真名:ハサン・サッバーハ
性別:女性
筋力:D+ 耐久:D 敏捷:A+ 幸運:A 魔力:D 宝具:C
スキル:気配遮断A+、道具作成A、単独行動B、騎乗D、専科百般E+、無辜の怪物B+、自己改造C+++など
宝具:『骸想骨骼(ザバーニーヤ)』
→瞬間的に自己改造スキルをEXにまで引き上げ、自身に残された唯一の『身体中に様々な絡繰機械を装着していた』という逸話を誇大解釈することで、蒸気と歯車によって構成された巨人へと変貌を遂げる対砦宝具。アサシンって何だ。
「セイバー! 艦長から通信だ、コーニッシュは現在アロイジウスの兄さんと交戦中! キャスターの方はルーラーが抑えてくれているらしい!」
「わかりました、では我々はこのままこちらのオスマンの海賊を――いいえ、クロウ!」
クロウが標識を振り回す手を止めてセイバーが指し示した方向を見ると、先程までいたはずのウルージとハイレッディン姉妹の姿がどこにもなくなっていた。だが、捜索に回る余裕はない。そうこうしている間も間断なく半透明の海賊たちと、どこからともなく溢れ出て来た生ける死者たちがクロウとセイバーに襲い掛かってくる。
「クソッ、あいつらどこ行った!」
「そりゃあ聖杯の出現ポイントだろうさ。コーニッシュの護衛に向かったってのもあり得るねぇ。」
そう意地悪気に笑いながら二人を包囲する軍勢を蹴散らしつつ現れたのは、別の区域でコーニッシュ捜索を行っていたアロイジウスとそのサーヴァント、バーサーカー・メイジーことブランシェットだった。
「僕様もやることができた。残念ながら加勢することはできない。でも君たちにも成すべきことことがあるだろ? 行けよ、ここはメイジーにやらせよう。」
「はい! メイジーにお任せください!」
朗らかな笑顔で物騒な凶器をケープの中からゴロゴロと取り出すと、空中へ飛びあがり、器用にくるくると舞いながら大軍を殺戮し始めるメイジー。
茫然とするクロウの背を叩き、その場を離れるよう促すアロイジウス。クロウはメイジーに礼を言って、セイバー共々テムズ川沿いにコーニッシュを捜しに向かった。そんな彼らの背中を見つめながら、
「――はい。生き延びなさい、マスター。そして小さな王様と、哀れな鴉さん。生き残ることに貪欲に。生き抜く事に純粋に。だって、生き着いたヒトだけが、死んでいった人々の尊厳を、誇りを伝えることができるんです。生きて、生きて、生きて。死にたくなるほど生きて。生き永らえて。その先で皆さんが目にするだろう景色を護るのが、メイジーの。ブランシェットのお役目ですから。」
沈みかける満月を見つめるブランシェットの首に、唐突にざくりとサーベルが突き刺さる。それを起点に、海賊たちが次々に手にした剣を小さなブランシェットの体躯に突き立てていく。
しかし、それでも。既に致死量の出血を、見るも無残に臓腑が漏れ出でても。ブランシェットの瞳に映る満月は、きらきらとテムズの川面に天の川を作り出す。顎も、細める瞼も失われた顔面で、ブランシェットは明るく笑う。
「おぉ、おお! 月は出ている! 我が瞳に、人々の心に! 嗚呼、凶狼よ、我が内なる魔獣よ、咆吼えよ! 我が悲運に! 我が幸運に! 今喚び起こすは黒き森の惨劇! ウ、ウ、ウゥウ!」
やがて、ブランシェットの頭部からはイヌ科の耳介が、臀部からは同じくイヌ科の尻尾が皮膚を突き破って現出し始める。牙は細く鋭利に、爪は禍々しく尖り。
「――ウウゥウウアアァ!! アアアアアァァァァッッ!!! 『
即ち。かつて魔狼に捕食された際に赤ずきんが飲乾した、かの魔獣の血液の活性化。視界に在る生命を限界を超えて捕食し続ける人狼へと己を変貌させる宝具であった。
「騎士王とクロウはアーレルスマイアー当主たちがいる場所へ向かった! アロイジウスは時計塔の方向へ……あいつゾーエの援護をするつもりか!? 魔術師ひとりで!?」
ロンドンシティ上空、ノイエ・グラーフZ。そのブリッジで、ジャクリーンは仲間たちの状況を細かくチェックしていた。
「ルーラーは敵キャスターと未だ交戦中……でもやばい、ルーラーの霊基もズタボロだ! フジマルは敵のアサシンと戦ってる……そうか、あいつのサーヴァントはあいつの近くにいないと活動できないから……!」
「フジマルくんのことはハサンに任せておけ。ルーラーは恐らく……間に合わないだろう。ここから砲撃をすれば周辺住宅にも被害が出かねない。アーレルスマイアー当主たちのバイタルも弱まってきている。……正直、劣勢と言わざるを得ないな。何より……。」
"Z"ことツェッペリンは、ロンドンシティ中に溢れ返った魔力反応を見ながら溜息を吐く。
「この氾濫が何よりの問題点だな。」
「……こうなったらおれもっ!」
「やめておきなさい。」
逸るジャクリーンを止める声がひとつ。雲雀のキャスターだった。ブリッジの入り口にいつの間にか立っていた雲雀のキャスターは、脂汗を滲ませるジャクリーンの肩に手を置き、静かに語る。
「君が彼らの加勢に向かいたい気持ちもわかりますが、君には君にしかできないことがあるんです。それは艦長のマスターとして、この場で皆に指令を飛ばし続けること。君が敵の位置を教えてくれるからこそ、彼らは万全な状態でこの決戦に対することができているのですよ。」
「おれにしかできないこと……。」
ジャクリーンは唇を噛み、窓の外の戦場をじっと見つめながら、小さな声で不安を口にする。
「……ずっと、期待されてなかった。役立たずで、魔術回路も貧弱で……。だから見返してやろうと思ったんだ。誰にも負けない、おれだけの偉業を成し遂げてやるって。……結局、おれひとりの力じゃ何もできなかった。けど、でも……。」
"Z"と雲雀のキャスターの呆れたような笑顔を交互に見て、ジャクリーンは決意に満ちた宣言を行う。
「……わかった。おれはこの場所で、この船の上で、
次の瞬間、船体が大きく振動する。"Z"がエンジンルームに駐在しているラグーンに事態を問うと、どうやら迷彩フィールドを張っているはずのノイエ・グラーフZへ地上から砲撃を行っているサーヴァントがいるらしい。
「あの姉妹だ――!」
ジャクリーンが察するが早いか、ブリッジの天井付近に設けられたラウンジから、一人の青年が飛び降りてくる。
「ハンス!?」
「ジャック、露払いは俺がするさ! お前は真っ直ぐ前だけ見てな! ――世話になったな、姐さん。またどっかで会おうぜ!」
そうとだけ言って盛大にウインクし、ハンスはブリッジを後にする。呆気に取られるジャクリーンを置いて、ハンスは格納庫へと去って行ってしまった。
十数分後にジャクリーンが目にしたのは、地上にいるサーヴァントからの集中砲火を浴びながら特攻を仕掛ける爆撃機の姿だった。
「そんな! もっと他の方法があっただろっ!? 無駄に死ぬ必要なんか……!」
「いいや、あれが最適解だ。基本的にハンスは我が艦を主とする野良サーヴァント。雲雀のセイバー並の強力な神性や魔力を有していない時点で宝具も使用できない塵同然の英霊だったのだよ。」
「そんなっ……!」
「それに、見たまえマスター。」
"Z"が指差す先を窓に張り付いて見下ろしてみれば、爆撃機がちょうど轟音を上げて爆発するところだった。それはテムズの水上であり、住宅街には一切の被害を出していなかった。それどころか、ロンドンシティ内にうじゃうじゃと溢れ返っていた半透明の海賊軍の姿が見る見る間に消えて行っていた。
「……無駄ではないのだよ。」
「ハンス……っ!」
涙をこぼして俯くジャクリーンの隣で、"Z"も軍帽のつばをぐっと押し下げて顔を隠す。しかしすぐに顔を上げ、ジャクリーンが吃驚して後ずさるほどの大声で自らの左腕に巻かれた赤、黒、黄の色調の腕章を右の拳で強く叩き、叫んだ。
「ジーク・ハイル! おぉ、我らが祖国の英霊に栄光あれ! ――ジーク・ハイル!!」
勝利万歳、と。
頭上で透明化している艦艇から通信が入る。我ら劣勢である、と。敵サーヴァントも数体ほど討伐できているが、それでも劣勢に変わりなし、と。
「……ハサンさん、お世話になりました。後は任せてください!」
黒靄のサーヴァントと相打ちになって消えて行った名も無き山の翁に礼を言って、少年はその先へ進む。
「伊達公、魔眼の少女の元へ行くのだ! まだそなたには猶予がある!」
「おうともよ――ッ!」
麻布を纏っただけの剣士に言われ、足を動かす度に黄金色の粒が爪先から昇り始める肉体に鞭うち、伊達男もそこへ向かって走り出す。
「ぜっ、たいに、行かせる、もの、か……! お前に、最期の、祝福、を――! 『
完全に消滅する最後の一瞬に、裁定者は宝具を使用する。何が起きたのかを自身のカラダに問い掛けるも、幼女の魔性の肉体は何も答えない。薄く嘲笑し、幼女は同胞の元へと飛び立つ。
そして、ここでもまた一騎、退場しかけているサーヴァントがいた。
「……まだ、続けるのかね。」
「続けるとも!」
「シャルル……っ!」
左腕とマスケットは既に消失。右側腹部にも大穴が空き、締め忘れた蛇口のように血液が溢れ落ちている。一歩動くのも一苦労といった状態ながら、それでもダルタニャンは前へ進む。ふらふらと、されど確実に、マーシャルの方へと。
「まだ、死んでいない! 私は、俺は死んでいない! ならばこの身はゾーエの、マスターの盾であり剣だ! 依然、変わりなく!」
「いいや、もうすぐお主は死ぬ。見えておらんのか。その身から漏れつつある黄金の砂が。」
そう、ダルタニャンの身体からも、サーヴァントが英霊の座へと還る際に肉体を魔力へ還元する黄金の粒が無慈悲に止めどなく天へと立ち上っていたのだ。
「――まだだ!!」
「然様、か。」
マーシャルは彼の勇猛に敬意を表すように一度手にした馬上槍を胸の前で掲げ、瞳を閉じると、すぐにレイピアを引き絞るダルタニャンの心臓へそれを深々と突き刺した。
「げほっ――!」
喀血。しかしダルタニャンは止まらない。
「これで……貴様は、逃げられないな!!」
「なにっ!?」
瞬間、ダルタニャンのレイピアが蒼く輝く。それは、本来ならばシャルル・ド・バツ=カステルモールをモデルとした『ある人物』が持つはずの宝具。だが、彼もまたダルタニャンであるがゆえに所持することを許された文字通りの幻想の一撃。
霊核を貫いた槍を引き抜くことを傷口の筋肉で阻み、そこにできた一瞬の隙を突く。
「『
それは、霊基を維持するために回していた魔力すらをも刃に乗せた決死の剣閃。視覚も、聴覚も、嗅覚も、味覚も、触覚も、霊感も、全身の筋力すらをも遮断し、その分の魔力を一突きに込めた『ダルタニャン』という名のレイピア。
低級とはいえ、英霊一騎分の魔力は容易くマーシャルの左上半身を抉り砕いて見せた。だが、それは渾身の絶技であると同時に、霊基の保存を放棄した最期の勇気。既にダルタニャンの肉体は半分以上が魔力に還元されてしまっていた。
「シャルル……!」
名を呼ぶことしかできなくなったゾーエに、ダルタニャンは最後の力を振り絞って振り向き。
「わら、え、マス……タ――、」
言い終える前に、セイバー、ダルタニャンは完全に消滅してしまった。一振りのレイピアを遺して。