実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

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第九話

 

男の鬱憤(うっぷん)が溜まり、冷静な判断を欠くようになったのを見計(みはか)らって、絢辻詞は次の段階に進んだ。

 

今度は男に、直接「お願い事」を依頼する。しかし、言い間違いや心変わりをして、男が無駄に手を(わずら)わせる様に仕向(しむ)けたのだ。とは言え、普通の大人なら年端(としは)もいかぬ少女の言うことと、笑って許せる範囲である。ましては、自分が仕える主人の「お嬢様」の言う事だ。

 

しかし、普段から鬱憤が溜まっている状態の男は、そういった事が度重なるにしたがって大人の余裕を保てなくなっていった。ある日ついに「これだから女子供は!」と、日頃から思っている事を、絢辻詞の前でつい口にだしてしまった――その場の空気が固まる。

 

流石にこれは不味いと思ったか、男は慌ててその場を取り(つくろ)う。「詞お嬢様」としては当然、叱責なり、言い返していい場面だが、彼女は敢えて言い返さない。さも傷ついたかのように、目を伏せ、

 

「あたしがわるいの。ごめんなさい……」

 

と小さな声で謝るだけに留めた。絢辻詞の人心操作であることは言うまでもない。彼女擁護の状況を形成しつつ、男と絢辻詞との関係性の悪さを周囲に印象付けるのが目的であった。

 

しばらくすると、男は勝手に自滅し始めた。絢辻詞の事を「世間知らずが」、「我儘小娘が」と陰口を叩き始めたのだ。もはや絢辻詞が手を下すまでもなくなっていた。男への周囲の評価が、「あれは、いつ暇を言い渡されてもおかしくない」といった様相に醸成されたと見て、絢辻詞はいよいよ行動に移ることにした。

 

絢辻詞は、数日前より準備を重ね、この時間、内庭周辺に人が居ない時間を作りだした。彼女の身の周り担当である女使用人にも、お使(つか)いを頼んだのでしばらくは戻ってこない。

改めて(あた)りを見回し、誰も居ない事を確認してから絢辻詞はそっと内庭に足を踏み入れた。

 

***

 

(さて……。そろそろ男が、内庭に向かっている頃だ。)

読んでいた本を閉じて、絢辻詞は立ち上がる。最近は、男に仕事以外で(かま)う者は(ほとん)ど居なかった為、情報操作で男の行動を限定的にするのは容易(たやす)かった。

 

「ちょっと、うちにわにいってくるわ」

 

絢辻詞は、自分の身の周り担当の女使用人に声を掛ける。

 

「詞お嬢様、(わたくし)もご一緒いたしますわ」

 

彼女に声を掛けられた女使用人は、にこやかに応じた。気の良いこの女性が、そう応える事も想定の範囲内だ。

 

内庭に向かう通路で、内庭の方から掛け出してくる男とすれ違う。

女使用人は、「廊下を走るなんて、非常識にも程がある」「詞お嬢様にぶつかったらどうする気なのかしら!」と文句を言いながら、絢辻詞と内庭に足を踏み入れた。

 

「あら?」

 

女使用人の足が止まる。一瞬の間を置いて、女使用人が短い悲鳴を上げた。

 

「な、なんてこと!

詞お嬢様、こちらに来てはいけません!誰か!だれか来て!兎が――――!!」

 

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