真名:ハワード・フィリップス・ラヴクラフト[オルタ]
性別:女性
筋力:E 耐久:D 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:EX+ 宝具:EX
スキル:陣地作成C、道具作成B+、領域外の生命EX++、神性A+、生前存在証明C++、獣の権能E、単独顕現D、ネガ・リテンションA
宝具:『???』
自分にマスターがいないことは、召喚された時点でわかっていた。
いや、マスターがいないという表現は少々語弊がある。マスターと呼ぶべき存在は確かに在った。しかしそれが知性を持つ生命体などではなく、人類が種の存続のために破滅回避を望む集合無意識抑止力『アラヤ』であると。それによってカウンター召喚された存在こそが自分であると、この時代に降り立った瞬間には判明していた。
「……さて。」
私は自らに課せられた使命を果たさねばならない。前回は『神霊の召喚』――アーチャー、イシュタルの現界を以て抑止力が私を選出したが、今回は違う。
「グランドクラスが召喚されたと言えど、私にも責務はあるからな……。」
イシュタルを召喚しても自意識から暴走することなく、人理を守護せんと力を振るったイシュタルのマスター、ジャン・ズーハオの行いにより、私は目的を『神霊の排斥』から『人類悪の幼生の排除』へと切り替えた。
ならば、それを果たさねば。
「……。」
さて、
今度こそ私は私の意志で、
「ビースト……っていうのは、ボクの知ってるあのビーストで合ってるんだよね、テラくん?」
「うん。人類から生じ、人類を滅ぼそうとする、人類が滅ぼすべき悪性霊基。ハワード……オルタは、七つある人類悪のどれにも属さないビースト[-]。七つの座のいずれかが失われれば即座に空席になったそこへ収まることができるビーストの幼体。」
ふたたびエンパイアステートビルのガーゴイル像付近。地上には警察が集結してしまっているため、テラの提案によって比較的安全であると思われるここへと一行は戻ってきていた。
「それにしては何だかチョロかったような……。」
ランサーの素直な感想に、テラは少し哀しそうな面持ちでその真相を語る。
「あの子はオルタになってから自尊心が増しちゃったからね。外の神々の力を保持する自分が矮小な地球如きのサーヴァントに後れを取るはずがない――っていう、驕りだよ。それがあの子に多くの油断を与えてる。」
それに、とテラは続ける。
「もうひとつ、霊基の面でもあの子は弱体化している。」
「ビーストが弱体化するほどの何かを施されたと言うのか?」
ズーハオの問いに頷くテラ。
「『
「……どれほど吠えようと、彼女も地球生まれ地球育ちのサーヴァント、ってことか。そんな単純な宝具が適用されちゃうんだもん。」
考え込むランサーがふと自らのマスターの方を振り向くと、ズーハオはいつも通りの無表情のまま摩天楼の夜景を眺めていた。しかしランサーには何となく察することができる。
「――……。」
ズーハオは今まで、『トオサカの血を引く者として、トオサカの現当主に認めてもらいたい』という一心でこの命の聖杯戦争に参加してきていた。それが多くの出会いと別れを経て、とうとう人類悪と対峙するまでに到達してしまった。あまりにもイレギュラー、想定外どころではない。
「ズーちゃん。」
故に、根の素直なズーハオは困惑しているのでは、と。ランサーは危惧していた。たとえ面に出さずとも、真面目で優しい我がマスターは戸惑っているのでは、と。
「……!」
だからこそ、その表情には驚きを隠せなかった。ランサーに名を呼ばれ、その目をまっすぐに見つめるズーハオの表情は――微笑んでいた。普段仏頂面しか見せない彼が、笑顔を浮かべていたのだ。
「――漠然としていた。御当主に認めてもらいたいと、建前のような理由付けでここまで我武者羅に走り続けていたが、結局のところオレは自分が戦う理由がわからなかった。」
「嗚呼……。」
ようやくそこに辿り着けたんだね、とランサーはひとり胸を撫で下ろす。
「つまり、戦う理由など本当はいらなかった。聖杯戦争の生還者だとか、勝利者だとか、栄誉、称号、誉れある戦い……。何もいらなかった。コーニッシュやビーストと戦って何となくわかった。」
それは、十年前に遠坂家の現当主が自らのサーヴァントに言い放った一言。そして、かつてゾーエが偶然にもサーヴァントを召喚してしまい、思い悩んでいたところを救ってくれたたった一言の単純な『理由』。
「――そこに戦うべき相手がいるから、だ。ランサー。」
「うん。人類が乗り越えるべき悪……大丈夫、ボクらなら倒せるよ、マスター!」
そのやり取りを、テラは巣立ちする雛鳥を見守るような目で眩しそうに見つめていた。
ゾーエはと言えば、悔しそうに俯くばかりだった。そんなゾーエの背中を、テラが優しく叩いて何かを促す。ゾーエはテラの顔を見下ろし、そこからしばらく瞳を閉じて迷っている様子だったが、唇を真一文字に結び、ズーハオを呼び止める。
「っ、ねぇ!」
振り向くズーハオに対し、ゾーエは言葉が詰まってしまう。しかし右手の甲に触れ、一息吐いて尋ねる。
「私も……一緒について行っていい?」
ズーハオは何も言わずに再び仏頂面に戻り、じっとゾーエを見つめている。
「私……もうサーヴァントもいないし、魔術師としての素養もないエルメロイ教室の生徒だけど……。アラフォーになっても魔術師としてはダメダメなウェイバー先生にも劣らないダメダメ魔術師だけど……。まぁでも私はあそこまで不愛想じゃないし、グレイさんにしたって……じゃなくて!」
途中から教えを乞うている元ロード・エルメロイの愚痴になってしまっていたのを飲み込み、ゾーエは一生懸命にズーハオへ訴えかける。
「私は任されたの! 私だけの銃士に……私だけの王子様に! だから、だからどうか、私もビーストと戦いたい! ううん、正面切って戦わなくてもいい、君のサポートがしたい!」
「……フン。」
その懇願を、ズーハオは冷たく一笑に付す。そしてランサーを引き連れ、屋内へと入っていった。ランサーがズーハオの前を歩き、テラがそれに追従していく。
哀しそうな表情で棒立ちになっているゾーエに対し、ズーハオは静かに問うた。
「……行かないのか。」
「えっ……?」
「ズーちゃん、テラくん先に行っちゃったよー? 早く行こ!」
まるで、当たり前のように。それが当然の帰結であるかのように。ズーハオは立ち尽くすゾーエを置いて非常階段の扉の向こうへと去っていく。ドアを開けていたランサーに飛び跳ねながら笑顔で手招きされ、ようやくゾーエは状況を理解する。
思わず躓きそうになる勢いでゾーエはランサーの横を通り抜け、階段を駆け下りてズーハオの背に追いついた。
「現状、勝算はあるのか?」
「ない、って言った方が余計な期待をしないで済むと思うくらいには、低いかな。」
非常階段をひたすらに下りながら、一行は会話を続ける。最前にテラ、それに続いてズーハオとゾーエ、最後尾にランサーが殿を務める形で、一列になって歩いていく。
「テラ、グランドクラスであるお前が居ても、なのか?」
「うん。基本的にあの子はまだ未熟なビーストだし、更に弱体化もしているけれど、あの子の魔力源は外宇宙だ。対してぼくはぼく、つまり地球の中で生成できるだけの魔力しか扱えない。」
「
ゾーエの質問に、テラは首をひねりながらやや否定する。
「う~ん、少し違うかな。ぼくは炉であり永久機関だ。でもそれはひとつの星を運営するだけの性能しかない。でもハワード・オルタは違うんだ。あの子は反転したことで、より外宇宙の神々の権能と深く接続してしまった。結果として得たのが、父と呼ばれている神の神性。つまり――多元宇宙を生成、確立、運営、廃棄できるだけの魔力リソースだ。やろうと思えばあの子は……
あまりにも突拍子のないその発言に、一同は黙り込んでしまう。その静寂を破ったのは、ランサーのおずおずとした問いだった。
「じゃ、じゃあ……ボクらはどうすれば勝てるのかな。」
「ふふ……それは君たちの輝かしい歴史が証明してるでしょ?」
意地悪気に微笑み、テラは再び何も答えなくなってしまった。
「……仲間を集めろ、ってこと……?」
「その通りだよゾーエ! 個としての人間は凄くちっぽけで、正直野生動物の方が強いけどね。でも、手を取り合って協力すれば、どんな困難だって打破できる生命体だってことは、誰よりもぼくがよく知ってるさ!」
その言葉に、今度はズーハオに訊ねるゾーエ。
「ズーハオ、君は誰か頼れる知り合いとかいる?」
「いない。」
即答であった。
「魔術師に群体としての強さなど必要ない。それにオレは武術を修める者。個人としての強度を何より重要視する人間だ。知り合いや友人などといった手合いはひとりもいない。」
「……私はいるけどね。」
「それは貴様が弱いだけだ。だが、事ここに至っては、その弱さがオレたちを助けるかもしれない。強ければ良い、というものでもないのやも知れんな……。」
ズーハオにばれないよう、ゾーエに向かってサムズアップするランサーにやや戸惑いながらも、ゾーエは携帯電話を取り出す。
「エルメロイ教室の友達なら、何人か心当たりがあるけど……。一番協力してくれそうなのはこの子かな……。ねぇズーハオ、ランサー。」
ゾーエは携帯電話に記録された連絡先を何件か当たりながら、二人に対して問いかける。
「今からドイツに行く準備、できる?」
数日後、ドイツはネルトリンゲンの外縁に佇む一軒の宝石商の元へと、一行は訪れていた。
「いらっしゃいませモクレールお嬢様、お話は伺っております。」
店内に入った途端、整った身なりをしたバトラーに深々と頭を下げられ、店の奥へと通される。そこにあったのは、一基のエレベーターだった。
「……魔力式だ。」
霊体化もせず、当世風の女性用ファッションに身を包んだランサーが言い当てた通り、そのエレベーターの動力は魔力であった。
バトラーの先導でエレベーターに乗り込み、ずんずんと地下へと降りて行く。数分間の長い道程を経てエレベーターの扉が開くと、そこには巨大な空間が広がっていた。
地下だというのに視線を上げればそこには煌めく太陽と蒼穹が広がり、踏みしめる床は完全な土と草であった。涼やかな風が頬を撫で、小川のせせらぎが耳に心地良い。そんな大自然の中に、ぽつんとその人物は立っていた。
「いらっしゃいゾーエ、エルマも待ち侘びていましてよ。」
「おはようございますアーレルスマイアーさん。いきなりお伺いしてすみません。」
「いいのよ、こうしてずっと地下に籠っているのも退屈だもの。」
純白のドレスにつば広の帽子を深く被ったその淑女は、ズーハオとランサーの姿へ視線を移すと、二人について確認する。
「貴方たちがズーハオさんにランサーさんですね?」
「あぁ。オレはジャン・ズーハオ。ランサーのマスターだ。」
名乗りを上げるズーハオに、女性はドレスの裾を摘まんで礼をし、自らの名を名乗った。
「わたくしは『フロレンツィア・フランツィスカ・アーレルスマイアー』。アーレルスマイアー家の現当主にございますわ。どうか、わたくしのことはフローラとお呼びくださいまし?」