実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

16 / 31
第十五話

クライアントとのプライベートな接触はプロとして慎むべきだが、その日、金城(かねしろ)は何の気まぐれか、自分の修練を見に来ていた絢辻詞に声を掛けてしまった。小さな子という事で、自分の娘の面影を重ねてしまったのかもしれない。

 

「――詞お嬢様は格闘技に興味がおありですか?」

 

そろそろ引き上げ時と、腰を上げ掛けていた絢辻詞は、よもや声を掛けられると思っていなかったのか、驚いた表情でこちらを見つめ固まっている。金城は少女を怖がらせないよう、努めて笑顔で続けた。

 

「よく見にいらっしゃるのでそうなのかと思いまして」

 

少女は居住まいを正し、少し考えあぐねるような仕草をした後、ぽつりと口を開いた。

 

「かねしろさんは、おつよいのでしょう?」

「――え?」

「ひとをまもれるくらい、つよいってどんなかんじ?」

「強さ――ですか」

 

格闘技の体捌きなど、見た目の面白さに興味を惹かれたのだろうと、無邪気な返答を予想していた金城は、少女が返した言葉に意表を突かれた。そして、少女は少し(うれ)いを()びた顔をして、独り言のように小さく(つぶや)いた。

 

「じぶんをまもるのも、むずかいしのに……。すごいわ」

「…………」

 

もう行かなくてはと、スカートの乱れを正すと絢辻詞は、天使と見まごう微笑と完璧なお辞儀をしてその場から居なくなった。

 

金城は、絢辻詞が去った後も(しばら)くその場に留まり、少女の残した言葉の真意を考え続けていた。金城が、この少女に関心を持ったのはこの時が最初であった。

 

金城は周囲の者に、絢辻家の姉妹について聞き込みをした。絢辻家の姉妹は、幼少の頃からその美しさと礼儀作法、立ち振る舞いの完璧さで、上流社会の社交の場では、かなりの有名人――名物姉妹なのだそうだ。

 

今自分が担当している姉の方は、少女から女性にと、更なる美しさの高みに登りつつある成長期のようで、特に少女に興味が無い金城でさえ、(まれ)にはっとするような美しさを垣間見せる時がある。

しかしながら、それは外観だけであって、内面はと言うと、当初この娘は精神に問題があるのでは無いかと、金城が(いぶか)しんだ程、極度に周りの事に無関心だった。

常に心ここにあらずといった感じで、此方(こちら)が言っている事をちゃんと理解しているのかも疑わしい。実際、会話が噛み合わない事も多い。

 

これで、学校生活の方は大丈夫なのかと思ってしまうが、成績の方はというと、名門大学付属の一貫校で幼少の頃から学年トップの座を誰にも譲った事がない才女というから驚きだ。パーソナリティとしてはエキセントリックに見えても、周りに迷惑を掛けると言った言動も無い。社交の場での振る舞いも完璧。ちょっとふわふわとした世間知らずな振る舞いは、逆に愛嬌があるお嬢様というのが世間が持つ彼女の印象だった。

 

日本ではこう言ったパーソナリティの持ち主の事を「天然」という便利な言葉で好意的に受け止めるようだった。確かに、日常会話は噛み合わないが、警護上の約束事については一度で理解し、同じ事を繰り返し伝え直した記憶が、金城には皆無だった。

 

警護に支障が無いので、金城はそれ以外については無関心を装った――警護のプロとして、クライアントのプライベートに干渉するのは慎むべきというポリシーからだが――しかし、実際に会った印象と、客観的に見た振る舞いがどうにも一致しない。彼女の本心が掴みきれない点に違和感があるのは事実だった。

 

一方、次女の絢辻詞はというと「天然」な姉とは対照的に、利発な印象の少女だった。何事にもコツコツと地道に研鑽を積む優等生タイプらしく、幼少の身ながら、身の周りの事は、大概(たいがい)自分でこなしてしまうので、お付きの使用人泣かせだという。

 

確かに、金城(かねしろ)の修練を見に来る時も、自分から話しかけてくる事もなく、遠目から見ているだけで、金城の邪魔にならないよう、幼女とは思えない配慮をしていた事を思い出す。少女と会話をして以来、彼女の事を気にして見るようになったが、日常生活においても、その(たたず)まいが崩れることはない。使用人など周りの者達に対し、柔和に接して気遣いも怠りない。

 

親の教育の賜物と言えばそれまでだが、様々な要人の警護をしてきた金城の経験からすると絢辻詞――いや、この家の姉妹はかなり異質だ。

 

これまで警護したどの家庭の子供も、外では自分の立場を(わきま)え自制をするが、身内だけの時には、子供らしく我儘(わがまま)を言ったりもっと自由闊達(じゆうかったつ)なものだ。絢辻詞の年齢であれば当然、愚図(ぐず)ったりしても良い年頃であるが、そういった姿を見たことが一度もない。まるでテレビドラマに出て来る、理想的なお嬢様を見ているような印象だった。その客観的な印象と、この前の会話はやはり、違和感を感じずには居られなかったのだ。金城は、絢辻詞の担当使用人に話を聞いてみる事にした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。