真名:カロン?
性別:女性
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:EX 幸運:C 宝具:EX
スキル:対魔力C、騎乗A+、陣地作成B、道具作成A、蒸気機関A、水先案内人C+、黄金律C、神性C+
宝具:『???』
防音仕様だというコンパートメント席の一室で、クロウとセイバーに向かい合うようにソファに腰かけ、ジャクリーンは窓の外に広がる無尽の星空を眺めながら、語り始めた。
「なぁクロウ、お前はあんな地獄を何回も何回も味わってきたんだな。」
「どういうことだ?」
「おれはな、あっちの世界……特異点で、おまえたちが成し遂げた偉業を見守ってた。その時に、雲雀のキャスターに言われたんだ。」
『ジャック、あなたはクロウの味方になるべきです。』
「味方……?」
首を傾げるクロウの顔に目を向けながら、ジャクリーンは足をぶらぶらと交互に振り、言葉を続ける。
「あぁ。おまえはきっと、この世界に戻った時に独りぼっちになる。それは交友関係って意味じゃないんだ。誰もおまえが踏み越えてきた想いを、誇りを知らない。信じることもできない。それは本当に……痛い、ことなんだ。」
「……。」
『彼が特異点へ記憶を保持したままやってこれた原因は、彼の蘇生能力にあると踏んでいます。ですので、これは賭けです。ジャック、あなたは……存在が
「一歩間違えれば、おれは
「アロイジウスが……?」
「……まぁ、そこをあまり掘り下げても今は仕方ねぇよ。」
ナイチンゲールがノイエ・グラーフZに保存されていた消滅しかけのとある薬剤師のサーヴァントの助力を得て作成した魔術式の仮死薬。それをあの暗転する世界と世界の狭間で死力を振り絞って服用したジャクリーンが目覚めた時、自分の中に二種類の記憶があることに気が付いた。
「つまり、世界が反転するまでのこっちの世界での記憶と、特異点での記憶の二種類。クロウ、おれはあんたと同類になったんだよ。」
「……そう、か。」
感慨はない。安堵も悲嘆もない。目の前の少女に抱く未知の感情、感傷は、クロウの中に痼のように滞留して渦巻く。呆然とした表情のままぼんやりとジャクリーンを見つめるクロウに、彼女は席を立ってそっと近寄る。
「なあ、おまえはもっと胸を張れよ。おまえは凄い奴なんだ。」
その頭を胸に抱き寄せ、赤子をあやすように何度もその濡れ羽のような髪を撫でるジャクリーン。
「だからおれも覚悟を決めた。おまえのことを心から信じることのできる味方でいるために、心臓も止めて、魂の火も吹き消して、あの真っ暗闇を耐え抜いた。」
「おい、まるで私がマスターのことを信じてやれない三流サーヴァントのような言種だな?」
横槍を入れるセイバーに目を丸くするジャクリーン。
「おまえ、クロウのやった事、知ってるのか?」
「あぁ。私はアルトリア・ペンドラゴン[レイヴン]。本来座するべきクラスは
「そうか、それは……うん。良かった。おれ以外にもクロウの心を守ってやれる奴がいるんだな。」
「あぁそうだ。私はクロウの心身を護る絶対の騎士だ。騎士の誓いは何があろうと破れない。」
「なんか俺がまるで誰かに守ってもらわないと立っていられない駄目な奴みたいだな……。」
そのクロウの発言に、ジャクリーンとセイバーが揃って「何を今更なことを」という視線でクロウを凝視した。
「え、俺そんなにダメ人間なの?」
「自覚がないのかマスター、貴様は少し踏み外せば一瞬で瓦解する精神性しか持ち合わせていない、小人の勇者だぞ。」
「おまえはおまえが思っているほど強い人間じゃないぞ?」
二人の少女に鋭い事実を突き付けられ、がっくりと項垂れるクロウ。ジャクリーンに頭を、セイバーに背中を撫でられながら、己のひ弱さをほんの少しだけ自覚するのであった。
「さて、このアケローン号はこれからおまえたちの拠点になる。アケローン号が進むのは
アケローン号の座席車両のひとつにレイラ、ボドヴィッド、クロウとそのサーヴァントたちを呼びつけたジャクリーンは、アケローン号について説明を始める。
「拠点って言ってるぐらいだからな、生活のすべてはこの列車で一通り完結できるようになってるぜ。食事、睡眠、娯楽、戦闘訓練もできる。ひとまず今は目的地を設定せずに走行してるけど、向かう場所が決まったらカロンに言ってくれよ。」
そう言ってジャクリーンは、自身の背後に控えていたひとりのサーヴァントを前へ出す。
車掌風の衣装に帽子を目深に被ったその少女は、ジャクリーンとほぼ同じほどの身長しかなく、戦闘力など皆無かのように思えた。そのサーヴァントが帽子を外し、全員を見上げた瞬間、レイラもクロウも、無気力な態度を一貫していたボドヴィッドですらも息を呑む。
「ライダー……。『カロン』。それが私の真名だ。」
オレンジ色のショートヘア。小柄な少女の肉体。それなりに整った目鼻立ち。その姿は、ジャクリーンと瓜二つ――否、ジャクリーンそのものであった。声すらもジャクリーンにやや似ている。ジャクリーンとの相違点は、その眼窩に宿る瞳がスカイブルーではなく超高温の業火を思わせる深蒼色であることだけだった。
「おれが本来召喚したサーヴァントは『鉄道の父』、ジョージ・スチーブンソンだったんだけどな。スチーブンソンだけじゃどうにも心許ねぇ。だから多重召喚で神霊であるカロンを喚び出して霊基をくっつけた。」
「そんな……それじゃあまりにも霊基が不安定になるはずよ!?」
「おうさ。だからおれの固有魔術である『
「サーヴァントの霊基を自分と同期したって言うの!? そんな、年端もいかない女の子がやっていい所業じゃ……!」
その発言に、ジャクリーンはむっとして反駁する。
「おれ、今年で十九なんだが!」
「俺より年上!?」
今年で十八歳を迎えるクロウに対してふんぞり返りながら、ジャクリーンは「話したいことはこれだけだ」と言って説明を終え、各自好きなようにしてほしいと全員を解散させる。
だが、再びコンパートメント車両へ戻ろうとするクロウを引き留めると、
「会わせたい奴らがいるんだ。」
とクロウの手を引き、三両あるコンパートメント車両を通り過ごし、その奥にある食堂車両へとクロウとセイバーを案内する。その複数あるテーブルのうちの一席に向かい合って腰かけ、焼き立てのパンを頬張っていたのは。
「先輩、あまり急いで食べると喉に詰まらせてしまいますよ!」
「んぐ、ごめんごめん。あんまりにもおいしくって。」
「フォウフォウ!」
二人の少年少女と、一匹の犬とも兎とも猫ともつかぬ未知の小型四足動物だった。そのうち、少女が立ち尽くすクロウに気が付き、向かいに座る少年に喚起する。彼が振り向いた時、クロウは驚愕する。たとえどれだけその面立ちに歴戦の悔悟と決意が刻まれていようとも、それは紛うことない知人の顔であった。
「あ、クロウ! 久しぶり!」
藤丸立香。最後に会ったのは『グランツ・レルヒェ』の居砦、ノイエ・グラーフZのブリッジであった。決戦に向かう数日間しか言葉を交わさなかったが、その時はこれほどまでに疲労と無理の色濃い表情はしていなかった。
「リツカ……お前なにが……?」
思わず日本語で問いかけるクロウに、藤丸も日本語で返す。
「えーっと、俺たちにとって君と会うのは一年ぶりくらいなんだけど……。」
「あぁそうか、お前たちは別の世界から来たんだったか……。」
「うん。今回は超特殊霊基の観測を元に来たんだけど……どうにも以前に来た時とはみんなの様子がおかしい気がするんだ。ジャック曰く、『おれとクロウ以外の人間はおまえを覚えちゃいない』らしいんだけど……。」
そこまでやり取りをしていた時、ジャクリーンが横から英語で割り込む。
「な、なぁ。何話してるかは知らねぇけどさ。英語で喋ってくれないか? おれ日本語わからないんだよ。」
「はい、先輩の母国語は理解していますが、会話を行うことは私にもまだ不可能ですので……どうか、英語を使用して頂けるとありがたいです。」
ジャクリーンと同様、困惑していることを伝えるのは、特異点で出会った藤丸の腕に巻かれていた機器からしきりに藤丸をサポートしていた声を持つ少女だった。
「そうか、あんたがマシュか。」
「あっ、はい! 面と向かってお会いするのは初めてでしたね、クロウさん。私は『マシュ・キリエライト』、藤丸立香先輩と契約しているデミ・サーヴァントです! こちらはフォウさんです。」
「ンキュ、フォウ!」
マシュは肩に乗る真白いふわふわの毛並みをもつ小型動物を紹介すると、セイバーの方へ目を向け、一瞬表情に緊張を走らせる。
「……オルタのようだ、と思わなかったか? 今。」
その心中を的確に言い当て、セイバーは自らの真名を名乗る。
「『彼女』のオルタ体と何があったかは知らん。だが私はアルトリア・ペンドラゴン[レイヴン]。決してオルタなどではない。」
「レイヴン……。もしかして、アーサー王の化身とされるオオガラスが霊基を得た姿、なのですか?」
「……よく知っているな。」
「恐縮です。」
一通りの自己紹介を終えると、クロウはジャクリーンの補足を受けながらも藤丸に特異点とこの世界の違いを説明する。剪定事象の一瞬が切り取られて特異点へと変貌した経緯も包み隠さず口にした。途中、ジャクリーンが「聞いてない」と唇を尖らせることはあったが、構わずクロウは洗いざらいすべてを語った。
「なるほど……それじゃあ、その特異点を生み出した原因だっていうあのキャスターを見つけ出せばいいんだね。」
「あぁ。だが見つけてどうするか、を先に考えるべきだと思うけどな。」
クロウの提案に黙り込んでしまう一同。それもそのはず、誰もキャスターの脅威性を瞬間的にしか目にしていないのだ。魔神柱と呼称される高次元的な存在へと変異する力を持っている程度の認識しかない。
頭を抱えて思索を巡らせるクロウの頬に、ぴたりと冷たい感触が伝わる。それへ目を向ければ、そこには瓶入りのコーラを二本携えたセイバーがにかっと笑い、その一本をクロウに差し出していた。その隣には、焼き立てのバゲットが山盛りに詰め込まれたバスケットを両手に持ったジャクリーンが笑顔を浮かべている。
「思い悩むのは後だ、マスター! 今はこうして再会できたことを喜び合うべきだろう?」
クロウは呆れたような溜息を洩らし、コーラ瓶を受け取り、藤丸にもそれを分け与える。
「そんじゃ、リツカ。」
「うん、クロウ!」
それぞれの異世界を駆ける名もなき英雄たちは、それぞれが手にした瓶を音高く衝突させ、その一瞬だけは確かに心から華々しく告げ合った。
「「乾杯!!!」」