絢辻詞が庭に出る事が無くなったからと言って、嗜虐性向が治った訳ではなかった。この時期、ターゲットは大人の人間に移っていた。少女にとって、自身の権謀術策の精度を高める為と、嗜虐性向を満足させるのに一石二鳥だったのだ。
主に標的となったのは、怪しい行動をしてる者や、気に入らない使用人達だ。絢辻家程の家柄ともなると、当然ながら他の家から密偵が入り込む事も多いので、獲物には事欠かない。かと言って、自分のしている事を勧善懲悪の英雄的行為とは微塵も思ってはいなかった。ただ単に、そう言った行動不審な輩は、罠に嵌め易かっただけの事だ。実際、何の落度も無い青年を陥れた事もある――唯の暇潰しに。
「こんかいは、なんもんね……」
少女 絢辻詞は独りごちた。標的を罠に嵌めて、ただ排除するのであれば簡単だ。しかし今回は、金城という男を仲間に引き込まなければならない。ターゲットである金城の身辺調査を、何時もより入念に行わなければ。少女は、何時ものように周囲の者や、親の書斎から基本的なプロフィールの収集から始める。
金城は、要人警護を生業とするプロのボディガードという事らしい。活動範囲はやはり海外が多く、フランス語、英語をはじめアジア数カ国の言語に精通。PMCに在籍していた期間もあり、「かなり」危ない警護も経験しているようだった。
経歴は申し分無かった。腕っぷしに自信のあるだけの格闘家という訳ではなく(日本では活用する場は無いが)銃火器の使用も含め、「人を制圧する」プロフェッショナルという事だ。絢辻詞のようなひ弱な女子供が、敵対する相手に対して、正々堂々拳でタイマンなどあり得ない。使える物は何でも使って相手を倒すという彼女のコンセプトにうってつけの教官と思えた。
問題は金城の人格だ。信用に足る人物でなければ、これ以上、事を進める訳にはいかない。絢辻詞は、上流社会の社交の場で、多くの大人達を見てきており、人物眼はそれなりに養われているつもりだ。しかし殺伐とした世界を渡り歩いてきた男が一体どういう人格を形成するのか、少女にはさすがに想像すら出来なかった。
下手をすれば、絢辻詞自ら危ない野獣にこの身を晒す事になりかねない。最後は自分の直感を頼りに、金城が信用たり得る人物かを判断する必要があった。彼女は今までと手法を変え、ターゲットである金城に直接接触する事に決めた。