【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ   作:妖怪もやし

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長くお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。


14話 遠坂邸の惨劇 前編

side 涅マユリ

 

 

 

 

 桜も雁夜も消えている。

 そして、私の机にあった論文も失われている。

 

 答えはもう一つしかない。

 

 

「全く、自分の失態に頭が痛くなるネ」

 

 

 

 

 事の次第はこうだ。

 私が研究室に残しておいた、書きかけの『他者の魔力を使うことで、サーヴァントを操る手段』の論文を、雁夜は見つけてしまったのだろう。

 あれは、魔術知識に疎い者でも読める程度の文章だった。

 我ながら迂闊だヨ。

 興味本位で書いた研究論文を部屋に放置し、それを第三者に読まれてしまうとは。

 あれを使えば、雁夜がランスロットを操ることは可能だ。

 

 

 私の論文を読み、彼は刻印虫が無くなった身でも、まだ戦えることを知った。

 そして、許されぬことだと思いながらも、自らの野心を抑えることができなかったのだろう。

 聖杯戦争のどさくさに紛れ、邪魔な時臣を消す。

 その後は、適当に脱落でもすればいい。

 まあ、今は神父の不正が暴露され、教会が関係者ごと失われたという非常時だ。

 通常の聖杯戦争における脱落とは異なる形での離脱という形になるだろう。

 飛行機などを使って別の場所に移動し、聖杯戦争が終わるまで身を隠す、というのが効果的か。

 端的に言うと夜逃げだネ。

 

 さて、こうした事情で、雁夜は桜の魔力を原動力にサーヴァントを動かして、時臣を倒そうとした。

 それは推測できる。

 

 

「終わった事は仕方がないネ。 あとは…これをどう利用するか、だ」

 

 

 

 私は戦闘準備を整え、自室を後にする。

 

 

 

 

 

side 間桐雁夜

 

 

「あんた、正気か!? 俺が言った内容は頭に入っているだろ?」

 

「…そう怒鳴るな。 つくづく下品だな、貴様は」

 

「話を逸らそうとするな。 良いか、俺はありのままの真実を伝えた。 桜ちゃんは、地獄のような思いを味わっていたんだぞ! 養子縁組に許可を出したアンタのせいでな!」

 

「…」

 

 

 遠坂邸。

 俺は目の前で足を組み、優雅な仕草で紅茶を飲む大嫌いな男を睨んでいた。

 自らの娘が受けた苦痛を知ったことで、彼の手が微かに震えていることは、見間違いだと自分に言い聞かせる。

 憎らしい男に、人間らしさを感じるなんて御免だ。

 

 

「…確かに、桜がそれほどの苦境に置かれているとは、正直に言うと、知らなかった。 そのような目に合わせた間桐臓硯にも、思うところはある」

 

「なら…!」

 

「だが、魔術の家とはそういうものだ。 …多少の理不尽はよくある事」

 

「多少…? 自分の娘が、拷問のような行為をされていたことが、多少だって言うのか!?」

 

「………。 …もう、帰れ。 君とは話が合わないことがよく理解できた。 桜を助けたこと、感謝しておく。 だが、あれもアプローチは違えど、ヤツなりの根源への到達への道のりだったのだろう。 …それを邪魔した君の罪は重い」

 

「…いいや、帰るわけにはいかない。 桜ちゃんをここに置いていけば、アンタはまた他の有力な魔術の家に彼女を差し出すだろう。 そして、そこでも彼女は理不尽な目に合う…」

 

 

 俺は心の中で、交渉が決裂することを望んでいたんだろうな。

 ヤツが臓硯への憎しみを口にし、桜ちゃんが助かったことを涙ながらに喜んでいたら。

 葵さんと凛ちゃんが、桜ちゃんが、あの憎い男の腕に抱かれ、幸せを分かち合っている光景を見たら、俺の心は壊れていたかもしれない。

 そうならなかったことに、俺は感謝している。

 俺は…歪んでいる。

 

 俺の力で、桜ちゃんを助けたわけじゃ無い。

 全てはキャスターとネムさんのお陰だ。

 そんな俺が、勝手に桜ちゃんを連れ出し、こんなところまで乗り込んでいること事態、彼らからしたら裏切りに思われるだろう。

 俺を好きなだけ罵ってほしい。

 俺が目的を終えた、その後で。

 

 

「やはり、お前に桜ちゃんは…葵さんは渡せない!」

 

「それが本音か。 愚かな男だ…。 良いだろう。 本来なら貴様如きの挑戦など受ける義理は無いが…応じてやる」

 

 

 俺はバーサーカーを呼び出す。

 既に刻印虫は取り除かれている俺が、また戦うことが出来るとは、自分でも信じられない。

 これも、キャスターが書いた論文のお陰だ

 

 

「今日が貴様の命日だ、遠坂時臣!」

 

「…これは、本気でやるしかないようだ。 王よ、頼みます」

 

 

 時臣が顔を歪める。

 マスターを狙い突き出されたバーサーカーの一撃が、奴が呼び出したアーチャーによって弾かれた。

 ここに、戦いの火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 side 遠坂時臣

 

 

 …落ち着け。

 常に優雅たれ。

 遠坂家の家訓を忘れるな。

 

 間桐の仕打ちに対し、私は一人の男として、激怒すべきなのだろう。

 目の前の愚かな男のように。

 だが、それをしてしまえば、私は魔術師ではなくなる。

 それだけは、あってはならないことだ。

 

 聖杯戦争に勝利し、根源へと辿り着く。

 それが、この戦争に参加した私の、魔術師としての悲願だ。

 その為ならば、人間らしい情や、家族が受けた苦痛に憤る事などは不要だ。

 

 

「感謝します、王よ」

 

「…我に連戦を強いるとは、高くつくぞ」

 

「覚悟の上です。 …お願いします」

 

「まぁ、良い。 全てはあの狗を葬ってからだ」

 

 

 令呪を消費し、アーチャーを呼び出す。

 アーチャーはライダーと決着をつけると言って、冬木大橋に出陣していた。

 そのアーチャーが、今ここに無傷で帰還した。

 

 放っておいた使い魔からの報告で、ライダーが敗北し、消滅したことは分かっている。

 ライダーのマスターだった黒髪の小僧の無様な命乞いに舌打ちし、止めを刺そうとしたところだった。

 私がバーサーカーの脅威に危機感を抱き、令呪を使ってアーチャーを呼び出したのは。 

 結果だけを言えば、私はあの小僧の命を救ってやったということになる。

 まあ、あの程度の男、生きていても死んでいても興味はないが。

 いや、そうもいかないか。

 マスターになる力量がある以上、始末しておいた方が良い。

 

 

 …本音を言えば、もう少し間桐雁夜との会話を長引かせて、時間を稼ぎたかった。

 そうすれば、令呪を使わずにアーチャーを呼び戻せたかもしれない。

 既に二画を消費し、残った令呪はあと一画。

 得体のしれないキャスター陣営や、聖杯戦争において最優と言われるセイバー陣営との戦いが控えていることを思えば、手痛い出費だ。

 だが、必要経費だったと割り切るしかない。

 

 

 まずは目の前の男を葬る事に専念しなければならない。

 魔術の名門である間桐家に生まれながらも、自らに流れる血を嫌悪し、魔術から逃げた敗北者を。

 身の程知らずの好意を、我が妻である葵に向け、失恋の逆恨みを私に向けてくる愚かな男を。

 …この程度の男が、これほどの力を持つバーサーカーをどうやって制御できているのかが、全く理解できない。

 腹立たしい。

 だが、この苛立ちも、この男を葬ることで消え去るだろう。

 

 

「…さて。 始めようか、間桐雁夜。 桜のおかれた状況を私に知らせ、聖杯戦争にて散った男として、私の頭に名前だけは刻んでおいてやろう。 光栄に思え」

 

「どこまでも上から目線だな…。 俺が、俺のバーサーカーが、アンタもそのアーチャーもぶっ殺す! アンタは俺の名前を憶える準備ではなく、敗北して泣き叫びながら死ぬ準備だけしてれば良いんだよ!」

 

「そのような準備は必要ないな。 …御見苦しい様を見せてしまい、申し訳ありません、王よ。 さぁ、天誅を」

 

 

 私と間桐雁夜の言い合いを黙して聞いていたアーチャーは、その金色の髪を手で軽く梳きながら口を開く。

 

 

 

「我としては、貴様らの醜い言い争いを見物するのも悪くはなかったのだがな。 まあいい。 そのマスターはどうでも良いが、我の宝に穢れた手で触れた狂犬は、この手で仕留めておきたかったところだ」

 

 

 アーチャーとしても、バーサーカーには嫌悪感を抱いていたようだ。

 ライダーとの勝利の余韻に浸る間も無く、私が令呪で呼び出した事で、アーチャーの機嫌を損ねたかと危惧していたが、それは杞憂だったようだ。

 好都合だ。

 このバーサーカーが多少は骨がある事は認めるが、アーチャーが本気になれば、敵ではない。

 戦場が私の家となってしまったのは不本意ではあるが…これも聖杯戦争の勝利のための些細な犠牲だ。

 

 

 

 金属音が鳴り響く。

 停止していたバーサーカーとアーチャーの戦いが、再び始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 …苦戦した。

 腹立たしいが、それは認めよう。

 

 我が最強のアーチャーをもってしても、この狂犬の相手は手こずったようだ。

 通常の騎士の動きではない。

 それは、戦士でない私にもよく分かった。

 騎士の作法を無視した攻撃でありながら、一撃一撃が恐ろしく早く正確だ。

 このサーヴァントは、狂化させられたことで、より厄介になる性質だったのかもしれない。

 正気を保っている騎士の相手なら、アーチャーならばもっと早く終わらせることが出来た筈だ。

 

 

 それにしても、バーサーカーの強さは尋常では無かった。

 その秘訣は、上にあげた理由もそうだが、動力源が優秀だったこともあるだろう。

 戦いの最中で確信したが、この男は、我が娘である桜の魔力をバーサーカーの動力として使っている。

 忌々しい。

 桜を救うと言いながら、桜の力を戦いの為に利用する。

 結局、この男に私を非難する資格などは無かったのだ。

 

 

「ちく…しょう……」

 

 

 アーチャーの宝剣に貫かれ、バーサーカーが消滅する。

 ヤツの真名は、最後まで分からないままだったな。

 ここまでの戦いを見せたのだから、さぞかし名のある騎士だったのだろうが。

 今となってはどうでも良いことだ。

 

 

 そして、間桐雁夜よ。

 サーヴァントの消滅を悔やんでいる間など貴様にはない。

 貴様が出来ることは、命乞いだけだ。

 まあ、私の前には無意味だがな。

 

 

「終わりだ、間桐雁夜」

 

 

 私の宝石魔術が、奴の心臓を貫いた。

 間桐雁夜が血を吐き、倒れ伏す様を無感情に見つめる。

 …これで、ライダーも、バーサーカーも始末した。

 いや、ライダーのマスターだった男が、何かしでかす可能性もあるな。

 やはり、ヤツにも止めを刺しておくか。

 これをアーチャーに頼むと、また機嫌を損ねられてしまいそうだ。

 面倒だが、私が直々に出向くとするか。

 

 

「素晴らしい勝利でした、王……」

 

 

 

 私は言葉を失った。

 無敵と確信していたアーチャーの胸部を、槍が貫いている光景を見たからだ。

 槍を持つのは、苦い顔をした美形のランサー。

 

 なぜ、私は気づかなかった?

 私の陣営が戦っている時に、他の陣営が介入してくる可能性があるという事を。

 

 

「お…のれ…」

 

 

 

 血を吐き、背後を睨むアーチャー。

 その光景を、満足げに金髪の男が見下ろしていた。

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトがそこに居た。

 

 

「フフ…ハハハハハハ!!!」

 

 

 

 男が笑う。

 アーチボルト家の長い歴史の中でも、屈指の天才と呼ばれるその男が、この上ない喜びだと言わんばかりに頬を緩めている。

 

 

 

「素晴らしいぞランサー、見事だ! いや、見事なのは、このタイミングで介入という選択を選んだこの私か…。 フハハハハハハハ!!!」

 

 

 高笑いが響き渡る。

 

 

「アーチャー…。 ウルクの王、ギルガメッシュは、この私、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトによって討ち取られる運命だったという事だなぁ! 私の名声は、この勝利でさらに高まることになるだろう!」

 

 

 呆然とする私の姿も、胸に刺さった槍に力なく手を添えるアーチャーの姿も、苦悩するかのようなランサーの顔も。

 この男にとっては、自らの勝利に花を添える存在でしかないのだろう。

 

 

 次の瞬間。

 銃声が響いた。

 

 

 先ほどまで喜びが浮かんでいた男の顔が歪み、身体が崩れ落ちる。

 

 

「なん…だと…」

 

 

 激動の展開を前に。

 私はただ、ありふれた言葉を口にすることしかできなかった。

 

 

 

  つづく

 

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