【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ 作:妖怪もやし
side 衛宮切嗣
もう、この手は使えないのではないかと思っていた。
住宅街に設置した盗聴器で得た情報で、キャスターがケイネスに余計な忠告をした事は知っていた。
こちらの手札は暴かれ、ケイネスは警戒している。
最悪と言っていい状況だった。
冬木大橋でアーチャーとライダーが交戦し、ライダーが敗退。
遠坂邸でバーサーカーとアーチャーの交戦が始まった。
これを知った僕は、行方不明のアイリの捜索を棚上げした。
装備を整え、セイバーと共にその地に赴く。
誰かの戦いは、誰かにとって利益になる。
その事を知っているのは、僕だけでは無かったようだ。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
ケイネスの姿を、魔術の実力に劣る僕が先に発見できたのは幸運だった。
普段のケイネスなら、僕の存在に気付いていただろう。
ヤツは、アーチャーの首級という極上の獲物を前に高揚し、視野が狭くなっていたに違いない。
僕はそのまま、奴が気づかぬように潜伏し続けた。
そして、ヤツは実行した。
両者の争いが終わり、勝者が油断した瞬間をついて、この聖杯戦争で最強だと思われるアーチャーの胸を槍で貫いた。
その手腕には、敵ながら拍手を送りたい。
その礼だ。
浮かれているところに冷や水を浴びせて、苦しませてしまうのは僕としても心が痛むが、こればかりは仕方がない。
起源弾が放たれる。
勝利に酔いしれていたケイネスは、咄嗟に水銀で対抗しようとした。
それゆえに、僕の策は最高の結果をもたらした。
筈、だった。
「私が…。」
「倒されたと、思ったか?」
「…クハックハハハハハハハハ!!!!」
「バカがっ! お前ごときの銃弾が! この私に! 効力を発揮したと思ったか!?」
「撃ち抜いて、打倒したと! そう思ったのか!?」
「お前の秘策を私が知ってる時点で、なぜおかしいと思わない!?」
「お前の策はすでに…対策済みなんだよ! 魔術師殺し!」
なん…だと…。
派手な悲鳴を浴びて倒れたはずのケイネスが、自分に酔ったように嘲笑しながら立ち上がる。
やはり、僕の起源弾は対策されていた。
起源弾は、相手が最大の攻撃をした時でないと効力を発揮しない。
そこに着眼し、ヤツは最小限の水銀で僕の銃撃に対応したのだろう。
ダメージがゼロというわけではない。
ヤツは鼻から出血しており、呼吸が荒くなっている。
それでも、期待していたダメージには到底届かない。
ヤツを仕留め切れていないことで、僕は次の攻撃に移る。
別ポイントに潜伏させておいた舞弥に無線で指示を送り、狙撃させるが…。
「無駄だ! クズが!」
あっさりと対処される。
くそ…。
水銀を操るのに支障はないようだ。
この現状を見て、言えることはただ一つ。
僕の切り札は、ヤツを仕留めることができなかった。
…絶望するな。
思考を止めるな。
常に最善の結果を追い続けろ。
ケイネスがまだ生きていて、ランサーが健在なのは厄介だが、良い点もある。
アサシン。
ライダー。
バーサーカー。
アーチャー。
この一日で、四名のサーヴァントが退場した。
主であるケイネスが打撃を受けた今、ランサーの力も大幅に落ちている筈だ。
潰し合ってくれるのが理想だったが、ここはセイバーを動かせるべきだろう。
僕と、あの英雄様の相性は、最悪と言っていい。
それ故にアイリに指示を任せていたが、彼女が行方不明の現状では、僕自身が命令を出すしかない。
セイバーも僕に苦手意識を抱いているようだが、合理的な一面もあるヤツのことだ。
つまらない意地で命令に背くことはないだろう。
…呆然としていた筈の時臣は既に気持ちを切り替え、狙撃し辛い位置に身を隠している。
今、ヤツを消すのは困難か?
だが、再契約されることを考えると、多少の無理をしてでも仕留めておきたいところだ。
…待て。
おかしい、なぜアーチャーは消滅しない?
「…おのれ」
「…おのれおのれ、雑種共が!!」
…驚いた。
アーチャーは、胸部を槍で貫かれながらも、尚も動けるのか。
ランサーがしくじったのか、アーチャーが咄嗟に致命傷を避けたのか。
理由は分からないが、まだヤツは動けるようだ。
ランサーと、ケイネスの背後に、宝剣が出現する。
虚空から放たれた一撃に、ランサーは胸を貫かれ、ケイネスは腕を切り落とされる。
まるで、自分がアーチャーにした事を、そのまま返されたように。
「ぐああああああああああああ!!!!!」
「ぐっ…。」
激痛に、今度こそ本当の悲鳴をあげるケイネス。
ランサーは苦痛に顔をゆがめながらも、アーチャーに刺したままの槍から手を放すことは無い。
槍兵の意地か。
大したものだ。
「…まだだ、我は…セイバーとも、決着を…」
その執念、敵ながら賛辞を送りたい。
だが、厄介でもある。
その敵意、キャスターに向けてくれれば僕としては都合が良いのだが…。
戦いとは、常に最悪のケースを想定して行わなければならない。
この状況で最悪な展開は、アーチャーが生き延び、キャスターと手を組んで回復してしまうことだ。
アーチャーには、このまま退場して貰わなければ困る。
そして、ランサーにも、ケイネスにも、ここで消えて貰う。
キャスターは、城で行われた馬鹿げた酒盛りの後に姿を消している。
僕の予想では、アイリを攫ったのは、ほぼ間違いなくヤツだ。
何をしでかすか分からない、得体のしれない存在。
この状況そのものが、ヤツの思い通りかもしれない。
そのような懸念を抱きながらも、僕は手札を晒し続けるしかない。
「セイバー、来い。 アーチャーとランサーに止めを刺せ」
「……」
セイバーが、苛立ちを隠そうともしない表情で現れる。
その怒りは、ケイネスへの銃撃への非難なのか、戦いに便乗したことへの非難なのか。
あるいは、気に入らない手段ばかりを行使する主の命令に、勝つために従うしかない自分への嫌悪感なのか。
僕にとっては、どちらでも良いことだが。
彼女は重傷を負ったランサーを憐憫の目で見ながらも、やむを得ないというように剣を構える。
そうだ、それで良い。
彼女は下らない騎士道を掲げてはいるが、馬鹿ではない。
自分のとるべき行動は理解している。
「…すまない、ランサー。 そういう事だ。 アーチャー共々、ここで退場してもらう。覚悟して貰おうか」
「くっ…セイバー……」
「ふふ…よく来た、我が妃よ…。 さぁ、ここで決着を…」
新たな役者の登場に、笑みを浮かべるアーチャー。
「そうだネ。 幕を引こう。 私の勝利という形でネ」
嘘…だろ…。
遠坂邸の2階から響いた声に、その場に居た全ての者が注目する。
奇妙な仮面をかぶった、この聖杯戦争をかき乱し続けた存在、キャスター。
そいつが今、遠坂邸の主にでもなったかのように、豪華な椅子に腰かけていた。
その光景は、まるで玉座に座っているかのようだ。
同時に、僕は気づいた。
魔術に疎い僕でも分かるほどに、大規模で精巧な結界が張られたことを。
「さて」
「君たちの素晴らしい戦いに介入し、漁夫の利を得るような形で勝利を奪うことを、心から申し訳なく思うヨ」
白々しいセリフと同時に、キャスターが腰から刀を抜く。
全てのサーヴァントが警戒する中、彼は刀を手から取りこぼした。
…なんのつもりだ?
訝しむ一同を前に、ヤツは意味不明の言葉を放った。
『卍解 金色疋殺地蔵』
悪趣味な造形のオブジェが、虚空に出現する。
上半身は黄金の色をした巨大の赤ん坊で、下半身は虫のような姿。
これを悪趣味と言わずして何というべきだろうか。
その存在の腹に、無数の刃が見える。
あれがヤツの宝具なのか?
あのチンケな刃で、ここに居るマスターとサーヴァントを一掃するつもりだというのか?
キャスターの戦い方とは思えない…。
そこまで考えて、僕は背筋に冷や水を入れられたような気分になった。
ヤツの狙いは…。
僕がその事に気付くのと、紫色のガスが遠坂邸を覆いつくしたのは、ほぼ同じ瞬間だった。
つづく