真名:???
性別:女性
筋力:C+ 耐久:D+ 敏捷:B 幸運:D 魔力:B 宝具:A+
スキル:対魔力D、心眼(真)C+、騎乗A+、陣地作成A+など
宝具:『???』
イギリスはロンドン、テムズ川の畔に聳え立つ時計塔の下で、黒髪を束ねたアジア顔の少女がぼんやりとウェストミンスターブリッジを行き交う人々を眺めていた。
「遠坂。」
そこへ、またひとりの青年が歩み寄ってくる。こちらもアジア顔で、つんつんと逆立った赤毛を風に揺らしながら笑顔で手を振るその青年は、少女の元までやってくると皮肉を口にした。
「どうしたんだ、柄にもなくぼんやりして。」
「あら、落ち着きのないヒステリックさんで悪かったわね?」
「何もそんなこと言ってないじゃないか……。」
少女は青年が手に持っていた缶コーヒーをひったくると、それを勢いよく呷り、すべて飲み干してしまった。不満げな顔で唇を尖らせる青年に、少女は真面目な顔で心中を語る。
「玖郎くん。今日来るんでしょ? ――少し嫌な予感がするのよ。」
「なんでさ。玖郎は良い奴だと思うぞ?」
「彼の人格について言ってるんじゃないわよ。そうね……。彼と一緒に良くないモノが舞い込んできそうな、そんな予感よ。」
「そうかぁ?」
「あんたね……セイバーに久しぶりに会えるからって、浮かれてるんじゃないわよ? 一応あの子は今聖杯戦争に参加するれっきとしたマスターなんだから。そんな彼が『助力を乞いたい』だなんて、ただ事じゃないに決まってるでしょ。」
そんなことを言い合う二人の頭上を巨大な鉄鋼の塊がゆっくりと飛来していくのを認識できたのは、今その場にいた人間の中にも一握りしかいなかっただろう。もちろん、当該二人も気付くことすらなかった。
クロウとセイバーはその日、時計塔内にて現代魔術科に属する教室のひとつである『エルメロイ教室』にてひとりの魔術師とひとりの魔術使いに面会していた。
はじまりの御三家が一家、遠坂の現当主、『遠坂凛』及びその弟子の『衛宮士郎』。日本は冬木の地で数年前に終結した第五次聖杯戦争において勝利を収めた二人の元マスターの前で、クロウはがちがちに緊張しきっていた。
「そんなに固まらなくていいわよ玖郎くん。久しぶりね。セイバーも久しぶり。」
「ええ、お久しぶりです、リン、シロウ。」
いつになく柔和な表情を浮かべるセイバーは机の上に腰かける凛と握手を交わし、隣に座る士郎にはひとつお辞儀をして挨拶をする。
「セイバー、玖郎に迷惑かけてないだろうな。」
「さぁ、どうでしょうか。」
「まぁセイバーが人に迷惑をかけるなんてことはしないか……。」
「はい、ご存知の通りです。シロウこそ、リンの手を焼かせているのではありませんか?」
「ほんっと! 聞いてよセイバー、こいつったらね――!」
「遠坂! 今は玖郎の話を聞くんだろ!」
士郎の諫言で背筋を直立させたまま不動を貫く目の前のクロウのことを思い出すと、凛はひとつ咳払いをして姿勢を直す。
「それで? 玖郎くん、今回は改まってどうしたの?」
「それが……ですね。」
クロウはそこで言葉を濁らせる。今から彼が発する質問は、聞く人が聞けばクロウを狂人と断定してもおかしくないような内容だからだ。しかしクロウは短く息を吐き、隣で微笑みながら頷くセイバーの顔を見、二人を信じて問いかけた。
「――この世界が、本当は別の姿を持った時空が何者かの手によって歪まされてしまった末に変貌した『あってはならない世界』だと言ったら……信じますか?」
「信じないわよ。」
しかし、即座に凛によってそれは一蹴されてしまう。
「信じられるわけないじゃない。そりゃあ、もちろん剪定事象だとか別の時空と世界だとか、そういうことが魔術的に観測されていることは事実だし認めるわ。でも実際に『今お前がいる世界は偽りで、本当は正しい世界がどこかにある』だなんて唐突に言われて、あなたは受け入れられる?」
「それは……。」
俯くクロウに、凛はでも、と言葉を続ける。
「私も衛宮くんも認めた魔術使いに育ったあなたが、わざわざもう一度私たちのところまで助けを求めに来たんだもの。頭から拒む理由はないわ。続けて頂戴。」
「リンさん……!」
「感謝します、リン。」
少し頬を赤らめ、さっさとしろと言わんばかりに手を振る凛に、クロウは改めて姿勢を正し、話を続けた。
「俺は確かに餓叢玖郎です。けど、お二人が知っている餓叢玖郎とは少し違う人間でもあります。」
「どういうことだ?」
クロウは一度瞼を閉じ、話すべきことを整理して再度口を開く。
「この世界は、何者かの手によって生まれ変わってしまった歪んだ世界です。」
「随分と主観的に言い切ってくれるわね。あまり良い気分しないわ。」
「……ごめんなさい。でも、確かに俺は世界蘇生……そうウォッチャーが称した瞬間に立ち会い、そしてある一騎のサーヴァントによって未来を託されてここにいるんです。」
漠然としたその説明に、凛は肘を机につき額を指でトントンと叩きながら視線を伏せる。それからまたクロウの目を見て腕組みをすると、冷たく吐き捨てる。
「いい? 玖郎くん。この世界にだって、始まりがあって今がある。誰が否定していい物でもないし、何が間違っているわけでもないの。その世界にあって仮に本当に『歪む前』を知っていて、そしてこの世界を『歪んでいる』と断じてそれを正そうと行動しているのなら、あなたはこの世界の誰にとっても『悪』であり『敵』なのよ。」
凛の言葉に、クロウは唇を真一文字に結び、膝の上の拳をぎゅっと握り締める。
「……それでも。」
「そう。いいわ、合格よ。そういうことなら、私もあなたの言葉を信じることにしましょう。」
真っ直ぐに自身を見つめるクロウに対しそう言って優しく微笑むと、凛は続けてクロウに問う。
「それで? 何か具体的な世界を直す方法は見つかっているの?」
「それが皆目見当もつかないので、リンさんとシロウさんに何かアドバイスを頂けたらなと思いまして。」
「張本人の玖郎がわかってないのに俺たちから言えることなんてそうあるわけがないだろ……。」
「……玖郎くん、今の命の聖杯戦争の情勢はわかってる?」
「いえ、現状聖杯戦争が始まってどれぐらい経つのか、そして何組のマスターとサーヴァントが生存しているのかも把握できていません。」
「そういうことなら私たちよりも適任の子がいるわ。少し待っていてちょうだい。」
そう言い残して席を立つと、凛は士郎とセイバー、クロウをその場に残して階段教室から出て行ってしまった。
それからしばらくの後、士郎と談笑するセイバーを横目に外界の夕焼けを眺めていたクロウの元に、凛が再び教室に入ってきた。その背後にはひとりの宝石のようにキラキラと輝く金髪を持った少女が随伴しており、さらにその少女の隣にも黒髪に黒いパーカーを着た少女と同じくらいの身長の青年が立っていた。
クロウにはその少女に見覚えがあった。歪む前の世界のパリの街でクロウと『セイバー』に襲い掛かってきたライダーのマスター、すなわち。
「ゾーエ!?」
「うわっ! えっ、私を知ってるの?」
「あっ、その……すまん。」
その様子を見た凛は「ふーん」と澄ましながら、ゾーエにクロウを紹介する。
「クロウって言うの? 私はゾーエ・モクレール、セイバーのマスターだよ! ほらセイバー、挨拶して?」
「……サーヴァント、セイバー。真名を『ダルタニャン』。よろしく頼む。」
それを受けて、クロウとセイバーもその場で立ち上がって自己紹介をした。
「クロウ・ウエムラだ。こっちは相棒のセイバー。」
「セイバー、『アルトリア・ペンドラゴン』。以後お見知りおきを、勇猛の銃士。」
「よしてくれ……私に勇猛などという形容詞は相応しくない。」
長い前髪の中で虚ろな火を宿す瞳を閉じ、ダルタニャンは首を振ってセイバーが呼んだ二つ名を否定する。
「サーヴァントを召喚したはいいものの、シャルルに戦う意欲がまったく無くってさ。聖杯戦争にはほとんど参加してないんだ。」
ダルタニャンのことを『シャルル』と呼び、そう困ったように笑うゾーエはクロウの座っていた席まで歩み寄る。そしてクロウの正面の席に腰かけ、クロウを見上げながらクロウが知りたかったことについて語りだした。
「リンさんから話は聞いたよ。ワケあって聖杯戦争に関する記憶だけがないんだよね。今は命の聖杯戦争が始まってもう一年が経とうとしているところ。生き残っているサーヴァントも数は減ってきてると言われているよ。でも多分まだ四十騎以上は残ってるんじゃないかな……。」
「……ゾーエ、勢力関係についてを。」
ダルタニャンの助言を受け、ゾーエは思い出したように手を打ち、それについても笑顔で解説をする。
「そうそう! 今一番強力なのはアインツベルンが率いるチームでね、何組ものマスターとサーヴァントが同盟関係を築いて他の陣営を潰そうとしてるんだけど、これに対抗するために『リグセンルール』って一族がチームを結成してね、アインツベルンとリグセンルールで大激突してるんだ!」
「……ゾーエ、『グランツ・レルヒェ』を。」
「あっはは……度々ごめんね、ありがとうシャルル!」
ダルタニャンに感謝の言葉をかけると、ゾーエはその『グランツ・レルヒェ』についても話す。
夜も更け、宿泊しているホテルに戻る道すがら。クロウは突如鋭い忠告の声を上げたセイバーに手で進路を遮られ、立ち止まった。
「クロウ! ……誰かいます。」
確かに、クロウとセイバーから少し離れた路上にふたつの人影があった。その人影が街灯の下まで近付いてくると、その全貌が顕わになる。
ひとりはドイツ風の軍服と軍帽を被った長身の女性。もうひとりはオレンジ色のショートカットヘアを持った小柄な少女だった。その姿を見たクロウの脳裏に、先程のゾーエの説明が浮かんだ。
『……正直、「グランツ・レルヒェ」についてわかっていることはほとんどないんだ。
警戒に硬直するクロウに対し、ドイツ軍服を着た女性が声をかける。
「問おう! 君がクロウ・ウエムラかな?」
「……確かにそうだが、何だ?」
「フフ……では君を試すこととしよう。我々とて矮弱なる者を最高戦力として迎えるのには些か抵抗を覚えるものでな。」
「何を……。」
女性が軍靴をアスファルトに叩き付けて澄んだ音を響かせると、クロウとセイバーの頭上で重く低い駆動音が轟いた。鯨の鳴き声のようなそれの正体を見上げれば、遥か上空に巨大な鉄の船舶が浮かんでいるのが見えた。
「――行くぞ、『
直後、鉄の船舶の船底で蒼色の光が閃いた。