真名:サラ・ウィンチェスター
性別:女性
筋力:E 耐久:A+ 敏捷:E 幸運:E 魔力:EX 宝具:EX
スキル:陣地作成EX、道具作成EX、大量生産A、無辜の怪物D、変化A+、ウィンチェスターの呪いB+、増殖C++、狂化B
宝具:『???』
雲雀のセイバーは静寂の中をぺたぺたと裸足でサラ・ウィンチェスターの元へ歩み寄りながら、彼女が何より恐れている事物に関しての情報を与える。
「貴様はビーストに取り込まれることを恐れているな。」
「え……えぇ。あれは……あの怪物は、取り込んだサーヴァントの宝具を自由に扱っています。もし私が取り込まれれば、彼女にウィンチェスターの呪いが伝播する。けれどそれは……!」
「それは彼奴めにとって利点しかない。そうだな?」
サラ・ウィンチェスターは雲雀のセイバーの鉄面皮に怯みながらも、何度も頷く。
「あれにとって呪いは呪いとしての意味を為しません。彼女に残されるのは、『範囲内にいれば無限の魔力供給が可能となる』私の宝具の存在だけ……! しかも私の宝具は私の意思とは関係なく増殖します。際限はありません、宝具の使用者が死ぬまで!」
ならば、と雲雀のセイバーは腰に佩いた剣に手をかける。びくりと怯えるサラ・ウィンチェスターは、必死にそれを拒絶した。
「い、いやですっ! 私は、私は生きていたい! 死ぬなんていやです! 死にたくない!」
「元より死者の身で何を言う。よく考えろ。ここでお前が死ぬ以外にお前が心穏やかに居られる選択肢などあるか?」
「死は救済だとか……そんなものは詭弁なんですよ! 生きてこその地位! 生きてこその名声! 生きてこその財産! たとえ難病を患おうと、たとえ霊呪を身に受けようと! 生きてなきゃ意味がないんですよ!!」
雲雀のセイバー、そしてその背後で顛末を見守るカロンと藤丸、そしてマシュは、その意見を否定することができなかった。
「私も……そうだな。生きていたかった。生きて父に会いたかった。だがそれが運命だ。天津神が私に授けた天命であったのだ。だから慙愧や悔恨はあったが、否定や拒絶はしなかった。」
「神様の……。」
「そうだ。悪魔が居れば神も居よう。お前たち近代の人間は神の存在など忘れて久しいだろうが、神は確かに在ったのだ。優しくもあり、時に苛烈で、自己中心的な神々がな。」
背後でしきりに二人の少年少女が頷いている気配を感じ取っていたが、雲雀のセイバーは頓着せずに剣をすらと抜く。
「……どうする。」
「最後にひとつ……
サラ・ウィンチェスターはひとつ息を吐き、椅子から腰を上げて姿勢よく立ち上がると、遺言のようにそれを口にする。
「あの怪物は、地図にない島にて聖杯の顕現を待っています。」
「その根拠は。」
「あの怪物がこの屋敷に足を踏み入れた時点で、私はあの怪物の過去から導かれた思考をある程度読むことができましたから。」
「……なるほどな。」
言い終え、サラ・ウィンチェスターは穏やかに笑うと、一言を遺してその身を雲雀のセイバーに委ねた。
「皆様が神様の思し召しのもと、健やかに生き永らえられますように……!」
「結局、自分が偽物なのかそうじゃないのかは確信できず終いだったな。」
アケローン号のコンパートメントから窓の外の星空を眺めながら、クロウは呟く。
「自己の証明は人間の生涯の命題だ。早急に答えの出る物ではないだろうさ、マスター。」
向かいに座ったセイバーはそう励まし、スティック状のチョコレートスナックをバリバリと摂取していく。
「……これから本当に最終決戦かもしれないってのに、気楽なもんだよな。」
「ほお? マスターはどうも私の実力を見くびっているようだなぁ?」
「そんなことはないけどよ。」
クロウはおもむろにジャケットの裏ポケットに手を突っ込むと、黒色のリボンを取り出した。目の前のセイバーも同じリボンをしているが、クロウにはその理由を思い出せない。
「……随分と成長したものだよな。」
まるで母親のような表情を見せるセイバーに驚きながら、クロウはリボンをポケットに戻す。
「どういう意味だよ、それ。」
「そのままの意味だ。」
クロウはふと右隣を見下ろす。疲れてクロウの体にもたれかかって眠ってしまったジャクリーンの髪を撫でながら、クロウは様々なことを思い出す。
「最初にお前と会った時さ。俺……変な気分だったんだ。懐かしいっつーかさ。まるで古い旧友に会ったみたいな。……その感覚の理由は未だにわかってねぇけど、ちょっとだけ嬉しかった。」
微笑むクロウを見ながら、セイバーも静かに頷く。
「そっからは……何だか必死だったなぁ……。向かってくる敵を迎撃するくらいはしてたけど、本格的に戦闘をしたのは……ゾーエとの接敵が最初だったか。」
「そうだな。本当に快活な娘だった。……だが何と言うか、場ノリのような快活さだったな。ライダーが居なくなれば、あの娘は素に戻るのではないか?」
「だとしても、あの時のゾーエは楽しそうだったな……心の底から聖杯戦争を楽しんでいるように思えた。」
「戦争を楽しむというのも、何だか不謹慎なように感じるが……確かに、そこを否定はできないな。」
苦笑するセイバー。
「次に向かったのは……そうだ、イタリアに行ったんだっけな。」
「チョコレートのジェラートがうまかったな……。」
「そこじゃねぇだろ。」
「……神霊、東郷平八郎。強敵だったな……。止まることを許されず、敗けることを許されず。そんな男の、誇りある戦いぶりであった。……あるいは『彼女』も、心の余裕さえあればあんな風に……。いや、あまり考えすぎるのもよくないか。」
首を振り振り、セイバーは生産性のない妄想を振り払う。それでも陰りを見せるセイバーの気持ちを切り替えさせるように、クロウはその後の振り返りをしつつ話題を切り替えた。
「その後はもうロシアに来てごたごたと色々巻き込まれて……そうだ、お前に聞きたいことがあったんだよ。」
「なんだ?」
「結局聞いてなかったなぁと思って。――お前、聖杯に何を願うつもりなんだ?」
おねえさんは何が欲しいの――? あの時、無垢な瞳でセイバーに問いかけた少年の言葉がフラッシュバックする。「自分がしたいことをすればいいんだよ」。そう、玖郎少年はセイバーに助言をした。
「私は――。」
そう、あの聖杯が見せた一時の現と幻の境にてセイバーが得た答えを、セイバーはまだクロウに伝えていなかった。
「私はな、マスター。」
セイバーは髪を結んでいた黒いリボンをするりと解くと、それを掌に乗せてじっと見つめながら、ゆっくりと噛み締めるようにその返答を告げる。
「『私』は元々、『彼女』の影法師なんだ。生きて世界と契約した騎士王、アルトリア・ペンドラゴンのアルターエゴ。粗暴ながらも従順な大鴉としての一面。だからこそ、『私』の願いとは『彼女』の願いに他ならない――即ち、選定の剣にもう一度挑戦することだと、そう信じて疑わなかった。」
リボンをぎゅっと握り締め、その視線をクロウへと移す。クロウの表情はほんの少しの吃驚と、多分な安堵に彩られている。まるで、今から言う言葉がわかっているかのような。
「『私』は明日へ翔び立つ若きカラスを見送る心の剣でありたい。だからお前と共に戦場に立てれば、それ以外には何も要らないんだ。ただ、お前の隣に居たい。」
「その後は?」
「……『彼女』と共に現代で暮らしたい、かな。お前と駆け回ったこの世界をお前と一緒にまた巡るのも悪くない。マスター、あのキャスターを倒して、その後で聖杯戦争を最後まで生き延びたら――。マスター?」
未来を嬉々として語るセイバーを見つめるクロウの目尻には、じんわりと涙が浮かんでいた。セイバーにはその涙の理由がわからず、あたふたと狼狽してしまう。クロウは笑って問題ない、と涙を拭って見せ、話を続けた。
「壮大だな、その願いは。」
「願いは壮大なくらいでなければつまらんだろう?」
セイバーは少し押し黙り、成長したクロウに対しあの時投げかけた問いを再び問う。
「マスター。マスターの願いは、なんだ?」
クロウは今度こそ十割驚愕の表情を見せ、数分間逡巡してから呟くように答えた。
「……その口ぶり、『一族の悲願』なんて建前だってわかってるんだな。……俺は未来が欲しいだけだよ。俺の意志が誰かの心の中で生きてくれる、そんな未来が。誰も味方がいないってのは、寂しいからな。」
ジャクリーンの方へ視線を向けていると、やがてジャクリーンが目を覚ます。
「んぅ……。」
ジャクリーンは開眼一番にクロウの顔を見ると、幸せそうに微笑んで見せた。
「うへへ……おはよう、クロウ。」
「あぁ。おはようジャック。」
そういえば、と思い、クロウはジャクリーンにも同じ質問をした。
「ジャックは聖杯に願う事ってなんだ?」
「おれが聖杯に願う事? ……等身大の幸せで充分だよ。おれなんかには出過ぎた願いだけどさ。でも……こんなことに巻き込まれたんだから、それくらい欲張っても罰当たらないだろ? ――普通に朝起きてさ。飯食って。大切な誰かと一緒に一日過ごして、飯食って、寝る。そんな毎日が続くだけでおれはいいや。」
セイバーは、クロウとジャクリーンの『願い』に若干の違和感を感じた。何故、ふたりとも――。
「なぁ――。」
セイバーが言いかけた時、コンパートメントにひとりの来客がやってくる。それは、古代日本風の装束を身に纏った長い黒髪を持った女性剣士であった。
「……む? おかしいな、命の数は四つだったはず……。まぁ、いいか。久しぶりだな、ジャクリーン。」
「セイバー!? どうしてここに!」
一瞬びくりと反応するセイバーを見た雲雀のセイバーは自らの呼称を『オウス』とするようにジャクリーンに伝え、食堂車両に来るようにその場にいた三人に言い渡した。
食堂車には藤丸とマシュ、そして雲雀のセイバーことオウスが待っており、クロウとセイバー、ジャクリーンの他には誰もいない様子だった。
「他の奴らはいいのか?」
「……まぁ、色々とな。」
オウスは語尾を濁らせると、全員をテーブルへと着席させ、いくつかの真相を語り始めた。
「キャスターについてまずは事の真実を語っておくか。アレの本来のクラスはビーストである……というのは、お前たちが知っていたか。」
藤丸とマシュは頷くが、クロウとジャクリーンは首を傾げる。
「俺たちが追ってる超特殊霊基のことだよ。」
「はい。人類から生じ、人類を滅ぼそうとする、人類が倒さねばならない七つの悪……『人類悪』。獣のクラス、ビースト。単体でも人類を抹消できるだけの力を持っています。」
マシュの説明に、二人は顔を見合わせる。あまりにも突拍子がなく、また仮にそうであったとしても只人に相手できるような存在ではないように思えた。
「そんなものに……いや、挑むことに変わりはない。けど……お前ら、どうしてそんなに平然としてるんだ?」
今度は藤丸とマシュが顔を見合わせる。その後、藤丸は悲しそうな顔で「初めてじゃないから」と語った。
「それで、そのビーストに関してまだ何か知っているのか?」
セイバーがオウスに尋ねると、オウスはやや黙った後にその真実を口にする。
「――この世界の創造主は当該ビーストだ。」