【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ   作:妖怪もやし

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13話 暗躍

side 言峰綺礼

 

 私が父の死体を見て思ったことは「自分が殺したかった」だった。

 それも、ただ殺したいというだけでは無い。

 苦しみに歪む顔。

 自分が心血を注いで育てた息子に殺されるという、絶望を抱いた顔。

 それが見たかった。

 

 異常だ。

 とても父親の死を目の当たりにした息子がする思考では無い。

 ましてや、聖職者が考えるべきことでは、断じて無い。

 

 やはり、私は歪んでいる。

 この聖杯戦争において、私は自らの心に向き合う必要がある。

 その為に、自分と似た気配をもつ衛宮切嗣に会っておく必要がある。

 我が師である遠坂時臣のサーヴァント、ギルガメッシュと対話するのも良いかもしれない。

 ならば、早速行動に…。

 

 

「君に、『その思考』に目覚められては困るのだヨ」

 

 

 私の身体を、鋭利な刃物が貫いている。

 それに認識した途端、私の思考は黒に塗りつぶされた。

 

 

「君の指揮下にあるアサシン全員に、自害命令を出し給え」

 

 

 この聖杯戦争をかき乱し続けた、忌まわしきキャスター。

 我が師である遠坂時臣を苦しめていた存在。

 だが、私は我が師の苦悶を喜びながら見ていた…。

 これもまた矛盾だ。

 なぜ、尊敬する人物の苦痛に快楽を得るのだ?

 

 だが、全ては些細な事。

 私の身体を、ヤツの刃物が貫いていることと。

 その者の命令に、何故か背くことができないことに比べれば。

 

 

「…私の召喚したアサシンは残り一体。 その者は敵に捕らえられているようだ。 魔術で遮断されているのか、自害の命令を下すことも、捕えられた場所を探ることも、私にはできない」

「そうか。 使えないヤツだネ。 君はもう死んで結構だヨ」

 

 

 

 さらにもう一刺し。

 私の生命を維持するのに必要な臓器を刺し貫かれたようだ。

 私は、自らの歪みと向き合うことも、その先にあったかもしれない未来も無くなった。

 全てを失ったのだ。

 これが…私の末路か…。

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 side 涅マユリ

 

 

「即断即決即行動。 我ながらほれぼれするネ」

 

 

 綺礼の胸から斬魄刀を引き抜き、崩れ落ちる神父の身体を冷めた目で見降ろす。

 長居は無用だ。

 さっさと引くとしようかネ。

 

 これでアサシンのマスターは死亡。

 だが、サーヴァントは残っているのか。

 面倒だネ。

 

 自害が出来ない状況。

 思いつくのは、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだ。

 この聖杯戦争において、魔術に最も秀でた者は彼だろう。

 彼ならば、魔術の檻を作り出し、そこにアサシンを捕えておくのも容易いことの筈。

 

 時臣はアサシンを有効に使えなかった。

 似たような魔術的思考をもつケイネスに、果たしてアサシンを使い切れるかどうか…。

 

 

「高みの見物といこうか。 …と言いたいところだが、私にそんな余裕は無いようだネ」

 

 

 シナリオはとっくに狂っている。

 ケイネスが放ったアサシンの剣が、次の瞬間に私の胸を貫いているかもしれない。

 いや、ケイネスなら自らの魔術と、使役するサーヴァントを用いての勝利を求めるだろう。

 ケイネスだけでは無い。

 この戦争、言うまでもなく全てが敵だ。

 

 

「…いけないネ。 警戒はするに越したことはないが、疑心暗鬼も良くない。 適度にリラックスをした方が良いネ」

 

 

 その日、私は素顔に軽い化粧を施して変装し、ネムと共にバッティングセンターでかっ飛ばした。

 良い汗を流すのは気分が良いネ。

 

 しかし、群衆から見られているネ。

 わたし達は見世物では無いのだけどネ。

 特にネム。

 美人でスタイル抜群の女性が、ミニスカ着物というロックな格好でホームランを量産する姿は、かなりの視線を引いていたようだ。

 これが10年、20年後なら、携帯やスマホで撮影されてバズっていたかもネ。

 いや、それは盗撮でアウトか。

 

 

 その後は温泉に入って日々の疲れを癒し、プロの方にマッサージをして貰った。

 いやあ、身体がリフレッシュされたのを感じるネ。

 サーヴァントでも頑張ると疲れるんだな。

 そして、ここでもネムは大注目だヨ。

 美女は大変だネ。

 

 

 

「ただいまー、だヨ」

「ただいま帰りました」

「お帰りなさい、キャスターさん。 ネムさん」

 

 

 出迎えてくれる可愛らしい少年は…誰だっけ?

 ああ、そうだ。

 柳洞一成くんじゃないか。

 おお、10話ぶりだネ。

 うんうん、可愛い子供に迎えられるのは気分が良いネ。

 まぁ、洗脳で自分の身内のように思わせてるだけなので、少し後ろめたい感情もあるけどネ。

 

 

「一成くん、桜は見なかったかい? あと雁夜も」

「留守ですよ。 あの人、何かブツブツと呟いていたと思ったら、桜って子を連れてどこかに行ってしまいました」

 

 

 

「…とんでもない馬鹿だヨ私は!」

 

 

 バッセンとか温泉とか行ってる場合じゃ無かった…。

 

 

 

 

 

 

 sideウェイバー・ベルベット

 

 

 家に帰った僕の身に待っていたのは、衝撃の出来事だった。

 

 

「おぉ、お帰りウェイバーちゃん」

 

 

 いつものように笑顔で迎えてくれる夫妻のことは良い。

 問題はこの、僕にとって不快極まりない顔だ。

 

 

「帰りが遅いのではないか? 教師としては心配だな」

 

 

 白々しい顔でリビングに居た男は、僕が聖杯戦争への参加をする理由を作った男。

 僕を教室で散々コケにして、晒し者のようにした男。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトだった。

 その男が、まるで自分がここに居るのは当然とばかりに、夫妻のもてなしを受けている。

 悪夢のような光景だった。

 

 

 

 夫妻には適当なことを言って退席し、自分の部屋にケイネスを連れて行く。

 ライダーに僕の身を護らせておくのも忘れない。

 今は戦争中だ。

 

 

「…で、何でお前が居るんだよ」

「お前ではなく、エルメロイ先生と呼べ。 貴様は目上の者への口の利き方も知らんのか」

「…っ…。 今は敵だろ! 目上も何もあるか!」

「敵では無い、と言えばどうだ?」

 

 

 言葉に詰まる僕を平然と眺めながら、ヤツは言葉を続けた。

 

 

 

「この聖杯戦争、私と同盟を組まないか?」

 

 

 

 

 

side ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 

 

「私はアールグレイの気分だったのだがな。 ま、ダージリンで我慢してやったよ。 出された茶は飲むのは礼儀だからな。 君もそう思うだろう?」

 

「そうですね…」

 

「しかし、あのマッケンジー夫妻はともかく、我が教え子の接待能力の無さには呆れ果てるな。 ウィットに富んだ会話の一つもできんと来た。 頭に知識ばかり詰め込んでも、生活に活かせなければ意味は無いというのに」

 

「私には…何とも言いかねます。 我が主よ」

 

「出迎え方については、これくらいにしてやるか。 問題は、奴等の下した結論だ。 あの主従があそこまで脳無しだとは思わなかった。 なぁ、ランサー」

 

「…恐れながら、私にはあのライダーの意見にも一理あるものと考えます」

 

「そうか…。 まぁ、そう思っているだけならば良い。」

 

 

 口から『貴様もライダーのような戦闘狂か。下らぬ。なにが好敵手だ。騎士を気取りながら主君の女に手を出した不埒者と、征服王を名乗って惨禍を広げただけの愚物同士、気が合うのかもしれんな』という皮肉が出そうになるのをこらえる。

 危ないところだった。

 主が従者に媚びを売るなど、死んでも御免だが、無用な発言はやめておくべきだろう。

 どうせ、使い潰す駒だ。

 必要な時に、役に立ってくれさえすれば良い。

 

 マスターとサーヴァントの間に相性があるのだとすれば、私とコイツのそれは良くはない。

 だからこそ、私が大人になってやるべきだろう。

 剣を振るうしか能のない低能には、歩み寄ってやる程度が文明人の嗜みなのだ。

 

 

 だが、ライダー陣営との同盟が決裂したことは残念でならない。

 受け入れられると思ったのだがな。

 『共に遠坂邸に赴いてアーチャーを倒し、そのまま柳洞寺に向かいキャスターも始末する』という私の案は。

 

 

 『王同士の間で決着をつけたい。手出しは無用』か。

 戯言も良いところだな。

 私には全く理解できない理屈だ。

 ヤツを召喚したのが私で無くて、本当に良かった。

 私が思うに、イスカンダルが成功を収めたのは、優秀な部下に支えられたからだろう。

 ヤツ自身は自らを優れていると錯覚し、大言壮語を放つだけの愚者だ。

 

 ライダーの暴論を止めもせず、同調したあの馬鹿な教え子も同罪だ。

 

 『戦いに美学を求めるな』

 『死に美徳を求めるな』 

 『己一人の命と思うな』

 『護るべきものを護りたければ、倒すべき敵は背中から斬れ』

 

 大英帝国の者ならば、誰もが知っている事だと思ったがな。

 これだから、歴史が浅い家の者は困る。

 

 

 さて、急ぐとするか。

 神父の死によって中止が不可能となった今、残された道は勝利のみ。 

 故に我らは引き籠りをやめ、行動に出たわけだ。

 敵から見れば、標的が巣穴から出て来たようなものだろうからな。

 無論、みすみす的になる気はない。

 交渉が決裂した今、即座にホテルに帰るのみだ。

 

 

「ランサー、ホテルまでの護衛は任せた。 近づく者は全て敵と思え」

 

「心得ました。 我が主よ。 お任せください」

 

 

 …耳障りの良い言葉を吐くのは上手なようだ。

 実践してくれれば、なお良いのだがな。

 

 

 

 つづく


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