実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

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第二十三話

絢辻詞の言葉に、金城(かねしろ)は愕然とした――年端(としは)もいかない少女が、一体どんな生き方をしてくればこんな寂しい夢を持つに(いた)るのか、想像すら出来なかった。薄幸なスラムの子供の方が、まだ無邪気な夢を語るに違いない。

 

そして、目の前で腰に手を当て、ドヤ顔をしている少女をまじまじと見つめながら、金城は考える――という事は何か?この目の前の嗜虐的で毒舌な策士の顔も本当の絢辻詞では無いということか。

 

要するに絢辻詞は――絢辻家の娘として、理想のお嬢様を演じる清廉可憐な表の顔と、自分の夢を実現させる為に暗躍する冷徹な策士としての裏の顔の二つの顔を使い分けているのだ。おそらく物心つく前から、厳しく社交の場での所作を叩き込まれ、どんなに具合が悪い時でも完璧な礼儀作法で対応する事を()いられるなかで、自己防衛の為に仮面を作らざるを得なかったのだろう。そう考えると目の前の少女が見せる傲岸不遜な態度も、痛々しく思えた。

 

そして、この少女が見ている世界では、他の人も同じような生活を強いられており、みな同じ願望を持っていると思っているのだ。学校で同年代の子供達が語る無邪気な夢は表面的な社交トークで、よもや本音で語っているなどと、絢辻詞は、露程(つゆほど)も思っていないに違いない。

 

「――そ、それは素敵な夢ですね……」

 

金城は平静を装ってなんとか言葉を絞り出した。絢辻詞は、そうでしょうと言った顔で満足げに頷いた。

 

絢辻詞は、人は本音で語り合う事など無いと思っているため、これまで誰かに助けを()うなどした事が無いに違いない。だから、ただ一言「助けて」と言えれば済む所を、こんな手の込んだ策を(ろう)する事になってしまったのだ。逆に言えば、それだけ少女がこれまでに無く、切羽詰まった状況であるとも言えた。今回、金城にこれだけ自身の胸中(きょうちゅう)を語ること自体、少女にとって異例中の異例に違いない。

 

そして自分が、絢辻詞を何故(なぜ)こんなにも気にかけるのか、金城はここにきて(ようや)く理解した――この豪邸で多くの人々に囲まれながら、少女は金城と同じく壮絶な迄に孤独だったからだ。

 

金城は、実の所もう人生を終わりにして、家族の元に()こうと思っていた。日本に来たのも最後に、妻の生まれ故郷である日本を見ておくのも悪くないという気まぐれからだった。しかし、絢辻詞と関わり合いを持ってから、段々とこの少女と人生を共に歩いてみたくなってきていた。

 

金城は、自分の中に芽生えたこの気持ちが何なのか考えてみる。娘の面影を重ねている訳でもないし、単なる同情とも違う。どちらかといえば境遇といった、自分との共通点 (シンパシー)だろうか――ただ単に、傷を()めあいたいだけかもしれない。死のうと思っている人間が、この後に及んでまだ心の救済を求めるなどと、自嘲する。

 

ただ一つ確かな事は、既にかなり歪んでしまっているこの少女は、放っておけば早晩(そうばん)、壊れてしまうに違いないということだ――絢辻詞には寄り掛かれるものが必要だ。

 

金城は、絢辻詞を見つめ、意を決して口を開く。

 

「詞お嬢様。この金城に、お嬢様の手助けをさせては、いただけませんでしょうか」

「でも――あたしには、あなたにあげられるものは何も……」

 

案の定、少女は怪訝な表情をして金城を見つめ返す。

 

「夢の話を聞いて、詞お嬢様に賭けてみたくなったのです。是非、金城にも同じ景色を見せてはくれませんでしょうか」

 

これで、少女が納得してくれればいいが――ベンチャーキャピタルなど所謂、先行投資 案件というやつだ。これなら、絢辻詞の価値観でも理解できる話だと金城は踏んだ。

 

「成る程――先行投資という訳ね」

「その通りです。いかがでしょう」

 

絢辻詞に話が通じて、金城は内心安堵した。

 

「必ずしも、あたしが親より力を付けられるとは限らないわよ。それでもいいの?」

「金城は、詞お嬢様の類い稀なる、権謀術策(けんぼうじゅっすう)の才に感服(かんぷく)いたしました。賭ける価値は充分あると判断します。それに、先行投資とはまだ誰もその価値に気が付いていない時に決めなければ、相応のバックは見込めないものです」

 

少女は腕を組んで「ふむ」と(しば)し金城の話を思案してから言った。

 

「――いいわ。あなたにも、一枚噛ましてあげる」

「ありがとうございます」

「これで契約成立ね」

 

絢辻詞は、太々(ふてぶて)しい笑顔の中に安堵の表情を(にじ)ませて言った。

 

これで家族に再会するのが遅くなってしまうが、あの妻なら、この寄り道をきっと許してくれるに違いない――ほんの一瞬、垣間見せた、年相応な少女の表情を見ながら、金城は思った。

 

 

 

 

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