真名:???
性別:女性
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:A 幸運:D 魔力:A+ 宝具:C++
スキル:対魔力C+、心眼(偽)B、魔力放出D、カリスマEなど
宝具:『???』
魔神柱。藤丸の口から出て来た言葉に、アロイジウスは首を捻る。
「説明は長くなるんだけど、そいつがいるとその特異点は完全に人類史……本来の世界の歴史とは隔離された異世界になってしまうんだ。そうなると人類史がめちゃくちゃになってしまう。本来あるべきものがなくなってしまったり、なかったものがあるようになってしまったり。そういうことが起きてしまうんだ。」
簡単に口頭で説明すると、藤丸は再び紅茶を一口飲む。
「おいしいお茶だね。」
あっけらかんとした表情で感想を述べる藤丸に、アロイジウスとメイジーは顔を見合わせた。
「信じられません。人から出された飲み物を何の躊躇も無く口に含むなんて。それも二回。メイジーなら絶対その場で捨てます。」
「だって、君たちに俺を殺す理由はないでしょ?」
「――甘い。」
怪訝な目でアロイジウスは呟く。アロイジウスとて一般的な魔術師や魔術使いに比べれば能天気な部類に入るとは自負しているが、それでも見ず知らずの魔術師に出された茶を素直に飲むような真似はしないだろう。
だが目の前に座るこの男は、仮にもサーヴァントがいる身にも関わらず傍に立つハサンに毒見をさせることもなく飲み込んでしまった。余程のお人好しか、頭のネジがいくらか吹き飛んだ狂人か、あるいはその両者か。
「で、その魔神柱ってやつがどこにいるのかはわかっているのかい?」
「それが全然……。」
そう言って藤丸は項垂れる。
「反応は確認したんだけど、それらしい高濃度の魔力も今のところ検出できてないし……。」
『申し訳ありません、先輩。スキャンの半径をもう少し広げてみますが、相応に時間はかかってしまいます……。』
「いや、マシュのせいじゃないよ。気にしないで。」
「……情報を知ってそうな奴なら、さっきまでいたんだがね。」
「あっ……。」
ごめん、と即座に頭を下げる藤丸。そこで会話は途切れてしまい、アロイジウスと藤丸は十数秒ほど黙りこくってしまう。そのやや重い空気を打ち破ったのは、ハサンの朗らかな声だった。
「あら、それじゃあ私がその子を探してこよっか?」
「できるんですか、ハサンさん?」
藤丸の問いに、ハサンは景気よく肯定する。
「えぇ! これでもアサシンだもの、情報収集と敵情偵察はお手の物よ!」
そう言い残すと、ハサンは袖の中からワイヤーのようなものを射出し、それを眼下の樹木に打ち込むと、ワイヤーを巻き取る勢いに乗ってその場から素早く姿を消してしまった。
「……街にでも、降りるかい。」
ルーラーは確かにズーハオが上海にいることを口にしていたが、その時点で上海にいたというだけ。アロイジウスは上海から去ってしまったズーハオを追いかけて遠路はるばる丘西県まで来ていた。
陸路にして上海から六百キロメートル。メイジーの宝具を用いれば三時間と掛からずに到着できるとはいえ、やや気の遠くなる旅路だった。
そして今、再びアロイジウスは藤丸を連れて上海の地を踏んでいた。
「う~ん! やはり高層ビル群は見ていて気持ちが良いっ! あぁ……気持ちが晴れ晴れする……僕様はやっぱり都会派だ……!」
『アロイジウスさんのテンションがあからさまに急上昇しています……!』
黄浦江を望む黄浦公園、その川縁のフェンスにもたれかかり、東方明珠電視塔を眺めながらうっとりするアロイジウスを見た藤丸は、先ほどまでの不機嫌そうな態度とは正反対のその表情に驚きを隠せない様子だった。
「……でもわかるなぁ。新宿とかルルハワとか都会には何度も行ったけど、どこもある意味異質だったからさ。こうやって何の変哲もない、普通の人たちが普通に生活している大都会とか見ると……何だか変な気持ちになるよ。」
『はい。ウルクやローマなど、市民の皆さんが幸福に暮らす文明も私たちは目にしてきましたが、こんな風に二十一世紀の平和な大都市を見るのは初めてだと思います。』
そうして一行がのんびりと黄浦江の流れを眺めていると、やがて遠くからアロイジウスを呼ぶ声がした。
「おーい! アロー!」
「盟友!」
ぱっと顔を上げ、満面の笑みで駆け寄ってきたゾーエとハグを交わすアロイジウス。
「そっちはどうだった? 収穫はあった?」
「だめだ、このフジマルとか言う妙なヤツのせいでジャン・ズーハオは逃がしてしまったよ。」
「あぁ、彼が……。」
ゾーエは藤丸に気が付くと、彼に近付いて握手を求めた。
「初めまして、リツカ・フジマルさん。私はゾーエ・モクレール。この命の聖杯戦争に参加するマスターのひとりです。」
「うん、初めまして。ご存知の通り俺は藤丸立香。この特異点の調査に来た人類最後のマスターです。」
「人類最後の、ねぇ……。アロー、こんな人本当に信用していいの?」
「僕様の直感が告げてる! この男は嘘が吐けない!」
「それはそれでどうかと思うけど。」
そんなやり取りをしていると、また一人その場に向かってくる人影があった。その場にいる数万の人間の誰に怪しまれることも無く、まるで海鳥がフェンスの上に降り立ったかのような自然な動作で手摺の上に着地したハサンは、ズーハオについて報告を行う。
「ズーハオも上海に来てるみたいね。居場所までは掴めなかったけど、一緒に行動してる別のマスターに合流しに来たみたい。」
「こちらが密偵を放っているのも察知済み……と、考えた方が無難だろうね。」
アロイジウスの意見に、ゾーエも首肯する。
「あとは政宗公が首尾よくやってくれているのを期待するばかり……。――ッ!」
次の瞬間、アロイジウスは咄嗟にゾーエと藤丸を押し退けて前へ出た。反射神経の赴くままに腕を伸ばすと、そこへ凄まじい速度で落下してきた何者かの踵落としがめり込む。バキッ、と鈍く音が響き、アロイジウスの腕の関節がひとつ増えてしまう。
「があああっ!」
「アロー!」
「アロイジウス!」
「気安く呼び捨てしてるんじゃないぞっ……フジマル!」
汗をだらだらと額から流し、自らの『
ズーハオであることは予想できていた。ズーハオが冷静だが短気であることは山頂でのやりとりで何となく察していたため、ハサンを偵察に向かわせた時点でズーハオ自らこちらにやってくることはアロイジウスにも容易に想像できていた。唯一想定外なのは、ズーハオが正気を失っている事だった。
「フ、ウ、ウウウゥゥ――ッ……!!」
猛獣のような吐息を吐き出し、焦点の合わない瞳でこちらを睨みつけるズーハオ。そんな彼を見て何かを察した様子のゾーエが、緊迫した声音でアロイジウスに頼み込む。
「アロー! 今すぐマサムネさんをアオバに引き戻して!!」
「盟友!?」
「早くっ!」
その表情に、アロイジウスは言われるがまま通信機を取り出してその向こうにいる人物に政宗を青葉へ帰投させるよう伝えた。
「盟友、なんだって言うんだ、彼は一体……!?」
「あれは魔術回路の暴走。私のナイフで刺された被験者と同じ症状が出てる! 症状レベルは……まぁ、私って人に自分の研究をプレゼンしたことはないけど、最高レベルの
「フ、盟友は優秀だな! 僕様戦闘鍛錬はしていたが魔術の研究なんかびたもしてなかったぞ!」
「自慢すること!?」
背後で一般人の避難誘導をしている藤丸とハサンにその場を任され、ゾーエとアロイジウスは涎をだらだらと垂らし、血走った眼で今にも飛び掛からんと前傾姿勢を取るズーハオと対峙する。
「……なるほど。つまり、人間の生身でサーヴァントを憑依させたような、それに酷似した状態になっているわけだな、盟友?」
「うん。サーヴァント憑依ほど負担は大きくないけど、長時間このままだと致死率はどんどん上昇していくよ。」
「……メイジー! これの相手はお前じゃ強すぎる! お前はズーハオがこうなった原因を探してこい!」
「シャルルも、メイジーの援護をお願い!」
メイジーは元気よく、ダルタニャンは無言ながら真摯な表情でそれぞれのマスターの元を離れ、藤丸とハサンに頼んで両名と共にズーハオの仲間を捜索に向かった。
「……盟友、いいのか?」
「もちろん! シャルルのことは信じてるし――何より、『盟友』を独りにできないよ!」
不意な一言に、アロイジウスは目を丸くして硬直する。しかしすぐに頬を緩め、満面の笑顔でズーハオの方に向き直った。
「獣性に堕ちた魔術師なれど、トオサカの血を引く者ならば今再び名を名乗らせてもらおう! 我が名はアロイジウス・アナスタージウス・アーレルスマイアー! アーレルスマイアー家当主、ランベルト・ランプレヒト・アーレルスマイアーの末妹である!!」
「えっ、何そういうノリ!? え、えーっと……わ、我が名はゾーエ・モクレール! モクレール家当主プロスペール・モクレールが末子である!」
理性を失っている人間に対して大見得を切ったところで何の意味もない。事実、ズーハオはゾーエの名乗りが終わるか否かといった時点で既にアロイジウスに飛び掛かっていた。
「グアアアアァァァッッ!!!」
喉を焼き切らんばかりに轟々と吼え猛るズーハオの蹴撃は、いとも容易くアロイジウスの臓腑を擂り潰し、数十メートル後方へ吹き飛ばしてしまった。
「アロー!」
「僕様に構うなァ! 盟友は自衛に専念しろ! クソッ、見事に肺が破れてる……! 輝け、僕様の『
アメジストの瞳によって全身の治療が完了し、すぐさまにゾーエの元に駆け寄る。ゾーエはなんとか生身ながらズーハオの攻撃から逃げきれており、目立った外傷もない様子だった。
「盟友、下がれ! ――盟友はあの状態を元に戻せるか!?」
「えっ!? う、うん。相手の魔力が一番滞留してる場所に私のナイフを刺せば魔術回路のオーバーヒートを冷却することはできると思う……!」
「わかった! 僕様が機を作り出す! 彼の魔力が溜まっている場所と言えば……拳か足だな!」
「そんなところにナイフ刺したらそれこそ死んじゃうよ!」
「何とかなる! いや、する!」
ズーハオの武術を既の距離で躱していき、反撃のチャンスを伺うアロイジウス。しかし、サーヴァントと同等の戦闘力、継戦能力を得たズーハオの前にそんなチャンスは中々訪れず、アロイジウスは徐々に腹が煮えくり返ってきた。
そしてとうとう、ズーハオの頭部に自らの頭蓋骨の損傷も顧みないような頭突きをかまし、ふらふらと数歩後退してしまった。
「アロー!?」
「ええい、まどろっこしい! そっちがサーヴァントになるなら僕様だってサーヴァントになってやる!
ポケットから三つのチェス駒のようなピースを抜き出し、自らの頭上へと高く投げ上げる。チェス駒が炸裂すると同時に三色の砂のような物質がアロイジウスを取り囲んでいった。
「――行くぞッ! 『