Fate/GravePatron   作:和泉キョーカ

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◆アーチャー
真名:???
性別:女性
筋力:B 耐久:B 敏捷:A 幸運:B+ 魔力EX 宝具:A++
スキル:対魔力A、単独行動A、女神の神核Bなど
宝具:『???』


白と白の狭間で -弐

 原寸大、粗の一つも見当たらない整然とした多機能都市を前に、アロイジウスはただただ驚嘆し、硬直するしかなかった。

「ま……政宗公、これは……!?」

「オレ、セイバーの座で召喚されてるけどヨ、本分は街作りとか内政とか、そっち方面なんだわ。今は二十一世紀、刀ァぶんぶん振るジェネレーションじゃあねぇだろ?」

「その発言はそれこそセイバーとしてどうなんだい……?」

「マ、オレ血みどろの時代に召喚されたとしても街は作るけどな!! オレがいる場所こそ青葉なり! なんてナ! アローちゃん、オレの青葉を隅々まで楽しんできな。一応これでも工房作成用の宝具なんだからよ。」

 アロイジウスとしても火急の要件はなかったため、政宗の言う通り宝具によって生み出された城下町を練り歩くことにした。

 

 突如としてセスタンテの部屋の外に広がっていた緑豊かな山々に囲まれた大都市の大通りに建っていた茶屋でずんだ餅を頬張りながら、ゾーエは凝視していると恐怖すら感じてしまうほど雄大な蒼空をぼんやりと眺めていた。

「なんだ、探したぞ盟友。」

 そこへ、ぱたぱたと団扇で首筋を扇ぎながらアロイジウスがやってくる。目元の赤みは消え、いつも通りの調子に戻っているようだった。

「すごいよな、政宗公のこの宝具。都市はおろかそこに住む人々すら召喚してしまうなんてさ。」

「うん……。」

 アロイジウスは茶屋の娘に茶を一杯注文し、それを両手に持ってゾーエの隣に腰を下ろす。しばらくそのまま空を見つめるゾーエを凝視していたが、やがて不意にゾーエの頬にキスをした。

「――ッ!?」

「お、気付いたか盟友?」

「アロー!? い、いつからそこに……っていうか何、いきなり何!?」

「あっはっは、ただの冗談さ! それで? 何を呆けていたのだよ。セスタンテに何か見せられたか? ……あぁ、この世界の真相だったか。僕様も聞いたよ。」

 顔を真っ赤にして仰け反るゾーエを見て大笑いしながら、アロイジウスは手に持った茶を呷る。

「……アローはさ、自分が偽りの自分だって事実を知ってしまったらどう思う?」

「ニセモノだったら何か問題があるのか?」

「ないけどさ。わかるよ。アローはきっと『ニセモノでも今生きている自分は自分でしかない』って感じのことを言ってくれるんだろうなって。」

「言おうと思ってたことを先に言われるのは恥ずかしいな……。」

「でも不安なことには変わりないよ。私は何者なの? 『あっち』の私が本物なら、今この世界に生きてる私は誰? 本当にゾーエ・モクレールなの?」

 半分に切り分けたずんだ餅の片方を口の中に放り込み、ゾーエは言葉を続ける。

「……仮にこの世界が元に戻って……私が消えて『私』が残った時、そこにアローの記憶はある? この世界で親友だったからと言って、アローは『向こう』でも友達なのかな。」

 アロイジウスはしばらく無言でいたが、ゾーエの膝の上に乗った皿の上のずんだ餅の半分をひょいと横取りし、咀嚼しながらその答えを告げた。

「それを今考えて何か意味があるのか?」

「でも!」

「おいおいよせよ盟友。元の世界で僕様と盟友が仮に友人関係じゃなかったら何だよ? その時はその時さ。僕様は何があろうと盟友を見つけてみせる。だってそうだろ? 記憶がなくたってわかるはずだ。だって現に盟友は『向こうの世界』を直感してる! なら『あちら』に戻っても僕様のことは深層意識で記憶しているはずじゃないか?」

 ニヒルな笑顔を見せながら、アロイジウスはずんだ餅を呑み込む。そして茶を飲み干し、茶屋の娘に空き容器を手渡すと、バネのように立ち上がってゾーエの肩を勢いよく叩き、急かす。

「さぁさぁ盟友! 暗い顔をするのは似合わないぞ! 僕様たちは魔術使い。れっきとした魔術師じゃないからこそ、魔術師に共通する『倫理観の欠如』が起きていない『普通の人間』じゃないか!」

 その言葉を聞いて、ようやくゾーエはアロイジウスの顔を見上げた。その驚きと安堵が入り混じった奇妙な表情を見たアロイジウスは、心の底から明るい声と笑顔でゾーエの手を取る。

「その感性は大事だ! 未知に対する不安。暗闇に対する恐怖。未来への虚無感。――あるからこそ、僕様たちは勇気を出せる。一歩を踏み出せる! さぁ行くぞ盟友、世界が君を待っている!」

 そしてゾーエの手を引っ張って立ち上がらせ、セスタンテの工房がある城の真下に向かって彼女の手を握ったまま駆け出した。

 その様子を物陰から眺める男が一人。誰あろう、伊達政宗であった。

「……う~ん、ブルースプリング。若いってサイコーだな!」

「その姿のお殿様もお若くございますよ?」

「お、ホント? マジ?」

「はい、青葉の伊達者に相応しい凛々しさでございます!」

 茶屋の娘におだてられ、頬を赤らめて照れる政宗。その背後から、藍色の髪をオールバックにした銀の角縁眼鏡の青年が近付く。

「あれ、マスター?」

「――我が国では最近同性婚が合法化された。」

「え、マスターまさか。」

「今後次第だ! あのゾーエという少女が私のアロイジウスの伴侶となるにふさわしい女性かこの先義兄として見極めさせてもらおう!!」

「マスター落ち着けって、多分アローちゃんそっちの趣味はない。」

「キスしてた!!」

「いやあれは親愛のそれだと思うぞ!」

 獣の如く奮い猛るアロイジウスの兄を抑え込みながら、政宗は仲良く手を繋いで青葉城目掛けて走り去っていく二人の少女の背中を見つめ、眩しそうに目を細めるのであった。

 

 ゾーエとアロイジウスがセスタンテの工房に戻ると、セスタンテは自身の寝室の奥を見つめてげんなりと肩を落としていた。二人がそちらを見れば、なんと工房と城が一体化しており、寝室の壁に生まれ出でた襖の先は広大な座敷になっていたのだ。奥には木製の階段もあり、どうやら天守まで登れるようになっているようだ。

「ゾーエ!」

「うん!」

 短く言葉を交わしただけで互いの思考を察知したらしく、二人は階段を一気に駆け上がっていく。やがて辿り着いた天守閣の窓から身を乗り出し、地平線の彼方まで続く固有結界の全貌をその視界の中に収めた。

「すごい……!」

 どちらが言ったのか、それとも両者が言ったのか。とにかく、たった一言の言葉しか紡げないほど、その景色は雄大で清美だった。整然と並んだ街並み、人々を守る龍神のように横たう人工水路、澄み切った空には鳥が翼を広げ、遠くには太平洋も見える。

「サイコーにクールだろ、オレの街はよ。」

 そこへやってきた政宗は、ぶつくさと不平不満を垂れ流し続けるセスタンテの背を平手で叩き、伝えるべきことを伝えるように言う。

「ああ……。そうだね。ゾーエ。アロー。ここでじっとしてても。君たちがしたいことは。何もできない。まぁそもそも。君たちが。世界の真相を知ったところで。何がしたいかなんて。聞いてないけど。」

「盟友、君はどうするんだ? 世界の真実を知って……それでどうするんだ?」

「……。」

 ゾーエの心の中で、再び先程と同じ不安と恐怖が渦巻き始める。もしも、元の世界に戻れなかったら。元の世界に戻ったとして、その時今の記憶はあるのか。そもそもアロイジウスのことを覚えているのか。アロイジウスのことも忘れ、この世界で助けてもらった様々な恩人たちのことも忘れてしまうことよりも、今この世界のままで良いのではないのだろうか。

「……この世界じゃダメな理由が、私にはない……。」

「ダメだ、盟友。」

「え?」

「ダメだ。それはダメだ。『理由がないから今のままでいい』は一番理由にしちゃいけない。君が『向こう』を直感できたのには絶対にワケがある。それを知るまでは引きずってでも僕様が盟友を急かし続けるからな!」

「……うん、わかった。じゃあアロー、何か作戦があるの?」

 そのゾーエの質問に返ってきたアロイジウスの返答は、その場にいる全員が面食らうものだった。

「――アインツベルンに会いに行こう!」

 開いた口も塞がらず、茫然とどや顔のアロイジウスを見つめていたゾーエは我に返るとその理由について糾問する。

「い……っ、いやいやいやいや!! 何を考えてるのアロー!? アインツベルンって……アローのお父さんとお母さんを……!」

「だから何だね!」

 真っ直ぐに澄んだアメジストの瞳でゾーエを見据えるアロイジウス。その視線に憎しみや怒りは微塵も含まれておらず、ただひたすら真摯に親友の征く道を切り拓こうと決意する意思に溢れていた。

「今一番聖杯に近いのはアインツベルンだ。ならば遠かれ近かれアインツベルンと接触しなければならないことに変わりはないだろう? 僕様たちは自陣営サーヴァントが三騎に中立サーヴァントが一騎。対してアインツベルンは少なく見積もっても二十騎近いサーヴァントがいるはずだ。」

 まくし立て、アロイジウスは一度呼吸を整える。

「戦力差とアーレルスマイアーの気質から奴らが察する我々の行動は二パターン。つまり『同盟加入要請』か『戦争辞退』かだ。――そして僕様が取る行動は『戦力削減』だ。」

「アインツベルン派所属のサーヴァントを少しずつ始末していくってこと?」

 アロイジウスは頷き、全員に詳しく自身の方針を話していく。そのすべてを聞き終えた時、あまりの無謀さに大笑いする政宗を傍目に、ゾーエはアロイジウスに尋ねた。

「どうしてそんなに、強くいられるの?」

「――強くなんかない。実際僕様は今も哀しい。哀しいし、悔しい。悔しいし、憎らしい。憎らしいし、絶望している。……でもそれは足を止める理由にはならない。盟友、僕様は君がくれた恩を――あの時、時計塔の中庭で君が僕様にくれた大きな恩を、返したいだけなんだ。

 盟友、君はこの世界を変えなきゃいけない。世界の齟齬を知る人物は、齟齬を正す義務がある。君は義務を果たすんだ、盟友。だから僕様はその後押しをするだけ。……君が強くあれないと言うのなら、僕様が強くあろう。ただ、それだけだ。」

 それじゃあ、と言ってアロイジウスは政宗の方を向く。政宗は今先程アロイジウスに頼まれた作戦を遂行するためにセスタンテに天守の窓ととある地点(・・・・・)を結ぶよう頼み、その場所へと飛び込んでいく。それを見届けると、アロイジウスはゾーエの肩を叩いて促す。

「さぁ、僕様たちも行こうじゃないか! ルーラー、アーレルスマイアー本家のアメリカ拠点を爆撃したサーヴァントは聖杯戦争の規約違反になるかな?」

「えぇ、そもそも命の聖杯戦争そのものが一般的な聖杯戦争の枠に囚われない特殊な物ですから。さらに世界の二度塗りなどという異常事態すら起きている。……爆撃の犯人が潜伏している場所でしょう? えぇ、上海です。」

 それを聞いたアロイジウスは、無言でセスタンテに目配せをする。セスタンテは大溜息を吐き、政宗が去って行った窓枠とは別の窓枠に何らかの器具を取り付け、簡易式の転移装置を生み出す。「戻るときは信号の発信を」と持たされたペンダントを首にかけ、アロイジウスはゾーエの手を強く握る。

「……盟友、覚悟を決めるんだ。」

「覚悟も何も……ううん、そうだよね。」

 不安や恐怖、戸惑いや悪寒が寄せては返すゾーエの脳裏に、あるひとりの少女の言葉がよぎる。

 『そこに敵がいるから』。

 ゾーエは勇壮な笑顔を浮かべ、アロイジウスの手を握り返す。

「――うん、行こう!」

 手を繋ぐ二人の少女と、その後を追って転移装置の中へとダイブしていく二騎のサーヴァント。運命の歯車がまたひとつ、大きく動いた瞬間だった。

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