Fate/GravePatron   作:和泉キョーカ

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◆ルーラー
真名:エイブラハム・ストーカー
性別:女性
筋力:A 耐久:D 敏捷:A 魔力:B+ 幸運:C+ 宝具:A++
スキル:陣地作成C、道具作成C、鬼種崇拝B+、対魔力A+、真名看破EX、神明裁決E、狂化EX、戦闘続行C、混沌の執筆者A+
宝具:『極刑王(カズィクル・ベイ)』
→エイブラハム・ストーカー、すなわちブラム・ストーカーが崇拝し、心酔した悪魔の王、ヴラド・ツェペシュ三世が持つ宝具と同様の物。魔力によって生成された無数の鉄杭を空中以外のあらゆる場所から突出させる宝具。


変動への反乱 ①

 様々な場所を走ってきた。フランス、ローマ、オケアノス、ロンドン、北米、エルサレム、メソポタミア、新宿、アガルタ、下総、セイレム。

 様々な想いを受け継いできた。ロシア、北欧、秦、インド、アトランティスやオリュンポス。そうして、俺たちは何処でもない何処かへと飛んでいく。すべては俺たちの歴史と未来を簒奪するために。

「亜種並行世界へのレイシフト成功を確認しました、マスター!」

「……うん。早く見つけ出そう、マシュ!」

 ――今、二人の少年少女が並行世界から訪れる。人理を保障する機関のマスターとそのサーヴァントとして。人類史を守ってきた名も功績もなき英雄として。

 

 はぁ、というレイラの大溜息が部屋中に響き渡る。理解されないことはクロウにもわかりきっていた。徐々に不機嫌さを増していく傍らのセイバーをなだめながら、クロウは更に言葉を続ける。

「――俺たちが本当に倒すべき敵はそのキャスターなんだ。お前、そいつに会ったことがあるんだろ?」

「……えぇ、あるわよ。ニューヨークに行ってモクレールのお嬢さんに停戦協定を取り付けようとした時に、ちょっとだけね。でも、マスターに引っ付いてじっとしてるだけで、特に脅威性は感じられなかったけど……。」

「違う、そのマスターもサーヴァントなんだ。ロバート・E・コーニッシュ。」

「コーニッシュ? 死者復活を目指したあの医学者? ……やっぱり信じられないわ、わたくしには貴方の気が触れたとしか……。」

「いい加減にしろ、さもなくばその口に剣を突っ込んで頭蓋を吹き飛ばすぞ!」

 とうとう怒り心頭といった様子でソファから立ち上がり、右手に嵐を顕現させるセイバー。それをなんとか抑えつけるクロウに代わり、それまで沈黙を貫いていたボドヴィッドの隣でニヤニヤと笑っていたアサシンが代弁する。

「嬢ちゃん、そこの青二才(ヌーボリアレ)……じゃねぇな。クロウが言ってることは全部本当だぜ。死と吹雪の使い魔たるあたいが保証しようじゃあないか。」

「……。」

 しばらくレイラは黙り込んでいたが、背後で蠢動する黒い靄――バーサーカーがそっと彼女の頬に触れると、レイラはそれを宥めるように撫で、大丈夫よ、と囁く。

「――わかったわ。今は何も情報がないのだもの、眉唾な話でも乗ってみなくちゃね。それよりも先に解決すべき問題点があるけど……。」

 レイラは再び溜息を吐くとソファから腰を上げ、応接間のドアを慎重に開く。その先には、壁も床も諸共に崩壊した屋敷の姿があった。

「この部屋にだけ結界を張ったんだもの、結界の外はそうなるわよね……。」

「なんだなんだァ? こいつぁあのシスターさんの仕業なのか?」

 煙草を咥えながら、レイラの頭上から部屋の外を覗き込むボドヴィッド。レイラはその問いに首肯し、部屋のドアを閉める。

「少し、あの尼僧の話をしましょうか。」

 そう言ってレイラが語り出したのは、ある一騎のサーヴァントの来歴であった。

 

 もう百年以上前の話よ。アインツベルン本家はある一人の英霊を召喚したわ。真名はエイブラハム・ストーカー。キャスターのクラスをあてがわれたサーヴァントだった。

 貴方たちは興味もないだろうけど、前回の命の聖杯戦争の勝者はアインツベルンだったのよ。それもストーカーの陣営が勝ったの。ストーカーが願ったのは受肉。肉体の入手だったと聞いているわ。そして、そのマスターが望んだことは、ストーカーの霊基を『裁定者』にすること。

 結果的に()はキャスターからルーラーへと変貌し、聖杯戦争を管理する側になった。これにより、命の聖杯戦争がよりアインツベルンに有利に動くようにしたってこと。でもその願望は公に開示されることはなかった。それもそうよね、堂々と聖杯を使ってまで百年後のルール違反を犯してるんだもの。

 それでストーカーの身柄は聖堂教会に引き渡され、あの子は『プラム・コトミネ』として新たな人生を歩み出した。代々様々な代行者の養子となることでね。すべては、当世の命の聖杯戦争にアインツベルン陣営として干渉するため。

 

「聖杯戦争の監視役たる聖堂教会がそんな横暴、許したのか?」

「いいえ、だから目的は彼らにも明かされなかった。」

「私も亜種聖杯戦争の記録を読み込んだだけだからあんまわからんが、やっぱりアインツベルンってのはろくなことをしないな。」

 ボドヴィッドの所感に悔しそうに唇を噛み、黙り込んでしまうレイラ。

「――だからこそ、わたくしはこの戦争を終わらせたい。いいえ、わたくしが目指す道はたったひとつよ……!」

 次にレイラの口から放たれた宣言は、その場にいた全員を驚愕させるに足る衝撃的な内容だった。

「すなわち、命の聖杯の破壊!! これ以上命の聖杯戦争を繰り返さないための、根本からの措置よ!」

「いいねぇ、そういう無茶無謀なこと平気でやろうとする若者、あたいは好きだぜ嬢ちゃん!」

「――私はクソ嫌いですね。」

 声がした、と同時に、クロウの目の前で様々な出来事が同時に発生する。

 いつの間にか部屋のドアの前に立っていたシスター・プラムが、レイラ目掛けて突撃してくる。その音速にすら届きかねない掌底がレイラの頭蓋を圧し潰さんと迫った瞬間、レイラを取り囲んでいた靄が実体化し、巨大な細身の怪物となってその攻撃を防ぎ、鉤爪を以て反撃を試みる。それすらも難なく躱し、飛び上がって後方へ距離を取るプラム。彼女が着地したところで、ようやくクロウは事態を飲み込むことができた。

「シスター!?」

「はい、聖堂教会より派遣されました、代行者にして監督役、プラム・コトミネですよ。いいえ――もう偽る必要は無いのでしたか。はい。ルーラー、『エイブラハム・ストーカー』。受肉にあたって女性の体を得ました。いやぁ、一度なってみたかったんですよね、女性。」

「ルーラー、あなたマンハッタンに向かったんじゃないの!?」

「はい、向かいました。ですが時既に遅く。世界は反転してしまった。ですので反転が収まった時点で引き返してきたのです。」

「世界の反転を知覚できているのか……!」

 クロウの反応にニコリと微笑み、プラムは再度三組のマスターとサーヴァントを相手取らんと八極の構えをとる。セイバーも甲冑を身に纏い、バーサーカーもグルグルと唸りながらいつでも襲い掛かることのできる態勢になる。

 しかし、アサシンだけが匂いを嗅ぐような仕草をしながら首をあらゆる角度に捻っていた。

「……おい、なんか焦げ臭いぞ。」

 そう、アサシンが進言した瞬間。

「――『灼き滅ちる黄金劇場(ブルチャート・ドムス・アウレア)』アアァッッ!!!」

 少女の高らかな真名解放の声と共に、応接間の四隅から灼熱の業火が巻き上がる。その火の壁は部屋を勢いよく炭化させながら、徐々に徐々に一同が集う中心へと迫り来ていた。

「上出来です、アヴェンジャー!」

「……世辞などいらぬ。撤退するぞ、ルーラー。」

 そう言って天井を突き破り、プラムの隣に降り立ったのは、クロウたちに戦闘を仕掛けてきた月桂冠を被る少女であった。プラムも月桂冠のサーヴァントの言葉に頷き、

「それでは皆さん、この程度で死んでしまわないようにお願いしますね? 貴方がたは是非とも私の手で殺したいので。」

 と告げ、常人とは思えぬ跳躍力で月桂冠のサーヴァント共々天井の穴から外界へと飛び出していく。その直後、穴は迫る火の手に呑まれ、使用不可となってしまった。

「どうしよう……バーサーカー、みんなを庇うことはできる!?」

「■■■■▪▪▪……!!」

 レイラの提案に、バーサーカーはその場の全員を包むように腕を広げ、ドーム状に覆いかぶさる。

 だがその時、どこからともなく――否、明確に床下から、しかし一切のくぐもりない少女の声が、クロウたちを呼ぶ。

「おまえたち! 衝撃に備えておけ!」

 瞬間、一同が立っていた床が消失し、なぜか夜空のように星が瞬く謎の空間へと放り出される。そして重力に引かれるまま、自由落下が始まった。頭上では落ちてきた穴がふさがっており、これもまた満天の星空が広がっていた。

 

 先に着地したセイバーに抱き留められ、クロウはようやく瞼を開く。そこはどうやら、列車の客室のようだった。辺りを見回せば、バーサーカーの方から滑り降りるレイラと、アサシンに俵のように担がれたまま失神しているボドヴィッドがいるのも確認できた。全員外傷はなく、無事なようだった。

「――よし、大丈夫みたいだな!」

 その声に振り向けば、そこにはオレンジ色のショートカットを持つ、セイバーよりも身長の低い少女が立っていた。それは確かに一行を困惑させたが、それよりもクロウにはその少女に見覚えがあった。

「ジャック……!?」

 それは、反転した世界の記憶。空を渡る島のような超巨大航空要塞を保有するライダーのマスター。『グランツ・レルヒェ』唯一のマスター。すなわち、ジャクリーン・リッジウェイであった。だが、それはクロウだけが知る記憶。こちらの世界においてジャクリーンとクロウは面識がない――はずであった。

 だが。

「あぁそうだ、久しぶりだな、クロウ!」

 明確に。ジャクリーンはクロウに対し、『久しぶり』と言い放った。

「知り合いなの、クロウさん?」

 レイラの問いかけも耳に入らないほど、クロウは困惑していた。

「なぜ……俺を知っている……? 俺とお前は、こっちの世界では……!」

「そうだな、こっちの世界じゃ接点も面識も何もないただのマスター同士だった。まぁ少し落ち着けよクロウ。おれのことより、お前たちはこの列車のことを知っておくべきなんじゃないか?」

「そうね。わたくしはレイラ・アダモーヴィチ・アインツベルン。貴方は?」

「おれはジャクリーン・リッジウェイ。ジャックって呼んでくれよ。よろしくな、レイラ!」

 互いに自己紹介と握手を交わし、ジャクリーンは両腕を広げて高らかに告げた。

「ようこそ! おれの相棒、ライダー『カロン・スチーブンソン』が生み出した宝具蒸気機関列車、『アケローン号』へ! 運賃のオボロス硬貨は特別にツケにしといてやるぜ!」

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