真名:???
性別:男性
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 幸運:E 魔力:B 宝具:?
スキル:対魔力E、心眼(真)C、魔術C-、鷹の目C-など
宝具:『???』
地獄を見た。地獄を見た。地獄を見た。――いずれ辿る、地獄を見た。
それでも。迷いもした。惑いもした。絶望もした。けれど、俺が足を止める理由にはならなかった。俺は俺の信じた道を歩みたい。たとえそれが地獄を見る道であったとしても、俺の思う道は、間違いなんかじゃないんだから。
防寒具を脱ぎ捨てたその青年は、信念と情熱を秘めた瞳をしていた。
「……あんた、どこの誰っすか。見たところ、あたしらと同類みたいっすけど。」
ファラオからの連絡を受け、カイリはその赤髪の青年と対峙していた。ゾーエとエルマも自らの意思でカイリの後を追い、その背後で臨戦態勢を取っている。
しかし、赤髪の青年はへにゃりと笑うと、無害そうな語調でまずひとつ、謝罪を述べた。
「あー、勝手に近付いちまってごめんな。ちょっとここにいるって聞いた女の子を探してるんだけど……。」
「女の子? ……四人はいるっすよ。」
「あぁ。ゾーエ・モクレールって言う子なんだ。知らないか?」
カイリは背後のゾーエがびくりと震えるのを熱で感じ取ったが、青年にはわからないよう小さくハンドシグナルで反応しないよう伝え、青年に対し反駁する。
「……そのゾーエって子がいたら、何なんすか。」
「グランドサーヴァント。召喚されたって言うそいつと話がしたいんだ。だからそいつのマスターだっていうゾーエを探してる。」
どうやら、テラのマスターはゾーエだということになっているらしい。それよりもゾーエには、テラが召喚されたという事実が早くも魔術師の界隈に広まっていることの方が驚きだった。
「……話、っすか。話題にもよるっすね。」
「そっか……そうだよな。う~ん……。」
しかし、青年が口を開くよりも先に、カイリも、そしてエルマも驚くような事態が起きた。
「わっ、私がゾーエです! ゾーエ・モクレール! 時計塔
意を決したゾーエが、一歩前へと踏み出したからであった。
「俺の名前はシロウ。衛宮士郎。よろしくな。」
「え、日本人だったんすか……。」
「え、お前らも?」
玉座の間に通された赤髪の青年、士郎が自己紹介をすると、同様に日本出身の魔術師であるセイルとカイリが怪訝そうな顔で反応する。
「こんな砂漠のド真ん中で日本人に会えるなんて、やっぱ旅をしてると驚きが絶えないな!」
「……三塚月セイルだよ。こっちは双子の妹のカイリ。三塚月家って、聞いたことあるっしょ?」
「いや、スマン、ない。俺、魔術師としての知識はほとんどないんだ。ゴメン。」
「えぇ……。まぁいいや、ウチは英語喋れないから。あとはカイリに任せた。パース。」
日本語で士郎に対し自己紹介を行ったセイルに後を任され、カイリはこほんとひとつ咳払い、発言言語を英語へと切り替える。
「それじゃ、改めて。あたしは三塚月カイリ。セイルが召喚したあちらにおわすファラオのご厚意に甘えてこの複合神殿に住んでる三塚月家の次女っす。」
「……エルメントラウト・エルメントルート・アーレルスマイアー。エルマ、と……および、ください。」
「ジャン・ズーハオだ。遠く祖をトオサカに由来する一族の末裔でもある。」
「遠坂の……?」
ズーハオの発言に一瞬反応する士郎だったが、すぐに切り替え、最後の一人――ゾーエへと目を向ける。
「先程も言った通り、ゾーエ・モクレールです。テラ……グランドライダーのマスター、というのは少々語弊がありますが、私もまた為すべきことを成すためにここにいます!」
その熱のこもった言い訳にも聞こえる弁明に士郎はやや面食らいながら、微笑んで返す。
「大丈夫だ、ゾーエ。お前はお前の思った通りに歩けばいい。後悔するのは、全部やり切った後でいいはずだからさ。」
士郎の言葉は、ゾーエの心を大いに奮い立たせる。
「はっ、はい!」
それじゃあ、と士郎はゾーエの傍で微笑んでいたテラへと目を向け、目線を合わせるためにしゃがみ込む。テラへと語りかける士郎の目は先程までとは違い、真剣そのものだった。
「君がグランドライダーか。」
「うん。グランドライダー、
「わかった。それじゃあテラ、単刀直入に聞こう。俺には弟子がいるんだ。」
「クロウ・ウエムラくん。」
少し面食らった様子を見せる士郎だったが、すぐに頷き、言葉を続けた。
「あいつが今どこにいるのか、それと……あいつの故郷にあったはずの『聖杯の泥』。あれ、どこに行った?」
テラは悲しそうな顔であらぬ方へ俯く。その顔は、ゾーエとエルマが仲良さそうに抱き合っているのを見ている時と似たような表情であった。直後に発したテラの小さなトーンの言葉に、士郎は焦燥に駆られたような素振りを見せ、バネのように立ち上がってその場にいた全員に感謝の言葉と謝罪を告げ、足早に玉座の間から出ていこうとしてしまう。
「ま、待って!」
それを引き留めたのは、誰あろうゾーエであった。
「聖杯の泥……って、どういうことなんですか。それと……クロウ、でしたっけ。騎士王のマスターさん。クロウ、クロウ……。聞き覚えがある……ずっとずっと昔に、彼に借りを作ったような……!」
哀しそうな顔を一層しかめるテラにも構わず、ゾーエは士郎に向かって説明を要求した。
「教えてください! その聖杯の泥を、あなたはどうするつもりなんですか!? それにどうしてそれをテラに聞く必要があったのか! そうでなきゃ……この神殿からは帰しません!」
「それを決めるのはファラオなんすけどね……。」
ぼやくカイリの予想に反して、玉座の間の出入り口には大量の電雷が壁のように大量に立ち塞がり、士郎の行く手を阻んだ。
「小娘の言う通りだ、
トゥト・アンク・アムンの一声により、士郎は渋々と一同の元へ戻り、士郎が抱えている問題について説明を始めた。
曰く、士郎は足首までサーヴァントに突っ込んでいる奇妙な存在であること。彼が動く理由は霊長の守護者としての抑止力によるものであり、一般的な霊長の守護者とは違い、士郎は今を生きている人間だからこそ『事態を未然に防ぐことのできる守護者』として世界を飛び回ることができると言う。
「なぁ、お前たちは獣のクラス……ビーストって知ってるか?」
そう訊ねた士郎が次に見せた顔は驚愕と呆然の入り混じったものだった。少し後ろ頭を掻き、「知ってるのなら」と話を続ける。
「あのビーストを追いかけているうちに、俺はあることに気が付いたんだ。この世界は――。」
そこで制止の声がかかる。声の主は雷のファラオであった。
「……それは、言ってはならん。」
「でも、いつかは直面しなきゃいけない問題だぞ。特に、ビーストを止めようと思っているのなら。」
「っ……!」
ファラオは忸怩たる思いの滲む面持ちでゾーエたちの元まで降下してきた。が、何かを考え込むような姿を見せると、あろうことかその両脚を床へと着けたのだ。ふらりとよろめく自身の身体を杖で何とか支え、その場にいる全員へ向けてその真実を告げる。
「……これは、人の子として生まれた余の、人の子たる貴様らに向ける言葉である。傾聴せよ。」
一瞬の静寂。
「この世界は、最初からあのビーストが生み出したモノだ。」
「え……。」
突拍子も無かった。その理由を、今度は士郎が説明する。
「あいつの目的が何なのかは知らない。でも、本来『命の聖杯』なんてものは在ってはならないものなんだ。命の聖杯があのビースト由来だからこそ、人の純粋な願いを叶えれば叶えるほどに『泥』が蓄積されていく。人の命を吸って顕現して、その無数の無念、執念、亡念は泥になる。それを何百年も何千年も繰り返して、ビーストは何かを成そうとしているんだ。」
「……ほんと、くだらない与太話っすね。師匠の昔話の方が信憑性あったっすわ。」
吐き捨てるカイリ、それに頷くセイルとエルマとは打って変わり、ズーハオとゾーエの表情は覚悟の決まったそれであった。
「……その泥を探しているのは、何故なんだ。」
ズーハオに尋ねられ、士郎は少しほっとしたような様子で答える。
「その泥は、とある一族と契約をしたことで魔術の薪になった。日本の秘境に隠れ住んでいたその一族の名前こそが、俺の弟子を生んだ『餓叢家』なんだ。」
「その泥を使って……騎士王のマスターさんの一族は、何をしようと? ただ魔力が欲しかったから、泥と契約したって言うの?」
ゾーエの問いには首を振る士郎。
「餓叢家は数百年前から知っていたんだ。この世界が在ってはならない世界だってこと。命の聖杯が在ってはならない聖杯だってこと。だからこそ、あいつらは聖杯の泥に目を付けた。玖郎の奴がそれを知っているとは思えないけど……。とにかく、魔術的な契約であの泥は餓叢家の所有物になったんだ。なのに、その泥が犬鳴村――玖郎の故郷から消えてた。」
「つ、つまり?」
「何らかの理由で、再びあの泥の所有権がビーストに移ったとも考えられる。本当にそうなってしまっていたら、今はかなりまずい状況なんだ。今まで餓叢家から泥を取り返さなかったビーストがいきなりそれを奪った……何か理由があるはずだ。」
その時、黙って士郎の言葉に耳を傾けていたファラオが声高に命じた。
「エミヤとやら! 貴様も我らと共にビーストの元へ向かうぞ!」
「なんでさ!?」
「ビーストを追うは我らとて同じ。そして余は! 今この瞬間! この複合神殿を転移させるに充分な魔力を編み出すことに成功した! さぁ余を褒め称えるが良い!」
セイルとカイリ、モーセ、一休、テラに拍手され、得意気に胸を張るファラオ。しばらくの後、ファラオは即座に階段の先の玉座へと瞬間移動し、玉座全体に響く警告を放った。
「エミヤ! 是非は問わぬ! どこへなりとも掴まらねば吹き飛ばされるぞ!!」
「だからなんでさッ!!」
おとなしく素直に周辺に配置されていた柱や燭台にしっかりと掴まる一同を見た士郎は、溜息を吐きながら壁の隙間にどこからともなく取り出した鉄パイプを差し込み、魔術補強を施してそれを両手で握り締めるのだった。
現代。人類は地球上のありとあらゆる場所を踏破し、地上に前人未踏の地無しとまで言われるようになった。しかし、そんな人類にも辿り着けない場所はある。地球上の七割を占める海洋は、未だ十パーセントしか解明されていないのだ。地図にない島のひとつやふたつも、存在している。
その島は冷えた溶岩流による堅い大地を擁する火山島であり、島内中央になだらかにそびえる火山は、今も活発に活動しており、時折マグマが噴出していた。
「――おや。」
その島へ複合神殿ごと転移し、外へと踏み出したズーハオたちを出迎えたのは、ひとりのシスターと一騎のサーヴァントであった。
「よくここがわかりましたね。」
シスター・プラムはそう言って、邪悪な笑顔を浮かべるのであった。