真名:アルトリア・ペンドラゴン
性別:女性
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:A+ 宝具A++
スキル:対魔力A、直感A、騎乗B、魔力放出A、カリスマB
宝具:『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
→人々の願いと希望の想念を元に地球が生み出した神造兵器。最強にして最後の幻想。放たれる一撃は究極の斬撃。世界を救う戦いにおいてその真価を発揮する。
すべての運命がゼロから生まれ変わった世界の片隅で、ひとりの医学者が憎しみに吼えていた。
「私が望んだ世界は……こんなはずじゃあなかった!! 死そのものも、死への恐怖も、それに起因する人類の醜さも!! すべてが綺麗サッパリ消え失せて無くなる極楽浄土をこそ私は願っていたというのに!! 彼の特異性が死の概念の証明になってしまった!! 彼が呪われた血を持ったまま『こちら側の世界』に来てしまったがために、『こちら側の世界』でも私の悲願は終ぞ叶わなくなってしまった!!!」
その傍らで首のもげたぬいぐるみを抱く金髪の童女は蔑むかのように鼻で笑い、医学者に励ましの言葉をかける。
「ならば再度世界をやり直せば良いだろう。何度でもやり直せば良い。貴様は一度の失敗や挫折で野望を折るほど執念の浅い人間ではないだろう?」
その言葉に、医学者も不気味にニヤリと笑って見せた。
「えぇ――えぇ、勿論ですとも、キャスター。何度だって輪廻を巡らせましょう! 私はロバート・コーニッシュ。神の力を手に入れる者ですからねェ!! ふふ、ふふふふ、アーーーッハハハハッ!!!」
高らかなコーニッシュの哄笑は、狂気も正気も一緒くたに飲み込まんと広がる夜空に吸い込まれていった。
バーサーカーの宝具、『
「バーサーカー! お前はどうして今も戦い続けるんだ! 何を聖杯に望むんだ!? お前は戦争が嫌いじゃないのか!」
「嫌いだよ小僧!!」
仁王立ちのまま微動だにもせず、バーサーカーは笑って答えた。
「けどオレは銃を持って戦場の土を踏んじまったのさ!! その時点で好きも嫌いもねぇ。あるのは護るべき正義と、倒すべき仇だけ!! 全部が終わって、自分の身に残る肩書も『大戦争の凱旋者』、『殉国の英雄たちの生き証人』、『地獄からの生還者』!!」
いつのまにか足下に落ちていた軍帽を緩慢に拾い上げ、瞼も燃え尽きた頭蓋骨にしっかりと被せるバーサーカー。
「もう――刻まれちまってるんだよ。人の記憶には、百年消えねぇ傷痕がよォ!!! その痕跡が完全に潰えねぇ限りは、この霊基に蓄積された千二百の慙愧と切願は何度だって『戦争』のために魔力を廻し続ける!!」
「……今は、己が護らんとするものの主張こそが正義であると?」
セイバーの質問には愚問であると吐き捨てる。
「オレたちゃそうやって死んだんだ。何も変わらねェよ。」
「……傷つく人を、見たくない。」
目を閉じ、かつて共に聖杯を追い求めた少年の志を口にするセイバーの声に応じ、クロウも手元に刺さっていた銃剣を引き抜いた。
「できるものならば、苦しむ人々総てを救えないものか。」
「カハッ!! そいつァ無理だ。んな馬鹿げた大義は、魂を摩耗させるだけだぜ。」
「自分より他人のことが大事だなんてことは、偽善だとわかっている。それでも。」
バーサーカーはそこでようやく、その言葉がセイバーの心の奥から漏れる物ではなく、セイバーの心を通してどこかから聞こえてくる誰かの声であると気付いた。
「それでも、そう生きられたのなら。どんなに良いかと憧れた。……貴方は負けた。『愚かだ』と引き返してしまった!」
刹那。セイバーが前に飛び出すのと同時に、バーサーカーの傍らに刺さっていた滑腔砲の砲口が宙を舞い、セイバーの顔面にその口腔を向けた。
「貴方は自らを捻じ伏せてでも己の正義を信じることはせず、自らを縛る鎖に正義を見出して引き金を引いた! 戦いが終わり、引き返す道などとうに失くなった現状……。貴方は、貴方自身を『間違えてなどいなかった』と、胸を張って笑えるか?」
「カハハハッ!! おもしれぇ、そいつぁどこの誰のセリフだ?」
直後、セイバーが突っ込んでくる方向へ向けて砲撃が放たれる。炸裂した硝煙を斬り払って滑るようにバーサーカーの懐へと飛び込んだセイバーが真一文字に振るった幻想の嵐が、確実にバーサーカーの頸を捉えた。
しかし、稚児が蹴り飛ばした小石のように放物線を描いて離れた場所に頭部がごとりと零れ落ちても、バーサーカーの四肢は動き続けていた。その一瞬の不意を突き、セイバーの肩口に日本刀が突き刺さる。
「ぐぁっ!」
「おいおい女ァ、曲がりなりにもこいつァオレの宝具の中だぜ? そう簡単にオレが死ぬかよ。」
遠く離れた場所に転がる首がニィッと笑い、そう口にする。
「なら、銃も握れねぇくらいにバラバラにしてやりゃいいんだな!?」
いつの間にかバーサーカーの背後に回っていたクロウが、そう吐き捨てながら補強した銃剣を薙ぎ払ってバーサーカーの両脚を膝から斬り落とす。
が、しかし。
「なッ――!?」
「言ってんだろォが小僧! オレぁそう簡単に死なねェよ!!」
斬り捨てられた両脚が持ち主の身から遠く離れた場所に転がるのと同時に、膝から深紅の炎が噴き出し、獣の脚のような形を模って固着すると、そのまま体勢を低くしていたクロウの鼻頭を蹴り飛ばした。
「そう簡単に死ななかったからこそ! オレはオレたちの姿を後世に記し残すことができたんだ!! オレの宝具は、オレたちの正義と願いの具現!! 過去に囚われた怨霊たちの、未来へ繋ぐ『可能性』だッ!!!」
バーサーカーのその言葉と共に、セイバーとクロウを襲う弾幕の激しさが増大する。攻撃される方向もバーサーカーが立っていた場所からではなく、辺り一面から囲い込まれるように斉射が始まった。
「ぐっ、うぁ――ッ!」
未来予知にも近い直感スキルを持つサーヴァントであるセイバーならばともかく、生身の人間であるクロウにはその集中砲火は耐え難く、一発につき一度死を迎えるほどに蜂の巣にされ続けた。
「クロウ!」
駆け寄ろうとするセイバーを制止し、クロウは自らの令呪を用いて肉体と命の耐久度を限界まで高め、その炎の暴風雨を耐え抜く。
「苦しむ人々総てを救いてェってのは、いずれその大馬鹿野郎の魂を喰らい尽くす無謀な願いだぜ。だが……そうだな。悪くねェ!! カッハハ、オレだってそう言って死にたかったぜェ!!!」
先程帽子を拾い上げた時と同じように自らの頭部を持ち上げ、首の切断面に乱暴につなげると、接合部から炎が広がり、首と胴体は完全に元通りになる。その表情に悲壮感はなく、とても晴れ晴れとしていた。
「オレはなァ、小僧!! ――嬉しいんだよ。」
そうバーサーカーは口にするが、その攻撃は留まることを知らなかった。バーサーカーは言葉を続ける。
「今まで何人も何人も日本人のマスター共と戦ってきたが……どいつもこいつも、自分の事しか考えてなかった。お前もそうなのか? 小僧。お前も『根源』とやらだとか、『一族の悲願』だとかのために戦ってんのか? 違うだろォ。お前の目はそんな目じゃねェ。」
その問いかけに、クロウはバーサーカーのように唇を三日月形に歪め、おもむろに立ち上がった。それを見たセイバーも魔力を爆発的に放出することで銃弾や砲撃はおろか、銃や滑腔砲までも破壊して無力化する。
「――そりゃお前の見当違いさ、バーサーカー。俺だって一族の悲願のために戦ってた。そう……
そう叫んでクロウは羽織っていたパーカーの裏側に設けられたポケットの補強魔術を解除し、その中からある物を取り出して頭上高く掲げて見せた。それは、かつてクロウがまだ幼かった頃。見ず知らずの金髪碧眼の女性に譲り受けた物だった。聖剣の鞘と同時にそれが触媒となったからこそ、クロウは『彼女』に再び出会うことができた。
「俺は世界を元に戻さなきゃならねぇ……! 礼のひとつも言ってねぇってのに、永久にアイツとお別れなんて、そんなの納得できるわけねぇだろうが!! 俺が戦うのは、この世界を変えるためだ!!」
赤黒いリボンを握り締め、クロウはそう高々と宣言してみせた。
「そうだぜ、そうだろうよォ!!! カッハハハァ!! オレの見立ては間違ってなかったなァ!!? 嗚呼、嗚呼!! それでいい、それがいい!! それでこそ、ここまであのクソマスターに従ってきた意味があったってモンだぜェ!!!!」
身体中穴だらけ、血塗れで一歩踏み出すにも激痛が奔る肉体で、クロウは前へと駆け出す。手にした銃剣を再度補強し、バーサーカーが乱射してくる銃弾にも挫けず、その心臓めがけて猛進する。
「オレぁなァ!! 未来を生きようとするヤツが見たかった! オレたちが命懸けで作り上げた日の本の土を踏んで、必死で明日を生きて、必死で世界に立ち向かおうとするヤツと戦いたかった!! 今、オレの……オレたちの願いは成就された! ク……カハッ、カァッハハハハアァ!!?」
クロウがバーサーカーの左胸に銃剣を突き刺すと、顔にぽたりと水滴が落ちてきた。見れば、バーサーカーの焔が宿る虚無で満たされた眼窩からは、人肌程度に温もりを持った涙がこぼれ落ちていた。
「嗚呼、もう――それでいい。この世界は、この国は――! オレたちの願うままに平和になってくれた……! それで……いい! オレたちの正義が、オレたちの意志で否定された!」
バーサーカーが流す大粒の涙は、荒れ果てた丘の赤土に滲み込んでいき、その場所から深紅色の花弁を持ったカンナの花が次々に乱れ咲き始めた。
「行け小僧、オレたちの屍を踏み越えて、未来をその手で掴み取れ!!」
「――セイバアアァッ!!!」
「ええ、わかっています!」
次の瞬間、セイバーの両手から嵐が消え去る。そこに煌めく聖剣が輝きを増し、突き伸びていく光の刃が荒野を覆い隠していた黒雲を貫くと、蒼穹が顔を覗かせた。晴れていく天蓋から漏れる陽光が荒れ野を照らすと、日の光を浴びた小銃や刀が次々と色とりどりの花々へと姿を変えていき、その土壌も若葉のように鮮やかに色づいていく。
そして、結界全体が晴れ渡る花畑へと完全に姿を変えるのと同時に、セイバーはその真名を高らかに叫び、手に取る幻想をバーサーカーとクロウ目掛けて振り下ろした。
「『
縮小して崩壊していく結界の中で、再びクロウは目を覚ます。目の前には一個の手榴弾が転がり落ちていた。だがその手榴弾にはピンが存在せず、不発のままに終わっている。それを手に取ると、クロウの頭の中にバーサーカーの声が響いた。
『そいつァオレたちからの選別さ、小僧。いざって時に使えや。真名も触った時にわかっただろ? あぁ、最後に――。』
ふと気が付くと、周囲には野次馬の波ができており、どこからかサイレンの音も近付きつつあった。
「セイバー、行こう!」
「はい、クロウ。」
遠くにそびえる富士山に向かって、クロウとセイバーは走り出す。
『ありがとな、小僧。』
道中、しきりにクロウはバーサーカーの満足そうな優しい声を思い返しているのだった。