実力主義のこの世界では、絢辻詞は拳と策謀で想いをつたえる~アマガミ×エクストリーム(序)絢辻詞編 作:vwview
第四話
絢辻詞の育った家は上流と言える地位の家だった。もっと上の地位を目指す親の野心により、幼少の頃から上流社会に
幼女でありながら、その完璧な礼儀作法、立ち振る舞い。加えて整った容姿とくれば、四歳年上の姉と共に社交の場で話題の姉妹となることも度々だった。一見、幸せそうに見えるその家庭環境が、彼女の内なる嗜虐性向を目覚めさせることとなる。
「人形の様に美しい幼女」がいると聞けば、手に入れたいと思う輩も当然ながらいる。
それでも、普通の家庭に生まれてさえいれば、その手の性癖の犯罪者に目をつけられるといった、よほどに運の悪い事がない限り、普通に成人して幸せな人生を送るのが殆どだろう。しかし上流社会の人間の中には、自分の持つ力で欲しいものを大概は手に入れる事ができると思っている、表面的には紳士的に装っていても、一皮剥けば強欲の塊のような連中が一定数いるのもまた事実だ。特に情欲的な事となれば多少の倫理や手順を無視しても、後で金を積めばどうにかなると思っている輩だ。
絢辻詞の親は、それなりの家柄と婚儀を結び、上流社会に確たる地位を築きたいと思っている。その前に娘をキズものにされては堪らないと、長女に対するガードは固かった。一方、次女である彼女の方といえば、まだ幼少で年頃にはほど遠いとでも考えていたのか、ガードはさほどでもなかった。当然ながら、ターゲットはガードの緩い彼女に向く。
その手の「性癖」をもつ輩にとって、それはまさに「渡りに船」であった。
当時の親はそう言った性癖に「無頓着なふり」をしていたのだと、
絢辻詞がまだ幼女であった頃――とある週末の午後の事だった。
海運グループの会長が突然来訪した。家人として家にいたのは絢辻詞ひとりきりの時だった。国内トップ、世界でも有数の海運グループを率いるこの男を親が懇意にしていたのを絢辻詞も知っていたので無下な対応はできない。
使用人に来訪を告げられ、仕方なく親の書斎まで足を運ぶ。執務机の前に置かれた接客用のソファーに恰幅の良い赤ら顔で禿頭の老人が座っていた。はやくも備え付けのシガーケースから葉巻をとって火をつけている。そもそも、主人が居ないのに応接室ではなく、書斎まで勝手にあがり込むこの大人の厚顔さに絢辻詞は嫌悪感をおぼえたが、そんな素振りはおくびにも出さず、親が不在の旨を丁寧な挨拶とともに伝える。
「おかしいな。予定を間違えたかな」などと、老人はうそぶいて「暫く待とう。お茶を頂けるかな。お嬢ちゃん」と一向に帰る気配をみせない。絢辻詞は諦めて、使用人にお茶を用意するよう指示する。後にして思えばこの日、絢辻詞がひとりと知った上での来訪に疑いの余地は無かった。そしておそらくは、親がそう仕向けたと確信している。
絢辻詞はしかたなく老人の話し相手をつとめる事にした。高齢を理由に会長に
テーブルに置いた紅茶のカップに視線をおとしながら適当に相槌を打っていたが、突然耳元で、
「――しかし、綺麗な髪だね」
と老人が囁いた。絢辻詞はびっくりして声のする方に視線を向けた。老人はいつのまにか彼女の真横に座っていて、満面の笑みを浮かべて絢辻詞の髪の毛に触れている。さしもの絢辻詞も一瞬何が起こっているか理解できなかった。