Fate/GravePatron   作:和泉キョーカ

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◆雲雀のセイバー
真名:???
性別:女性
筋力:A++ 耐久:D 敏捷:A+ 幸運:E 魔力:EX 宝具:EX
スキル:対魔力A+、騎乗B、単独行動B+、気配遮断B+、陣地作成E、魔力放出A、直感A、心眼(偽)C+、神性Aなど
宝具:『???』


歪んだアインツベルン -参

 洞窟の先には巨大な空洞が広がっており、その岩壁には無数の魔術的な刻印が前方中央の岩壁に描かれた紋章へと延びていた。

 そしてその空洞の中央では、ひとりの白衣の女性が高さ数メートルはある巨大な天球儀の前で木製の椅子に腰かけて優雅に読書を楽しんでいた。傍には首のもげたぬいぐるみを抱えた金髪の幼女が立っており、白衣の女性はジャクリーンたちに気付くと本を閉じて不遜に挨拶の言葉を投げかける。

「ようこそ! リグセンルールが本家、最高峰の平行世界観測所へ!」

「平行世界……観測所? お前は一体何者なんだ!」

 ジャクリーンの質問に、白衣の女性は椅子から腰を上げて深々と礼をし、自らの名を名乗った。

「私の名はロベルタ・ラディッシュ。しがない一介の魔術師で――。」

「てめぇが雲雀のキャスターが予言してた『世界を歪めた主犯格』だな?」

「――人の話は遮らずに最後まで聞けと、母親に教わりませんでしたか?」

 次の瞬間、『ロベルタ』と名乗ったその白衣の女性に質問を畳みかけたハンスの影がぐいっと持ち上がり、ハンスの腕を掴む。自らの影に拘束され、ハンスはバランスを失いその場で膝をついてしまった。

「さて、では本題と行きましょうか。そこの小さなあなた、この家主を失った観測所に一体何用で?」

「ちっ、小さくなんかないわっ! ……お前、ハンスにも聞かれただろ。この世界を歪めた真犯人。お前なんだろ。」

「――はて、何のことやら。」

 白々しく悪趣味な笑顔を浮かべ、ロベルタは本を白衣のポケットにしまい込む。

「そもそも何をもってこの世界を歪んでいると認識するかなど、個々人の裁量でしょう? あなたはなぜ世界が歪んでいると思っているのですか? 何を判断材料に?」

「……っ!」

 ジャクリーンには確かに答えることができなかった。百発百中の予言を行う雲雀のキャスターの言葉とは言えど、それはジャクリーンが世界の歪みを自覚する要因にはなり得ない。それは占いでその日のハンカチの色を決めるようなものだ。

「……ですがまぁ、答えてあげても良いでしょう。えぇ、我々が世界を蘇生させました。地球を廻る霊脈を血管に見立て、マントルを心臓とみなし、世界は生きていると定義づける。そして世界を意図的に殺し(・・)――蘇生(・・)させる。その末に生まれたのがこの世界だった。そう、私が思い描いていた世界とは大きく乖離した胸糞の悪い……いえ、それは詮無きことでしたね。さて!」

 音高く手を叩き、ロベルタは満面の笑顔でジャクリーンを見つめる。その直後に放たれた言葉は、ジャクリーンの隣に立つエーリヒを動かすには十分だった。

「ここまで聞かせておいてなんですが、あなたには死んでいただきましょう!」

「貉也部縺ョ譌ァ縺咲・槭h!」

 突如微動だにしていなかった幼女が手をジャクリーンへと向け、人間には到底理解の及ばない謎の言語を発したかと思うと、ジャクリーンの背後から蛇のような、棘の生えたナメクジのような異形の巨大生物が水音と共に出現し、その丸い口腔をでジャクリーンを呑み込まんと襲い掛かった。

「ジャック!」

 ハンスが叫んだ時には、巨大生物の口は地面に衝突していた。しかし当のジャクリーンは空洞の壁に背中を打ち付けて座り込んでいた。

「あ……。あっ……!」

「おや、献身的なサーヴァントですね?」

「エーリヒィ――ッ!!」

 巨大生物が再び体躯を持ち上げると、そこにエーリヒの姿はなく、ひび割れて陥没した床があるだけだった。そして今度こそは逃すまいとその巨体を這いずり、ジャクリーンを睨む。その異容を直視してしまったジャクリーンの瞳は小刻みに震え始め、四肢もびくびくと痙攣し始める。へたりこんだ場所には尿水が溜まってしまっていた。

「――……っ!!!」

 口端から泡を吹きながら、刻一刻と迫りくる死に抗うこともできないジャクリーン。

「ジャック! 目を覚ませジャック! 早く逃げろっ!!」

 依然影に支配されたままのハンスも叫ぶことしかできず、ただただジャクリーンの名を呼び続ける。

 そんなことは構いもせず、巨大生物の唇が大きく開き、ジャクリーンを覗き込んだ瞬間。

「――。」

 仄かに青い直線が巨大生物の頭部を縦断するように浮かび上がり、直後にそこから透明な液体が噴き出した。突然の出来事に音にもならない絶叫を響かせる巨大生物の白い三角形の足の傍には、白装束に身を包み、踵まで伸びた黒髪に金色の瞳を持った女性が、手に両刃の剣を持って立っていた。

「セイバー!」

 彼女を知るハンスは、喜びに彼女の座の名を口にする。

「――我らが同胞の窮地と聞きつけ、この『雲雀のセイバー』。助太刀に参った。いざ尋常に、神殺し。」

 

「雲雀の……セイバー。」

 黒髪の女性が口にしたその名を復唱するロベルタの眼前で、雲雀のセイバーは目にも留まらぬ速度で跳躍して巨大生物に斬りかかった。反撃する暇もなくひたすらに斬撃の嵐の中で人には可聴不可能な悲鳴を上げ続ける巨大生物。

「ふん、神といえど化身、分霊程度ではこんなものか。」

「……蠖シ螂エ繧 繧ー繝ゥ繝シ繧ュ縺ョ豁」菴薙r遏・縺」縺ヲ縺?k縺ョ縺??」

「当たり前であろう。神であればそれ相応の覇気を持っている。見分けるのは容易だ。」

「ッ!?」

 理解させないための言語をいとも容易く解読され、幼女は初めて表情を動揺のそれに変えた。

 目の前でのたうち回る巨大生物を『神』と呼んだ雲雀のセイバーが手にした剣の刃をおもむろに指でなぞると、刀身が純白に輝き始め、やがてその煌めきは空洞全体を明るく照らした。雲雀のセイバーが黎明の如き神々しい光明を放つ剣を下段に構えた刹那、彼女が剣を振るうよりも疾く巨大な斬撃の残像が巨大生物の体躯を横断し、巨大生物は霞のように淡い水蒸気のようなものとなって霧散した。

 そしてその数拍の後にズンと重い音が響き、空洞の壁に真一文字の斬痕が刻み込まれるのであった。

「……ふむ、少々想定外でしたね、キャスター?」

「縺ゅ?髱貞ケエ繧ゅ>縺ェ縺?? 縺薙%縺ォ髟キ螻?☆繧狗炊逕ア繧ゅ↑縺?□繧阪≧縲」

「ええ、では我々はこれにてお暇するとしましょう。皆様が派手に暴れてくれたおかげでこの装置の設計図も解読できましたしね?」

 指の関節で天球儀の骨組みを叩き、ロベルタは不敵に笑う。その手には、一冊の書籍が握られていた。先程までロベルタの白衣のポケットに仕舞われていた本だ。

「待て、そこなサーヴァント。」

「……。」

 ロベルタとその背後に立つ幼女を見据えながら、雲雀のセイバーは問いかける。

「そなたら、一体何を企んでいる。」

「それを敵に教えるほど慢心はしていませんよォ?」

「……そなたらの目的はこの者か?」

 雲雀のセイバーがそう言った途端、空洞の出入り口から轟音が聞こえ、それと同時にセイバー(アルトリア)の聖剣を強固な魔力障壁で防ぎながらその勢いに圧され、猛スピードで後方へと押し込まれた赤毛のサーヴァントたちが現れる。そしてそのすぐ後ろからクロウが空洞内に入ってきた。

「……繧ュ繝」繧ケ繧ソ繝シ?」

「えェ、えェえェえェ!! わかっておりますともォ!! いやさ僥倖! これはこの少女たちに礼を言わねばなりませんねェ!!!」

 クロウは気を失っているジャクリーンに気が付くと彼女を保護し、セイバーにその場を任せて安全な場所まで運ぼうとする。しかし、クロウの目の前に瞬間移動のようにロベルタが現れ、語り掛けた。

「初めましてクロウ・ウエムラ! 私の名はロベルタ・ラディッシュ! 一介の魔術師ですともォ!!」

「なッ――!?」

「ところでアナタ、『世界蘇生』という単語に聞き覚えは? えェえェ言わずともよろしい、貴方はそれを知っている! 何故ならば貴方はこの世界にあって四人しかいない『死せる世界』の住人! 貴方がバグとしてこちらの世界に渡ってきてしまったがためにこの世界には『死』の概念が生まれてしまった!! 我々の! 計画の! 最高最大の汚点!! ゆえにここで摘み取ろうと思います、よろしいですねェ!!?」

 一気にまくし立てたかと思うと、ロベルタは白衣のポケットから一本のシリンジを取り出し、それを素早くクロウの首筋に突き立て、そのブランジャーをぐっと押し込む。見る見るうちにシリンジ内の液体がクロウの体内へと注入されていき、クロウはその激痛に絶叫した。

「がッ――あ、あ、ああああアアアァァーーーッッ!!?」

「アハーーーッハッハッハ!! これぞ私の最高傑作のうちの一本! 一時的に対象にかけられた呪いや魔術効果を遺伝子レベルにまで干渉して打ち消す薬品!! これで今この瞬間に限ってはあなたはただの定命の人間!! さァ!! 神に選ばれなかった哀れな弱者として永遠の眠りを味わってくださいねェ!!!??」

 次の瞬間クロウの腹部に熱を帯びた激痛が奔る。その原因に目を落としてみれば、幼女の掌から伸びた舌のような謎の器官がクロウの臓腑を食い破って体躯を貫通していたのだ。

「――……っ!」

 押し出された空気が喉から漏れると同時に、血液がばしゃりと地面に広がる。

「クロウ!」

 結髪のサーヴァントのサーベルを弾き飛ばし、セイバーがクロウの元へと駆け寄る。それと同時にセイバーが振るった剣も幼女がロベルタを急速に自身の元に引き戻したがために虚空を掻いた。

 とめどなく溢れる血流を必死に押さえながらセイバーが周囲を見渡せば、雲雀のセイバーは好機とばかりに襲い掛かってくる結髪のサーヴァントを足止めしており、ハンスは未だ影に繋がれたまま項垂れている。

「これにて不安因子はなくなりましたねェキャスター!?」

「諷「蠢?剿縺悟?縺ヲ縺?k縺」

「おっとォ、これは失敬を。ふぅ、少々私も高揚してしまいました。こうもとんとん拍子に事が進んでくれるとはそれこそ想定していなかったものでして。」

 すると、上気した顔を手で扇ぎながら一息つくロベルタの元に、赤毛のロングヘアのサーヴァントが近付く。ロングヘアのサーヴァントはロベルタの名を呼び、ロベルタが彼女と目を合わせた瞬間、パチンと澄んだ音色を指から発した。ロングヘアのサーヴァントは宝具の真名を口にし、ロベルタに三つの質問を行う。

「ごめんなさいね、魔術師さん。これが私たちの今回のお仕事なの。――『赤き髭持つ災厄の交渉(バルバロッサ・アフェトヴァゴヌ)』。いい? あなたの目的は何?」

「こっ、れは……強制的に真実を語らせる宝具……!? キャスター!」

 しかし、幼女のキャスターによる攻撃はことごとく強力な魔力障壁によって阻害される。

「遘√?蜉帙r髦イ縺?□縺?縺ィ……!?」

「ぐ、あ……っ! 私の、目的は……世界蘇生の、再実証……っ!」

「はい、ありがとう。それじゃ、次ね。この天球儀をどうするつもり?」

「平行世界観測機構は改造すれば……思い通りの世界を観測することも可能に……なるっ……!」

「へぇ、そうなの。じゃあ最後ね。あなたのサーヴァントの真名は、何?」

「ぐっ、あ、あぎっ……!」

 しかしその質問だけは、ロベルタは答えることができなかった。

「知らないの? 自分のサーヴァントでしょ?」

「言えば……私がっ……!」

「構わん、私が言おう。」

 突如、幼女らしい高く無垢な声で幼女のキャスターが口を開き、その掌から再び舌を伸ばす。舌はロングヘアのサーヴァントの耳元までするすると伸びてゆくと、その場で身を震わせた。

「ひっ――!」

 直後、ロングヘアのサーヴァントの目の焦点が途端に別々の場所を向き、その場で倒れ伏してしまった。

「姉貴ッ!」

 雲雀のセイバーの相手をしていた結髪のサーヴァントが姉の元へ駆け寄ると、雲雀のセイバーはハンスの腕を縛る影を断ち切ってから鞘に剣を収め、クロウとジャクリーンを担いでその場を離れる。セイバーとハンスもひとまずは二人の救護が最優先と考えたのか、ロベルタや幼女、赤毛のサーヴァントたちには深追いせず、雲雀のセイバーのあとを追いかけた。

 

 ノイエ・グラーフZに戻った一行が艦橋から目にしたのは、先ほどまで更地だった場所が地下渓谷に吸い込まれるように陥没していく光景だった。

『……センチョサン、サーヴァント反応が四騎分(・・・)、離脱していったネ。』

 クロウとジャクリーンの対処に大慌てになっているサーヴァントたちの中に、ラグーンの報告の違和感に気付いた者は、誰一人いなかった。

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