実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編 作:vwview
言われるまでもなかった。大人でも真似できない程に、常に自分を律した行動や、強姦未遂事件など、金城から見ても少女の日常は、決して楽ではない事が容易に想像できたからだ。
金城は、そんな少女のひと時の安らぎの時間になればと、
「――ベトナムに行ったらお薦めはチキンライス」
「ベトナムでもピラフをたべるの?」
「あぁ、そうか。西洋料理のピラフとは全然違う料理だよ。コムガーといって、鶏の出汁の炊き込みご飯だ」
「まぁ、おいしそう」
絢辻詞は、両手を胸元で合わせて目を輝かせる。最初はぎこちなかった絢辻詞も、最近ではだいぶうち解け、歳相応の無邪気な表情をみせるようになっていた。
「うん。屋台でもボリュームがあって、しかも安い。ベトナムにいた時は、毎日食べてた」
「まいにちチキンライスでは、ビタミンぶそくになりそうだわ」
「ビタミン補給は果物だね。日本と違って東南アジアは、どこもフルーツは安く手に入る」
「まいにち、やたいですませてたなんて、
おしょくじをつくってくださるごかぞくは、
いらっしゃらなかったの?」
「うん。今はいない。死んだんだ――」
「――――っ!」
絢辻詞がはっとして場の空気が固まったのを感じて、ようやく金城は自分の失言に気が付いた。いくら相手が幼女だからと言って、クライアントに自分の過去を吐露してしまうとは――油断意外の何物でもなかった。
「ごめん、なさい――」
絢辻詞は
「もう随分前の事ですから、詞お嬢様が気にされる事はないのですよ」
金城は努めて明るく応えた。それでも絢辻詞は――本当に?という顔で、金城の顔を見上げている。
「もう自分の中では普通に話を出来るくらい過去のものになっていますから」
金城は少女が気兼ねないよう微笑みかけながら言葉を重ねた。絢辻詞はちょっと逡巡した後、金城を真っ直ぐに見つめて意を決したように口を開いた。
「なくなったのは――いまのしごととかんけいが?」
いつになく踏み込んでくる絢辻詞に、金城は一瞬動揺したが、表情に出ないよう平静を保つ事には成功した。金城は話すかちょっと迷ったが、今の状況では、
「――この仕事に着く前、もっと危ない仕事をしていてね。ちょっとしたトラブルに巻き込まれて――その時に、妻と娘を亡くしたんだ」
「…………」
金城の話に絢辻詞は少しびくっとしたが、目は
「その仕事から足を洗った後、今の人を守る仕事をする様になった――そういう意味では、今の仕事をする切っ掛けとなったと言えるかな」
「むすめさんがいらっしゃったのね」
「生きていれば、詞お嬢様くらいでしょうか」
絢辻詞は、そっと金城の手を取り、自分の両手で包み込んだ。
「ごめんなさい」
少女は再び謝った。これは、さらに踏み込んで聞いてしまった事への謝罪だろう。金城もその場の雰囲気とは言え、自分の事をここまで話して良かったのか判断が付かなかった。金城の様子からそれを感じて、絢辻詞は金城の顔を見上げ、哀しそうな、困ったような複雑な表情を浮かべ口を開いた。
「だれにもいわないわ――ふたりだけのひみつ」
そして俯いた少女は独り言のような、か細い声で呟いた。
「でも――はなしてくれて、うれしかった……」
どつやら金城がプライベートな話を吐露した事で、絢辻詞の心はさらに開いたようだった。しかし、少女に何故ここまで、自分の事を話してしまったのか――自分の娘の面影を重ねてしまったからか。いや、これまで警護した仕事で小さな娘がいるクライアントなどいくらでもいた。絢辻詞にだけ何故なのか、この時の金城にはその理由はまだわからなかった。