真名:インターネットミームの怪物
性別:なし
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:EX 幸運:E 魔力:B+ 宝具:C+
スキル:狂化B、対魔力B、無辜の怪物EX、コレクションA、無限の愛A+、増殖C+、変化B
宝具:『???』
「実に、愚かだと思いませんか。」
尼僧は、にこやかに口を開いた。そこには敵意など微塵も感じられない。一歩、また一歩とレイラに歩み寄りながら、ボドヴィッドの血でどす黒く汚れた左腕を持ち上げ、そこに串刺しになったボドヴィッドの肉体を勢いよく放り捨てた。
「聖杯の機能停止? あぁ、何て愚かしい。それをして何の意味があると言うのです?」
「お前は……っ! どうしてお前がまだここにいるのよ!」
打って変わって敵意をむき出しにするレイラに、金髪のシスターは淑やかに口元を手で隠し、ころころと笑う。
「おやおや、何を理由にしていたとて構わないではないですか。今の私は『プラム・コトミネ』。言峰一族の神職者ですよ? 貴方には関係のないことでしょう?」
「本家は一体何を考えているの……!? これが……これが理由!? 前回の命の聖杯戦争であれだけホムンクルスと魔術師を街数個分消費したのも、こんなバケモノを生み出すだけのためだったって言うの……!」
レイラの手は恐怖と怒りで小刻みに震えていた。しかし、その手を背後に漂っていた漆黒の霧が覆い包む。その温もりにレイラはひとつ息を吐き、ぎゅっと手を握る。覚悟の定まった瞳でシスターを睨み据え、舌鋒を彼女へと向ける。
「命の聖杯の存在は、数多の命を食い潰す世界のガン細胞よ! そんなものがあれば、幸せになれる人間だって幸せにはなれない! 違う!?」
「偽善ですね。」
シスターは冷徹に微笑む。その義眼は冷ややかに凍てつき、ギチギチと音を立てながら立体的に回転する。直立不動の姿勢を微動だにせず保ったまま、シスターはレイラに正論を突き付ける。
「貴方は世界の人間すべての願いが理解できるのですか? 世界の人間すべての『幸せ』が理解できるのですか? 他者を陥れることも幸せ。他者を踏みにじることも幸せ。他者を憎むことすら幸せ。漠然とした『幸せ』の理論は、貴方が決めて良いものではありませんよ?」
「――っ、でも! それでも……世界中の子供たちが最低限の水分と、最低限の食料と! 最低限の塩分鉄分ミネラルを補給できて、最低限の医療を享受できる世界には、あんなものはあっちゃいけないはずよ!」
「その理由は?」
言葉に詰まるレイラ。しきりに背後で唸る霧をなだめ、尚も牙を剥く。ボドヴィッドが数時間前のアサシンのように腹部に大穴を空けながらもまだ肩で息をしているのを確認し、汗の滲む頬を伸縮させてシスターに論戦を挑む。
「確かに理由はないわ。でも、あの聖杯が起動するために必要な物が何か、あなたならわかっているでしょう!?」
「えぇ。膨大な魔力……それも参戦するすべてのサーヴァントの分を足してもなお足りない規模の。」
「それを補うために一体何十人の魔術師が死にゆくと思っているの!」
「さぁ?」
「人って言うのは、お互いがお互いにどこかで繋がり合って生きているのよ! あなたがやろうとしているのは、その繋がりを……運命を断ち切ろうとしていることに他ならないわ!」
「……だから?」
シスターは揺るぐ素振りすら見せず、外界の吹雪よりも冷淡な眼差しでレイラを見つめる。今にも凍結しそうな廊下の真ん中に立ちながら、シスターは面白そうに声を弾ませながら自論を述べる。
「偽善ですよ、レイラ・アインツベルン。貴方はただの偽善者だ。自分の手が届かない人間の事すらも救おうと? ふふ、馬鹿馬鹿しい。自分の人生を生きることで精一杯の脆弱な生命体が、あろうことか『世界中の子供』などと!」
両腕をいっぱいに広げ、シスターは目を細めて言い放つ。
「良いですか? 貴方の待つ『世界中の子供が笑える』世界というのは、何の刺激もないつまらない世界なのですよ? 平等と自由は正反対です、レイラ。
人間とは他者の不幸を望まねば生きていけない醜い肉塊の総称です。誰かが幸せな生活を送っていれば、自分がより優位でより幸福な生活を送りたがる。そのためならば何でもします。家族も殺します。虚構ですら事実に変えてしまいます。醜く寄って集って、たったひとりの哀れな弱者を淘汰します。それが終わればまた新たな弱者に狙いを定めます。
本当に幸せな世界を作りたいのですか? えぇ、その理想はとても偽善的で人間的で薄汚れていて――大変美しい。ならば願えば良いではないですか、レイラ。聖杯はそのためにあるのですよ? さぁ勝ち残って願えば良いのです。『すべての人類から自意識を抹消させろ』とね!」
聞いていられなかった。レイラは途中から目尻に大粒の涙を浮かべ、それでも絶対に意志だけは負けまいと両脚を踏ん張り、手のひらに爪を突き立てながら拳を握り締め、シスターの視線から絶対に目を逸らそうとしなかった。
そんなレイラを見て、唇を愉悦に歪ませながらなおもシスターは続けようとした。しかし。
「それでも!」
レイラの叫びに呼応して、二人を取り巻いていた漆黒の霧が徐々に実体を得ていく。
「世界中の子供がわたくしの思う『幸せ』を享受してほしいというこの考えは、確かに利己的で自己満足に過ぎないのかもしれないわ。
それでも……それでもわたくしのこの願いが、この想いがすべて偽善であったとしても! それをあなたに邪魔させる気は微塵もない……! この願いは、想いは! 絶対に――!」
白銀の鎧を身に纏った夜闇よりも真っ黒い巨人は、レイラと共に吼え狂った。
「わたくしたちは――間違ってなんかいないっ!!!」
「■■■■■■■■■▪▪▪▪▪▪▪▪▪――――ァアウッッ!!!!!」
令呪がすべて回復しているということは、自分は一度死んだのだろう。しかし、いつ? そんな疑問がクロウの脳内を駆け巡る。そしてクロウとセイバーは、いつの間にか館の外の森に再び来ていた。
「マスター、無事か!?」
尻餅をつくクロウの前で、全身血塗れのセイバーが謎のサーヴァントと火花舞い散る激しい剣戟を繰り返していた。一般人の視力では到底追いつくことのできぬ速度で剣を振るう二騎のサーヴァントによる衝突は、両者ともに一切譲り劣らぬ実力を以て拮抗していた。
金のロングヘアに月桂冠を戴き、漆黒の仮面で目元を隠した小柄なサーヴァントは、人間の血液によく似たあかいろで塗られた剣を握り、モスクワの深雪すらも蒸発させて地表を露出させてしまうほどの紅蓮の炎を巻き起こしながらセイバーを徐々に圧していた。
「ぐ……っう……。」
直後、月桂冠のサーヴァントが手に持っていた紅蓮の剣の周囲で渦を巻いていた灼焔が勢いを増し、大きく振るわれた剣に追随してクロウとセイバーに一瞬の幻覚を見せる。眩いばかりの黄金で埋め尽くされた大舞台。その陽炎が消え失せた時、月桂冠のサーヴァントはセイバーから大きく距離を取っていた。
そして。
「――――――
大火山の爆炎もかくやという焔の奔流と共にセイバーを斬り捨て、その場に倒れ伏すセイバーを足蹴にしながらクロウの鼻先へとその紅蓮の剣の切っ先を向けた。
「貴様は、何を望む。」
「はっ……?」
呆然とするクロウに対し、月桂冠のサーヴァントは苛立ちを隠そうともせずに足下のセイバーの背を踏みにじり、再度クロウに問いかけた。
「貴様は聖杯に何を望むと言ったのだ!」
「お、俺は……ただ、ふつうの人間として死にたい。ただそうとだけ……。」
「ふん、贅沢な奴め。あそこまで巨大な聖杯をたったそれだけの為に使い潰すつもりか?」
「お前は何を願うって言うんだよ。」
聞き返したクロウに、月桂冠のサーヴァントはその口の端をにぃっと目尻に届くかというほど吊り上げる。
「復讐だ。」
セイバーを音高く踏みつけ、その膝で全体重を支えながらクロウの目と鼻の先まで顔を近付ける。
「あの憎きキリスト教徒どもを、余の生涯を終ぞ狂わせ続けた憎き異端の狂信者どもをこの世界から煤ひとつとて残さぬまで燃やし尽くすのだ! それ以外にあるまい?」
狂気に満ち溢れた声で力強くそう告げると、ふと足下のセイバーに目を落とす月桂冠のサーヴァント。鼻でひとつ笑い声をあげると、その脇腹を蹴ってクロウの元へと転がす。
「憐れなものよ。あのような覇気の無いマスターを持ってしまえば、成就せんと切望する願いすらも届ける前に座に還ってしまう。同情するぞ、セイバーよ。」
「マ、スタァを……っ!」
満身創痍の身体を剣を支えに立ち上げ、ふらつく姿勢で獅子の眼光を月桂冠のサーヴァントへと向けるセイバー。
「マス、タァをっ……侮辱、するな……!」
「セイバー……っ!」
セイバーは自身の霊基が潰えるその瞬間までクロウの前に立ち塞がり続けるだろう。そのことがクロウにはたまらなく悲しかった。そんな彼の感情を読み取ったかのように、セイバーは軽く笑って見せる。
「安心しろ、マスター。マスター、だけは……絶対に、生きてレイラ嬢に引き渡してやる……!」
「おぉ、何と感動的な信頼関係であろうか! この悲劇、余の喝采にて終わらせねばつまらぬというものよ。セイバー、あの者の何が其方をそこまで駆り立てる。」
「わからない……だが、サーヴァントとマスターの誓い、騎士としての誓いよりも堅い何かを、マスターとの間には感じるのだ……その正体が何かは知り得ないが、私は私の直感を信じる!!」
セイバーが突進し、月桂冠のサーヴァントがそれをあしらおうと剣を振り上げた時だった。
「――ッ!?」
突如、月桂冠のサーヴァントの肩口に銃弾が貫通した。崩れた体勢を咄嗟に立て直そうとするも、セイバーは既に肉薄しており。
「『
セイバーが放った宝具の光の中に、その半身を呑まれてしまう。
「ぐっ――うあああああぁぁぁぁっっ!!!!」
この世のものとは思えぬ悲鳴を上げながらも、しかし月桂冠のサーヴァントは生存していた。自らを霊体化し、どこかへと去って行ってしまう。セイバーもそれを追いかけるほどの気力は残っていなかった。
左の肩口を貫通した銃弾の発射源、すなわち虫の息のボドヴィッドへとシスター・プラムの意識は逸らされてしまった。直後、バーサーカーが放った渾身の右ストレートによって廊下の突き当りの壁に叩き付けられてしまう。
シスター・プラムの来襲に際して執事にアサシンを解放するようにこっそりと指示したレイラの命令通り、執事はアサシンを地下牢から放出してやったようだ。レイラの隣に実体化したアサシンはボドヴィッドを安全な場所まで運ぶと伝えてから、レイラにセイバーとクロウの状態についても報告する。
二人に対しても頼んだと任せ、再度シスター・プラムの方を見る。シスター・プラムは頭にかぶったウィンプルを荒々しく投げ捨て、赤黒い魔力を周囲に放出し始めた。
「アインツベルンには感謝していますが……レイラ。貴方に限ってはそうではありませんね……!」
左腕から滴り落ちるボドヴィッドの血液を自身を取り巻く魔力へと置換し、まるで悪鬼のような瞳でレイラを突き刺す。見る見るうちに増幅していく魔力は、やがてプラムの影の中へと滲みこんでいき、一瞬その拍動が凪ぐ。
レイラも額に脂汗を流し挑戦的な笑顔を向けながら、彼女が放たんとしているその
「来なよ――
「顕現せよ、粛清の鉄杭――! ――『
赤黒い魔力と共に床を突き破って突出しつつ、レイラとバーサーカー目掛けて疾駆する無数の血染めの杭が、目前まで迫りその肉体を串刺しにせんと二人へ襲い掛かった。