身長:154cm
体重:42kg
属性:秩序・善・地
好きな物:甘いお菓子、ぬいぐるみ
苦手な物:脂質の多い食事、装飾過多、蛸
時間はやや遡り、チョコレート店から少し離れた地点の歩道。サーヴァントの力でつねられた頬を市販のミネラルウォーターのペットボトルで冷やしながら、クロウはベンチに座り、セイバーの帰りを待っていた。
そこへ、近寄ってくる人影がひとつあった。地元に住む人間なのだろうか、学生服と思しき服装をしており、よく手入れされた金髪はパリの陽光を浴びて宝石のようにキラキラと輝いている。その少女はクロウの目の前に立つと、その顔を覗き込むように上体を前へ折り曲げた。
「ボンジュール、お兄さん! 誰か待っているの?」
流暢な英語を話す少女は、自身のことを『ゾーエ』と名乗った。
「食いしん坊なパートナーを待っていてな……。」
クロウは言葉少なく返答する。すっかりぬるくなったミネラルウォーターのキャップを捻ってその内容量の半分ほどを胃に流し込むと、ちらりとゾーエを見やる。先程と依然変わりなく、ひたすらにクロウの行動のひとつひとつを興味深そうに見つめている。
「……日本人がそんなに珍しいか。」
掌の中でペットボトルのキャップを転がしながら聞いてみる。
「あ、日本人だったのね! 中国人かなーって思ってたよ!」
「ヨーロッパの人間にとっちゃどっちも同じようなもんか……。」
「君たちだって、イタリア人とフランス人の見分けはつかないでしょう?」
「イタリアとフランス自体を混同している奴も少なくないだろうな。」
随分とフランクな少女だな、とその瞬間までクロウは考えていた。ミネラルウォーターを飲み干し、反らしていた上半身を元の場所まで戻す際、クロウの視線はふとゾーエの右手の甲に吸い寄せられた。ゾーエは右手にだけ手の甲部分が空いた革のグローブを装着しており、その空いた部分から、洋鐘のような意匠をした深紅色の呪術的な刻印が顔を覗かせていたのだ。
「――!」
それは紛れもなく、マスターがサーヴァントを制御するための魔術装置――『令呪』であった。
クロウが自身の令呪を見たことに気付いたゾーエは相変わらずにこにこと笑いながら口を開いた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない! 君はマスターなんでしょう? それじゃあ、君を攻撃する理由は私たちにはないよ!」
その瞬間、セイバーが中にいたはずのチョコレート店からとてつもない規模の爆炎と爆風が巻き起こり、何かが超高速で吹き飛んでいき、反対側の歩道のスーパーマーケットの窓ガラスを突き破った。
「セイバー!?」
「ほらほら座ってて! 君が出る幕はあそこにはないよ!」
立ち上がろうとするクロウのリンパ腺を親指で押し込み、ベンチに強制的に座らせるゾーエ。
それに抵抗するように、クロウは体内の魔術回路をフル稼働させて、掌の中にあったペットボトルのキャップの材質を金属に変換し、思い切り地面に叩きつける。澄んだ音を響かせながら金属になったキャップは跳ね返り、ゾーエの眉間に直撃した。
「ぁいだっ!?」
短く悲鳴を上げてその場にうずくまるゾーエ。その隙にクロウは一般市民の逃げ出した街の中を走り、破砕したスーパーマーケットの窓ガラスからセイバーの名を呼んだ。
「セイバー! セイバー、無事か!?」
クロウの視線の先で、大破した商品棚から雪崩のように崩れ落ちた商品の山の中から人影がひとつもぞりと動いた。山の中から出てきたのは、案の定セイバーであった。切れた額の傷を魔法で癒しながら、おもむろに立ち上がり、ふらふらとクロウの元へ寄ってくる。
その瞳の中には、怒りと屈辱の炎が燃え盛っていた。
「マスター……貴方はさっきこう言った。『ここからは私に任せっぱなしになる』、と。」
「……あぁ、言ったな。」
半ば呆れたように首を振りながら、クロウはその言葉を肯定した。セイバーはその回答に凶悪な微笑を浮かべ、さらに続ける。
「現状が……『任せっぱなしになる状況』と見て良いな!!?」
「……任せる。生殺与奪の判断もお前に託すよ。」
「ふふ……ふはっはっはっは!! 感謝するぞマスター! 心置きなく本気を出させてもらう!!」
「宝具は許可するまでは使うなよ。」
その言葉も聞いているのか聞いていないのか、狂気すら感じられる笑顔で目の前に立ちはだかる敵を睨むセイバー。
突如として彼女を起点に濡れ羽色の魔力のエネルギーが爆発し、セイバーの外見が変化した。元々革のジャケットだったはずが、端々がボロボロに破れた漆黒のドレスとなり、その腕や胸には、赤黒い甲冑が煌めいている。そして手には、荒れ狂う嵐によって不可視となった武器を握っていた。
その武器を両手で握りしめると、反対車線にいたサーヴァントもレイピアとマスケットを構える。彼の服装も、中世の騎士のようなものに変わっていた。
謎のサーヴァントが放つ銃弾のことごとくをその得物で弾き飛ばしながら肉薄し、確実にその首を刎ねようと武器を振るうセイバー。その速度は流石は英霊、生身の人間では目視できないほどに高速であった。しかし、敵も同様に腕が立つらしく、セイバーの攻撃をレイピアで捌きつつ、隙があればマスケット銃をセイバーの眉間に突きつけようとする。セイバーは発砲寸前で猛る風を纏った籠手でマスケット銃の銃口を逸らし、事なきを得ている。
そんな両者の戦いを見守っていたクロウは、死角から切り込んできたゾーエに全く気が付かなかった。
「――っ!」
バタフライナイフで斬り付けられたクロウは、バックステップで距離を取り、ナイフをカチャカチャと変形させて遊ぶゾーエを睨んだ。
「やだな、そんな怖い顔しないでよお兄さん。私ちゃんと言ったよ? 『君が出る幕はない』って。それでも首を突っ込んだんだもの、邪魔はするに決まってるでしょう?」
「もし俺があのままベンチに座っていたとしても殺していたんじゃないのか。」
「ううん! 私、人殺しとかなるべくしたくないもの! サーヴァント同士で決着がつくならマスターも殺さなくていいし……だから座っていてほしかったのに。」
「残念ながら……じっとしてるのは性に合わねぇんだ。」
そう言って、クロウは手元にあった道路標識をいとも簡単に引き抜いて見せた。そしてそれを指でコツコツと叩くと、魔術刻印のようなものが道路標識の表面を駆け巡り、やがて消失する。
頭の上で景気よくぶんと回し、クロウはゾーエに向かって走り出した。サーヴァントレベルとまでは行かずとも、生身の人間にしては充分すぎる速度で唸りを上げて振るわれる道路標識を軽々とジャンプで躱したゾーエは、その道路標識が街灯を甲高い音と共に両断したのを見て、驚愕の表情を見せた。その断面は融解したかのように滑らかだった。
「こんなの受けたら私切り身になっちゃうねぇ! うわっ!?」
なおも冗談を飛ばすゾーエに容赦なく襲い掛かるクロウ。そんなマスター同士、そしてサーヴァント同士の戦いを各々の手段を用いて、他のマスターたちも観戦していた。
あるいはイタリア。
「ふぅむ……ここまで接近されたらさすがに捌けんなぁ……。」
ビーチでくつろぐ老爺が、隣に横たわる妖艶な美女にスマートフォンの画面を見せる。
あるいは日本。
「素晴らしい剣の腕だ……是非とも手合わせ願いたい!」
「ズーちゃん、キミたまに自分がただの人間ってこと忘れてるでしょ。」
廃れてボロボロに崩れた寺の本堂の屋根の上で、胴着姿の青年とカジュアルな服を着た少女が、ろうそくの炎の向こうに揺れる幻影を眺めている。
あるいはアメリカ。
「ほうほうほほうほほう、いやぁお強い! この方々は実在した方々なのですかね? 是非とも死体を拝借したいものですなぁ、ねぇマイハニー?」
「んぅ?」
白衣を着た女性が、首のちぎれたぬいぐるみを抱く幼い少女に映像を見せ、しきりに同意を求めている。
あるいはロシア。
「……ん、なに。……水晶ぉ? はぁ……あぁ~、そういえば使い魔よこしてたっけ……。あーはいはいやってますねー。んぁ~もういいよバーサーカー、もうちょい寝させて……。」
白髪の少女が、細長い体をした怪物に水晶玉を手渡され、その映像を一瞥した後、ころりと寝てしまった。
そして、フランスはパリに戻り、二つの陣営が戦っているのを見守る人物が二名いた。
「どうする、いつでも撃てるっちゃあ撃てるよ。撃とうか。」
「まだだ。お前もわかるだろ、こういうのは忍耐だ。」
「オーケーだ
双眼鏡を使って両陣営の戦いを凝視するスーツ姿の男と、モシン・ナガンのスコープに目を押し当てたまま石像のように動かない小柄な少女は、ただひたすら、決着が付くのを待っていた。
一体どれ程の時が経っただろうか。突如としてクロウは足がもつれ、その場に倒れ伏してしまった。それと同時に、セイバーも満身創痍の状態でクロウの隣に転がり込んで来た。
「本気出すとか言ってなかったか、セイバー?」
「本気は出している。先程奴めがフランス語を読んでいるのを見た。……つまり。」
「なるほどね、あちらさんはホームグラウンドってわけだ。」
サーヴァントは自身の出身地や自身が偉業を成し遂げた地に居ると、能力が向上する場合がある。敵のサーヴァントがフランスに縁深い人物であるならば、今のセイバーとクロウにはやや状況が不利ということになる。
「それにしてもマスター、一体どうしたのだ、あのような小娘一人に。」
「多分毒だな。あのナイフ、毒が仕込まれている可能性が高い……。」
そう言ってゾーエの方を見ると、ゾーエはにかっと笑ってサムズアップをして見せた。隣のサーヴァントも息は荒いがセイバーほど傷が目立っているわけでもない。
「まったく、世話の焼けるマスターだな。」
溜息交じりにそう呟き、セイバーがクロウの身体にそっと触れる。温かみのある色の光がクロウを包み込み、クロウはまた立ち上がれるようになった。
「――仕方ない、セイバー。」
観念したように漏らし、セイバーの手を取って彼女を立ち上がらせるクロウ。次に言った一言は、終始笑顔だったゾーエの表情筋に緊張を与えた。
「宝具の使用を許可する。」
「その言葉、今か今かと待ち遠しみにしていたぞッ!!」
その瞬間、セイバーが手にしていた武器の周囲に荒れ狂っていた突風が吹き止み、その姿が露わになった。それは、鈍い黒色を基調とした、長大な両刃の剣であった。そして、その剣から黄金と漆黒が入り混じった光が迸り、その剣身に光が収束していく。
そして、セイバーはその両足を大きく開き、大上段に剣を構え、目を閉じると、その真名を解放すべく詠唱を始めた。
「――我が身は彼の地にて民を導く遍くの王の守護者……。民草の心、これにあり! 味わうが良い――!」
その詠唱が始まるや否や、ゾーエは緊迫しきった声音でサーヴァントに命令を飛ばした。
「ライダー! 撤退するよ! 早く!!」
『ライダー』と称された鳶色の髪のサーヴァントは、どこからともなく栗毛の騎馬を呼び出すと、素早く跨り、ゾーエを後ろに乗せてその場から退却を始めた。
しかし、二人がその場を離れようとした瞬間、セイバーの宝具は振り下ろされようとしていた。
「『
輝けるその剣こそは、過去・現在・未来を通じ、民の幸福を願う全ての王達が、今際の際にその瞳に宿す一陣の飛影――『加護』という名の祝福の結晶。 その意思を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し。今、王を守護る王の身を持つ黒鴉は高らかに、 手に執る奇跡の真名を謳う。
其は――。
そして、ゾーエとライダー目掛け、神造兵器の膨大すぎる魔力が射出された。