真名:アロイジウス・A・アーレルスマイアー
性別:女性
筋力:C+ 耐久:C 敏捷:A 幸運:D 魔力:A+ 宝具:C++
スキル:対魔力C+、心眼(偽)B、魔力放出D、カリスマE、輝ける瞳A、夢幻模倣A+、無為の武窮C、狂気Eなど
宝具:『試験式真人類模造宝具(フォア・イーデルファンタスマ)』
→どの逸話でも、どの生涯でも、どこの誰でもない。たったひとつの、『アロイジウス』というオリジナルから生み出される槍の一突き。彼女の癒しの魔眼が生み出す魔力をブーストに煌めく刃は、あらゆる呪縛や魔術を打ち破り、ただ眼前に在るモノを穿つ一撃と化す。
どこかで見たような気もするし、初めて見るような気もする。曖昧であやふやで漠然とした、既視感と未知感が混在する鎧姿となったアロイジウスは、手にしたこれもまた誰かの所有物のような槍を両手に握り締め、キッとズーハオを睨みつける。
「アロー……!」
「すまない盟友、話しかけないでくれ! 気を乱すと一瞬で解除されるんだ……!!」
見ればアロイジウスの額からは大量の汗が滝のように流れ出ていた。しきりに一定間隔で呼吸を続け、カッティングされたアメジストのように輝く瞳にはありありと魔術刻印が浮かび上がっている。一種の魔力炉の役割を果たしている魔眼の熱量がひどく加速しているのだ。
「さぁ……さぁ……! 来いよ、サーヴァントの成り損ない! 同じ成り損ない同士
アロイジウスの不敵な微笑に煽られるがまま、目前にて息を荒げる猛獣はアロイジウス目掛けてその拳を引き絞り、懐の内側へと即座に滑り込む。
その拳撃が自身に捻じ込まれるより疾く、アロイジウスの膝蹴りがズーハオの鳩尾に食い込む。やや宙へ浮いたその身体を回し蹴りで吹き飛ばし、アロイジウスは真っ青になった顔で高らかに叫ぶ。
「――ロックンロオォーール、だぜっチョンキー!!」
メイジーとダルタニャンが先行していたハサンと藤丸の元に駆け付けてみれば、そこには上半身と下半身が無惨に切断された若いアジア人男性の死体が転がっていた。
「……感心だな。惨死体を見ても反吐ひとつ吐かないか。」
「残念ながら、見慣れちゃったからね。」
ダルタニャンはそんな藤丸に何とも言えない視線を送るが、藤丸はぱちん、と自らの頬を両手で叩き、検死を行っていたハサンの隣にしゃがみこむ。
「ハサンさん、何かわかりますか?」
「えぇ、これでもハサンの名を戴く者だもの!」
「フジマル様、死体の検分でしたらメイジーも得手としています。任せていただけますか?」
「うん、お願い!」
笑顔でそう言うと、藤丸は再度立ち上がり、ダルタニャンの傍まで下がった。幾分かはまだ顔面も蒼白であったが、それを押し殺す気概が藤丸からは感じ取れた。
「……誰も知らない大偉業、か。」
ぽつりとこぼしたダルタニャンの言葉に、藤丸は呆けたような反応を示す。
「え?」
「いや……私とは真逆だ。……私は皆がよく知る偉業を……私だけが知らない。」
「そういえば、あなたのお名前を聞いていませんでしたね。真名は……流石に教えてもらえませんか。」
「……シャルル・ド・バツ・カステルモール。セイバーのサーヴァントだ。人からは……ダルタニャンと。呼ばれている。」
「シャルル・ド……?」
困惑した様子の藤丸の腕輪から、再びマシュと名乗った少女の声が聞こえてくる。
『シャルル・ド・バツ・カステルモール。通称ダルタニャン伯爵。アレクサンドル・デュマの小説、「三銃士」の主人公ダルタニャンのモデルとされている人物ですね。』
「『三銃士』のお話は少しだけ知ってますよ!」
「そうか。……私は知らない。」
「えっ……?」
ダルタニャンは細々と語り出す。自分は『三銃士』の『ダルタニャン』とは別人であること、しかし人々が自分のことを『ダルタニャン』として認識しているがために、『ダルタニャン』の力を備え持ってしまっているということ。自分自身は知りもしない物語の知りもしない登場人物と同一視されてしまい困惑していること――。
「……ゾーエはそれでも……
それを聞いた藤丸は優しい笑顔をダルタニャンに向ける。
「大丈夫ですよ。あなたのことを疎んじているのなら、ゾーエは伯爵にこっちを任せたりなんかしないはずです。」
「……そう、なのか。」
「はい!」
自信満々に、藤丸は首肯してみせる。
「――伯爵は信じてほしいですか? ゾーエに、伯爵自身のこと。」
「私……は……。」
逡巡している様子のダルタニャンの苦悩を感じ取ったのか、藤丸は彼の回答を待たずに口を開く。
「俺は信じてます。たとえこの特異点で初めて出会ったハサンさんであっても、アロイジウスやゾーエ、メイジーちゃんに……そして、伯爵であっても。」
「……それはあまりにも甘い、のではないか?」
「そうかもしれません。でも、俺は信じていたい。みんなが俺を信じて、背中を押してくれたように。最後まで諦めないで、俺に手を伸ばしてくれたように。甘くても、弱くても。俺は……そう
そうこうしていると、純白のエプロンを返り血で真っ赤に染め上げたメイジーが、ぐしょぐしょに濡れたそのエプロンで無意味に血液塗れの手を拭きながら二人の元へと歩み寄ってくる。
「死因はショック死です。どうも骨盤から背骨を引き抜くように上半身と下半身を過剰な斥力で牽引され、真っ二つになってしまったようですね!」
「その引っ張る力っていうのは、魔術? それともサーヴァントの仕業?」
「後者だと思うわ。」
それに答えたのはハサンだった。
「側腹部と尾骶骨付近に鬱血痕があったわ。大きな手で握られて引き千切られたんだと思う。」
「惨い……。」
悲しそうに俯くメイジーの頭を撫で、藤丸は腕輪の向こうの少女に向かって問い掛けた。
「そっちで何かわからない?」
すると腕輪から聞こえてきたのは先程までのマシュのそれではなく、自身に満ち溢れた若い女性の声だった。
『はいは~い、ちょっと待ってね。こっちで今確認を取ってるところだよ! その特異点は限りなく
「さっすがダ・ヴィンチちゃん!」
『うんうん、聞き飽きたがもっと褒めてくれて良いんだよ! 減るものじゃないのだからね!』
「ダ・ヴィンチ? ダ・ヴィンチってあのレオナルド・ダ・ヴィンチのこと!? ダ・ヴィンチって女性だったの?」
ハサンの吃驚の発言を声の主、藤丸が『ダ・ヴィンチ』と呼称したその女性は肯定する。対して藤丸は何とも形容しがたい微妙な顔を浮かべていたが、ダ・ヴィンチが放った一言で再び表情を引き締める。
『……うん。解析完了、彼はロン・ハオレン。アインツベルンの派閥に属していた二百年程度の新参魔術家ハオレンの当主――と、こっちの記録ではなっているね。』
「イリヤちゃんの……?」
『ん~ん、彼女はまた違う世界のアインツベルンさ。はぁ、ややこしい。それとひとつ不可解な点があった。』
「不可解な点、ですか?」
藤丸の疑問に答えたのは、死体検分を行っていたメイジーとハサンだった。二人はぴったりと息を合わせて同じ文言を口にする。
「「魔術回路がない。」」
『その通り。魔術回路の存在がないんだ。二百年続く魔術の家系だと言うのに、一本残らず失われている。抜き取られたのか、それとも……。』
「魔術回路を抜き取る、なんて可能なんですか?」
「可能ですよ。メイジーもやろうと思えばできます。」
メイジーが満面の笑顔で拳を胸の前でぎゅっと握り締めると、二の腕まで手袋のように塗れた紅血がびちゃ、と周囲に飛び散る。その返り血をいくらか浴びながら、またも藤丸の顔は徐々に青ざめてしまう。
「私は勿論できないわよ、そんなこと。」
「……私もそのような芸当は不可能だ。」
「一部の優れたサーヴァント級の魔術を行使する人間しかできない、ってことか……。」
『何にせ、恐らく彼を殺害した人間と川辺で暴れている青年を操っている人間は同一人物だろう。ロン・ハオレンが催眠魔術に長けていたという記録はない。勿論、特異点のハオレン氏がそちらの方面に優れていたという可能性もあるわけだから、あくまで仮説、だけどね。』
「うん、ありがとうダ・ヴィンチちゃん!」
ダ・ヴィンチの声は藤丸の感謝の言葉を受け取ると、「それじゃあ私は調整の方に戻るよ~」と言い残して遠ざかって行った。
「……そもそも、このハオレンという魔術師と川辺の青年は接点があるのか?」
「わからないけど、あるって考えた方が色々と辻褄が合わない? そもそもサーヴァント絡みの事件が同時多発的にこの上海で起きているのよ。妥当――っていうのも安直かもしれないけれど、私は少なくともこの人とあの子は仲間だったんじゃないかって考えているわよ。」
「……。」
「何にせよ、川辺で暴れ回るあの青年を拷問すればわかることです。」
一行は頷き合い、その場から離れてアロイジウスやゾーエが戦闘を行っている黄浦公園へ向けて踵を返す。その直後、ハサンが口にした比喩に、ダルタニャンは血相を変えて叱責した。
「それにしてもあの子、すごい発狂っぷりだったわねぇ。まるで――
「――馬鹿者ッ!!」
しかし、時既に遅く。
「お、お――か、み?」
「えっ、えっ? 何、私何かまずいことしちゃった!?」
「おおかみ。おおかみ。おおかみ。オオカミ。オオカミ。狼……? ソオカ、アイツガ、オオカミダッタノカ――……!!!」
次の瞬間、一陣の風が吹き荒れる。かと思えばメイジーの姿は忽然と消えており、後には彼女のエプロンや四肢を染め上げていた血液が点々と残っているのみだった。
「……いや、いやいやいや! 『赤いケープ』に『狼って言ったらキレる』って! そのまんますぎるじゃない! ド直球すぎて逆に警戒してなかったわよ!」
「過ぎたことはもう良い! フジマル、私の腕に掴まれ! それと口は閉じていろ、舌を噛むぞ!」
有無を言わせず藤丸を抱え上げ、サーヴァントが出せる最高速度でメイジーを追走するダルタニャン。ハサンも取り残されまいと袖の中のワイヤーフックを用いて屋根から屋根へと飛び移って行く。
――それは、避けようのない怒涛だった。アロイジウスが気付いた時には既に、アロイジウスの腹部には大口径の猟銃によってぽっかりと大きな風穴が空いていた。
「え――。」
マスターであるアロイジウスには彼女が何故ああなっているかの見当はおおよそついていた。メイジーは自分以外の誰かが一言でも「狼」と口にすれば、一瞬でバーサーカー特有の狂化を見せる。そうなってしまえば最後、メイジーは周囲にあるすべての人間――たとえ相手がアロイジウスであっても、すべての人間を抹殺するまで止まらない殺戮人形と成り果てる。
執拗にズーハオを狙うのは、ズーハオが何者かによって「狼」と形容されたからだろう。その際に進路上にいた
「クソッ、ゾーエ、距離を取れ!」
「でもアロー、あなたお腹がドーナツになってる!」
「ハッ、冗談言えるならまだ余裕あるだろう! 僕様を信じろ、距離を取るんだ!」
ゾーエが言われた通りにアロイジウスを壁にするように後退するのを確認すると、アロイジウスは眼窩に宿った『
その瞬間アロイジウスの全身から力が抜け、彼女はその場に盛大に倒れ込んでしまう。
「アロー!」
ゾーエの悲痛な叫びを無視し、アロイジウスはゆっくり、ゆっくりと倒れたまま右手の令呪をメイジーへと向けていく。腕をびたとでも広げれば激痛が奔り、その度に顔を歪める。だがアロイジウスは諦めずにメイジーへと手を伸ばした。
メイジーがもはや動かなくなったズーハオに留めのプラスキーをその頭蓋に叩きこもうとした瞬間、アロイジウスは血反吐交じりに彼女の真名を叫んだ。
「令呪を以て命ずる! 止まれ、『ブランシェット』!! お前の敵はそいつじゃあない!!」