真名:ダルタニャン?
性別:男性
筋力:A 耐久:B+ 敏捷:A 幸運:B 魔力:B+ 宝具:A
スキル:対魔力B、騎乗C、直感C+、心眼(真)B+、無辜の怪物D+など
宝具:『???』
「あなたはいいの?」
次の日の夕方、唐突に凛に問われたゾーエは、困ったような笑顔を浮かべる。
「私もあんまり人殺しは好きじゃないですし……シャルルにも戦闘意欲がないって言うのなら、戦争に参加する理由はないですよ。」
「ふうん。ま、あなたがそれでいいなら私も何も言わないけど。でもあなただって叶えたい夢があって聖杯戦争に参加したんじゃないの?」
ゾーエは俯いて口ごもってしまう。隣で居眠りをするダルタニャンをちらりと瞥し、再び口を開く。
「……先輩はどうして、冬木の聖杯戦争に参加したんですか?」
「ん? う~ん、願望がなかったって言えば嘘になるけど。でも特に壮大な目的があって戦ってたわけでもなかったわね。」
「どういう……ことですか?」
ゾーエの問いに、凛はニカッと笑って答えた。
「――そこに敵がいるから、よ!」
強烈なデジャヴに襲われ、ゾーエは激痛に頭を抱えてしまう。
「ゾーエ!?」
凛が机に突っ伏したゾーエに駆け寄ると、いつの間にか目を覚ましていたダルタニャンが凛に問いかけた。
「……センパイ、あんた昨日今日とたまに頭痛に襲われないか。」
「えっ? えぇ……ちょうど昨日あたりから。玖郎くんと会った時から度々ね。」
「恐らく……ゾーエにも同じ現象が起きている。シロウさんが私たちに話してくれたことが本当なら……あのクロウ青年と接した
「衛宮くんの奴……っ!」
どうにも理解しがたい曖昧な解説を口にするダルタニャンに、しかし凛は当惑しながらも「なるほどね」とこぼす。
「ゾーエ、大丈夫?」
「はい、私は平気です――。」
ダルタニャンに支えられて上体を起こすと、ゾーエはリュックサックの中からペットボトル入りのミネラルウォーターを取り出して大きく呷いだ。青ざめた顔で一息つき、再び口を開く。
「先輩のその言葉……聞き覚えがあるような気がしたんです。シロウさんに聞きました。この世界の生い立ちのこと……。それがもし本当だとしたなら、この聞き覚えにも納得がいく気がします。多分以前の世界でも私は戦う理由が見つけられなくて、先輩に今の言葉をもらったことで動き出したんじゃないかなって。」
「やけに具体的な予想ね。」
「私のことですもん。どうせ自分じゃ踏ん切りも付けられない臆病者ですから……。」
そんな皮肉を言いつつ笑うゾーエだったが、その表情はすぐに決意に満ちたものへと変貌した。
「先輩、私行きます。クロウくんとはまた別のやり方で、私なりのやり方で、この世界の真実をこの目で確かめに行きます!」
「良いの? 外は敵だらけよ。あんたほどの未熟さじゃすぐに死ぬかもしれないわ。……いいえ、十中八九死ぬわよ。」
凛の忠告に、ゾーエはまっすぐダルタニャンを見つめる。ダルタニャンは肩をすくめ、やれやれといった風におもむろに席を立ち、教室の出入り口の前で立ち止まった。その対応ににっこりと笑いながら、落ちゆく陽光を受けてオレンジ色に眩く輝くブロンドヘアをなびかせ、ゾーエはダルタニャンを追い越して教室から出ていこうとする。
「敵がいれば潰すのみ、です!」
凛にただそうとだけ、言い残して。
そうと決まった途端、ゾーエは勇み足で手早く諸々の手続きを済ませて時計塔を飛び出し、フランスはパリ郊外に居城を持つ実家へと忍び込んだ。
「……ゾーエ、なぜ隠密行動を取る必要があるんだ。」
「しぃっ! うちは代々ずぅーっと
いつも通りの声量で話しかけるダルタニャンに対して唇に指を当て、小声で応じながらリュックサックの中に必要最低限の荷物を詰め込んでいくゾーエ。
「……お前は天体科には入らなかったんだな。」
「ヴォーダイムのところのキリシュタリアを見なよ! あんなの前にして『よぉし私も頑張ろう!』だなんて思えるほど私、能天気じゃないよ……。」
時計塔は天体科に属する天才魔術師の青年の名を挙げ、ゾーエは首を振る。
「それに私の起源はZoe、生命の女神に由来する【拍動】だよ?
一通り荷物をまとめ終わると、ゾーエはポケットからスマートフォンを取り出す。それを軽快に操作して耳に押し当てると、何者かと通話を始めた。
「――あ、もしもしアロー? 今どこにいるの? ヨーロッパいる? え、フランス!? パリ!? カタコンブ!? あっちょっと待ってすっっっごくラッキー! すぐ行くからそこで待ってて!」
その言葉と共にすぐさま通話を切断し、ゾーエはリュックサックを勢いよく肩に掛けると、壁に取り付けられた本棚の中から数冊を取り出し、その奥に刻まれた魔法陣に手を当てる。するとガコンと大きな音が鳴り、ゾーエの背後に据えられていた衣装箪笥が上方へとせり上がり、ガラスで覆われたケースが現れる。そのケースに掛けられた電子式のロックを解除すると、内部で滞留していた白く冷たい靄が漏れ出し、床一面に広がり始める。ゾーエはその中に腕を突っ込み、一振りの大型ナイフを取り出した。
「じゃじゃ~ん! 常温に戻ることで活性化する、魔術回路の駆動を超加速させるモクレール特性神経毒が鞘に詰まったナイフです!」
「……ゾーエ、そんなことよりも先程の物音でこちらに近付いてくる足音が一人分。」
「げっ。」
ナイフを金属製の鞘に納めると、ガチリとナイフがロックされ、鞘に装着されたカートリッジからエメラルド色の液体が鞘の中へと注入されていく。それを確認し、ゾーエはダルタニャンを引き連れて自室の窓から外へと飛び出した。
「ゾーエ!!!」
「やばい、兄貴だ!」
背後から聞こえる怒号にも負けず、ゾーエは森の中を駆ける。しかし途中から魔術で強化された猟犬が数匹迫ってきていることに気付き、ダルタニャンに自分を担いで走るよう命じた。ダルタニャンはひとつ肩をすくめると、言われた通りにゾーエを肩に担ぎ、木々の間を縫うように蛇行しながら時速二百キロ近い速度で疾走する。
「シャルル、キミ本当にセイバー!?」
「……私は学は無かったが戦闘技術は皆の中でも突出していた部類なのでな。それに私はここフランスの英霊だ。知名度の補正もあるだろう。」
「そういうこと、私一切聞かされてないよ!」
「当たり前だ。……戦闘に介入しない以上、私はゾーエのボディガードに等しい。身の上話をする理由もないだろう。」
「そもそも君が――本当に私の知る『ダルタニャン』なのかも知らないよ!」
「……。」
ゾーエのその一言に、ダルタニャンは何も返さなかった。彼が無言になることはそう珍しいことではないため、ゾーエはダルタニャンに担がれるまま、パリの第十四区へと急行するのであった。
パリ十四区、ダンフェール=ロシュロー広場の地下にそれは広がっている。六百万の遺骨が壁一面に敷き詰められた、死霊と残留思念の巣窟。カタコンブ・ド・パリ――正式名称をロシュエール・ミュニシパル。市営納骨堂と称されたその薄暗く湿った空気が漂う通路を、ゾーエとダルタニャンは観光客の合間をすり抜けて奥へ奥へと進んでいく。
「三時間も待たされるとは思わなかった……。」
「……普段ここには来ないのか。」
「小学校の史学研修で来たことはあったけど、その時は学校側で予約してたから待ち時間ゼロだったしさー。」
しきりに嵐がかるスマートフォンの画面を見つめながら、ゾーエはある壁の前に辿り着く。その頃には既に前後に観光客は一人もおらず、ルートの途中で椅子に腰かけて読書なりをしていたスタッフたちも遠く離れていた。
「ここっぽいかな……。」
そう呟くゾーエの手に握られたスマートフォンの画面はノイズによって何も見えなくなっていた。
「……スマートフォンで何かわかるのか。」
「私の携帯、悪霊とか死霊の怨念が強く影響するように改造されてるからさ、一種の魔力探知機みたいな使い方もできるんだよね。」
「……魔力を消費している人物の近くには霊が多く寄り集う……それを利用したサーヴァント及び魔術師発見器というわけか。」
ダルタニャンの予想にサムズアップで応え、ゾーエは壁に埋め込まれた無数の頭蓋骨のうちのひとつにそっと触れる。すると壁の人骨が見る見る間に内側へと溶け込んで行き、電気も松明も存在しない暗闇に包まれた通路が出現した。
「アローのやつ、趣味悪いんだから……。」
二人がその通路へと足を踏み入れると、背後で再び人骨が壁と固着し、完全に通路内が暗黒で満たされてしまった。ゾーエのスマートフォンのフラッシュライトを頼りに通路を直進していくと、やがて右に折れる突き当りに差し掛かった。ゾーエの右前を歩いていたダルタニャンがぴたりと立ち止まる。
「シャルル?」
「……誰かいる。」
確かに、右に続く通路の奥からコツンコツンとブーツの足音がこちらへと近付いてくるのが聞こえた。
「アローかな……。」
「早合点してはいけない、ゾーエ。下がって。」
ダルタニャンの剣呑な雰囲気にのまれ、ゾーエは滲む汗を袖で拭いながら後ろへ数歩下がる。それを確認したダルタニャンが右折地点へと足を踏み出した瞬間。
ガチャンと物々しい音が通路に鳴り響き、ダルタニャンが何者かに向けてマスケット銃を突きつけた。しかしそんなダルタニャンの首元にも猟銃の銃口がぴたりと押し当てられており、両者ともにその場で硬直する。
「……これはこれは。子供ながら勇敢な女性だ。」
「うふふ、狼さんこそ大きな図体を持ちながら素早い反応……流石ですね?」
ゾーエが恐る恐るダルタニャンが銃を向ける相手を見てみれば、それはゾーエよりもはるかに身長の小さな少女だった。血のように真っ赤なケープを羽織り、フードを目深に被ったその少女は、身の丈近くある巨大な猟銃を片手で持ち上げ、ダルタニャンの首筋にそれを突き付けている。
「あら、狼さんがもうひとり?」
狂気が渦巻く翡翠色の瞳でゾーエを睨んだ瞬間、もう片方の手でゾーエの眉間に猟銃を向ける。
「キミ、サーヴァント?」
ゾーエの質問に、少女はにっこりと笑って首肯する。
「はい! メイジーはバーサーカーのサーヴァントですよ!」
「……バーサーカーの割には随分と意思疎通が完璧だな……。」
しばらくそのままで三者が微動だにもせずにいると、再び右折先の通路の奥からどたどたと走る足音が聞こえ、赤いケープの少女とは別の少女の声が聞こえてきた。
「メイジー! メイジーッ! 僕様の指示もなしに独断で排除しに行くなと何度も言っただろう!」
「でもマスター、そんな調子じゃ生き残れませんよ? 目に映る狼さんは皆殺しにしないと!」
「いいから! そいつは僕様の盟友だ!」
「あら、ご友人でしたの! これはご無礼を……失礼いたしました、お兄さん、お姉さん。」
赤いケープの少女は長大なはずの猟銃を上半身を覆うケープの中に完全にしまい込むと、ゾーエとダルタニャンに対してぺこりと頭を下げた。
そこに到着し、肩で息をするのは、右目が隠れるほど伸ばした前髪をアシメバングにカットし、襟足でぴっしりと切り整えた藍色のセミショートヘアを揺らすゾーエと同じ年頃ほどの少女だった。その瞳はアメジストのような明るい紫色だ。
「あぁ……もう、久しぶりの再会が台無しじゃないかメイジー!」
「久しぶり、アロー!」
唐突にゾーエにハグされ、少女は驚いた表情になりながらもすぐに凛々しい顔に戻り、答えた。
「――あぁ、僕様こと『アロイジウス・アナスタージウス・アーレルスマイアー』! 盟友の呼び声に応じここで待っていたぞ、ゾーエ!」