人々の口に上ることはなかった。しかし、この些末な出来事を切っ掛けに、やがて多くの人達を巻き込んだ事件となっていくことになるのだが、今はまだ誰もその事を知らない――。
放課後の輝日東高校――
委員会の部屋が集まる校舎の一画で、彼女はひとり佇んでいた。
窓からの夕日が逆光となって表情はよく見えない。彼女の左腕には「風紀」と記された腕章が確認できる。さらさらとした長い黒髪が、夕日で金色の天使の輪を形作っていた。
「まったく。平穏という言葉のありがたさがわかっていない人が多すぎるわね」
机に向かい、黒い手帳に何か書き物をしている彼女が独りごちた。
「かといってこのまま放っておくわけにもいかないか……」
彼女の周りには少し早い夕闇が取り巻きつつある。しかし、それは時間帯によるものだけではなかった。彼女自身がつくり出している静寂と張りつめた空気がより濃い闇を呼び込んでいるかのようだ。
「塚原響……。この人は要注意ね。いったいどうする気なのかしら。目的がなんなのか、もう少し調べる必要があるわね」
彼女の情報ネットワークは輝日東高校だけにとどまらない。いまや周辺地域にもそのネットワークは広がっていた。それをもってしても塚原響という先輩の真の目的がはっきりしない。それがこの事態に対する彼女の行動を慎重にさせていた。
「ふん。まぁいいわ。状況を作り出してしまえば目的もおのずと明らかになるでしょ」
「今回の事をうまく利用すれば、結果的にはすべての問題を一気に解決する事ができるかもしれない」
彼女は大きく息を吐いた。
「いいわ。お望み通り、素晴らしいリングを用意してあげる」
彼女の周りの闇と張りつめた空気が一層濃くなる。
「ふふっ。ふははっ。
久しぶりに面白くなりそうね」
この時、誰かがたまたまこの部屋をのぞいたとしたら、いつもとあまりに違う彼女の雰囲気に一瞬別人ではないかと錯覚をした事だろう。仮にそう思ったとしても、その後の彼女のいつも通りの所作や言動で、さっき見たものは自分の見間違いと誰もが瞬時に思い直す事だろうが。
メモをしていた黒い手帳を閉じると『風紀委員長 絢辻詞』は静かに立ち上がった。そして、壁に設置されたロッカーから取出した鍵を制服のポケットに落としいれると、両のこぶしに拳サポーターをつけ風紀員室から出て行った。
深い闇をそこに残したまま。