真名:???
性別:男性
筋力:A+ 耐久:B+ 敏捷:A 幸運:D 魔力:C+ 宝具:B
スキル:騎乗C+、対魔力C、怪力B、カリスマDなど
宝具:『???』
ライダーとは騎手の座。それはすなわち、ライダーの適性を持つ者は全員、何かしらの手綱を握る逸話を持っているということ。もちろん例外も数多く存在するクラスではあるが、少なくとも命の聖杯戦争でここまでゾーエと共に生き残ってきたライダーには、普遍的な人類を相手にするに限っては他の誰にも引けを取らない騎乗スキルを持っていると自負していた。
それなのに。
「――お嬢ちゃん、あんまりにも
屈強な騎馬に跨ってマンハッタンを南西へ向かって激走するライダーを追走するランサーは、あろうことかそのか細い両の脚で大地を抉るように蹴って一定の距離を保っていたのだ。
「馬についていくのには慣れてるからね!」
そう言ってニヤッと笑うランサーは、直後その手に握った長槍を手中で回転させ、ライダーの乗る駿馬の後ろ右足をめがけて投擲する。まるで吸い込まれるように突き刺さったその剛刃は、ライダーの両膝を地に叩き付けるに充分な威力を以て騎馬の肉を抉る。
「――ヘヘッ、ちょっとばっかし手荒じゃねェのお嬢ちゃん!」
「敵前逃亡は騎士道に反するんじゃないのかなぁ?」
「言ってくれるぜ……っ!」
そう吐き捨てたライダーが手にしたレイピアを唸らせ、ランサー目掛けて猛進した時だった。地鳴りを伴い、
それは
「あれ、は――。」
「最悪だな……!」
幾千のリビングデッド達はブロードウェイを往来する大勢の一般人すらをも喰らい、より魔力の強い者を欲してランサーとライダーの方へ迫っていた。その様を目にしたランサーはギリッと牙を鳴らし、その可憐な眉目をしかめた。
「巫山戯ている……ッ! あんなの、あんなの僕は聞いていない!! あぁやはり、やはりあんな連中は――!!」
『利用しようと思うことすら間違っていたッ!!!』
ランサーの咆哮とズーハオの慟哭が共鳴し、ランサーの魔力が増幅される。次の瞬間、ランサーは槍を
「『
――ランサーは、『セイバー』となった。槍が虚空に消え去ると同時にセイバーの腰に出現した一振りの刀、『大天狗正家』の鯉口を握り締め、正面から死の濁流と向き合う。食いしばった歯の隙間から細く息を漏らしながら柄を勢いよく掴み――セイバーはその場から消え去る。
残心。カチンと鍔を鳴らし、セイバーは大河川の最後尾から遠く離れた地点に出現した。直後、噴水のような血飛沫を周囲に散布しながら、その
「『剣術無双――剣禅一如』。」
「ヒュウ、お嬢ちゃんすげぇな! 一体本当のクラスは何なんだ!?」
「いやっはは、この宝具はただの借りものだよ!」
ランサーに戻ると、ライダーからの称賛に困り顔で頭を掻く。しかし、二人の談笑は長く続かなかった。その直後、二人の間に転がっていた死体の山が再び蠢きだし、ランサーとライダーに襲い掛かったのだ。
「ゾーエ! 宝具を使っていいか!? えぇ、ダメ!? うっそだろお前!」
「嗤おう、『人間無骨』!」
レイピアとマスケットだけで軍勢を捌くライダーと、兄の宝具で一気に吹き飛ばすランサー。だがそんな二人を挟み込むように、さらにリビングデッドの大群が雪崩れ込んでくる。
「――ズーちゃん!」
『だめだ。』
「何も言ってないんだけど!?」
苦戦するライダーを傍目にランサーはズーハオに向かって呼びかける。
「……彼に、宝具貸していい!?」
『ハァ!!?』
ランサーの口からこぼれた提案は、あまりにも突拍子がなかった。
「今の状態、キャスターと手を組むよりもライダーたちと手を組んだ方が百倍マシだよ! 少なくとも彼には道徳心がある!」
『――ッ! 確かにその通りではあるが、宝具を貸し与えるなど、正気で言っているのか!?』
「あぁ、正気だよズーちゃん! 僕を信じて!」
『……あぁわかった、何でもいい、打開策となり得るモノをやれ!』
「ありがとう――っ!」
そして、ランサーは一丁の火縄銃をライダーに投げ渡した。
「これはっ!?」
「真名を『
『お前よりにもよってどうしてそんなものを貸すんだ!!!??』
ズーハオの絶叫も知らぬ顔、ランサーは自らの主君が持つ切り札をライダーに貸し与える。ライダーが困惑しながらもその真名を叫ぶと、即座に一丁だった火縄銃が無数に出現し、ライダーの周囲に群がっていたリビングデッド達を一掃して見せた。
「ヒュウ、こいつぁすげぇや!」
B級映画の相棒役のような安っぽいセリフを吐き、ライダーはランサーに火縄銃を投げ返しながら問い質した。
「で、あいつら一体何なんだ? ハリウッドもびっくりな特殊メイクの軍勢じゃねぇか。」
「あれはキャスターの宝具。僕らは君を討つためにキャスターと手を組んでいたけど……あれはあまりにも外道すぎる。ねぇライダー、君たちさえ良ければ――。」
「同盟を組み直そう、ってか? いいぜ、こっちのマスターもそのつもりみてぇだ。」
大量に敷き詰められた腐肉の絨毯の上に立ち、騒ぎを聞きつけて急行してきたニューヨーク市警のパトランプに照らされる中で互いの手を握り合う二人は、さながらにゾンビパニック映画の主人公とヒロインのようだった。
場所は遠く変わってマンハッタン島の先端、ハドソンリバーとイーストリバーが混ざり合う場所に設立された深夜のバッテリーパーク。アッパーベイを遠く望むその海辺の遊歩道で、一人のティーンエイジャーの少女と青年が言い合いをしていた。
「だーかーらぁ! こうなるってのは予想してなかったってのに! そんな責めることないじゃん! そもそもいきなり蹴りかかってきたの君だよねぇ!?」
少女の方ははよく手入れされた眩い金色のロングストレートヘアを揺らすライダーのマスター、ゾーエ・モクレール。
「同じマスターならば攻撃するのは道理だろう!! そもそもお前、ライダーとランサーが同盟締結を宣言した後も切りかかってきたじゃないかっ!!」
青年の方はゾーエのバタフライナイフで斬られた肩の傷に宝石をあてがい、その生傷を魔術で癒すランサーのマスター、ジャン・ズーハオ。
そこへ突如虚空からライダーとランサーが実体化して出現し、二人の間に割って入った。
「あーはいはい! 少し落ち着きなよズーちゃん!」
とランサー。
「お嬢ォ! あんまカッカすんなって、せっかくの美人が台無しだぜ!」
とライダー。
「「だってこいつが!!」」
なおも食い下がるゾーエとズーハオを力ずくで引き離し、二人のサーヴァントは互いに互いのマスターをなだめにかかる。
やがて憤懣やるかたなさげに肩を怒らせつつも、二人はやや乱雑に握手をして停戦を誓った。
「……それで、あれ何なのさ。私もひとまずあのバーサーカーを逃がしてからこっち、毎日毎日ちまちまちまちまとキャスター……なのか何なのか、とにかく変なのに追っかけ回されてるんだよ。」
ゾーエはベンチに腰掛けると、大きなため息を吐き出す。
「はぁ? あのリビングデッド達は初見なのか?」
海と遊歩道を分かつフェンスにもたれかかるズーハオの質問に、ゾーエはけろっとした表情で肯定した。
「そうだよ? ねぇライダー?」
「あぁ、今んとこ謎のサーヴァントの攻撃パターンにあんなもんはなかったぜェ。」
ズーハオはランサーの顔をちらと見やる。その視線に気付いたランサーが肩をすくめると、ズーハオは自身が持ち得る情報をすべてゾーエに開示した。
「あれは確かにキャスターだ。マスターはロベルタ・ラディッシュとかいう女性魔術師。サーヴァントの方は幼い少女の姿をしていた。どうもあのリビングデッドの大群はキャスターの宝具らしい。」
「なるほどねぇ……バーサーカーとは違う意味で厄介になりそうだね。」
暢気に両手を後頭部で組んで貧乏ゆすりをするゾーエの感想に、ライダーがひとつ補足をする。
「オレたちが交戦したバーサーカーは瞬間移動を得意とするサーヴァントだったぜ。まったく、あれだけの大鎧を身に纏っておいてあんな芸当……本当にあれ人間かよ。いやまぁ、いっぱしの人間じゃねぇかもなァ。なんせオレの二倍は身長あったし。」
「ライダー、ちょっとぺらぺら喋りすぎだよ。」
「っとと……ま、今のは虫の鳴き声ってことでな!」
ゾーエにたしなめられ、ライダーは申し訳なさそうに手を振る。しかし直前のライダーの発言にランサーは思うところがあったようで、自らのマスターとライダー陣営の二人、双方に向けて自身の記憶を語る。
「バーサーカー――……そういえば、キャスターと一度話したんだけど、まったく何言ってるかわからなかったよ。まるでバーサーカーみたいだった。」
「どういうことだ、ランサー。」
詳細を求められ、ランサーは口元に手を当てながら考え込むように話した。
「うん……僕、一応サーヴァントだからさ。世界各国の言語は理解できるんだけど……。あれはそんなんじゃなかった。人類が解することのできる言語じゃなかったんだ。」
「キャスターじゃなくて本当にバーサーカーなのかもよ?」
ゾーエの意見もランサーにはヒントになり得なかったらしく、肩をすくめて首を横に振ってしまう。
その日は大した進捗もなく、暫定的にキャスターであると仮定したそのサーヴァントの正体を探ることを最重要課題であると決定して両陣営は解散した。また明日もこの場所に集うことを約して。
「キャスター、作戦は大成功ですよォ!!!」
エンパイアステートビル61階部分に取り付けられた鷲のガーゴイル像は数多の映画で登場人物が寄り添った、世界でも有数の知名度を誇るガーゴイル像だろう。そして今、ロベルタもそのガーゴイル像の頭部に立ち、強風吹き荒ぶ中、星の海にも負けず劣らず煌めく夜のマンハッタンを見下ろして高笑いしていた。
「アハハハハハッ!! いやぁ滑稽ですねェ!!! さて次の段階へ進みますよキャスター、我々に与えられた猶予は少々心許ないのですからァ!!!」
その背後、安全な場所から白衣をはためかせるロベルタを見上げるキャスターは、溜息をつきながら人類にも充分に理解可能――もとい、流暢なアメリカ英語で忠告をした。その言葉遣いは、あまりにもそのかわいらしい外見からはかけ離れた物だった。
「……あまり調子に乗っていると足下を掬われるぞ。如何なる時も慎重に事を進めるのが医療ではないのか。」
「フフ……えぇ、えぇ確かにその通りですとも!! ですがこの高揚感!! 四人の若者……おっと、二名は死者でしたねェ!? その命がこの掌の上で……まるでネジ巻き人形のようにカタカタと動き回っている!!! これに悦楽を見出さないのは余りにも……余りにも無粋と言うものでありましょう、えぇッ!!?」
「……勝手にしろ。行くぞ。猶予はあまりないのだろう。勝利は目前なんだ。へまをするなよ――、」
手の甲に刻まれたシーソーのような形状の令呪に目線を落としながら、キャスターは屋内へと戻っていく。ロベルタのことを、あり得るはずのない名で呼びながら。
「――