実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

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第二十二話

「その代わり……今、あなたがいる日常をあたしにちょうだい」

「…………」

 

金城(かねしろ)は、一瞬言葉を失った。しかし、過激な発言の中にある少女の必死さは充分に伝わった。大きく深呼吸をすると、金城はゆっくり口を開く。

 

「詞お嬢様――。先程(さきほど)も申しましたが、そんな無理な交渉事をしなくても、ただ、助けてほしいと言えばいいのです。金城と詞お嬢様は友達なのですから」

「え……でも」

 

少女は言っている意味がよくわからないといった感じで小首を(かし)げる。その仕草 (しぐさ)に絢辻詞が本当に理解していないのだと分かって、金城は暗い気持ちになった。

 

これだけの豪邸に住まい、多くの使用人に(かしず)かれながら、この少女はスラムの孤児達と同じく、人の善意というものを知らないのだ――。

 

もちろん、社交的なコミュニケーションを円滑にする配慮としての表面的な優しさや親切心は理解している。しかしながら、真心(まごころ)から生まれる無償の善行や愛といったものに触れた事が無いのだろう。例えば――親からの愛情とか。

 

だから自分の価値観に当て嵌め、世の中の人たちも皆、何かしらの対価――(ある)いは弱みを握られるなどしないと人は動かないと思っているのだ。おそらく物心つく前から、本音を語らず腹の探り合いをするのが当たり前の上流階級の社交の場で育った事で、人とは皆そういうものだと認識してしまったのだろう。

 

「いったい、どうしたらいいのかしら……。残念ながら、あたしには自分しかあなたにあげられるものはないの」

 

絢辻詞は(うつむ)き、長い睫毛(まつげ)を伏せて(うれ)いの表情を浮かべた。そんな少女を見ながら、金城は思案を(めぐ)らす。ここで金城が、なんの対価も要求せずに助力を申し出ても、彼女の価値基準では到底納得しないだろう。

 

逆に裏があるのではと猜疑心を強め、最悪の場合、金城との交渉を断念――悲鳴を上げて、人を呼ぶかもしれない。今は絢辻詞の気勢(きせい)()らして金城が会話の主導権を握っているが、実際の所は、まだ絢辻詞が仕掛けた(キルゾーン)の只中にいる事に変わりはない――金城は、打開策を探る為に少し話題を変える事にした。

 

「詞お嬢様は体術を修得して、自分を守れる様に強くなった後はどうされますか」

「あなた馬鹿なの? 体術を修得したくらいで、強くなった気になんて、なる訳ないじゃない」

「はあ……」

 

金城は、少女の毒舌に苦笑した。実現した未来を夢想させて、少女の気分を変えさせようとしたが、それ程甘くはなかったようだ。

 

「体術の修得は、夢の実現に向けたほんの一歩に過ぎないわ。あたしは、絶対に姉さんのようにはならない――いつの日か必ず、親に対抗できる力を手に入れてみせる。今は何もないけれど……」

 

絢辻詞の言葉には固い決意が込められていた。その台詞は反抗期の娘が親に対してよく口にするような言葉だが、絢辻家において、この言葉の意味する所は遥かに重い。

 

絢辻家の現当主は、上流社会における地位を着実に上げている。裏で日本を真に動かしている「五人会議」の次期最有力候補と目されている人物だ。この親に「対抗」するという事は、比喩ではなく世界を敵にまわす事に等しい。

 

それでも、少女らしい「夢」という単語が絢辻詞の口からて出来た事に金城は安堵した。金城は、微笑みを浮かべて会話を繋ぐ。

 

「夢ですか――詞お嬢様はどの様な夢をお持ちなのですか」

「そんなの決まってるじゃない」

 

絢辻詞は、聞くまでもないでしょうと、いう顔をして言った。

 

「本当の自分で居られる場所を手に入れるのよ」

 

 

 

 

 

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