真名:ハサン・サッバーハ?
性別:女性
筋力:D+ 耐久:D 敏捷:A+ 幸運:A 魔力:D 宝具:C
スキル:気配遮断A+、道具作成A、単独行動B、騎乗D、専科百般E+など
宝具:『???』
青年が目を開けた時、目の前にいたのは藍色のアシメバングの前髪を持った少女だった。
「藍色の髪に『
「いかにも。」
「復讐に来たか。」
「いいや。」
「ほう。」
殊勝にも、目の前の少女は手をだらりと下ろし、魔術を行使しようという素振りすら見せず、ただただ青年の前で棒立ちしているのみだった。
「殺し合いに参加すると決めた以上、いつか死ぬことは織り込み済みだ。そんなことより僕様は君に訊きたいことがある。」
「良いだろう、言ってみろ。」
藍色の髪の少女はニヤリと笑うと、青年の名を告げて問うた。
「――ジャン・ズーハオ。お前、最近頭が痛まないか?」
アロイジウスとしても膝が笑ってしまいそうだった。目前で胡坐をかき、瞑想の姿勢を崩さないこのズーハオという青年には一切の隙がない。警戒させないようにとメイジーはできるだけ遠い場所で待機しているよう命令していたが、これではいつ自衛も間に合わずに殺されても文句は言えない。
「……頭痛など誰にでもある生理的現象だろう。それを言い当てたところで何かあるのか。」
「ははは、確かにその通りだとも。しかし君は知っている。君が味わっている頭痛は生理現象というにはあまりにも気色が悪いことを。」
「……。」
ズーハオは怪訝そうな目でアロイジウスを見上げるが、再び興味をなくしたように目を閉じて瞑想にふける。攻撃されないことを良いことに、アロイジウスは更に話を続けた。
「ジャン・ズーハオ、お前は自分が偽りの存在だと言われたら、何を思う?」
「……何も思わん。自分を偽りか否かと決めるのは他者ではない。」
「世界が、偽りだと言ったら?」
三千メートル級の山脈のうちのひとつ、その中でもひときわ亭々たる霊峰の山頂に腰を下ろし、霞む地平線と遥かな大空を一望するズーハオにとって、アロイジウスはいつでも突き落とせる位置にいる。それでもそうすることはせず、彼はゆっくりと瞼を開き、広がる壮大な大世界を見つめながらぽつりと呟く。
「……心当たりが無いわけではない。」
「ほお?」
「だが、それをお前に教える道理はない。アインツベルンに与する者として、リグセンルール一派のお前たちアーレルスマイアーを目の前にして抹殺しようとしないだけ有情と思え。」
その言葉に、アロイジウスは「ふーん」とこぼして笑う。右足のスニーカーを脱ぎ、素足を曝け出すと、瞑想するズーハオの周囲に円形に配置された色とりどりの宝石のうちのひとつを足の親指で押さえ、すっと位置をずらしてしまう。
「……おい。」
その形状に意味があったのか、ズーハオは露骨に機嫌を損ねたようにアロイジウスを睨みつける。そんなズーハオにケラケラと笑いかけながら、アロイジウスは彼の目線に合わせるようにしゃがみ、話を続けた。
「ねぇ、教えてくれよ。僕様、その感覚わからないんだ。でも僕様はその感覚の正体を知ってる。君も知りたいだろう?」
「……そうだな……。」
ズーハオは溜息をつき、立ち上がろうとする様子を見せる。その動作に満足げに笑ったアロイジウスの表情はしかし次の瞬間、緊迫感に満ちたものへと変わる。
「――……ッ!?」
視認できない速度で下腹部を抉り蹴られ、アロイジウスは山頂の崖から放り出される。ひゅうひゅうと悲鳴を上げる風を鼓膜で感じ、冷たい目でこちらを見下ろしてくるズーハオの顔をじっと見つめながらアロイジウスは紐なしのバンジージャンプを体験する。
「――っはは! 手荒なお兄さんだな!」
だが、アロイジウスの驚愕に見開かれた瞳はすぐに笑顔で細められる。ポケットから槍兵を模したチェス駒を取り出すと、サーヴァントを喚び出さんばかりの詠唱を紡ぎ、最後に一言大きく言い放った。
「告げる……。汝の身を我に。汝の剣を我が手に。聖杯のよるべに従い、この意この理に従うならば応えよ。誓いを此処に。我は常世総ての善を擦る者、我は常世総ての悪を追討つ者。汝、三大の言霊を纏う七天。抑止の輪より来たれ――天秤の守り手よ!!
――
黄金の突風がアロイジウスの周りを吹き荒れたかと思えば、アロイジウスの服装は天衣無縫を体現したかのような白無垢の衣装に変わり、髪型はセミショートヘアだったはずが踵まで届くほどの長いロングヘアへと変貌していた。
「僕様と戦おうって言うんだね? わかるともッ!」
くるりと空中で一回転、地表に向けられていた脳天を天蓋へと反転させると、飛ぶ鳥を落とす勢いで飛翔し、ズーハオの立つ山頂に再び降り立つ。ズーハオは拳法の構えを取っており、彼を取り囲む宝石のひとつひとつから眩い光が放たれていた。
「トオサカの鉱石魔術……その応用、か。――でも、僕様には勝てないね!」
ズーハオの回し蹴りを回避し、空中で静止したアロイジウスが掌をズーハオに向けると、虚空に金色の波紋が広がり、そこから数十本もの先端に鏃が取り付けられた鎖が射出され、ズーハオを貫かんと襲い掛かった。
そのことごとくを軽々と躱して見せ、一瞬でアロイジウスの眼下にまで迫ると、手中にて眩い光を放つ宝石を握り締めた拳を振り被り、跳躍して思い切り彼女の左頬を殴り飛ばす。
「っぁぐ――っ! 女の子の顔は殴るなってお母さんに教わらなかったのかい!?」
「ハ! 自分を刺し殺そうとしてくる女の顔面には高質量の
「それはなかなかアグレッシブなお母さんだねぇ! 反抗期とかなかったでしょ! ――あーいてて、
続け様に飛び掛かってくるズーハオをなんとか英霊の速度で避けていくアロイジウスの耳に、遠くから爆発音が飛び込んでくる。
「お、メイジーの奴も頑張ってくれてるみたいだな?」
「アーチャーめ、来ないと思ったらたった一騎に手こずっているのか……。」
「うちのメイジーを見くびらない方がいい! あいつの経戦能力はそんじょそこらのバーサーカーに比べて格段に高い!」
「……。」
堂々と自身のサーヴァントの特徴を暴露するアロイジウスに呆れたような表情を見せるズーハオは、再び宝石を握り締めてアロイジウスの懐に入り込む。しかしそれを視覚で捕捉したアロイジウスはニヤッと笑って両掌を地面に叩きつける。直後、ズーハオの五体は地表から召喚された黄金の鎖に捕縛され、肘ひとつ動かせなくなってしまった。
しかしその鎖をすべて力任せに引き千切り、再びアロイジウスに殴りかかる。
「嘘だろッ!? 紛い物とはいえ『天の鎖』だぞ!!?」
「お生憎と
しかしその拳がアロイジウスの顔面パーツを擂り潰す一拍直前、高らかな女性の声がどこからともなく聞こえてきた。
「ちょっとちょっと! そこら辺にしときなさいな!」
聞こえるや否や、その声の主は突如二人の間に割って入り、両者を押し退けて距離を取らせた。そこへもうひとつ、声が近付いてくる。
「ハサンさん、ナイスです!」
息を切らしながら走ってきたその青年は、見るからにズーハオと同じアジア人だった。見慣れない服装に身を包み、右手の甲には盾のような形の令呪が赤く輝いている。
「待ってくれ、今は戦ってるときじゃない!」
青年はその場で膝に手を当て、身を屈めて息を整える。
「……誰だ貴様。」
「あー……っと、そうだね、俺の名前が先だ。」
黒髪の青年は顔を上げ、
「俺は
藤丸立香、そう名乗る青年が乱入してきた時点で、ズーハオの姿はどこにもなくなっていた。アロイジウスは同じく撤退したズーハオのサーヴァントを深追いすることもなく戻ってきたメイジー共々藤丸の話を聞くことにした。
「……それで、リツカ? って言ったよね。君はどっちなのさ。」
「どっち……?」
「アインツベルンか、リグセンルールか! それとも第三勢力? 『グランツ・レルヒェ』って連中か?」
「え、えーっとね。」
その時、藤丸の左腕に装着されていたリングから少女の声がした。
『先輩はそのいずれにも属しません。私たちは人理継続保障機関カルデアの人間です。』
「通信技術? 随分と贅沢なものを持ってるんだね、お前。それに……人理継続……なんだって?」
『人理継続保障機関カルデア。過去の特異点を修復し、人類史を修復するのが目的です。申し遅れました、私はマシュ・キリエライト。そちらにいるマスター・リツカのサーヴァントで、今は諸事情によりサポート役に徹しています。』
「いきなりいろんなことをまくし立てないでくれたまえ! あぁもう……なんだって? つまり君は、君たちは……この世界が特異点だってことを知っているのか?」
「君も知っているの!?」
意外そうに声を大きくする藤丸に、アロイジウスもやや面食らったように一歩引きさがる。
「あ、あぁ……。そのことを直感している友人がいてね。今は真相について調査中で、今いたあの中華系のマスターがそれについて何か知っている可能性があったから交渉に来ていたんだが……君のせいで台無しだよ。」
「あっ……ごめん。」
「別にいいさ、それよりも君たちはこの世界について何を知っている? できれば、君たちがこの世界を『特異点』だと言う根拠を教えてくれ。僕様は基本的に性善説推しだ。君たちを端から疑うような真似はできればしたくない。あー……。僕様はアロイジウス・アナスタージウス・アーレルスマイアー。こっちは僕様の契約サーヴァントのメイジー。バーサーカーだ。」
メイジーがぺこりと頭を下げるのを見てつられて頭を下げる藤丸の左腕から、またもマシュという少女の声がする。
『アーレルスマイアー……アインツベルンとは対立関係にある一流の家系であると記憶しています。』
「うんまぁ。僕様は落ちこぼれの末子だけどね。」
『この世界が特異点であると説明するのは少々長くなってしまうかと思われます。どこか安全な地帯はありますか?』
「……アオバかなぁ。」
「アオバ?」
「僕様の大兄上が召喚したサーヴァントの宝具。でもすまない、さすがにそこまで案内することはできない。だからここでいい、そこの岩にでも腰かけてくれ。メイジー、お茶の用意を。」
「はぁい!」
メイジーがケープの内側からガラガラと様々な器具を取り出し、その場で紅茶を淹れ始める。驚いた様子の藤丸に対し、アロイジウスは意識を戻すように少し大きめの声で話を続けた。
「……それで! 僕様たちの世界が特異点だって事実を明確に自覚しているんだ。それ相応の理由があるんだよね?」
「あっ……うん! 俺はとある存在の顕現を確認してこの時代にレイシフトしてきた。今はこうしてはぐれサーヴァントのハサンさんと仮契約を結んで護衛してもらってるんだ。」
ハサンと呼ばれた金髪碧眼の女性サーヴァントは微笑んでドレスの裾を摘まむ仕草の挨拶をして見せる。勿論、彼女はスカートではなくズボンを履いていた。
「ふぅん……とある存在。」
訝しげにメイジーが手渡したマグカップの紅茶をすするアロイジウスに、藤丸は同様にメイジーからマグカップを受け取りながら疑う素振りすら見せずにそれを飲み、それについて言及する。
「……『魔神柱』。既にすべての個体の機能停止が確認されたはずのその人類悪の存在が、この特異点から検出されたんだ。」