Fate/GravePatron   作:和泉キョーカ

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◆アロイジウスのバーサーカー
真名:???
性別:女性
筋力:A+ 耐久:B+ 敏捷:B 幸運:A+ 魔力:A 宝具:C
スキル:狂化EX、心眼(偽)B+、戦闘続行A、獣殺しCなど
宝具:『???』


ガールズ・ミーツ・ワールド -壱

 アロイジウスは自身が改造して魔術工房として作り上げたカタコンブの一画にゾーエを案内すると、その入り口にバーサーカーを立たせ、見張っているよう命じた。

 そこは安いアパートの一室のような雰囲気になっており、そこかしこにテレキャスターやストラトキャスター、ドラムセットや巨大なスピーカーアンプなどが並んでいる。パリの納骨堂裏に設けられているとは思えない仕上がりだった。

「それで、だ。盟友。」

 アロイジウスは355ミリ缶のエナジードリンクを冷蔵庫から三本取り出し、二本をゾーエとダルタニャンの座るソファの前に置き、もう一本は自身でプルタブを開けてぐいっと喉に流し込む。

「名門の落ちこぼれ仲間である僕様に一体何の用だね。」

 その問いに、ゾーエはエナジードリンクの缶を見つめながら事情を説明した。

 

 ゾーエが語り終えるまで、アロイジウスは何を口出しするでもなくずっと片耳にイヤホンを挿して音漏れするほどの爆音でUKロックを聞きながらエナジードリンクを飲み続けていた。しかしゾーエの話が終わると同時に飲み干した缶を片手で握りつぶし、冷ややかに吐き捨てる。

「――くだらないな。」

「え……。」

 親友の思いがけない一言に、ゾーエはびくりと揺れる。潰した缶を足元のゴミ箱へ放り込み、アロイジウスは唐突にゾーエの目と鼻の先まで顔を近づけた。

「この聖杯戦争に参加している以上、僕様と盟友は敵だ。たとえそれが盟友でも、だ。しかもあろうことか『世界の真実を知りたい』? 盟友……前から能天気だ楽天家だとは思っていたが、ついに頭イカレたか。」

 悲しみと困惑で硬直するゾーエを見ると、アロイジウスは再び冷蔵庫に歩み寄り、エナジードリンクを取り出して一息に飲み込む。「げへ」と曖気を漏らすと、目を見開いたまま石像と化したゾーエにニヤリと笑いかけてウインクして見せた。

「――と! いうのが一般論であろうな。」

「ってことは!」

 安堵の表情へと氷解していくゾーエの左隣に盛大に腰を降ろし、その肩に右腕を回すアロイジウス。

「当たり前じゃないか! 盟友の頼みとあらば、たとえ盟友が我が子を殺せども諾するさ!」

「それは断るべきだけどね!?」

「世界の真実? 大いに結構! 僕様そういうの大好きさ! 魔術師のサガ、かな!」

 そう言って呵々大笑するアロイジウスは、ソファの端で存在感を薄めてエナジードリンクをちびちびと飲んでいる黒髪の青年に目を向ける。

「こいつは盟友のサーヴァントかな?」

「うん。自称ダルタニャン。」

「セイバー、ダルタニャン。よろしく頼む、アロイジウス・アナスタージウス・アーレルスマイアー。」

「おお! 我が名をすぐさまに暗唱できるとは嬉しいぞ勇猛の銃士!」

 その二つ名を耳にした途端ダルタニャンは眉間に皴を寄せたが、アロイジウスはそんなことお構いなしに自己紹介を始めた。

「改めてだが、僕様の名前はアロイジウス・アナスタージウス・アーレルスマイアー! ドイツラントの名門、アーレルスマイアー……の、落ちこぼれだ……。」

「アロー、気をしっかり!」

「名門の落ちこぼれ仲間……盟友とはそういう意味だったのか。」

 ダルタニャンの無自覚の刃はゾーエとアロイジウス、両者の心に深く突き刺さる。

「言った通り、僕様はアーレルスマイアーの恥さらし……。俗世の娯楽にばかりかまけて魔術に関する研究意欲など毛ほどしかないロクでなしさ。……だがそんじょそこらの凡才魔術師に比べれば根源の渦に至るための情熱は負けてはいない! ほんの少しばかり暢気なだけで……。」

「私だって別に魔術師になりたくないわけじゃないし……。でも魔術使いの現状に結構満足しちゃってるから何もしてないだけでさ?」

 求められてもいないのにひたすら言い訳を続ける二人に対し、ダルタニャンはぴしゃりと言い放つ。

「……落ちこぼれであるという事実には変わりないんだろう。」

「げぐ。」

「ぐえ。」

 蛙が潰れたような悲鳴をあげるゾーエとアロイジウス。

「……しかし聞いたことがないな。アーレルスマイアー……ドイツの魔術師一門か。」

「その通り! 元はアインツベルン一派だったんだけど、第三魔法の担い手の弟子のひとりがアインツベルンの工房を去って『第三魔法による人類進化』を掲げて作り上げた工房……それがアーレルスマイアーさ! 現在では純粋な第三魔法の再現だけを求めるアインツベルンとの関係は最悪でね。此度の命の聖杯戦争においてもアーレルスマイアーの人間は皆リグセンルール派閥に加担しているよ。」

「第三魔法による……人類進化。」

 アロイジウスはダルタニャンが飲み終えたエナジードリンクの缶を取り上げると右手で握り潰し、ゴミ箱にバスケ風のシュートで投げ入れる。

「簡単だよ。人間――厳密に言えば魂。それを英霊と同じレベルにまで到達させるだけさ。人間は魔力が存在する限り生きるようになり、消滅したいと思った時に消滅できる。生まれてから消えるまで等しく平等となり、飢餓や貧富の差、権力闘争や流血は悉く根絶される。」

 淡々と説明するアロイジウスの言葉には彼女の言う情熱などかけらも感じられなかったが、それでもそのアメジストの瞳に宿る静かな炎が、アロイジウスの持つ情熱を物語っていた。

「で! 今部屋の前で立っているのが僕様のサーヴァント。」

「サーヴァント、バーサーカー。メイジーと言います! よろしくお願いしますね、ゾーエさん、ダルタニャンさん!」

「私のことはシャルルでいい……。」

 部屋のドアを少し開けて顔を覗かせるメイジーに対し、ダルタニャンは鬱陶しそうに手を振るう。それを見たアロイジウスはゾーエの方を見るが、ゾーエが肩をすくめたのを見て鼻息をひとつついた。

「さ、それじゃあ僕様は何をすればいい? 世界が歪んだ原因……とやらか。それを見つけるアテは? あるのかな?」

「えー……っとぉ……。」

「はぁ、盟友のことだからそんなことだろうとは思ったよ。少しは計画性を持ちたまえとあれほど……。いや、今は説教している時ではないか。」

「グレートビッグベン☆ロンドンスター先生に少しでも相談しておけば良かった……。」

「少しは計画性を持ちたまえとなぁ。あとその絶妙に古臭くてダッサい異名はもしかしなくても現代魔術科(ノーリッジ)のロードかな。」

 無言で頷き肯定するゾーエに何の言葉を掛けるでもなく、アロイジウスは顎から頬を覆うように頬杖をつき、親友のために思考を巡らせた。

「あー……つまりなんだ。世界についてわかればいいんだろう? 世界……もとい平行世界、剪定事象。そういった事柄なら君の実家が属するアニムスフィアが最も適任だろうが、落ちこぼれ同盟としてそれはありえないからな……。」

 不遜な態度から一変、大真面目な顔で頭を抱えるアロイジウス。その顔は大真面目ではあったがどこか苦悩と諦めが入り混じっていた。

「――いや、しのごの言ってはいられんか。いつも孤独な僕様を助けてきたのは他ならぬゾーエだけだ。その恩義、今返すべきだろう。ならば僕様の主義や好き嫌いはこの際無視だ! ひとり心当たりがある!」

「ほんと!?」

 アロイジウスは決意を固めた表情でクローゼットに掛けられたファー付きの革のジャケットを羽織ると、ドアの向こうのメイジーに向かって呼びかけた。

「メイジー! 出立だ、経路の確保と斥候を頼むぞ!」

「はぁい!」

 メイジーの明るい返事と共に足音が去っていくのを確認すると、アロイジウスはゾーエに出発の準備をするよう促す。

「バーサーカーにそんな複雑なことできるの?」

 支度をしながらゾーエが尋ねると、アロイジウスは困ったような笑顔を浮かべてぽりぽりと髪を掻き、

「あぁ……僕様のサーヴァントはこと『生き延びること』に貪欲でね。生存戦略というか延命法というか、逃げ道の確保とか敵から隠れることとか、気が狂ってるのかと思うくらい慎重に綿密に行うのさ。――いや、気は狂ってるか。生き長らえることに気を狂わせているバーサーカー。それがメイジーだ。」

 と説明をした。

 ゾーエとダルタニャンは数秒顔を見合わせると、特に何か会話をするでもなくアロイジウスに続いて部屋から出た。二人が部屋を出た途端ゾーエの背後でドアが収縮するように小型化し、手のひらサイズのストラップへと変貌を遂げる。それをポケットに無造作に突っ込み、アロイジウスは先頭に立って歩き始めた。

 

 「空路はダメです、いざという時に逃げ道がありません。」というメイジーの提案により、ゾーエとアロイジウスは高速バスの座席で微睡んでいた。ダルタニャンとメイジーは霊体化しているため、二人分の料金で済んでいる。

「ねぇアロー。」

 ふと思い立ったようにゾーエが尋ねる。

「なんだね。」

「心当たり……って、どんな人なの?」

「変人だよ。元アトラス院所属……と言えば大方の予想は付くだろうさ。」

 西暦以前より存在する錬金術師たちの蓄積と計測の穴倉の名をアロイジウスが挙げると、ゾーエはすべてを理解したかのように顔をしかめる。

「だが情や友誼に篤い。その結果アトラス院の理念からは逸れ、アトラス院二千年の誇りを守るために日々追っ手に狙われ続けている。僕様と僕様の大兄上しか彼の居場所は知らないほどだ。」

「その人とアローたちはどういう――。」

 と、ゾーエがさらに問おうとした時だった。

「マスター、逃避行動を!」

 つんざくようなメイジーの忠告が入ると同時に、前方へ向けて凄まじい衝撃が加わる。パニックに陥る車内でアロイジウスが身を乗り出して運転席の方を見れば、運転席から大量の血液が流れ出ており、フロントガラスは粉々に砕け散っていた。

 さらにその遮るもののなくなった車体前方から、黒いトレンチコートにフルフェイスのガスマスクを被った謎の人物が車内へと侵入してくる。

「マスター、マスター、マスター! あれはサーヴァントです! ガスマスクの人物! サーヴァントです! 退避! 延命! 逃亡を開始してください! 今! すぐにっ!!」

 メイジーの悲鳴のような声を聞き、ダルタニャンも実体化してゾーエの左隣の窓ガラスを粉砕させ、そこからアロイジウスとゾーエを逃がす。ゾーエは窓ガラスから飛び降りる瞬間、ガスマスクのサーヴァントが指をパチンと鳴らすのが見えた。

 アロイジウスの助けを借りて高速道路に降り立ったゾーエの背後で、大型バスの中に藤色のガスが充満していく。その直後、身体が吹き飛びそうになるほどの勢いと共にバスが爆発、炎上してしまった。

「マスター! 前方、サーヴァント反応! 先程のガスマスクとは違います! 桁違いの魔力、強敵です! あのガスマスクだけなら逃避行も可能でしたでしょうがこうなっては戦力を削がねば逃げられません! 戦闘を開始します!」

 アロイジウスの指示もなくメイジーはそうまくしたて、ケープの中から大型のプラスキー斧と中型のハンドハチェットを一振りずつ取り出し、高速道路上に漏れ出したガスによって生み出された霧の向こうを見据える。

 その中から現れたのは、物々しい西洋甲冑に身を包んだ騎士然とした立ち居振る舞いの男だった。甲冑の男は斧を両手に握り締め、餓狼の如く牙を剥くメイジーに向かって尊大な態度で高らかにその名を告げるのであった。

「我が名はマーシャル! イングランドの騎士、ウィリアム・マーシャル! 初代ペンブルック伯にして、ランサーのサーヴァントである!!」

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