【完結】涅マユリ(偽)が第4次に召喚されたヨ   作:妖怪もやし

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 投稿が遅くなってしまい本当にすいません


 7話 剣戟再び

side マユリ

 

 優しさ溢れる私は、バーサーカーのマスターが回復するまで待つつもりだったのだヨ。だが、ある場所で霊圧の揺らぎが発生するのを感じては、ここに居るわけにはいかないネ。

 

「…やれやれ、動きが早いネ」

「どうされました?マユリ様」

「再び戦いが始まったようだ。ネムはここで彼を見張っていてくれたまえ。当たって欲しくない予想が当たったのは残念だネ」

 

 ネムの問いに簡潔に答え、寺の庭に出る。

 

「南の心臓 北の瞳 西の指先 東の(きびす) 風持ちて集い 雨払いて散れ」

 

 オサレな詠唱を唱えると同時に体内の霊圧が動き始め、かざした手から地面に紋のような模様が浮かぶ。あの殺人鬼…名前なんだっけ?どうでもいいので忘れてしまったヨ。まあ彼の残酷な考えが私のエネルギーとして流れ込んでくるネ。再び戦いが始まりそうだし多めにチャージしておくとしよう。吸い取り過ぎて廃人になるかもしれないが、仕方のない犠牲というヤツだヨ。

 しかし、この詠唱のセンスは改めて凄まじいネ…。風持ちて何たらって言葉は実際に言ってみたい台詞だヨ。言う場面が思い浮かばないし言葉の意味も分からないけど。

 

「縛道の五十八 掴趾追雀。…補足、成功だネ」

 

 ルキア奪還編のラストで勇音が藍染を探す為に使っていた鬼道だ。目標地点を特定した私は、地下道を使って移動を開始する。作中でキャスター陣営が使っていたものを再利用したものだネ。どうせ地上は他の陣営の使い魔やらが見張っているだろうし、こっちを使った方がよさそうだからネ。

 

「もう始まっているようだネ。さて、間に合うかどうか」

 

 

side 切嗣 

 

 アサシンの生存はケイネスの狙撃を試みた時に気づいていた。

 だが、キャスターとアーチャーによってそれが暴露されたのは想定外だった。特に策謀に加担している側のアーチャーが堂々と明かすとはな。キャスターが言ったようにあの男が英雄王ならば、その異名をもつ英霊ギルガメッシュは逸話通りの予測不能な性格らしい。

 不正が明らかになった瞬間、ケイネスは激昂した。プライドが高く堂々とした戦いに拘る男…下調べ通りの反応だな。戦場において不正や反則行為などあって当然のものだろうに。僕としてはセイバーやランサー同様に理解できない考え方だ。

 話は僕にとってまずい流れになった。このままではケイネスが時計塔などの他勢力を介入させ、聖杯戦争を中断し教会の不正を調査させようとするだろう。

 危機感を募らせる中で戦いは進み、バーサーカーが次の目標としてセイバーを狙う。その際にケイネスが再び周囲への探知を始めた。元々魔術の腕で奴に劣っている僕は、舞弥に合図を送り一度ばらけて探知から逃れるのが精いっぱいだった。

 

 だが、このまま奴を生かして帰すわけにはいかない。不正が行われているにせよ、それを利用して勝利すればいいだけのこと。聖杯戦争が中断されることだけは避けなければならない。

 追跡避けの魔術が張られていたことで手間をとられたが、何とかホテルに戻られる前に対象を補足することに成功した。舞弥に合図を送り、二段構えの狙撃を行う。

 

「…ネズミが。私が気づいていないとでも思ったか」

 

 僕らが放った弾丸は水銀によって二発とも防がれた。水銀越しに見えるケイネスは余裕の籠った笑みを浮かべていた。突き付けられた現状に苦々しく歯を食いしばる。あの男はこちらの追跡に気づいていたのだ。

 

「魔術師の戦いに近代兵器を持ち込むとは、無粋な…!アインツベルンも遠坂も魔術協会も、堕ちるところまで堕ちたようだ」

「マスター、自分が?」

「いや、私が天誅を下そう。ヤツがサーヴァントを呼ばない限りは貴様が出る幕でもない」

「…承知いたしました」

 

 舞弥の放った第二射、第三射も悠々と防ぎ、自らのサーヴァントと会話するケイネス。その余裕が許されるほどの実力を持っていることはもはや疑いようがない。追跡はとっくに察知されており、万全の態勢を整えられている。全てがこちら側にとって不利だ。

 

「さて、近代兵器を使う魔術師とも言えん賊よ。私の月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)にかかって死ぬことを光栄に思うのだな」

 

 そこからは一方的だった。水銀による情け容赦のない連撃を前に、満足に使うことのできる数少ない魔術『固有時制御・二重加速』を連続して使い逃げ惑うのみ。切り札である起源弾を装填することさえ出来ない。魔術の秘匿という魔術師の基本的概念はあるらしく、周囲の民間人に気づかれぬよう配慮された攻撃でもこれだ。もしも住宅街を遠く離れた無人の平原などで相対したらと思うとゾっとする。舞弥はランサーに牽制でもされているのかこちらを援護することが出来ないようだ。令呪でセイバーを呼ぶ暇さえ与えて貰えない上に、呼び出したとしても片腕が負傷した状態でランサーに勝利できるか怪しい。

 思考の最中にも攻撃は止まず、僕はホテル傍にある公園の一角に追い詰められる。

 

「終わりだ、ネズミ。よく持った方だとほめてやろう」

 

 勝利を確信した笑みを浮かべ、月霊髄液を操作するケイネス。この状況、一見すると絶体絶命ではあるが二つの逃げ道があった。一つはスモーク弾を散布させヤツの目をそらすこと。もう一つは予め街に仕掛けておいた爆弾を起動させ、脱出ルートを作り出すことだ。この状況だと多少の煙ではケイネスに大きな隙を作れないだろうし、後者がベストな選択だろう。この爆発により民間人に被害が出る可能性はあるが、仕方がない。

 だが、僕が爆弾を起動させるよりも先にケイネスに仕掛けた奴らが居た。

 

「マスター!アサシンです!」

「チィッ…。うっとおしい亡霊共が!」

 

 音もなく忍び寄っていた十体以上のサーヴァントが、ケイネスの死角から連続攻撃を行った。ランサーの叫びによってか、元から気づいていたのか。ケイネスは突然の強襲に苛立ちながらも水銀で防御する。死神のような黒衣を身に纏ったそいつらは、遠坂邸で撃破されたアサシンと酷似した雰囲気を持っていた。

 この事態はそう意外でもない。アサシン陣営とアーチャー陣営が目論見の露見に焦り、ケイネスの排除に動いたのだろう。魔術界隈に強い影響力を持つケイネスさえ排除すれば、あとは何とでもなる。その考えは理解できる。

 

「やはり群体型のサーヴァントか…。こざかしい!」

「マスター!自分が!」

「…まあ良い。半分は任せた」

 

 駆けつけたランサーと共にアサシンへの対応に当たるケイネス。個々の能力は高いために数に勝るアサシンに優位に戦えているようだが、連携はさほど出来ていないようだ。突然の強襲に浮足立っているのか、セイバー戦で微かに見えたサーヴァントとの不仲が原因か。どちらにしても好都合だ。

 撤退も考えたが、敵の目が自分から逸れた今ならば狙撃できる。生じた隙をついて素早く起源弾を装填し、わざと声をあげケイネスの注意を引く。

 

「ケイネス、覚悟しろ!」

 

 僕が声を上げると同時に、アサシン達が銃撃をしやすくするかのように道を開けた。教会側の敷いたレールに乗っているようで不快ではあったが、その感情を押し殺し銃を構える。

 

「くっ、まだネズミが居たか…!覚悟するのは貴様だ!」

 

 アサシンに手間取り、苛立ちを募らせていたケイネスがこちらに振り向く。顔に青筋を立てながら水銀を操る様子からは本気の殺意が感じられた。奴を始末するのに絶好の状況だ。勝利を確信しながら引き金を引いた。

 しかし、今日の僕の運勢はかなり悪いらしい。勝利を導くはずの渾身の一撃が、予想だにしない形で防がれたのだから。

 

「悪いが、勝負に水を差させて貰うヨ。まだその男に退場されては困るからネ」

 

 音もなく眼前に現れたのは、道化師のような面をしたキャスターだった。ヤツは懐に差した刀を抜き、放たれた起源弾を刀の腹で凪ぐようにして払い落とした。その鮮やかな剣裁きを見るに、セイバーとしての適正もあるかもしれない。それに、この男は僕とケイネスの間に滑るようにして一瞬で現れた。僕のように身体能力を強化する術式を使っているのだろうか。

 なんにせよ、状況はさらに悪化したと言える。切り札である起源弾を最高のタイミングで使ったにも関わらず、ケイネスを仕留め切れなかったのだ。起源弾は何発もあるわけではないのでこの損失は大きい。

 だが、助けられた側のケイネスは舌打ちまではしないまでも、苛立った視線をキャスターに向けていた。

 

「…恩を売ったつもりか?キャスター…。あいにくだが、あの程度の銃撃など私の水銀には通じない。貴様が間に入ろうが入るまいが結果は同じだった」

「それはどうだろうネ」

「どういう意味だ?」

 

 キャスターとケイネスが話しこみ始めた。この瞬間、ケイネスの目は確実に僕から離れた。今が好機だ。手にしていたスモーク弾を放ち、周囲一帯が煙で満たされる。

 

「チッ、次から次へと…!どこまでも下衆なネズミが!」

 

 ケイネスの苛立ちの声をあとに、僕は無線で舞弥に連絡を取りその場を後にした。ケイネスを仕留められなかったことといい、手の内をある程度晒したことと良い、かなり悪い状態に追い込まれてしまった。僕も舞弥も身体にダメージを受けてないだけマシと言えるかもしれないが…。

 今回の戦いに深い後悔と未練を残しながらも、僕はアインツベルン城に戻るのであった…。

 

 

side雨生龍之介

 まだ、なのか?

 俺がこの意味の分からない男に拘束され、思考を吸い取られる。

 それ自体は最初は面白かった。

 俺が悪魔の召喚ってヤツに成功したのなら、そのくらいの代償はあって当然かもしれないのだから。

 だが、最初は快感だった脳を直接襲う痛みも、時を断つにつれ不快に感じはじめてきた。

 多くの人間を殺し、それを快楽としてきた俺が、まるで正気になったようだった。

 痛みを一度感じると、それらはどんどん激しくなっていく。

 もう、こうして考えていることすらやっとだ。

 

 俺が閉じ込められたカプセルから空の景色が映るが、雲が全く動いていない。

 時間はどれだけ経ったんだ?

 ああ、痛い痛い!

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 思考がまとまらない。何であの雲は動かない?何で時間が経たなくなってしまったんだ?

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

 くそッ!!くそッ!!畜生ォ!!!

 俺はもっと人を殺して、その芸術に酔わなければいけないのにああ嫌だ嫌だ痛い痛い!

 脳がほじくられ、かきまぜられる!!!

 この痛み、悪魔の召喚さえできていれば、俺が誰かに与える筈だったのに!

 …俺はこんな罪深いことを今まで…。

 ああああ痛い痛い痛い痛い!

 考えが、痛いで埋め尽くさああああああ痛い痛い!嫌だ嫌だ!

 俺はこのまま苦しんで死ぬのか?

 死にたくない!死にたくない!死にたくない!

 痛いのも苦しいのも嫌だ!食事がしたい!家族や友人と親しく語り合いたい。もう殺してしまった。あの世間の人々が感じてた当たり前の幸せが、俺がバカにしていた時間が、この間際になって恋しくてたまらない!

 死にたくない!痛い!嫌だ、嫌だああああああ!!

 

 …あれからどれだけ時が流れたんだ…。

 まだか?まだなのか?

 もう誰かを殺して喜ぶこともしない。自首して法の裁きでもなんでも受ける。この脳を延々と吸い取られる痛みに比べれば、牢獄での生活など天国だろう。

 だから命だけは助けてくれ。

 そんな想いももう消え去った。

 今の俺にあるのは耐えがたい苦しみに耐えることと、一つの願いだけ。

 一体いつ、いつになったら、いつになったらこの装置は俺に止めをさしてくれる?

 早く早く早く早く早く早く早く早く 早く殺してくれ!!!

 

 

 

side マユリ

 

「…実に腹立たしい男だ。ランサー、片付いたか」

「はい。しかし敵の一部を逃がしてしまい…申し訳ありません」

「…まあ構わん。ご苦労だった」

 

 ランサーは騎士の鏡のような礼を尽くしながら報告を述べる。彼の言う通り、アサシンの姿は周囲から消えていた。そんなランサーにおざなりな労いの言葉を投げかけ、ケイネスはこちらに向き直った。

 

「業腹だが、私も今宵の戦いで魔力を消耗している。あの男の追跡は今からだと難しいだろうな」

「だろうネ」

「…で、貴様が先ほど言ったことについて改めて問いたいな、キャスター。私の水銀では奴の銃弾を防げなかったとででも?」

「並の銃弾なら防げただろうネ。だが、これを見たまえ」

 

 先ほど刀で叩き落とした銃弾を拾い上げ、ケイネスに渡す。彼も時計塔で一流と呼ばれた実力者。私が説明するまでもなくその銃弾の特異性にすぐに気づいた。

 

「これは…。厄介な術式が練り上げられた特殊弾か」

「ご名答。敵の魔術が強ければ強い程威力を発揮する。君の水銀の防御は確かに強力だが、ヤツはそれを見込んでこの特殊な銃弾を放ったのだヨ」

「…礼を言っておこう、キャスター…。だがこれで我が陣営に借りを作ったと思わぬことだ」

 

 ランサーに視線をやり、その場を離れようとするケイネスに最後の忠告をしておく。

 

「教会とあの男の利害は一致している。君を排除することでネ。これからも何度も狙いにくるだろう。十分に注意することだ」

「その程度は分かっている。私がそう簡単に倒されると思わないことだ」

「正攻法ならば君は誰にも負けないだろうネ。だが、やり方はいくらでもあるものだヨ。例えば君が泊まるホテルに強力な爆弾を取り付けるなり、飛行機をジャックしてホテルに突っ込ませるとかネ。現代兵器もそう馬鹿にしたものではないものだヨ」

「…忠告は聞いておこう」

 

 私の最後の言葉に、何かを考えるような仕草をしたあとでケイネスは深く頷き、ホテルに向け去って行った。これであの男の現代兵器への警戒心が少しでも上がると良いのだが。

 …ホテルを爆破するという、具体的すぎる忠告をしたのはこの時点ではどうなのだろうネ。切嗣のやり方を知りすぎていることで周囲からさらに警戒されるかもしれない。まあ今更か。

 

 再び地下道を使用し、拠点へと戻る。するとネムが少し慌てた様子でこちらに向かってきた。

 

「なんだネ、そんなに慌てて。見ての通り私は無事だヨ」

「いえ、そうではなく…。マユリ様、あの男が死亡しました」

「何だって!?」

 

 ネムの言葉に最悪の事態を想定したが、そうでは無かった。死んだのは魔力源としていたあの殺人鬼だった。少し魔力を吸い過ぎたようだネ。苦悶の表情を浮かべながら干からびている。

 

 結論から言うと、私はあの装置にザエルアポロが喰らった超人薬を仕込んでおいたのだ。

 彼は腹を撃ち抜かれ、あとは死にゆくだけという状況で、苦痛や生への執着よりも見たいものを見られた恍惚に酔っていた狂人。痛みへの耐性はそれなりにありそうだ。それでは下衆への罰にならない。かといって、私はあの男が苦しみ悶えるような特殊な拷問をする趣味も無いし、この忙しい聖杯戦争の最中にそんなことをしている時間もない。

 だから私が行ったのは、薬をほんの少し垂らすだけ。彼はじきに、時間の経過による苦痛への飽きと、原始的な生存本能の芽生えを取り戻す。これにより、彼は本来常人が味わう感性を取り戻し、苦痛を普通に感じられるようになったのだヨ。

 世間で言う正気を彼が取り戻したなら、あの装置はまさしく地獄だ。一秒が数百年なら、彼は最低でも数百か数千、もしかしたら数億年もの時間を体感したかもしれないネ。原作でのザエルアポロが薬を喰らってから死ぬまでよりも、はるかに長い時間だ。装置による痛みを彼が楽しんでいられたのは、長くても十年といったところ。残る途方もない期間を、苦痛の中で意識だけが生きている状態だったわけだ。おお、怖い怖い。これは絶対に喰らいたくない刑罰だヨ。まあ彼に関していえば、自分がしたことへの報いが返ってきたということだネ。

 

「あの男というから、てっきりバーサーカーのマスターが死んだのかと思ったヨ。あの男に今死なれては実に困るからネ」

「誤解させる言い方をして申し訳ありません」

「フン、まあいい。必要な魔力は吸い取っておいたし、この男にもそろそろ用はないと思っていたのだヨ」

「…しかし、これからも聖杯戦争は続く可能性があります。魔力源が死んだのは痛手なのでは?」

「なに、次の策は既に想定済みだとも」

 

 ネムには引き続きバーサーカーのマスターの監視を命じ、私は一度休むことにした。今宵は本当に色々ありすぎて疲れたヨ…。

 

つづく




2021/1/20
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