真名:トゥト・アンク・アムン
性別:女性
筋力:E 耐久:E 敏捷:EX 幸運:E 魔力:EX 宝具:EX
スキル:対魔力A+、単独行動A、陣地作成A、カリスマB、皇帝特権B、太陽神の加護C+、神性B、ガルバニズムA、オーバーロードB、雷のアンクA+、無辜の怪物C+、雷の権能C++
宝具:『???』
凄まじい爆発音と共に、ズーハオの身体が玉座の間の壁面に叩きつけられる。
「がッ――!」
二人掛かりだから、と言い訳をすることもできただろう。しかし、ズーハオには痛いほど理解できた。恐らく、どちらか一人が戦線を離脱したところで、ズーハオに勝ち目は無いと。
ズーハオが父親に藍燕武術を習い始めるのと同じ年にその門戸を叩いた双子の姉妹、姉の三塚月セイルと妹の三塚月カイリは、初手の稽古からして才覚に溢れていた。
「嗚呼……嗚呼、そうだった。お前たちはっ……本当に、恵まれていた!」
才能に恵まれていた。努力も惜しまなかった。より的確に、より確実に相対するサーヴァントの霊核を破壊する術を身に着け、ズーハオより何倍も早く免許皆伝を果たした。
「オレなんかよりもよっぽど強い……。」
魔術についてもそうだった。ズーハオは不器用で、扱える魔術など宝石による身体強化やガンドといった基礎的な魔術だけだった。それに比べてセイルとカイリは魔術の学も篤く、三塚月家に伝わる熱伝導魔術を完璧にマスターしていた。
「それでも……。」
ズーハオは何にしても三塚月姉妹に劣っている。藍燕武術の腕も、魔術の才も、人付き合いの上手さも。だが、自分たちは拳でしか語り合えない。生涯の好敵手を前に口先だけで物をわからせようなどと、甘えた思想はズーハオには無い。
何度でも、満身創痍の肉体を奮い立たせ、彼は立ち上がるだろう。
「それでもッ!」
「マスターっ!」
意識を取り戻したランサーがズーハオの元へと駆け寄る。ズーハオの全身はすっかりボロボロにされてしまい、魔術なしではあと数週間は再起不能なまでに破壊されていた。ランサーはズーハオの懐から治癒魔術が込められた宝石を取り出し、仰向けに倒れ伏す彼の掌の上にそれを乗せて指を曲げさせる。すると宝石に宿った治癒魔術が、見る見るうちにズーハオの外傷を治療していった。
「骨まで治るのはもう少しかかるかな……。」
そこへ、三塚月カイリが近付いてくる。
「退くっすよ、サーヴァント。」
「えっ――?」
カイリがズーハオの身体に手をかざすと、ズーハオの体内から鈍い骨音が鳴り響き、その激痛でズーハオが意識を取り戻した。
「ぐがっ……!?」
ズーハオが咄嗟に腕や脚、背骨を動かすと、それらは意のままに自由に動いた。
「そら、起きろよズーハオ。」
カイリに軽く蹴り飛ばされ、ズーハオはよろめきながらもランサーの手を借り、カイリの前に立ち上がる。カイリの顔を伺えば、何とも呆れたような、諦めるかのような表情を浮かべていた。
「お前は本当に……普段は仏頂面の朴念仁の癖に……。いや、だからこそ、なんすかね。ズーハオの頑固はよくわかってるつもりだったけど、何て言うか……磨きがかかったっすね、お前。」
「どういう意味だ。」
カイリはセイルの立つ場所まで戻りながら、肩をすくめる。
「自分の決めたことのためなら、自分の身も厭わないその頑固さだよ。ほんと、昔っから変わらないどころか悪化してやがるんすから。」
「……ズーハオ、アタマ、ワルイ。」
単語だけを並べて発言を試みるセイルを日本語で短く叱りつけ、カイリは自分の前に来るようズーハオとランサー、ゾーエとエルマ、そしてテラを手招く。
五人が姉妹の元へと近寄ると、頭上から先程まで玉座に腰かけていた少女が浮遊しながら降下してきた。一同の直上で静止すると同時に、エルマの横に一休が着地するのを確認して、少女――雷のファラオ、トゥト・アンク・アムンは声高に宣言した。
「貴様の決意、しかとこの目で確かめさせてもらった! 良かろう、我が軍門に加わることを許す! だがゆめ忘れるな、ファラオはただひとり、この余である! 聊かでも不敬なる行いを見せれば、その満身を太陽の雷を以て灼き尽くしてやろう!」
「つまり、僕らは君たちの話を聞くよ、と王は言ってるんだよ。マスターもそれでいいよね?」
そう意訳するのは、ズーハオ達に道を譲った怪力の少年であった。そのサーヴァントに問われ、カイリは後頭部を掻きながら渋々と肯定する。
「ま、ファラオの決定には逆らえないっすからね。ファラオがそう言うのならあたしらは何も言わないっす。」
妹の発言にしきりに頷くセイルを見て、ズーハオはファラオに向かって事情を説明した。ラヴクラフト[オルタ]と遭遇したこと、テラのおかげでそれを一時は撃退できたこと、彼女の意図を探るため、彼女を捜していること。
「……獣なりし幼き巫女、か。やはり、こうなってしまうのだな。」
ファラオは思わせぶりに頭を抱え、玉座を自分の元へ呼び寄せる。瞬間移動してきた浮遊する玉座に腰かけ、その肘掛をこつこつと指で叩きながら、ファラオは少年に説明を任せてしまった。
「君たちにはまだ自己紹介をしていなかったね。僕は『モーセ』。クラスは
驚愕するズーハオ一行に対し、モーセは言葉を続ける。
「残念ながら僕らの方が少しばかり強かったというか……元々ワセト、というかテーバイの統治者だった王の知名度補正による尽きない魔雷で撃退できたんだ。……王も理解なさっているとは思うけれど、あのビーストを倒さなくちゃ、この命の聖杯戦争は終結しない。いつか顕現しているサーヴァントが地球の魔力を枯渇させてしまう。」
「……余がこのような亡霊の身でなければ、ネウト・アメンは更なる繁栄を望めたであろう。今のネウト・アメンには余がいなくてはならぬとは言えど、同様に余の存在こそが毒となっている。せめて受肉さえできれば……。」
「だからこそ、僕らもあのビーストを探さなきゃいけない。このテーバイで複合神殿に引き籠ってても、事実得は無いんだ。」
「でも、それじゃあどうやってあいつを探すの?」
ゾーエの質問には、ファラオが答えた。
「容易だ。聖杯の出現する場所を予測すれば良い。彼奴めが聖杯に何らかの細工をしようとしているのは自明。ならば先に聖杯を見つけ出せば良い!」
「それが……できれば、苦労は、しない……。」
エルマのぼやきに苛立ちを見せながらも、反論のしようがなくしかめっ面で瞼を閉じてしまうファラオ。それ以降話し合いは何も進展せず、やがて全員が全員、俯く事態に陥ってしまった。
「……ねぇ、ぼくを忘れてないかな。」
しかし、その一言がすべてを打開させる。そう、テラ――グランドライダー、
「聖杯の出現地点でしょ? 教えるよ。」
「おい、それは聖杯戦争のルール違反なんじゃないっすか?」
カイリの発言に、テラはきょとんとした顔で答える。
「え、きみたち自分の命と聖杯、どっちが大事なの?」
全員が顔を見合わせ、そしてゾーエ以外の全員が一斉に答える。
「「「「聖杯。」」」」
テラは大きなため息を吐き、ズーハオとエルマ、セイル、カイリをその場に座らせ、長々と説教を始めるのであった。
テラが示した場所へと移動する手段を整えるため、雷のファラオは再び階段の先に据え戻した玉座に腰を下ろし、魔力を編み始めた。しばらく時間がかかるとのことで、ゾーエとエルマは神殿の外へと足を延ばしていた。外界は既に日が落ちており、満天の星空が広がっていた。
「あれ、あんたらも来たんすか。」
神殿の傍に広がっていた大き目のオアシスには、カイリが水辺に腰を下ろしている。二人はカイリの隣まで近付き、了承を得てからその場に座る。
「……ほんと、何があったんすかね、あいつ。」
「ズーハオのこと?」
「っすね。」
ぼんやりとした目で水面に映る自身の虚像を見つめるカイリ。
「昔のあいつは……人の言う事聞かないし、自分が信じた道でしかモノを究めようとしないし。自分だけしか信じられない……みたいな。そんな人間だったんすよ。」
「今もだいたいそんな感じな気がするけど。」
「言ったじゃないっすか。悪化してるって。自分の信念は曲げねーわ、自分が信じたことのためにわざわざあたしらを丸め込もうと殴り込みに来るわ……。でもやっぱ、前とは違うように思えるっすねぇ。」
ここにはいないズーハオを嘲るように笑いながら、カイリはゾーエとエルマを見つめる。きょとんとする彼女らに、カイリはひとつの質問を投げかけた。
「なんであんたら、あんな堅物について回ってるんすか?」
「なんで……。」
ゾーエは逡巡する。あのニューヨークの夜、『ビーストを打ち倒す』――などと、ズーハオは笑って豪語してみせた。ゾーエはその瞬間、焦ったのだ。自分は敗北者。サーヴァントを失った、本来ならば殺されても仕方のないただの魔術使い。それでも、と。
「任された……私には、使命がある。背負わなきゃいけない願いが……想いが。」
「へぇ、そいつは誰に?」
「私の相棒、元々私のサーヴァントだった馬鹿な男だよ。」
「……サーヴァントに託された妄念を律義に守ってるんすか?」
ゾーエはぎくりと背筋を伸ばす。確かにこれはライダー、ポルトスの執念だ。ゾーエが果たす義理など、本当は無い。けれど、ズーハオが自分を信じるように。
「私は私を信じるんだ。ライダーが信じてくれた私を信じる。だから、あの馬鹿の残した一言だって絶対にやり遂げてみせる!」
あの一瞬、ライダーが見せた豪快な笑顔の中に、恐怖は微塵も無かった。不安も悲哀も、これっぽちも。だからこそ、ゾーエが怯えるわけにはいかない。『世界を任せた』――たった一国の陰謀にしか立ち向かったことのない男の、馬鹿で無謀なその願いを見届けなくてはならないのだ。
「全部終わった時に私は言わなきゃいけない……『ほら見なよ、私は笑ってるぞ』って。だからたとえ使える魔術がちっぽけでも、頼るべきサーヴァントがいなくても、私は――!」
ズーハオ同様、決意に満ち溢れた瞳でゾーエは月を見上げる。エルマとカイリは、それをひたすらに優しく見守っているのだった。
「……む。」
複合神殿、玉座の間。瞑想を続けていたトゥト・アンク・アムンは、ひとつの違和感に気が付く。
「どうしたの、ファラオちゃん。」
不遜な口調で訊ねた一休に、ファラオは呟くように答えた。
「侵入者だ。」
「迎撃しよっか。」
「不要だ。見たところただの人間ひとり。軽く神雷を以て威嚇すらば疾く引き返すであろう。」
ファラオが腕を空中へかざすと、そこに帯電する巨大なモニターが出現する。そこには、夜の砂漠用の防寒具を身に着けたひとりの旅人が複合神殿に近付く様子が映っていた。
画面を見つめながらファラオが手にしたアンク型の長杖でコツコツと床を叩くと、画面内の旅人からややずれた地点に落雷が放たれた。
「……?」
しかし、旅人は一瞬立ち止まりはしたものの、歩みを止めることはなかった。
「やれやれ……警告はしたぞ、愚者め。」
直後に撃たれた雷撃は、まっすぐに旅人の頭部を狙ったものであった。雷は旅人に直撃し、そこには灰燼だけが残っていた――はずだった。
「なッ――!?」
トゥト・アンク・アムンは驚愕し、思わず玉座から腰を浮かせてしまう。モニターに映された旅人は死してなどおらず、それどころか健脚を以て未だ大地に立っていた。
頭上へ掲げた手からは、桜色の花弁のような形状の障壁が三枚、赤髪の旅人を覆い被さるようにして彼を守っていた。