実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

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第二十話

金城(かねしろ)は、組んでいた腕を解くと大袈裟に手振(てぶ)りを交えて話し始めた。

 

「俺は仮にもプロですし、特にこの業界は、約束事、契約に(うるさ)い業界です」

「まぁそうでしょうね」

「今、俺は絢辻家と契約しています。そこで詞お嬢様と契約するとなると……。これは、二重契約になってしまいます」

「――そんなの……」

 

怪訝(けげん)な顔をして口を挟もうとする絢辻詞を制して、金城はさも困ったといった風に、部屋のなかをぐるぐると往復しながら茶番(ちゃばん)を続ける。

 

「いやいや。詞お嬢様が思っている以上に、この業界は掟が厳しいのです。二重契約をしている事が知れた時点で、この業界では生きていけません」

「…………」

 

絢辻詞は寝間着の(すそ)をぎゅと握りしめて、居心地の悪い表情をし始めた。金城は気が付かないフリをして話を続ける。

 

「あ――これでは、強姦魔にされようと、されまいと俺はこの業界では生きていけません。特に絢辻家には、恩も借りもございませんから、詞お嬢様にお(つか)えすることに、何ら含む所は無いのですが……」

 

まるで舞台俳優のように大袈裟な仕草(しぐさ)で金城は至極(しごく)残念そうにがっくりと(うつむ)く。

 

「あ、あなた!犯罪者になってもいいというの」

「確かに。前科が付くというのは(いささ)(いただ)けませんね」

 

金城はくるりと振り向いて絢辻詞の方を見ると、人差し指を顔の前に立てた。

 

「こういうのはいかがでしょう。一度、絢辻家からお暇を(いただ)いた後、改めて詞お嬢様にお仕えするというのであれば、二重契約にならずに済みます」

「うん、それよ!そうなさい」

 

(しぼ)みかけていた絢辻詞は、再び元気を取り戻して同調する。金城はここで間髪入れず、少女に近付(ちかづ)いて囁いた。

 

「――しかしそうなりますと、俺は絢辻家に自由に出入りすることが出来なくなりますが、さて……詞お嬢様、如何致(いかがいた)しましょう」

「…………」

 

絢辻詞は顔を真っ赤にして押し黙った。

 

金城の虚言を(ろう)した話術によって、絢辻詞は完全に気勢(きせい)()がれてしまった。こういった脅迫事の成否は、相手に精神的な余裕を与えず、一気にたたみ()めるかに掛かっている。大人と子供の差というよりは、金城との場数を踏んできた数、経験の差だった。

 

先程までの鬼気迫る策謀家の姿は見る影もなく、すっかり意気消沈してしまった少女の姿を見て、金城はこのくらいにする事にした。

 

本来なら、もっと早くに切り上げて退室してしまっても良かったのだが、金城には気になる事が一つあった。何故(なぜ)自分がこれ程までに絢辻詞を気にかけるのか、その訳を知りたかったのだ。

 

「詞お嬢様……」

「――なに」

 

(はかりごと)の全てが失敗に終わってしまった事を理解した絢辻詞の、むしろ清々(すがすが)しいとまで思える表情を見て、金城は内心驚嘆した。今なら「今夜はもう遅いのでそろそろ引き上げます」と言ったら「あらそうね、おやすみなさい。ごきげんよう」と何事も無かったかのような受け答えが返ってきそうだ。

 

今回の絢辻詞の謀略は金城に出会った時からと考えても、膨大な時間と労力を掛け、緻密に策を練ってきた事が容易に想像できる。それが(わず)か数分前に全て水泡に帰したのだ。この年頃ならもっと駄々を()ねたり、暴れてもいいくらいなものだ。

 

長い時間と労力を掛けた計画が破綻した時、「こんなはずでは無い」「まだ終わっていない」と現実を受け入れられず、無様(ぶざま)な醜態を晒す大人達を、金城は数多く見てきた。

 

それに比べて目の前の少女、絢辻詞の態度は実に理性的で見事だった。帝王学を学んできた絢辻家の娘としての品格なのか、それとも――あまり関係性は良くないようなので、本人に言っても喜ばれないと思うが――リアリストな絢辻家当主の天性の素質を少女が色濃く受け継いるからかも知れない。

 

実際、金城にドアの鍵を掛けさせた所までは完全に少女の術中に(はま)っていた――相手が守るべき家庭や地位がある普通の人間なら、間違いなく成功した事だろう。

 

金城は少女が座っているベッドの(そば)に膝をついて、絢辻詞と目線の高さを同じくして向き合った。

 

「――詞お嬢様。このように策を(ろう)さなくとも、何か助けて欲しい事があればおっしゃっていいのですよ」

 

「べ、別に助けてほしいなんて言って…ない……」

 

少女の声のトーンは語尾に行くに従って弱々しくなった。

 

「なに意地を張っているのですか。詞お嬢様と金城は友達ではありませんか」

「え、だって、それは……」

 

金城は静かに首を左右に振って、絢辻詞に最後まで言わせなかった。

 

少女はため息を一つすると、観念して肩の力を抜き、ぽつりぽつりと語りはじめた。

 

 

 

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