真名:???
性別:男性
筋力:C+ 耐久:A 敏捷:B+ 幸運:A++ 魔力:E 宝具:D+
スキル:対魔力D、心眼(真)B、戦闘続行A+、狂化EXなど
宝具:『???』
その日、少年は運命を違えた -壱
クロウが気が付くと、目の前には何の変哲もない豚の生姜焼き定食があった。左を見れば、大きな窓ガラスの向こうには高速道路、ジオラマのような街並みと遠景には富士山が見える。
そして。
「クロウ? いかがされましたか?」
聞きなれた声。それなのに、クロウには違和感しか感じることのできない語調。クロウが正面に視線を移すと、そこには金髪碧眼の小柄な少女が座して山盛りの白米を口に運んでいた。
「寝不足ですか? 戦闘に支障をきたす恐れもあるでしょうし、睡眠と休息は十分に取ってください。」
そのリボンは、見慣れた黒色ではなく。
「セイ……バー……?」
「はい、何ですか、クロウ?」
ユニオンジャックのような、蒼色だった。
「まだ寝惚けているのですか?」
何かがおかしい。しきりに頭を抱えるクロウは、市内を調査する『セイバー』に半歩後ろを随伴されながら歩いていた。セイバーはそんなクロウを心配するようにその額に手を当て、高熱が出ていないことを確認し、また背筋を伸ばしてクロウの半歩後ろに戻る。
「この街にバーサーカーがいるとウォッチャーに助言をもらって早三日……。どうやらバーサーカー達は隠れることが得意なようですね。」
「ウォッチャー……そうだ、ウォッチャーだ!」
「クロウ?」
何も理解できない頭脳でも、『ウォッチャーならば』という期待だけは確かな確信として揺るがなかった。ウォッチャーというクラスの性質上、今この瞬間にあっても自分たちを見ているはずだ。
果たして。
「拙僧めを呼びましたかな?」
何を考えているかわからない微笑を湛えた中性的なサーヴァントは、音もなくクロウの右隣に着地した。セイバーの表情に一瞬緊張が走るが、ウォッチャーであることを確認すると握り拳だけは緩めずにクロウの前に静かに進み出る。
「セイバー、少しウォッチャーとふたりだけで話したいんだ。外してくれるか。」
「……仕方ありませんね。」
ウォッチャーとクロウがすぐそばにあった小さな公園に入っていくと、セイバーはその公園の入り口の前で静かに姿勢を正して待機した。それを確認しクロウはブランコに腰かけてウォッチャーに語り掛ける。
「ウォッチャー、朝から変にモヤモヤするんだ。何かこう……世界の中で俺だけが孤立しているみたいな感覚なんだ。これまでずっと相棒だったはずのセイバーにすら違和感を感じる。俺のセイバーはもっと……あれ?」
「ふふふ。然様に御座いましょうなぁ、如何せん貴方様は
「はっ……?」
次の瞬間、ウォッチャーの小さな両手がクロウのこめかみを捉えると同時に、クロウの脳内に様々な光景と音声が濁流の如く雪崩れ込んできた。
烏羽のセイバー、アインツベルンの少女、黒霧のバーサーカー、赤毛の男、小柄なアサシン。暗転する世界、天地と肉体の喪失、薄れゆく記憶、掴めなかった手、銃口、死。『すべては、兄ちゃん次第だぜ』――。
「クロウ!」
気が付いたとき、セイバーがクロウの目の前でウォッチャーに対して臨戦態勢を取っていた。
「いいんだセイバー、俺は大丈夫だ。もう少しだけ……。」
そうクロウが伝えると、セイバーは心配と不服の入り混じった表情でまた公園の外へと歩み去っていく。それを見てから、クロウは再度ウォッチャーに尋ねる。
「つまり……つまり俺は、向こうの世界の記憶を持ったままこっちに来た……ってことか?」
「然様に御座いまする。アサシン殿が世界蘇生の瞬間に貴方様を殺害した故、貴方様は世界蘇生と同時に蘇生なさいました。其れ即ち、貴方様は此の世界に措ける『特異点』と化したので御座います。無論、ウォッチャーである拙僧めも特異点のひとつに御座いますがね。併し乍ら拙僧めはウォッチャー。聖杯戦争に直截干渉する事は許されておりませぬ故、アサシン殿は不死性を持ち得る貴方様を選びなさったので御座いましょうな。」
「セイバーは……
「えぇ、貴方様の世界では然様に御座います。ですが此方の世界においては、第五次聖杯戦争の直後、セイバー殿は契約満了によりカムランに帰還なさっておりまする。勿論、現在時計塔には勝者お二人しか在籍しておりませぬ。ですが――。」
ウォッチャーはクロウの胸に手を当て、意地悪気に微笑む。
「
「……本当に、お前には隠し事は通用しないんだな。」
その言葉に、ウォッチャーはにこりと笑ってみせた。そんなウォッチャーにクロウはさらに問いかける。
「それじゃあ……元の世界に戻る、ないし元の世界に戻すために必要なことは何か、わかるか?」
「無論。」
「ほ、本当か!? 教えてもらっても――。」
「お断り致しまする。」
満面の笑みのまま、ウォッチャーはクロウの発言を遮り、きっぱりと断言する。当惑するクロウに対し、笑顔を崩さずに何度も彼に対し伝えてきた『ルール』を述べる。
「其の術をお教えすらば、拙僧めは『聖杯戦争の根幹に直截干渉してはならない』と云う
「そう……か。いや、わかった。記憶を思い出させてくれてありがとうな、ウォッチャー。」
「滅相も御座いませぬ。あぁ、最後に、ひとつだけ――。」
その言葉を伝え終えると、ひとつ深々とお辞儀をし、ウォッチャーは突風と共にその場から消え去ってしまった。
それは、クロウの姿勢を再び硬直させるだけの衝撃を持っていた。
「この世界に、アルトリア・ペンドラゴン[レイヴン]など云った霊基は
その夜、拠点にしているホテルの車寄せ前でセイバーに事情を説明すると、にわかには信じられないと言ったような態度を見せつつも、素直にクロウの説明を受け入れた。
「……シロウに鞘を?」
「あぁ。本当は円卓の騎士の誰かでも来れば万々歳と思って貸してもらったんだけどな。」
「よく彼が貸し出しましたね。」
セイバーの驚きはもっともだった。クロウ本人ですら本当に貸してもらえるとは思っていなかったのだから。たまたま見学に訪れた時計塔で同じ日本人の青年を見かけ、声をかけたところからクロウと『彼』の交友は始まった。
聖杯戦争が始まるとなった時、クロウは冗談交じりで『彼』に相談を持ち掛けたのだ。『彼』の持つ聖剣の鞘を一度貸してはくれないかと。『彼』は少し考えてから、それを承諾した。
『今の俺にこれはいらないさ。もちろん、不要って意味じゃない。これは俺とセイバーの絆の証なんだからな。でも、この鞘が次の絆の苗木になってくれるって言うのなら……。俺は迷わずこれをアンタに貸すよ。あ、全部終わったらちゃんと返せよ!?』
「全部終わったら……か。」
全部終わったその時、クロウの命が残っている保証はどこにもない。それだというのに『彼』は返しに来いと言った。簡単に人を信じるその甘さと優しさこそが、回り回って彼を勝者たらしめたのかもしれない。
「でも、これは元々セイバーのもんだろ? お前に返すべきなんじゃないのか?」
「いいえ、それには及びませんよ。」
セイバーはそう言って微笑む。
「私が剣を持ち、彼が鞘を持っている。その事実こそが重要なのです。その繋がりがある限り、私たちの絆はより強固に、不変の物となる。だから、私はこのままで構いません。クロウが全ての終わりの後にシロウに返却するというのであれば、私は何も言いません。」
確かな信頼。『彼』とセイバーの間に強く結ばれた絆の糸を感じるうち、クロウの心の中にひとりの少女の背中がぼやけて浮かんだ。チョコレートを何より愛し、騎士道精神に則ったうえで背後から殴りかかるような泥臭い戦法を好む血に飢えた黒鴉。
「セイバー……。」
「どうしました、クロウ?」
その呼称に、セイバーは律義に反応する。この世界の
「よぉ! よぉよぉよぉ! そこの日本人! ってここ日本だから日本人たくさんいるか!! つかオレも日本人だったわ!! カッハハァ!!!」
場違いな濃緑色の軍服を身に纏ったその戦士は、三日月形に吊り上げた口の端から生命が吐くべきでない深紅の息を絶え間なく漏らし、肩に担いだ日本刀で身体をトントンと叩きながらクロウとセイバーを見据えていた。その口から上は目深に被られた軍帽でよく見えない。
「……見るからに日本兵だな……。あれが件のバーサーカーか?」
「ということはかなり近代のサーヴァントでしょうか。クロウ、指示を。」
「コスプレって可能性は……まぁないよなぁ。話し合いができそうな感じもしねぇし。うん、出方次第だ。迎撃態勢で頼むぜ。」
「わかりました。クロウは安全確保のため、下がっていてください。」
だがクロウがセイバーの忠告通り後ろへ下がろうとした時には既に、軍服のサーヴァントはセイバーの懐まで迫っていた。
戦闘形態へ変身し、クロウを庇うように素早く彼の前へ出たセイバーの瞳に映ったのは、灼熱の炎だった。否、それは爆炎であった。網膜を焦がす勢いで伸びる炎の魔の手から間一髪逃れ黒煙を斬り払ってその先を見れば、地には先程まで軍服のサーヴァントが被っていたであろう軍帽が転げ落ちていた。
その軍帽を力強く踏みにじり、軍服のサーヴァントは甲高い笑い声をあげながらセイバーを称賛する。
「カッハハハァ!!! お前疾ぇなぁ!! 歯ごたえありそうだなぁ!! お前は『得点』高そうだなぁ!!!」
その頭蓋の鼻から上部は見るも無惨に焼け焦げてパーツの判別もできないほど黒一色に塗り潰されており、煤黒く焼け落ちた眼窩には、妖魔か悪鬼の如く赫灼爛々と燃え上がる深紅の炎がふたつ、浮かび上がっているだけであった。
「なぁお前! お前の名を教えろよ、女ぁ!!」
セイバーはクロウの方を一瞥し、彼が頷くのを確認すると、軍服のサーヴァントに自らの真名を明かした。
「……我が名はセイバー、アルトリア・ペンドラゴン。聖剣の担い手だ。」
「そうかぁ!! オレはなぁ――!」
軍服のサーヴァントが口にした名は、セイバーには到底聞き取ることはできなかった。まるで数千、数万の人間の姓名を同時に発言したかのように混沌としたその真名を言い終えると、またはっきりとした言語で自身のクラスを明言する。
「――バーサーカーさぁ。」
そして、軍服のサーヴァント――バーサーカーは、ポケットから取り出した手榴弾の安全ピンを勢いよくその牙で引き抜いた。