【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ   作:妖怪もやし

10 / 17
10話 間桐邸襲撃。そして…

side マユリ

 

 

「フム…鬼道の使用には少しずつ慣れてきたネ」

 

 鬼道の練習は順調に進んでいた。

 

「詠唱破棄はまだできないものの方が多いが、六杖光牢の詠唱破棄は可能となった。我ながら素晴らしい上達具合だヨ」

 

 これで六杖光牢で相手を拘束し、鬼道や卍解、薬品を使うというハメ技が可能となった。白哉が恋次戦で行った六杖光牢からの千本桜などが良い例だネ。あの無駄のない戦い方には感嘆したものだヨ。あれも素晴らしい名勝負だネ。「ただ俺の魂にだ!」は実に燃えたヨ。

 

「…さて、もう良い時間だ。そろそろ行くとしようかネ」

 

 私は腰をあげ、寺の庭の隅に移動させておいた療養カプセルに向かう。液体が淹れられたカプセルの中には間桐雁夜が入っており、呼吸器で酸素の補給をしながら眠っている。まあフリーザ軍が使っていた回復カプセルのパクリだネ。間桐臓硯にことが気づかれぬよう、体内に刻印虫を入れたまま身体の回復だけを行うという高度な造りのカプセルだヨ。我ながら傑作を作り出したものだネ。

 

「そろそろ起きたまえ、間桐雁夜」

 

 ボタンを押すと、カプセルのカバーが開く。間桐雁夜はゆっくりと目を開け、周囲を軽く見渡した。

 

「…もう夜か。いま何時だ?」

「午後10時だヨ。身体の具合はどうかネ?」

「…ああ、昨日までとは見違えるように回復してるみたいだ。アンタには…感謝しないとな」

「その言葉は間桐臓硯を打倒し、間桐桜を保護するまでとっておくことだ」

「そうだな…」

「さあ、カプセルから出たまえ」

 

 雁夜にそう指示し、ネムの元に向かう。

 

「実に今更な話だが、私は単独行動スキルを持ち合わせている。お前が傍に居なくても力を振るえるということだ。だからお前はここに待機していろ」

「分かりました、キャスター」

「私が窮地に陥ったら、預けておいた無線機で連絡を入れる。その場合は令呪を使って私をここに呼び寄せるんだ。良いネ」

「はい、ご武運をお祈りしてお待ちしております」

「うむ」

 

 雁夜の前では、ネムには私のことを「キャスター」と呼ぶように言いつけてある。まあマユリ様と呼ばれたところで、目に見えるデメリットはそう無いのだがネ。

 無線機に関しては、今日私が鬼道の練習などをしてる間にネムに買いに行かせたのだ。色々と便利に使えそうだからネ。携帯やスマホがないのは現代人の私としてはいささか不便だが、時代を考えれば仕方ないネ。

 ネムの元を離れ雁夜の所に行く。一世一代の戦いを前に少し緊張しているようだが、コンディション自体は良好のようだ。流石は私が作った回復カプセルだと自画自賛する。

 

「では行こうか」

「ああ…。待っててくれ、桜ちゃん!」

 

 私たちは他の陣営の監視や横やりを警戒しつつ、間桐邸に向かうのであった。

 

 

 

 結果からいうと、思った以上にあっけなく目的を達成することが出来た。

 間桐臓硯は雁夜が自分に正面から歯向かってくることは無いと慢心していた。自分が間桐桜の命を握っているという事実も、それを後押ししたのだろうネ。それ故に、雁夜が正面から間桐邸に乗り込み、バーサーカーを派手に暴れさせたのは心底驚いたに違いない。彼は持ちうる戦力全てを投入し雁夜を始末しようとした。

 だが、雁夜を殺そうとして放たれた臓硯の蟲たちは、バーサーカーによってことごとく返り討ちにあった。バーサーカーは戦場では制御不能の筈だが、雁夜を見事に守り通していた。狂化されてもなお、主を守ろうとする騎士の誇りが、彼を突き動かしたのかもしれないネ。小さな蟲の群体を殺虫剤で薙ぎ払う姿は中々爽快であり、シュールともいえる光景だっただろうネ。ちなみに、この殺虫剤も私特製のものだネ。流石に市販の殺虫剤で魔術でできた間桐の蟲は殺せないだろうからネ。

 さて、バーサーカーに暴れて貰い、十分に臓硯の注意を惹きつけさせることに成功したら次の行動だ。私はひっそりと邸内に忍び込み、間桐桜の元に向かった。私の拙いfate知識によると、臓硯は間桐桜の体内に生息しているようだ。臓硯が防御用として施していたであろう魔術障壁を突破し、私はまず間桐桜を気絶させた。そして、おなじみの便利アイテムで彼女の体から臓硯を引きはがしたのだヨ。

 

「キャスターか…!さては、雁夜めと組んでいたな!」

「そういうことだヨ。君はまんまと陽動に引っかかったというわけだネ」

「ぐっ…。桜を人質にとられた雁夜が突っ込んできたのは、協力者が居た為か…。なぜ私がこの娘の体内に居ると分かったのだ」

「研究者としての経験則かネ。君のように生き汚い者は、誰かの体内や物質などに、自分の本体を潜ませていると相場が決まっているのだヨ」

 

 本当は原作知識があったからだけど、それっぽいことを言って煙に巻いておく。抵抗を試みる臓硯を難なく捕え、捕獲カプセルにしまう。やれやれ、醜い外見だ。御三家の一つである間桐家の長がこれとは、エルメロイ一世殿が知ったらさらに激昂し呆れそうだネ。

 

「おのれ…。貴様も研究者であり魔術師なら分かるだろう?我が悲願が!何百年の時を得ようとも根源にたどり着きたいという欲求が!なぜ邪魔をする!」

「君が下衆だからだヨ。あと私は研究者ではあるが、非道なやり方は嫌いでネ。君に私が感じるのは嫌悪感だけだヨ」

「綺麗事を…! 非道だろうと、成果さえあげれば良いのだ!」

「でも君は数百年の時を経ても成果を上げられてないではないか。今の君は研究者でもなく魔術師でもない、ただ周りに害を与え続けるだけの害虫だヨ」

 

 私は問答を打ち切り、彼の意識を奪う。そのまま桜を抱えながら、悠々と雁夜の元へ向かう。臓硯の意識を奪ったのが引き金となったのか、蟲たちの動きは止まって居た。雁夜は疲弊している様子ではあったが、桜を抱えた私に気づき駆け寄ってくる。

 

「桜ちゃん!…キャスター、上手くいったのか!」

「ああ。彼女の身体は虫に犯されているので、まずは私の家に連れ帰り蟲を駆除することにするよ。さあ戻ろうか」

「分かった。それで、あのジジイはどうなった?」

「捕まえたヨ。見るかネ?」

 

 カプセルに入れられた臓硯を見せると、彼は安堵と嫌悪が入り混じったような顔をした。そして、せいせいしたという顔になった。桜や自分を縛り続け、不幸をまき散らしていた者の無様な姿を見たのだ。ざまあみろという心境なのだろうネ。

 

「長居は無用だ。行こう」

 

 私は雁夜を伴って間桐邸を出て、その場を後にした。他の陣営が放ったであろう使い魔の姿があったが、こちらに干渉してくる気はないようだ。手でも振ってやろうかと思ったがキャラが崩れそうなので止めておく。そのまま、使い魔は無視して真っ直ぐ柳洞寺に戻った。

 

 

 

「お帰りなさい、キャスター」

「ああ、ネム。見ての通り無事に帰ってきたヨ」

「はい。お疲れ様でした」

 

 ネムとゆっくり帰還の挨拶をする私に、居ても立っても居られないというように雁夜が叫ぶ。

 

「お、おい!のんびりしてる場合じゃないだろ?早く桜ちゃんを…!」

「ああ、そうだったネ。ネム、あれは確か東側の庭だったネ」

「はい」

「では向かおうか」

 

 予め作っておいたカプセルの元に向かい、気絶したままの桜を中に入れる。

 

「半日もすれば彼女の体内から刻印虫は駆除され、身体も回復するだろう」

「ほ、本当か?」

「ああ。まあ身体は治っても心までは治しきれないので、カウンセリングをする必要があるだろうけどネ」

 

 私は静かに目を伏せる。10歳にも満たない少女があのような目にあわされたのだ。心のケアは迅速に、かつ慎重に行う必要があるだろう。

 私の言葉に改めて臓硯への怒りを募らせたのか、雁夜は血が出るほどに強く拳を握りしめた。

 

「そうか…。そうだな…。…くそっ、臓硯め!桜ちゃんをあんな目に合わせやがって!」

「…君の怒りはもっともだヨ。だが、君の身体もまた今夜の戦いで酷く消耗している。間桐桜に用意したのと同じカプセルがあるので、君も刻印虫を取り除き身体を回復させたまえ」

「…ああ、分かった」

 

 彼は素直に頷き、カプセルに入る。共闘し桜を助け出したことで、彼の私への態度は初対面の時と比べるとかなり軟化していた。

 

「…キャスター」

「なんだネ?」

「改めて礼を言わせてくれ。…桜ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう」

「…ふむ。ああ、礼を受け取っておくヨ。では、お休み」

「ああ…」

 

 カプセルのボタンを押し、刻印虫の除去と身体の回復機能をオンにする。手早くこの作業をすませたのは、礼を言われた気恥ずかしさもあった。

 

 

 

「…さて、そろそろ良いだろう。姿を見せて貰えないかネ?」

 

 柳洞寺の門の前に出て、言葉を発する私。それに応じ、霊体化していたアーチャーが姿を現した。

 

「ほう、我に気づいておったか」

「ああ。間桐邸を襲撃し、こちらの準備が整うまで待ってくれたこと、礼を言った方がいいかネ?」

 

 雁夜は気づいていなかっただろうが、私は間桐邸についた時からアーチャーが我らの一連の行動を見ていることに気づいていた。彼の介入があった場合は撤退することも視野に入れていたが、最後まで手を出さないでいてくれて助かった。

 私の言葉に、彼は鷹揚に首を振った。

 

「なに、構わん。我としてもあの老人…いや、もはや人とは呼べぬか。あの雑種以下の下衆は、嫌悪すべき存在だったからな。貴様がヤツを討伐するのなら邪魔をする理由はない」

「それは何よりだヨ」

 

 会話をしながらも、アーチャーの真意を探ろうと試みる。原作での彼は他人の不幸を愉悦と表現し、高みの見物を決め込む性格だった。それが臓硯を嫌悪し、私たちの桜救出を傍観するとは…。少し印象が違ってきたネ。原作よりも性格が丸くなっているのだろうか。

 

「我が今宵このような場所に出向いた理由…貴様は既に気づいているのだろう?」

「さて、見当もつかないネ」

「思ったより鈍いな、キャスター。…まあ良い。我が来たのは、貴様が不当に得た物を取り返すためだ」

 

 …あ………。

 そういえばアーチャーがバーサーカーと戦った時、弾き飛ばされた彼の宝具を私が回収していたっけ。あの行為がアーチャーの怒りを買っていたとは…。不覚だったとしか言いようがないネ。

 さて、この状況…。一体どうしたものかネ。

 

「…分かった。勿論返すとも」

 

 少考の末、私は彼に宝具を返すことに決めた。

 あれの解析はそれなりに進んでいたし、もう十分だろうと考えたのだ。

 雁夜を回復させるカプセルを作ったり、臓硯の蟲に対抗する為の特性殺虫剤を作ったりしながら、ギルガメッシュの宝具の解析まで並行して進める私の技量に改めて感心するよ。

 寺に戻って宝具を差し出すと、彼は軽く頷いて受け取った。

 

「うむ、間違いなく我のものだ」

「では、君の用事は済んだわけだね。これで…」

 

 今日は色々と動いて疲れたので、できれば交戦は避けたい。

 私はこれでお帰り頂きたいと思ったのだが、事はそう上手くはいかないようだ。

 

「待て」

「おや、まだ何かあるのかネ?」

「我の宝具に許しも無く手を触れ、挙句持ち帰り研究までしておいて…返せばそれで済むと思っているのか?」

「…ふむ、一理あるね。では君は私に何を求めるのかネ?」

 

 内心ビビりながらも平静を装って尋ねる。

 本物のマユリ様ならここでビビったりしないだろうが、まあ私はエセだからネ。

 根が小市民のチキンなのだヨ。

 漏らさないだけ褒めてほしいネ。

 

 はたして英雄王は、私が想定した中で最悪という解決方法を見出した。

 

「せめてその散り際にて我を楽しませ、贖罪とするがいい」

 

 おっと、怖いネ。

 ゲートオブバビロンが私に向けられようとしている…。

 マユリ様としての肉体が咄嗟に戦闘準備を取るが、果たしてどこまでやれるものか…。

 今の私は鬼道練習中の身の上だし、道具の作成や解析、間桐邸での戦闘で疲弊している。

 せめてベストコンディションなら…と言いたいが、戦場においてそれは言い訳でしかないネ。

 

 …ただ、妙だネ。

 言葉とは裏腹に、アーチャーからはそこまでの怒りは感じられない。

 私がどう対応するかを楽しんでいるかのようにも見える。

 

「まあそこまでにしておけ、アーチャーよ」

「…ライダーか、何用だ」

 

 おや、傍観を決め込むつもりだろうと思って居たが…。

 突如として現れた巨漢の男の登場に、私とアーチャーの視線が移る。

 彼のマスターである青年は口元を封じられて手足をジタバタさせており、彼の意思を無視してライダーが出張ってきたのだと一目でわかった。

 

「我らとて使い魔で現状は把握している。このキャスターはあの下衆な老人を始末したのだということもな」

「…それがどうした?」

「此度のキャスターの功績に免じ、宝具に手をかけたことは許してやっても良いのではないか?」

「…下らん。貴様は自らの誇りともいえる宝具に無作法な真似をされて、許すというのか?」

「そこを許すのが王の度量というものだろう」

「盗人に情けをかけるのが度量だと? 笑わせるなライダー」

「むぅ、ああ言えばこう言うというやつだのう…」

 

 ライダーは私の肩を持ってくれているようだが、アーチャーは中々頑固だ。

 一つ溜息をつき、ライダーはこう言った。

 

「…よし、貴様とキャスターの仲を取りなし、さらには此度の聖杯を持つに足りる器を見定める、良い試みを思いついたぞ!」

「ほう、興味深いネ」

「…話してみろ、ライダー」

 

 私とアーチャーの視線を浴びながら、ライダーは一呼吸おいてデカい声で宣言した。

 

「酒盛りだ!」

 

 なん…だと…。

 

つづく


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。