実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編   作:vwview

28 / 31
第二十七話

奥の鉄扉を入ると、薄暗く細長い廊下が真っ直ぐ奥まで続いていた。廊下は建物の左壁に沿って配置されているようで、右側の壁の向こうはかなり広い空間で占められているようだ。“管理人さん”は、後ろで鉄扉が閉まるのを確認してから口を開く。

 

「事前にお知らせ頂ければ、お迎えにあがりましたものを」

「ごめんなさいね。普段の現場を見ておきたかったの」

「……あれでも、大切な兵隊の一人だったのですが」

 

先程の絢辻詞の仕打(しう)ちに、用務員さんは不満の意を漏らした。それに対して、絢辻詞は、氷の様に冷たい口調で返す。

 

「あら、そう。でも、ちょっと躾がなっていないわね」

「……も、申し訳ございません」

 

“用務員さん”は肩を硬直させ、異議を申し立てた事を後悔した。

 

絢辻詞は、長い艶やかな黒髪をなびかせて、顔に付けていたガスマスクを外した。“用務員さん”は、露わになったその美しい素顔に、年甲斐もなく見惚(みと)れてしまうが、この女が悪魔の様に恐ろしい事を身をもって知っていた。

 

用務員さん――というのは、「通り名(あだな)」ではない。この男は、まぎれもなく現職の輝日東高校の用務員であり、校内全ての鍵を自由に使える夜の王であった――絢辻詞が現れるまでは。

 

かねてから、不良達を束ねて悪事を働く裏のグループの存在が風紀委員会の中で取り沙汰されていたが、歴代風紀委員達はそのグループの主犯格を、長年特定出来ずにいた。それもそのはず、輝日東高校のOBでもあり、大人の学校関係者である用務員が、よもや主犯格などと、学生達では想像もつかなかったに違いない。

 

絢辻詞が風紀委員長となったこの代でも、創設祭の夜に、立ち入り禁止となっている校内で不良達による裏創設祭が開催されるという情報をキャッチして摘発に乗り出したが、公式の報告書においては、(かんば)しくない結果となっている。校内に無断侵入した生徒何人かが、数日の停学処分を受けただけだった。

 

しかし、それは事実とは異なる――。

 

実際は、風紀委員達が踏み込む前に、絢辻詞が単身乗り込み、用務員が統率するグループの主要メンバー五十人を(ことごと)く病院送りにしてしまったのだった。

 

絢辻詞の他に、もう一人居たという証言もがあるが定かではない。どちらにしろ圧倒的な力量差であった事に違いはない。笑みを浮かべながら三節棍(さんせつこん)を使い、血飛沫を飛ばして跳梁(ちょうりょう)する(さま)(さなが)ら、殺戮と恐怖の女神カーリーのごとくだった。

 

戦闘が終わり、立っている者が絢辻詞と用務員だけになった時も、彼女は今の様に長い艶やかな黒髪をなびかせて、何事もなかった様に平然と語りかけてきた。

 

「こんばんは、用務員さん。創設祭の時は大変お世話になりました。裏の情報網も、とても良いものをお持ちと聞いています。是非、その情報を分けて頂きたいのですが構いませんか?」

 

まるで、用務員室に女子高生が備品を借りにきたかの様な、場違いに丁寧な言い回しが、逆に恐怖を助長した。用務員は、激しく首を縦に上下して応ずる以外に術はなかった。こうして、摘発を逃れた用務員は、絢辻詞の傘下に加わる事になったのだった。

 

「そうそう。さっきの溜まり場、汚すぎるわ。少しは片付けた方がいいわよ」

「――あまり締め付けがすぎるのも、離反を招きますので」

 

“用務員さん”の弁明に、絢辻詞は溜息を一つ付くと、真面目な顔をして話し始めた。

 

「来月――。校内の複合機(コピー機)が新型に総入れ替えになるわ。入れ替えの際の一時保管場所として、この旧ボイラー室が候補に挙がっている。今週にも、あなたを連れて、教頭が下見に来るかも」

「げっ!!そ、それは……。早速片付けます。しかし、流石に、情報がお早い」

「情報屋のあなたにお褒めに預かり光栄です。表の情報は、スルーで入ってくるから当然よ」

 

廊下をゆっくりと歩きながら、絢辻詞はにこやかに返事を返す。

 

表の情報は、教師他、学校関係者に絶大な信頼を置かれている彼女に筒抜けだった。(さら)に、生徒会の現政権は、黒沢という議員の娘を絢辻詞が擁立(ようりつ)した傀儡政権で、予算や執行内容の全ては彼女自身の采配によるものだった。

 

この“用務員さん”を自分の傘下に加え、裏の情報網を掌握した事で、今や絢辻詞は、表裏共に輝日東高校の実質的な支配者となっていた。そもそも、生徒会長ではなく、あまり()り手の居ない、風紀委員長に立候補したのも、立法的な立場の生徒会より、実質的な執行権のある風紀委員会の方が、学園を統率しやすいと判断したからだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。