真名:ジャン・ヴァルジャン
性別:女性
筋力:A++ 耐久:A 敏捷:C++ 幸運:D+ 魔力:A 宝具:EX
スキル:対魔力B+、真名看破A、神明裁決A、怪力D、無辜の罪人C、信仰の祈りA、情報抹消E、仕切り直しAなど
宝具:『???』
「……仏蘭西のサーヴァント多くねぇ?」
政宗の言葉に、ゾーエもダルタニャンもうんうんと頷く。この場にいるダルタニャンは勿論、先程まで交戦していたマーシャル。そして目の前で甲斐甲斐しく白髪の青年にコーヒーと一切れのチョコレートケーキを差し出し、部屋の片付けをする裁定者のクラスを名乗った女性もまた、フランスの地に紐づけられたサーヴァントだ。
「さぁ、皆さんもコーヒーをどうぞ! お砂糖やミルクはいかがですか?」
ジャン・ヴァルジャン。フランス革命の時代を生き、神を信じ、正直な行いをこそ尊ぶべしと波乱万丈の生涯を駆け抜けた無辜の罪人。
そんなフランス人ならば誰もが知る敬虔な聖人が今、自身の前にコーヒーとスティックシュガーを差し出している。その奇妙な光景にゾーエはしばらく固まってしまう。
「あっ、お砂糖はいりませんでしたか?」
しかしすぐに我に返り、ルーラーにミルクを要求するゾーエ。ちらりと両側に座る二人を見ると、ダルタニャンは気まずそうに俯きながらブラックコーヒーをひたすらマドラーで掻き回しており、政宗は興味深げに部屋中を見まわしていた。
さて、とルーラーは飲み干したコーヒーカップをソーサーの上に乗せ、三人に目を向ける。白髪の青年も気だるげかつ不服そうにではあるが、三人に視線を向けた。
「セスタンテに用向きということは、あなた方も知ってしまったのですね?」
「知ってしまった……?」
ゾーエの反応にあれ、と首を傾げるルーラー。
「知らずにセスタンテの元に来たのですか? いや、そんなことはないはずです。そうでなきゃセスタンテの隠れ家がアトラス院に観測される危険性を無視してまでここへは来ないでしょう? 貴方たち。」
「ザッツライ、このお嬢ちゃんは『この世界の正体』を知りたがっている。」
「……あれ? そういえばどうしてそれをマサムネさんが知ってるの?」
「はっはっはっはっは!」
呵々大笑で誤魔化す政宗。今までのアロイジウスの言葉から察するに、それもまたアロイジウスの兄には筒抜けなのだろう。この際、ゾーエは自分たちの動向や目的はすべてアロイジウスの兄と政宗には認知されていると考えることにした。
「その通りです。私はある人物が為そうとしていることを人づてに聞きました。この世界の真相……それについて聞きたいんです。」
「……いやだ。」
白髪の青年は怪訝な目で短く吐き捨てる。少なからず予想はしていたことだが、ゾーエはやはり落胆してしまう。
「僕の作った技術はね。名も知らない女の子においそれと貸せるほど。陳腐じゃないんだよ。」
「あっ……。」
その言葉を聞いて、ようやくゾーエは自身の名を明かしていなかったこと、そして対面に座る青年の名を聞いていなかったことに気が付いた。
「私はゾーエ・モクレールって言います。こちらは私の相棒のセイバー、ダルタニャン。」
ダルタニャンはその紹介に少し驚いた表情を浮かべるが、すぐに無表情に戻り、白髪の青年とルーラーに向かって浅く頭を下げる。
「モクレール……。アニムスフィアのところの名門か。」
「まぁ、ほとんど勘当状態でここにいますけど……。」
「うん。僕は。セスタンテ。まぁ。人からは。そう呼ばれてる。もちろん。本名じゃ。ないけどね。」
「それで、あなたはこの世界の真相をご存知なんですか?」
「うん。知ってる。僕が。リグセンルールの平行世界観測機構に。着想を得て。造り出した――『ジェム・ポロニエ』。は。完璧だ。」
「それで……結果は?」
セスタンテはルーラーにコーヒーを注ぎ足すよう注文し、再びカップ一杯になったコーヒーにスティックシュガーを何本も投入すると、それをかき混ぜながらゾーエに不可解な言葉を投げかけた。
「君は。
「え……?」
コーヒーを飲み干し、セスタンテはゾーエについてくるよう促す。ゾーエは鷹揚に返事をすると、席を立ってセスタンテの後ろをついて部屋の奥へと進んでいく。ダルタニャンも政宗に視線で指図され、緩慢に彼女についていった。
巨大な六分儀。ゾーエがその装置を見た瞬間の第一印象はそれだった。本棚や標本が浸かった液体の入った瓶、周囲に配置された多種多様な研究素材から伸びるコードが繋がれたその巨大な六分儀の下に立つと、セスタンテは机の上に広げられた布の上に手を重ねた。
「あまり長時間駆動させると。アトラス院の連中に。ここの
「
「うん。別名。虚数と実数の狭間。『ある』けど。『ない』場所。僕の。観測した。虚界は。白と白の狭間。白であって。白じゃない世界。」
そう言っている間にも巨大な六分儀――『ジェム・ポロニエ』の目盛り尺はガチガチと大きな音を立てながら実動していく。目盛りをひとつ移動するたびに部屋の中の本棚や瓶、鉱石や調度品から白色のオーブが漏れ出し、『ジェム・ポロニエ』の周囲を飛び回り始め、やがて『ジェム・ポロニエ』の動きが止まると、『ジェム・ポロニエ』の中へとオーブが収束していき、再び部屋の内部はろうそくの灯りで仄暗く照らされる。
「はい。覗いてみて。」
セスタンテに促され、ゾーエは恐る恐る『ジェム・ポロニエ』の望遠鏡に右目を押し当てる。
「今回は。ゾーエ。君にフォーカスを。当ててるから。君の周囲の。事象しか。観測できてないけどね。」
――マンハッタンだった。月明かりに照らされたバッテリー・パーク。明るい鳶色の髪を長く束ねた白衣の女性がタガが外れたように高笑いする中で、ひとりの青年が白衣の女性の前に立つ金髪の幼女目掛けてレイピアとマスケットを携えて突撃している。
「これ、は――。」
しかし幼女の掌から噴出された青白い炎によってレイピアは蒸発され、体躯は同様に掌から鞭のように振るわれる鋭利な紐状の物質によって無数に貫かれ、マスケットは弾き飛ばされ、それでも拳を握り締めて幼女に殴りかかる。
しかし、その拳は幼女に届きはしない。白衣の女性がポケットから取り出したシリンジを青年の肩口に突き立てており、その内部の液体が見る見るうちに青年の体内へと注入されていった。
『ぐっ……!』
一瞬、青年の苦悶の声が聞こえた気がした。その瞬間、ゾーエは脳裏に浮かんだ言葉を漏らしていた。
「ライ……ダー……ッ!」
その時だった。
『え?』
確かに、その青年がゾーエの方を。幼女と白衣の女性の背後からその様子を観測していたゾーエの方を視認したのだ。そして青年は、何かを確信したかのような驚愕の表情を浮かべ、直後に安堵のそれへと口角を崩したのだ。
『そうかい、マスター。それなら……良い。オレは、ここで待ってるぜ。』
その言葉は、その青年の喉からではなく、瞳から伝わった。次の瞬間、全身を奔る激痛に耐え切れなくなった青年がその場に倒れ込み、この世のものとは思えぬ絶叫をあげる。その悲鳴は聞こえなかったが、ゾーエの頭部にもほぼ同じタイミングで女神でも生まれるかと言わんばかりの鈍痛が響き、レンズから目を離してその場に崩れ落ちてしまった。
「ゾーエ!」
ゾーエがダルタニャンに抱え上げられると同時にセスタンテは布に刻まれた紋様に手を重ね、『ジェム・ポロニエ』の動作を停止させる。
「ルーラー。ゾーエが起きたら。教えてくれ。」
「わかりました。」
ルーラーは気を失ったゾーエを抱えるダルタニャンをセスタンテの寝室に案内し、そこへ横にさせるよう伝えると、『ジェム・ポロニエ』の調整をするセスタンテの元へと戻って行った。
アロイジウスは泣き腫らした目でぼんやりと
「アロー。」
そこへ、スポーツドリンクのラベルが貼られたペットボトルを手に持ったセスタンテが歩み寄ってくる。
「ランベルトから聞いた。ご両親のこと。ご愁傷様。」
セスタンテからペットボトルを受け取ると、アロイジウスは諦観が色濃く伺える微笑を浮かべた。
「いや、いいんだ。聖杯戦争に参加する以上、父上も母上もこうなることは覚悟の上だっただろうしね。それよりも、僕様は大兄上……アーレルスマイアー家当主に聞きたいことがあるんだ。これからのアーレルスマイアーのこと。僕様は今はもう当主の妹だ。ろくすっぽ真面目に戦争に参加していなかったのも娘だったから。でも今はもうそういうわけにもいかない立場のはずだ。僕様は……どうすればいいんだろう。」
「それについてはオレから。」
セスタンテの背後から現れたのは政宗だった。政宗はジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと、それをセスタンテへと投げ渡す。その画面には『マスター』と日本語で映っており、どうやら通話が繋がっているようだった。
「はい。セスタンテです。……あぁ。ランベルト。……は。何て言った。今。拠点? 僕の。
セスタンテはそこで一度スマートフォンを耳から離し、アロイジウスに通話相手の言葉を伝える。
「ランベルトから。『お前はお前のやりたいことをやれ。これは当主命令だ。お前がやりたいことをやるためなら我々アーレルスマイアー兄妹はできうる限りの支援をお前にしよう。』だって。」
「大兄上……!」
無意識の感涙が頬を伝うアロイジウスから目を逸らし、セスタンテは再び通話に戻る。
「それで。なんだっけ。僕の。
そこからしばらくセスタンテは黙って通話相手の話を聞き込んでいたが、やがて六秒にも及ぶ大溜息をつき、
「――わかったよッ!!」
と吐き捨てると乱暴に通話を切ってしまった。それを政宗に放り渡し、あとは好きなようにしろと自衛手段を放棄する。
「いいのかセスタンテ、君はアトラス院に――。」
「いいよ。ここまで来たら。ダメで元々だ。ただし。僕が襲われたら。真っ先に。僕を守れよ。それが。家賃だ。」
「……ああ! 僕様とゾーエを信じろ!」
セスタンテが屋内に戻ったのを確認すると、政宗はニッと笑って手中に一振りの日本刀を出現させる。それを
「千代に八千代に栄えたもう青葉の栄華よ、水に生まれ火を掲げ、風と共に生き土と共に歩む青葉に、永遠の繁栄ぞあれ!! ――『
政宗が突き立てた打刀――燭台切光忠の切っ先から地面を削ぎ、捲り上げるように大きく広がっていく仙台笹の家紋が通過した場所に、次々に建築物や人工水路、川や丘、山や草木、花々が生成されていき、やがてアロイジウスの視界には、吸い込まれそうな碧空の下に広がる広大な城下町が広がっていた。