真名:???
性別:男性
筋力:A 耐久:A 敏捷:B 幸運:B 魔力:E 宝具:B++
スキル:対魔力C、騎乗C+、陣地作成D+、軍略A、カリスマC+、軍師の忠言B、鉄血A+など
宝具:『???』
フローラはゾーエとズーハオたちを手招きすると、丘を越え川を越え、一軒の東屋へと誘った。そこには青白い肌に青白い髪を持った少女と散切り頭の東洋人、そして威厳ある風貌の老軍人がティータイムを楽しんでいた。
青白い髪の少女はゾーエに気が付くと、ぱっと笑顔を見せて勢いよく立ち上がる。
「ゾーエ……!」
「久しぶり、エルマ!」
そのまま東屋に駆け込んだゾーエとハグを交わすも、貧血になったのか頭を抱えてまたその場に座り込んでしまう。ゾーエも申し訳なさそうに何度も謝罪の言葉を口にしながらその体を支えた。
「……あらため、まして。わたしは『エルメントラウト・エルメントルート・アーレルスマイアー』……アーレルスマイアー家の、次女、です……。どうぞ……エルマ、と……およびください。」
ぽつりぽつりと、呟くような小声で、エルマはズーハオとランサー、テラに対して自己紹介をする。バトラーに出された香り高い紅茶を口にしながら、ズーハオはその髪色について訊ねた。
「オレの聞いた限りでは、アーレルスマイアーは代々紫紺色の髪を持つとされているらしいんだがな。その寒々しい髪は何かの病か?」
「……はい。……わたしは、うまれつき体も、
「
しょんぼりと肩を落とすエルマを励ましながら、ゾーエは事の顛末をフローラとエルマに説明する。フローラもエルマも、怪訝な顔をするわけでもなく、真摯な姿勢でゾーエの言葉に耳を傾けていた。最後まで聞いた後も、二人はゾーエを疑うことはしなかった。
「……なるほど。それで協力者が欲しいのですね?」
「はい。アーレルスマイアーさんさえ許してくだされば、エルマを貸して頂きたいのですが……。」
「わたしの……いけん、は……きかないんだね。」
「あら、わたくしは構わないわよ? そんな神秘体験、あとでエルマの記憶から戦闘記録を抽出するのが楽しみですもの!」
「あねうえ……っ!」
ですが、とフローラは不満げなエルマを無視し、ズーハオに向かって言い放つ。
「まずはあなたのチームで唯一マスターを持つサーヴァントであるそこのランサーのお嬢さんの実力を見せてもらいますわ。その上でわたくしとわたくしのサーヴァントの両者を納得させられる結果を見せて頂ければ、こちらとしても安心してエルマを任せられます。」
フローラの背後で微動だにせず直立不動のまま控えていた厳格な目を持った老兵のサーヴァントがズーハオをギロリと睨む。それに臆することもなく、ズーハオはその場で立ち上がり、ひとつ武術式の礼をフローラとそのサーヴァントに行い、ランサーを引き連れて東屋を出る。
「エルマ、セイバーを出して差し上げなさい。」
「……わかった。」
エルマは渋々と、傍でつまらなさそうに東屋の天井の木目の本数を数えていた散切り頭に僧衣、大太刀を携えた東洋風の男に外へ出るよう命令し、僧衣の男もふたつ返事でひょこひょことランサーの前に立つ。その姿を見たランサーは、目を丸くして叫ぶ。
「き、キミは……いえ、あなた様は!」
「なぁに、儂を知ってるの? やぁねぇ、儂も有名人になっちゃったもんだよ。なに、もしかしてお嬢ちゃん、儂より後の世の御仁?」
「は、はい! 生まれは永禄八年、ランサーとして現界しました、森成利と申します!」
「ほっほー、森成利。うんうん、儂でも知ってるよ、蘭丸でしょ蘭丸。美少年剣士。儂美少年と美少女に目が無いのよねー! どう、あとでちょいと一献、付き合ってくんない?」
まるで僧衣を身に纏っているとは思えない俗物さで、男はランサーを酒の席に誘う。それを自らのマスター、エルマに鋭く叱責され、肩をすくめながら大太刀を握りしめる。
「儂ね、何でか説教のために持ってたこの太刀のせいでセイバーになっちゃったの。うん。君も勘付いてる通り、儂の真名は『一休宗純』。とんちの一休さんだよー。」
「おぉ……! 時代は違えども、同じ武士の世に生まれた者同士、一度お会いしてみたかったのです! しかし、あなたほどの高僧が何故サーヴァントなどに身をやつしておられるのです?」
「えー、儂の事高僧とか言っちゃう? 儂、酒は飲むし女は買うし博打は打つし、挙句の果てにゃ御仏の偶像を枕にしちゃう破戒僧よ?」
「しかしあなたの言葉には重みがあります! 風狂の中にも鋭く光る弁を世相へ宣う、それがボクの教えられた一休宗純の姿ですから!」
「やぁだ、照れちゃう。でもね、儂もやり残したことっちゅーの? 未練とかタラッタラタラバガニなのよ。それこそ聖杯とか割と真剣に欲しいの。儂の散華の台詞知ってる? 『死にたくねぇ』だよ?」
瞬間、ランサーは感じ取る。目の前の坊主から放たれる殺気を。すっと息を短く吸い込んだ刹那、ランサーの動体視力が一閃を捉えた。
単純な剣の腕ならば、恐らくランサーとして呼ばれた自分が振るう刀よりも劣るだろう。しかし、ランサーは未だに一休に対し一刃も届かせることは叶っていなかった。まるで、ランサーが振るう槍の挙動が、ランサーがその槍を振るう五手前から察知されているかのような。
「おいおい、虚仮脅しの木刀相手に骨断ちと謳われた名槍が泣くんじゃなぁい?」
そう、一休が振り回していたその大太刀は、刀身が堅木によって作られていた。だが、ランサーの持つ人間無骨を以てしても、その木刃にヒビを入れることすらできない。
「ぐっ……!」
飄々と笑い声をあげながら、一休は逃げ回るようにくるくると跳ねながらランサーの猛攻をすべて躱し、往なし、弾いて見せる。しかし、決して自分から攻めようとする素振りは見せない。文字通り、ランサーは試されていた。即ち、これは一休を力で負かすことが認められる条件ではない。
「そういう……ことかっ!」
「お。」
これは詰まるところ、一休とランサーの騙し合い。化かし合いなのだ。先の先を見据える一休の体勢を一瞬でも崩せば、ランサーの勝ちと言えるだろう。
ふぅ、と一息吐き、ランサーは姿勢を低く、すぐにでも早駆けできる状態へと腰を落とす。瞼を閉じ、精神を研ぎ澄まし、再度瞼を開くと同時に一休目掛けて疾風の如く襲い掛かる。
一休は不遜に笑ったままその攻撃を完全に読み切り、威力と勢いを相殺するように動く。そして、ランサーの思惑掌中にありと言わんばかりに、先の先を読む一休に対し後の先を取ろうとするそのランサーの動きすらをも流してしまう。
「こッ……のぉ!」
だが、それすらもランサーの予測通りであるかのように、ランサーは自身の攻撃を無効化させる動きを取った一休の体勢を利用して肉薄する。
「お?」
それは流石に予想していなかったらしく、一休の判断が一拍遅れる。しかし、それにすらすぐさまに対応し、ランサーの次の攻撃を往なす。だが、終わらない。それすらも。その次も。どれほど一休がランサーの猛攻を防ごうとも、まるでランサーは全ての動きが想定内かのような反応速度で一休の体捌きを利用した槍撃を繰り出した。
そして、ついに。
「――参った!」
ランサーの人間無骨は、一休の首筋を捉えた。ランサーはひどく消耗した様子で、槍を取り落とし、その場にへたり込んでしまう。荒い息遣いを整えながら、ズーハオに投げ渡された魔力の込められた宝石を両手に握り締めるランサーに対し、一休は訊ねる。
「お前さん、先の先も使えるの?」
「いえ、いいえ……。あなたの技術には遠く及びません……。ボクがやっていたのは、単なる真似事……剣を見らば剣の術、弓を見らば弓の術を学んだボクが、あの場で必死に紡いだ即興の『先の先』……。即ち、先の先とも見紛う超速の反射神経なのです。」
「ほぉー! そいつは凄い! 凄いよそれ! ねぇマスターちゃん、お姉さん、この子凄いよ!」
「そうね、随分と高くつきそうな演舞が見れましたわ。見ているこちらもついつい興奮しちゃった。」
にこにこと笑いながら紅茶を嗜むフローラと、鉄面皮を崩さないフローラのサーヴァント。両名に対し、ランサーは合格の是非を問う。
「えぇ! わたくしは文句なしの満点ですわ! セイバーは?」
「……マスターが認めるのならば、私にそれを否定する根拠は無い。」
「それじゃ意味がありませんわ! 貴方のご感想をお聞かせ願えませんこと?」
「……良い武人だ。成程日本のサムライというのは、いつ見ても一騎当千の覇気を持っている。」
まるで日本人と面識があるかのような口ぶりでランサーを称賛し、これで良いかと己が主人に確認するフローラのサーヴァント。フローラも満足そうに頷き、最後にようやくエルマに問うた。
「エルマはどうする? ゾーエについていきますか?」
「それ……いちばん、最初にきくべきこと……だよね……。」
エルマは溜息を吐きながら、おぼつかない足取りで立ち上がり、ゾーエの隣に立つ。その腕にしがみつきながら、エルマはにっこりと笑って肯定した。
「……うん。わたし、は……いいよ。ゾーエの、おねがい……だもの。」
「ありがと、エルマ!」
その青白い髪を撫でながら感謝の言葉を口にするゾーエ。親しげに互いを抱き寄せあう二人は、心の底から幸せそうであった。それを少し離れた場所から見守るテラの表情は、形容し難い微妙なモノに歪んでいたが。
時折ふらつく足をゾーエに支えられながら、手を振り振り、アーレルスマイアーの地下庭園を去っていくエルマを笑顔で見送るフローラに、彼女のサーヴァントは厳粛な語調で問い掛ける。
「……あの坊主、千里眼持ちだろう。」
「そうだったかしら。」
「マスター。」
鋭い眼光がフローラを見下ろす。
「もう、
「……『かわいい子には旅をさせよ』、か。」
「ええ! 大丈夫、どんな困難、どんな絶望が待ち受けていようと、あの大悟に至った僧が重い腰を上げたのです。きっと……大丈夫。」
「……。」
フローラのサーヴァントは、その時初めて表情を曇らせた。まるで実の娘が初めて旅に出るのを見送る父親のような顔であった。