真名:一休宗純
性別:男性
筋力:C+ 耐久:C+ 敏捷:A+ 幸運:A 魔力:A+ 宝具:A++
スキル:対魔力B、騎乗D、高速読経A、仕切り直しB、無漏路A、夜烏一喚A+、千里眼A、風狂A+、花は桜木A、とんちD、一休の諫言A、神性Cなど
宝具:『???』
とは言えど、それ以上の為すべき手段はズーハオ達には見当たらず、一行は「ひとまず」と移動したパリ市内で頭を抱えていた。そんな中、ぶらりと市街の散歩に出かけていたゾーエは、とある通りの途中で足を止める。
「あ……。」
「ゾーエ……?」
エルマがその視線の先にあるものを見れば、そこには大破した何らかの店舗が、規制テープの張り巡らされた状態で修理されていた。
「……騎士王のマスターさんと初めて遭った場所だ……。」
あの事件から、まだ数ヶ月程度しか経っていない。だというのに、ゾーエにはまるで、自分の年齢がもう一回り巡れるほどの時間が経過しているように思えた。
「不思議だなぁ……。ライダーと一緒にバカみたいに騒いで暴れまわってたのが、もうずぅっと昔みたい……。教会のシスターさんに怒られて、必死に逃げ回ってたっけ。」
楽しかったな、と。ゾーエがこぼす言葉を、エルマは感慨も無さげにじっと聞いていた。
観光名所や歴史的な建造物が設置されている場所というのは、往々にして霊脈の集中している場所であることが多い。陰謀論めいた話ではあるが、一般人でも『観光名所』というだけで行きたくなってしまうのには、無意識に魔力に惹かれているという側面もあることは間違いがない。
「ズーちゃん、寒くない? 大丈夫?」
「問題ない。」
セーヌの畔、イエナ橋の奥にそそり立つ、鍛鉄製の尖塔――即ち、エッフェル塔。その頂点付近の足場に胡坐をかき、ズーハオは精神統一を図っていた。周囲には色とりどりの宝石。
「……何か思いつく?」
「そうだな、最終目標はビーストの居場所だ。だがそれを知るには、まず会わねばならん人物がいる。」
「えっ、そんな人がいるの?」
「……アインツベルン。」
始まりの御三家の一門にして、第三魔法の開眼を目指す人造生命の一族。ランサーは面食らったようにぱちぱちと何度も瞬きし、その根拠を訊ねる。
「何かがおかしいんだ。……オレの記憶に、不自然な欠落が確認できる。オレは無意識の深層に一時的に
「うん。冬木でもずっとやってたよね。」
「……オレの無意識の記憶領域に不自然な空白が存在している。これは『忘れた』『封印した』ものではない。明確に――。」
ズーハオは只人の身にして、その真実に辿り着こうとしていた。
「……『消された』。『元から無かったことにされた』。」
「どういうこと? 作為的なの?」
「あまりにも不自然な起点とあまりにも不自然な終点の消失区画だ。つまり、コーニッシュが逃走して
「え……う、うん。コーニッシュがボクの宝具をラヴクラフト[オルタ]の技術で防いで、エンパイアステートビルの方へ飛んで行って……何かをした。でも、
「それだ。なぜ、お前と同じ時間を過ごしたはずのオレの記憶に空白が生じている? 記憶が鮮明に保持されているお前と共に居た、オレが。」
賢明なランサーであれば、その予測に至るのは時間の問題だっただろう。だからこそ、ランサーには疑問が残っていた。
「……
その問いに、ズーハオはかつてマンハッタンで最初にゾーエに出会った頃の事を想起するようランサーに促す。
「覚えているだろう、なっちゃん。マンハッタンに初めて出向いた際、ゾーエは『バーサーカーと遭遇した』と言っていた。だがバーサーカーはゾーエとライダーを倒すことなく、どこかへと去ってしまっている。」
「確かに、ライダーは『逃げられた』って言ってたような……。」
「何か目的があるとは思わないか? あの名門アインツベルンが、目先の勝利には目もくれず、何らかの野望を果たすために動いているとしたら……。」
二人は頷き合い、同時にその場からぴょんと自由落下を楽しんだ。
そこから一行は、ゾーエと接触したというアインツベルンの少女を捜索するため、パリ市街地に存在するバスターミナルに集合していた。
「アインツベルンなんだから、やっぱりドイツに戻るべきなのかな?」
「……でも、アインツベルンは、むかしからずっと偏屈、だよ……。そんな変わり者がいると、したら……。きっと、本家の人間じゃ、ないのかもしれない。」
そこへ、バスのチケットを入手してきたズーハオが、アテがあると言って全員にチケットを手渡す。そこには、なぜかエジプト・アラブ共和国首都、カイロの名が記されていた。
「どういうこと?」
「オレの知り合いがそこにいる。オレと同時期に入門し、オレよりも先に免許皆伝を終えた藍燕武術の達人だ。仮にも相手はアインツベルン。最悪の場合を考慮し、戦闘要員を増やすべきだと思ってな。」
「なんだ、いるんじゃん、友達。」
「……友達ではない。」
ズーハオは自身の荷物とエルマの荷物を両手に軽々と抱え、指定された停留所の方向へ去っていく。
「素直じゃないなぁ。」
「いや……。」
微笑むゾーエに、エルマは前屈みにふらふらとズーハオの後ろをついていきながら所感を述べた。
「……武術を、きわめる人間にとって……同門の求道者は、敵のばあいも、あるって、きいた……。もしかすると、彼とその知り合いは……。」
あまり芳しい関係性ではないのかもしれない。ズーハオの前を子供らしくとてとてと歩くテラを見つめながら、エルマは不安の色濃い溜息を吐く。慌てて駆け寄ったゾーエの腕にしがみつくと、一歩一歩着実に停留所へと向かう。
砂漠の夜空を、つがいの鳥が東の方角へと飛び去って行く。白銀に輝く月を見つめる少年の元へ、羊角を模した杖をついた少女が歩み寄る。
「秩序王が盟友。今宵も然様に、無為に闇空を見据えるのだな。」
「ははは……無為にだなんてひどいですね、王よ。」
「それとも何か、かの
「……。」
少年は押し黙ってしまう。杖をつく少女は左足を引きずりながらすぐそばにあったオアシスに足を運び、その水辺に腰を下ろす。
「そら、貴殿もこれへ座るが良い。今宵は余の隣に座することも許そう。」
言われるがまま、銀髪の少年は少女の右横にしゃがみ込む。少女は慣れた手つきで壊死した自らの左足を持ち上げ、オアシスの泉にそれをぽちゃんと落とし込む。
「……感覚はとうに無いが、気持ちが良いものだな。ほうら、ぱしゃぱしゃ。」
自在に動く右足で水面を叩き、飛沫を跳ね上げる黒髪の少女の姿を眺めながら、少年は口を開く。
「生き延びてしまいましたね。」
「当然だ。主神の化身たる余と、太陽王が盟友が組んでおるのだ。敗北する根拠があるまい?」
「それも……そうなのでしょうか。僕は、ここまで生き延びるその根拠をこそ見失っているのですが……。」
少女は神妙な表情で少年の顔を覗き込む。
「迷っておるのか?」
少年は首を横に振る。
「微塵も。」
「では、何故惑う。」
「……。」
再び押し黙る少年。それに対し、少女は慰めるように声をかけた。
「ナルナの子よ。貴殿は心根優しく、我ら二百と七十六の王が真に主神に選ばれし王と認めるかの男が愛した無二の友であると余は知っておる。なればこそ、貴殿は憂いておるのだろう。この世界の
「そうですね。僕は、人類すべてが幸福であってほしい。そう願っています。だから……あまりにもこの世界は、悪意に満ちている。僕らでさえもが『駒』などと……。」
語尾を濁らせ、またも月を見上げる。少女も水溜まりに浸した自らの踝を見つめながら、しばらく口を開くことはなかった。そうしてしばらくの時間が経ち、遠く遠く、空よりも遠い場所を見るような目で星を見守りながら、少年は少女に問う。
「もし――もしも、この世界の理不尽を悉く踏み潰して無謀にも明日を手にしようとする若者が僕らの前に現れたら、王はいかがいたしますか?」
「……千里眼か。」
少女はすぐに問いに答えることはなく、オアシスの水面に映る月を揺らしながら考え込み、やがて回答する。
「余が治めるこの地に足を踏み入れる不敬者には普くの神罰を。それが王としての責務である。誰であろうと、我が地に侵入せんとする不届き者には余が直々に裁きの雷霆を下賜してやろう。」
「やはり、ですか。」
「フ。そう悲壮漂う面を見せるでないわ導きの者よ。しかし我が白雷、耐えうる者には相応の尊厳を認めよう。」
「なるほど。ふふ、であれば、彼らが王を打ち負かす様が見られるやもしれない、ということですかね。」
少女はむっとした表情を見せ、唇を尖らせる。
「何を言うか。余とて王だ。貴殿の親友と違い治世も短く、虚弱にして病弱、杖が無ければ歩くことも儘ならん脆弱な霊基だが、余は余にして神、主神の現身なのだ。そう容易に敗北を喫するなど有り得ぬわ。」
「では、期待してもよろしいのですね?」
「当然だ。余は雷王であるぞ? 我が白雷に穿てぬ神性は何処にもおるまいて。」
少年は満面の笑みを浮かべ、膝に手を当てながら立ち上がる。それを見た少女も器用に両手で左足を曲げ、右足に重心をかけて腰を上げる。
瞬間、少女は盛大に咳込み、その場に倒れ伏してしまう。
「王!」
少年が駆け寄ると、少女が倒れる砂塵の大地が深紅に染まっていた。
「王よ、聞こう聞こうとは思っていましたが、なぜその両脚を酷使してまで
少女は少年の手を借りながら立ち上がり、不敵な笑みを見せながら答える。
「何を……ゴホッ。言うか。ヒトとは即ち、歩く命。グ、ゲホッ――。歩みを始めたからこそその思考は複雑化し、文明を築き、数多の過ちを繰り返しながら進化してきた種だ。ガハッ! ――余は、人の子として生まれ出でた事を誇りに思っておる。たとえ神の化身だとしても、余は常に人の子。なれば、
何度も喀血しながら少女は杖を拾い、口端からぼたぼたと血を零しながら前へ前へと進んでいく。その顔はひたすらに笑顔であった。
「そら、天使殺し。我らの
「しかし王よ……。」
「余の事は気にするでない、王として国土を監視するは責務よ。さぁ帰るぞ、
少年は苦虫を嚙み潰したような眼差しで杖任せにゆっくりと砂漠を歩いて帰途に就く少女の背を見つめていたが、やがて諦めたように溜息を吐き、少女を追い越して無言のまま少女を背負うと、ずんずんと砂漠を北へ北へと歩み去って行った。
静かな月夜に、少女の慌てふためく甲高い悲鳴が響き渡った。