真名:マシュ・キリエライト
性別:女性
筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:?
スキル:対魔力A、騎乗C、自陣防御C、憑依継承?、ブラックバレルB、アマルガムゴートDなど
宝具:『いまは脆き夢想の城(モールド・キャメロット)』
→盾の英霊は少女の内より去って行った。残された少女の手に握られる巨大な金属板はしかし、理想の城を夢想する。守りたいと願った誰かを護る、それだけのために。
ごぼ、と水泡が潰える音がする。瞼を開けば、そこにはひとりの剣士が立っていた。
『なにか、よう?』
剣士は口を開く。
「大切な誰かを守りたいからと、そんな姿に成り果てたのではないのか?」
『――……。』
「たとえそれが。」
たとえ、それが――。
『たとえ、ぼくさまの、ことを、おぼえて、いなくて、も……。』
「キャスターの居場所がわからない現状、追うべきはシスター・プラムなんじゃないか?」
「そうね、彼女はキャスターが何かをしようと画策した時瞬時に察知してマンハッタンへ飛ぼうとしていた。ルーラーを問い詰めればキャスターの居場所もわかるかもしれないわ。」
「そんな簡単にはいかないだろうがな……。」
アケローン号の座席車両の一席に向かい合って腰掛けながら、クロウとレイラは今後の方針について話し合っていた。クロウの傍らにはセイバーが座り、バーサーカーは黒靄となってレイラの周囲に滞空している。
「……そういえば、アサシンのマスターは?」
少しだけ腰を座席から持ち上げ、周囲を見渡すクロウ。しかし、周辺にボドヴィッドの姿はなかった。すると、クロウの背後の席に着席して何をするわけでもなくじっとしていたアサシンが口を開く。
「
思い返してみれば、ボドヴィッドはプラムの怪力によって腹部を貫通されていた。
「
「……彼には悪いことをしたわね……。本来、わたくしたちを殺しに来たのでしょうに。」
「あたいも
「そ。それは良かったわ。思ったよりも話が通じそう。」
それで、と。レイラは話題を戻す。即ち、プラムの所在について。とは言えど、心当たりがあるわけでもない。二人は揃いも揃って思考に詰まってしまった。そこへ、制服を身に纏ったジャクリーンのような風貌のライダー、カロンがまるで切符を確認する車掌のように座席の傍を横切る。
「……お客さんら、外の星が見えるかね。」
ふとカロンはクロウとレイラの座る席の横で立ち止まり、帽子のつばを目深に下ろしながら訊ねた。
「そりゃ、な。」
クロウが答えると、再びカロンは口を開く。
「そいつらは全部この星に生きる命の光だ。……そんじゃお客さん、下の星は見えるかね。」
クロウが窓から身を乗り出すと、確かに空中を走り続ける蒸気機関車の下方に広がる夜空にも、無数の星が瞬いていた。上空の星よりも数は少ないかもしれない。
「そいつらは死んでるくせに未だにこの星に居残ってる連中の光だ。私やお客さんらも含めてな。」
「……まさかあんた、サーヴァントの居所がわかるのか?」
「わからんよ。」
あっさりと、カロンはクロウの希望的観測を否定してしまう。
「だがね、それらしい光は追えるさ。特に、この世に縋ろうとする死者どもなんてそういやしないのだからな。特に強い執念だの魔力を持った光は明るく輝く。そら、二時の方向だ。あの深紅の一番星が見えるかね。」
言われた方角を覗き見れば、確かにそこには燦然と煌めく臙脂色の一番星が在った。他のどの星よりも眩いその星の輝きに目を細めながら、クロウはカロンに問い掛ける。
「あれが何だって言うんだ?」
「さぁな、わからんよ。」
再びの拒絶。
「だが臭いとは思わんかね? 見ればわかるだろう、もう星も残り少ない。その中でどれよりも光を放っているのだ。君たちが追って然るべき星ではあるまいかね。」
「そうね。たとえあれがルーラーたちでなくとも、接触する価値はありそうだわ。クロウ、どうかしら?」
レイラの提案に頷き、クロウは窓から首を引っ込める。
「良いと思うぜ。そんじゃカロン、あの星に向かって汽車を回してくれないか?」
「
帽子を被っていてもわかる口元を三日月状に吊り上げ、カロンは元来た通路を引き返していく。それと入れ違うように、ジャクリーンがクロウとレイラの元へやってくる。
「行先は決まったのか?」
「ええ。改めてありがとうございますわ、ジャックさん。」
「なんてこたねぇよ。もっと頼ってくれな!」
満面の笑顔で自身の胸をドンと叩くと、ジャクリーンは通路側に座るセイバーのクロウを挟んで反対側、窓側に腰を下ろす。
「……両手に花、ね?」
レイラの意地悪気な微笑に、らしくもなく頬を赤らめるクロウ。セイバーは騎士然と姿勢を正して目を閉じ、待機しているだけだったが、ジャクリーンはあからさまにクロウにぴったりと身を寄せる。
「おいジャック!」
「なんだよ、ただのスキンシップじゃねぇか?」
「……同じ痛みを知る人間同士、惹かれ合うものがあるのかもしれないわね。」
「馬鹿言え、俺はそういうことには……!」
ふと、視線を感じてクロウは左を向く。そこには変わらずセイバーが泰然自若と微動だにせずに座っていたが、その瞼はうっすらと開けられており、じっとクロウを見つめていた。
「な、なんだよセイバー。」
「……何もない。」
しかし、その口角は安堵とも嬉しさともつかぬ感情にほんの少し上がってしまっていた。同じような表情で黙りこくるレイラと、まるで子犬のように自分に抱き着くジャクリーンに困惑しながら、クロウは何もできないままその場で固まってしまうのだった。
コンパートメント車両の一室。ガチャンと高い音を立て、アサシンがドアを開けて個室の中へと入る。そこには、既に傷も完治したボドヴィッドが何をするでもなく、煙草をふかしながら座っていた。
「どうだったよ。」
「さてね。」
短くやり取りを交わすと、精神による会話に切り替える。
(――少なくとも奴らは事態を前進させる方向で団結している。今襲うのは愚策だぜ。)
(そんなことは百も承知だ。私が何のためにわざわざひとり逃げられる状態から奴らに同行したと思っている。)
(ハッ、あたいの
アサシンは首を振り振り、自らのマスターへ再び問う。
(なぁ
(……簡単だ、死神様。私がまだ生きているからだよ。生きて、戦場に立っているからだ。)
その答えに、アサシンは一瞬面食らったような表情を浮かべ、すぐに大声で呵々大笑する。
「あっはははは!! そいつぁいい、あたいが大好きな答えだ!」
「……。」
すぐに笑いを収め、ニヒルな笑顔を見せるアサシン。
(人間、生きてるだけで常在戦場。そして戦場に立つ以上、人は誰しもが兵士だ。兵士ならばそこにある戦争を生き抜く義務があるよなァ!)
(その通りだ。死神様、あんたあのセイバーを仕留めたいんだろ? ならば今は機を待つ時だ。背後から撃つにしてもタイミングが悪い。)
その時、コンパートメントのドアが再び開き、帽子で目元が見えないはずのカロンがまっすぐに二人を見つめて食事の時間を告げる。
「お客さんら、そろそろ現実世界は昼時だ。食堂車に食事を用意してあるから、食べるならさっさと食べな。」
そうとだけ言い残し、カロンはドアを閉めて去っていく。
(……あたいの鼻も潜り抜けて……。)
(カロンと言ったか? ステュクスの渡しなのだろう。冥界の遣いであるお前の特性もよく知っているんじゃないか?)
(あぁ……そういうことね。おい
(賛成だな。冥界の力を持つ死神様のアドバンテージが無くなっちゃ困る。)
二人は頷き合い、ボドヴィッドは再びソファに寝転び、アサシンはコンパートメントから抜け出した。
凄まじい振動と共に、蒸気機関車は現実世界に姿を現す。
「……なんじゃ、こりゃ。」
地理にしてアラブ首長国連邦、ドバイ近辺。クロウとセイバーが見上げる先には、超巨大な現代建築が天高くそびえたっていた。まるでひとつの家に上書きするようにまたひとつの家を増築し、またその上からもうひとつ家を増築、ただただそれを繰り返しているかのような造形のその超巨大建造物からは確かに膨大な魔力が検知される、とマシュは頷く。
「サーヴァントの手によるものか、魔術師の手によるものか……。」
「つーか寒いな……。」
サーヴァントであるセイバーは普段通りの革ジャン姿だったが、砂漠の夜は極寒である。クロウはロシアに赴いた際に身に着けていた防寒具を羽織り、建築物に近づく。その時、ふとクロウは気付く。
「あれ、ジャックはどうした?」
「ジャックなら礼装を忘れたって言って汽車に戻っていったよ。」
藤丸の報告に、クロウはただふぅん、と気に留める様子もなく流すだけだった。
足元に迫る血の海を前に感慨もなく、アサシンは霊体化してその場を去ろうとする。ジャクリーンの死はすぐにカロンにも伝播する。ジャクリーンの存在に霊基の維持を依存させているのならば猶更だ。
「よお、
外に居るボドヴィッドに事の次第を伝え、完全にその場から姿を消そうとする。
しかし。
「よお、
「――ッ!?」
そこには、カロンが立っていた。吃驚で霊体化を解いてしまい、アサシンの姿が顕わになる。
「カロン……マスターの生存に現界を委ねているはずのお前がどうしてまだそんな五体満足で……!」
「ははは、おいおいアサシン……じゃねぇな、カロン風に言うなら『お客さん』、か? よく
そう言って、カロンは帽子を外す。そこには、眼窩に青白い炎を宿したジャクリーンにそっくりな少女がいた。しかし、その炎がゆらゆらと消えていき、最終的に完全に鎮火すると、そこにはスカイブルーの眼球があった。
「――まさか!」
「まぁこういうこともあるとは思ったさ。」
制服を脱ぎ捨て、その場でいつも通りのハーフパンツとジャージに着替えるカロン――否、それは確かに『ジャクリーン』であった。
「お前、一体いつから……!」
「わからないってことは、スチーブンソンの中のカロンの力も弱くはないってことか。」
その一言で、アサシンは全てを察する。即ち、
「……マスター、失敗した。どうやら、あたいらには端からこいつらに反旗を翻す権利なんかなかったらしい――!」
「おれと意識を共有してたとはいえ、カロンの体でクロウに引っ付くのはやっぱワンクッション置いてるみたいで気分が悪かったからな。むしろ早い段階で『おれ』を殺そうと思ってくれて助かったぜ。」
言った途端、アサシンの足元に転がっていたジャクリーン――『カロン』の死体がむくりと起き上がる。
「……トゥオネラの白き
カロンの足下から青白い焔が巻き上がったかと思うと、カロンの姿は車掌服に帽子を目深に被ったジャクリーンのような姿へと変貌する。
「さ、行くぜアサシン。マスターもまだそう遠くにゃ行ってないんだろ?」
アサシンの背を叩き、ジャクリーンは先に列車を降りようと駆けだす。その背後から射殺しようと一瞬素早く腰の拳銃に手を回したアサシンの肩をポンと叩き、カロンもジャクリーンについて列車を降りていく。
「……は、はは。あれがマジモンの死神、か。」
アサシンは気の抜けた声で呟き、拳銃から手を放して乗降口へ歩みを始めた。その脳裏には、肩を叩かれた際にカロンの帽子から垣間見えた、冥府の業火がそのまま宿ったような冷たく恐ろしい蒼炎が焼き付いていた。