実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

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第二十五話

絢辻縁の部屋を辞した金城(かねしろ)は、次の目的の場所に行く道すがら考える。遠い将来の話だが、現当主が老いるなどして権力を次に移譲した時、絢辻縁は絢辻詞にとって最大の障害になるやもしれない――少なくとも侮ってはならない相手だと心のメモに記しておく事にした。やれやれ――我が(あるじ)の前途はどこまでも多難だ。

 

目的のドアの前に立つと、(おとな)いを告げる。中から「どうぞ」と明瞭な返事が返ってきた。金城は部屋に入ると、姿勢を正して部屋の主人に挨拶をする。

 

「失礼します。本日付けで、詞お嬢様専任の警護長兼使用人長を拝命いたしました」

「ようこそ。待っていたわ」

 

少女、絢辻詞が笑顔で出迎える。

 

「長などと、肩書きが付いていますが、部下もなく一人でなんでもやる、詞お嬢様専任のお世話係という感じです」

「金城一人の方が、動きやすくて好都合よ」

「まぁ、詞お嬢様が良ければそれで――」

「金城。名前はいらない」

「は?」

 

絢辻詞は、金城にしか見せない嗜虐的な表情を浮かべて言い放った。

 

「あなたが(つか)えるお嬢様は、この世にあたし一人しか居ないのだから、呼ぶ時に一々(いちいち)名前を付ける必要はないでしょう?」

 

早速これだ。まったくこの少女は――金城は苦笑する。金城は、改めて(うやうや)しくお辞儀をした。

 

「失礼いたしました――お嬢様(・・・)。以後気をつけます」

「うん。それじゃぁこれからの事を話しましょうか」

 

――この日から二人の、二人三脚の生活が始まった。

 

金城が、絢辻詞と生活を共にする様になって驚嘆した事が二つあった。一つは、裏と表の仮面の使い分けの見事さだった。少女とは思えぬ、その切り替わりの巧みさには思わず舌を巻いた。

 

もう一つは、絢辻詞の(みずか)らに対する厳しい姿勢だ。金城は日中、絢辻詞の個人執事兼警護として仕え、早朝と夜に、格闘術の師匠として少女の指導にあたった。

 

日中は、絢辻詞が主として振る舞い、稽古の時は、立場が逆転する訳だが、当初、日中の金城に対する絢辻詞の傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度を見るにつけ、果たしてちゃんとした稽古になるのかと疑念を持っていた。しかし、いざ稽古となると、日中の絢辻詞とは別人かと見紛(みまご)うほど真摯に、稽古に取り組む姿勢を見せた。

 

一度、稽古の合間にこの事について絢辻詞に話した事があったが、少女はさも心外と言った面持(おももち)ちをして言った。

 

「自分の人生が掛かっていると分かっている時に必死にならなくて、一体、いつなると言うの?」

 

少女は言葉の通り、どんなに疲れている時も、稽古に一切の手抜きをしなかった。稽古が終わった後も、睡眠時間を削って自己修練で研鑽を積み続けた。成績が下がる事など絶対に許されない学業に加え、多数の習い事、公的行事への出席など、既に多忙を極める日常の中で、格闘術の自己修練を入れるには、只でさえ少ない睡眠時間を削る以外に余地がなかったのだ。その為、逆に金城の方が、オーバーワークで絢辻詞が壊れてしまわぬようコントロールする必要があった程だった。

 

 

***

 

――それから十年近くの時が過ぎ、高校二年となった絢辻詞は驚く程強くなっていた。

 

女性ならではの関節の柔らかさを活かした、広い可動域から繰り出す多彩な蹴技(けりわざ)は既に金城を越えており、彼女独自のトリッキーな戦術も相まって、金城との組手でも五本に一本は取る迄になっていた。

 

今の絢辻詞であれば、その辺の格闘かぶれのゴロツキが束になっても、指一本触れられないだろう。

 

――しかし、お嬢様。いくらなんでも、無茶し過ぎでしょうが……。旧ボイラー室に潜入した金城は、積み上げられたダンボール箱の影で頭を抱えていた。

 

 

 

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