【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ   作:妖怪もやし

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15話 遠坂邸の悲劇 後編

 

 

side 衛宮切嗣

 

 

 

 

 もう、この手は使えないのではないかと思っていた。

 住宅街に設置した盗聴器で得た情報で、キャスターがケイネスに余計な忠告をした事は知っていた。

 こちらの手札は暴かれ、ケイネスは警戒している。

 最悪と言っていい状況だった。

 

 

 冬木大橋でアーチャーとライダーが交戦し、ライダーが敗退。

 遠坂邸でバーサーカーとアーチャーの交戦が始まった。

 

 これを知った僕は、行方不明のアイリの捜索を棚上げした。

 装備を整え、セイバーと共にその地に赴く。

 誰かの戦いは、誰かにとって利益になる。

 その事を知っているのは、僕だけでは無かったようだ。

 

 ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 

 ケイネスの姿を、魔術の実力に劣る僕が先に発見できたのは幸運だった。

 普段のケイネスなら、僕の存在に気付いていただろう。

 ヤツは、アーチャーの首級という極上の獲物を前に高揚し、視野が狭くなっていたに違いない。

 僕はそのまま、奴が気づかぬように潜伏し続けた。

 

 そして、ヤツは実行した。

 両者の争いが終わり、勝者が油断した瞬間をついて、この聖杯戦争で最強だと思われるアーチャーの胸を槍で貫いた。

 その手腕には、敵ながら拍手を送りたい。

 

 その礼だ。

 浮かれているところに冷や水を浴びせて、苦しませてしまうのは僕としても心が痛むが、こればかりは仕方がない。

 

 

 起源弾が放たれる。

 勝利に酔いしれていたケイネスは、咄嗟に水銀で対抗しようとした。

 それゆえに、僕の策は最高の結果をもたらした。

 

 筈、だった。

 

 

 

「私が…。」

 

 

「倒されたと、思ったか?」

 

 

 

 

「…クハックハハハハハハハハ!!!!」

 

「バカがっ! お前ごときの銃弾が! この私に! 効力を発揮したと思ったか!?」

 

「撃ち抜いて、打倒したと! そう思ったのか!?」

 

「お前の秘策を私が知ってる時点で、なぜおかしいと思わない!?」

 

「お前の策はすでに…対策済みなんだよ! 魔術師殺し!」

 

 

 

 なん…だと…。

 

 

 

 派手な悲鳴を浴びて倒れたはずのケイネスが、自分に酔ったように嘲笑しながら立ち上がる。

 

 やはり、僕の起源弾は対策されていた。

 起源弾は、相手が最大の攻撃をした時でないと効力を発揮しない。

 そこに着眼し、ヤツは最小限の水銀で僕の銃撃に対応したのだろう。

 

 ダメージがゼロというわけではない。

 ヤツは鼻から出血しており、呼吸が荒くなっている。

 それでも、期待していたダメージには到底届かない。

 

 

 ヤツを仕留め切れていないことで、僕は次の攻撃に移る。

 別ポイントに潜伏させておいた舞弥に無線で指示を送り、狙撃させるが…。

 

 

「無駄だ! クズが!」

 

 

 あっさりと対処される。

 くそ…。

 水銀を操るのに支障はないようだ。

 

 

 この現状を見て、言えることはただ一つ。

 

 僕の切り札は、ヤツを仕留めることができなかった。

 

 

 …絶望するな。 

 思考を止めるな。

 常に最善の結果を追い続けろ。

 ケイネスがまだ生きていて、ランサーが健在なのは厄介だが、良い点もある。

 

 

 

 アサシン。

 ライダー。

 バーサーカー。

 アーチャー。

 

 

 この一日で、四名のサーヴァントが退場した。

 主であるケイネスが打撃を受けた今、ランサーの力も大幅に落ちている筈だ。

 潰し合ってくれるのが理想だったが、ここはセイバーを動かせるべきだろう。

 

 僕と、あの英雄様の相性は、最悪と言っていい。

 それ故にアイリに指示を任せていたが、彼女が行方不明の現状では、僕自身が命令を出すしかない。

 セイバーも僕に苦手意識を抱いているようだが、合理的な一面もあるヤツのことだ。

 つまらない意地で命令に背くことはないだろう。

 

 …呆然としていた筈の時臣は既に気持ちを切り替え、狙撃し辛い位置に身を隠している。

 今、ヤツを消すのは困難か?

 だが、再契約されることを考えると、多少の無理をしてでも仕留めておきたいところだ。

 

 

 …待て。

 おかしい、なぜアーチャーは消滅しない?

 

 

 

「…おのれ」

 

 

「…おのれおのれ、雑種共が!!」

 

 

 

 …驚いた。

 アーチャーは、胸部を槍で貫かれながらも、尚も動けるのか。

 ランサーがしくじったのか、アーチャーが咄嗟に致命傷を避けたのか。

 理由は分からないが、まだヤツは動けるようだ。

 ランサーと、ケイネスの背後に、宝剣が出現する。

 虚空から放たれた一撃に、ランサーは胸を貫かれ、ケイネスは腕を切り落とされる。

 まるで、自分がアーチャーにした事を、そのまま返されたように。

 

 

「ぐああああああああああああ!!!!!」

 

「ぐっ…。」

 

 

 

 激痛に、今度こそ本当の悲鳴をあげるケイネス。

 ランサーは苦痛に顔をゆがめながらも、アーチャーに刺したままの槍から手を放すことは無い。

 槍兵の意地か。

 大したものだ。

 

 

 

 

「…まだだ、我は…セイバーとも、決着を…」

 

 

 

 その執念、敵ながら賛辞を送りたい。

 だが、厄介でもある。

 その敵意、キャスターに向けてくれれば僕としては都合が良いのだが…。

 

 戦いとは、常に最悪のケースを想定して行わなければならない。

 この状況で最悪な展開は、アーチャーが生き延び、キャスターと手を組んで回復してしまうことだ。

 アーチャーには、このまま退場して貰わなければ困る。

 そして、ランサーにも、ケイネスにも、ここで消えて貰う。

 

 キャスターは、城で行われた馬鹿げた酒盛りの後に姿を消している。

 僕の予想では、アイリを攫ったのは、ほぼ間違いなくヤツだ。

 何をしでかすか分からない、得体のしれない存在。

 この状況そのものが、ヤツの思い通りかもしれない。

 そのような懸念を抱きながらも、僕は手札を晒し続けるしかない。

 

 

 

「セイバー、来い。 アーチャーとランサーに止めを刺せ」

 

「……」

 

 

 

 セイバーが、苛立ちを隠そうともしない表情で現れる。

 その怒りは、ケイネスへの銃撃への非難なのか、戦いに便乗したことへの非難なのか。

 あるいは、気に入らない手段ばかりを行使する主の命令に、勝つために従うしかない自分への嫌悪感なのか。

 僕にとっては、どちらでも良いことだが。

 

 彼女は重傷を負ったランサーを憐憫の目で見ながらも、やむを得ないというように剣を構える。

 そうだ、それで良い。

 彼女は下らない騎士道を掲げてはいるが、馬鹿ではない。

 自分のとるべき行動は理解している。

 

 

「…すまない、ランサー。 そういう事だ。 アーチャー共々、ここで退場してもらう。覚悟して貰おうか」

 

「くっ…セイバー……」

 

「ふふ…よく来た、我が妃よ…。 さぁ、ここで決着を…」

 

 

 新たな役者の登場に、笑みを浮かべるアーチャー。

 

 

 

「そうだネ。 幕を引こう。 私の勝利という形でネ」

 

 

 

 嘘…だろ…。

 

 

 

 遠坂邸の2階から響いた声に、その場に居た全ての者が注目する。

 奇妙な仮面をかぶった、この聖杯戦争をかき乱し続けた存在、キャスター。

 そいつが今、遠坂邸の主にでもなったかのように、豪華な椅子に腰かけていた。

 その光景は、まるで玉座に座っているかのようだ。

 

 同時に、僕は気づいた。

 魔術に疎い僕でも分かるほどに、大規模で精巧な結界が張られたことを。

 

 

 

「さて」

 

「君たちの素晴らしい戦いに介入し、漁夫の利を得るような形で勝利を奪うことを、心から申し訳なく思うヨ」

 

 

 白々しいセリフと同時に、キャスターが腰から刀を抜く。

 全てのサーヴァントが警戒する中、彼は刀を手から取りこぼした。

 …なんのつもりだ?

 訝しむ一同を前に、ヤツは意味不明の言葉を放った。

 

 

『卍解 金色疋殺地蔵』

 

 

 悪趣味な造形のオブジェが、虚空に出現する。

 上半身は黄金の色をした巨大の赤ん坊で、下半身は虫のような姿。

 これを悪趣味と言わずして何というべきだろうか。

 その存在の腹に、無数の刃が見える。

 

 あれがヤツの宝具なのか?

 あのチンケな刃で、ここに居るマスターとサーヴァントを一掃するつもりだというのか?

 キャスターの戦い方とは思えない…。

 そこまで考えて、僕は背筋に冷や水を入れられたような気分になった。

 ヤツの狙いは…。

 

 

 僕がその事に気付くのと、紫色のガスが遠坂邸を覆いつくしたのは、ほぼ同じ瞬間だった。

 

 

 

 つづく

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