真名:九郎判官義経
性別:不明
筋力:- 耐久:EX 敏捷:EX 幸運:- 魔力:EX 宝具:-
スキル:陣地蹂躙A+、対魔力EX、単独顕現EX、万象俯瞰C+、異相の住人A、概念融合A+、有無正否真贋模糊EX
宝具:『???』
九郎、と呼ばれた事も御座いました。牛若、と呼ばれた事も御座いました。元服して後は義経と。そして左衛門少尉の任を賜り、判官と呼ばれ――兄に、殺されました。はい、邪魔な者は斬り捨てるが世の道理で御座いましたが故、其処に疑念は抱いては居りませぬ。
しかし――源九郎義経は本当に死んだのか? 後世の人々は拙僧めの余りの悲劇のヒロインっぷりに然様な無謀かつ荒唐無稽な希望を抱いたので御座います。其れでは兄に誠心誠意奉公した義経公が報われぬ、と。
以て生まれ出でた霊基こそが拙僧めに御座います。即ち、鞍馬天狗の九郎、八艘跳びの義経、悲劇の判官――北方の王義経! 人文神オイナカムイ義経! 草原の覇者成吉思汗! 其の総てが拙僧、其の全てが拙者、其の凡てが私!
――結果として『傍観者』などという曖昧模糊極まり無い霊基に貶められては仕舞いましたが、是もまた愉快な物に御座いますれば。斯様に弱き者たちが死力を尽くして足掻く姿が篤と拝見できるのですから!!
「――趣味の悪い。」
「え?」
オウスの独り言に反応するも、クロウはなんでもないとあしらわれてしまう。
「それで、あの建物の主がビーストの居場所を教えてくれたんだな?」
話題を戻すジャクリーンに、オウスは無言で首肯する。
「でもそうか……確かにそんなモンじゃきゃ、『地球の知性体』だの『この星をやり直す』だのなんて言わないよな……。とんでもない奴を相手にしちまったな、クロウ?」
「……怖くないのか?」
クロウの問いに、ジャクリーンはぱっと藤丸とマシュの方を見る。二人も同様に考えているようで、興味津々といった表情でジャクリーンを見つめている。
「え……だってフジマルとマシュもいるし、レイラもボドヴィッドの野郎だっているだろ? それに……クロウと、サーヴァントのみんながいるからな。勝てる見込みはないけど、負けるも気もしないじゃないか。」
「暢気に過ぎるな。」
チョコレートドーナツを貪食するセイバーに一蹴され、がくりと肩を落とすジャクリーン。しかし、セイバーは尚も言葉を続ける。
「だがそれは真理だ。私がいる限り、マスターが敗北するなどあり得ん。」
「はい! この盾がある限り、マスターや皆さんには傷ひとつつけません!」
つられて意気込むマシュやそれに対して何度も頷くセイバーを見ながらオウスは溜息を吐いて首を振る。
「お前たち……相手は惑星を滅ぼす大災厄だぞ?」
「でも、諦めないことは良いことだよ。」
藤丸の言葉に、一同はうんうんと頷く。しかし、すぐに笑顔を止め、クロウはジャケットの内ポケットを外側から握り締め、オウスへと問いかける。
「この世界がビーストの作ったものって話、もっと詳しく聞かせてくれないか。」
オウスは小さく首を縦に振って了承すると、説明を始める。
「前提として、奴は地球と言う惑星を愛している。」
驚きの表情を見せるクロウ、ジャクリーンに対し、藤丸とマシュは「やっぱりか」といったような思考が顕著に顔に出ていた。
「地球を愛しているからこそ、地球に繁栄する人類の在り方を許せなかった。それは人類そのものが許せないということではない。今の人類の在り様を嘆いたのだ。」
「だから、全部全部やり直そうと……?」
首肯するオウス。
「だがひとつ訂正すべき点があるな。『やり直そう』ではない。奴は『やり直した』のだ。何度も何度も、何度でも何度でも、私が認識できている限りでも試行回数は阿僧祇を優に超えている。」
「ひっ……!」
ジャクリーンが短く悲鳴を上げる。自分たちが知らないだけで、世界は何度も繰り返されていた。そのたびに何度ジャクリーンが生まれただろう。何度ジャクリーンが死んだだろう。もしかすると、ジャクリーンが生まれなかった世界だってあったかもしれない。
「……だが、どれだけすべてゼロから再始動しても、溜まっていく『膿』というものがある。それは再生を続ければ続けるだけ規模が大きくなる矛盾だ。――それが、命の聖杯における『泥』の正体。クロウ、お前の一族が隠匿してきた魔術物質の正体だ。」
その真実に、クロウはふと自らの令呪を見下ろす。片翼の無くなった二画の令呪を見たジャクリーンは、その訳を訊ねる。
「あれ? お前、死んだら令呪が三画補充されるんだろ? 何で二画しかないんだ?」
「そりゃ、一画使った後にまだ一回も死んでねぇからだよ。」
「……慣れるなよ。」
令呪が刻まれた手を両手で包み込み、ジャクリーンは悲しそうな目でクロウの顔を見上げる。しかし、クロウはいたたまれなくなって視線を逸らしてしまう。するとジャクリーンは勢いよくクロウの胸に頭突きをかまし、その場の空気を少し和らげて見せた。
「……結局、何に使ったんだよ。令呪。」
「いつも通り自分に対してだよ。」
「お前が出るような戦闘、あれから一度も……。」
そこで、ジャクリーンは何かを察したかのように血の気の引いた顔と震えた声でクロウに問い詰める。
「お前、お前まさか……! おいオウス! その泥ってのは今どうなってるんだ!?」
オウスはしばらく黙っていたが、特に拒むこともなく答えた。
「泥の所有権は未だに餓叢家にあるが、現状それを保持しているのはビースト……といったような状況だ。だがどのような手段でそうなったにせよ、ビーストに渡っている時点で餓叢家の呪いは棄却されているはずだと私は予想している。」
「そもそも何故、マスターの一族から今更になって泥を奪ったのだ?」
「……不明だ。今までのループにおいても、ビーストが餓叢家から泥を奪うことは無かった。もしかすると、始終の繰り返しから逸脱して育つ泥がここまで肥大化するのをここまで待っていたのやも知れない……。」
「なるほどな。」
クロウは腑に落ちたように溜息を吐き、席を立つ。
「マスター?」
「ちょっと手洗いに行ってくるわ。」
「クロ――!」
手洗いとは正反対の方向へ去っていくクロウを引き留めようとするジャクリーンの腕を掴み、セイバーは首を横に振る。その直後、食堂車へとカロンがやってくる。
「お客さんら、そろそろ到着だ。覚悟は充分か。」
そうして、役者は揃う。名も無き島に降り立ったマスターとサーヴァントたち。それを迎え撃つは、二騎のサーヴァントと一体の獣。
「ようやくここを見つけたか、随分と待ちくたびれたぞ、クロウ・ウエムラ。」
ビーストはニヤリと笑い、両手を広げてその場に行き着いたクロウたちアケローン号の乗組員を迎え入れる。
「やっぱり俺を待っていたか。」
「当然だろう? 我が魔力は外宇宙由来。地球の魔力へと変換するためには膨大な量の『誰かの所持物』となった聖杯の泥が必要であったのだ。餓叢家は私を抑制するために泥と契約したのであろうが、それすらも私が想定したシナリオ通りよ!!」
「本来の泥は聖杯を汚染するもの。汚染されてしまえば聖杯を用いて何かを成さんとするお前の野望も水泡に帰すからな。」
オウスに指摘されても、ビーストの表情は崩れない。それを知られたからとてクロウたちに打つ手がないことはわかりきっているとでも言いたげに。
「貴様らには何もできない! 何かを為せるか? この『変貌』の獣に! 進化を促進させる権能を持つ我が獣性に! 何もできまい、何も為せまい! それが人類だ、それがヒトだ! いざとなっても動くことなどできない! 打つ手もない! 脆弱で惰弱で貧弱で虚弱で矮弱な知性体だ!」
確かに、その通りだった。クロウは拳を握り締め、唇を噛む。だが、その手に触れる別の手があった。その肩を叩く別の手があった。
「それでも!」
と、叫ぶアインツベルンの子。
「それでも、と言い続けるんだ、クロウ!」
「はい! 私たちはまだ立ってビーストに立ち向かっています、クロウさん!」
決意に満ちた瞳でクロウの隣に並ぶ二人の異邦者。
「アサシンがヘマしたせいでこんな所まで来てしまったが……もうこうなっては仕方がない。目の前の獲物を討ち取るまでは帰れないと思え、死神様。」
「ッたり前だ、
溜息を吐きながらも各々手にした銃に弾丸を装填する狩人たち。
「葦原の子よ。天津神と国津神がお前を見守っている。ここが正念場だ。」
腰に佩く剣を抜き放つ古の大英雄。
「クロウ、行こうぜ。世界を救うんだ。」
「マスター。聖剣は今も、貴方と共に。行きましょう。」
ぎゅっと手を握る愛する者と、肩を掴みながら柄にもなく『彼女』のようなせりふを吐く相棒。
「――そうだな。」
黒鴉は前を向く。睨むは獣の先、ここからでは余りにも遠く、されど手を伸ばせばすぐそこに在る
ビーストはやがて空中へと飛び上がると、背後に無数の炎の矢を生み出し、その鏃を一斉にクロウたちへと向けた。
「絶望せよ! 貴様らは、ここで我が宿望を見届けて死にゆくのだ!! 惑星再生の瞬間をその目に焼き付けろ!! ハ、ハハハハ、ハハハハハハ!!!」
そして、無数の炎の矢が、豪雨となって一行へと降り注いだ。
――凡百なる生命を観察しているのは気分が良う御座った。しかし、何とも後味の悪い話の様に思えまする。未来を掴みたい、想いを繋げたいと足掻く彼の若人達を見ていると、拙僧めの奥底から何やら得体の知れぬ激情が込み上げて来るので御座います。
嗚呼、此れは如何なる感情か。拙僧めには、達観者と化してしまった拙僧めには判りませぬ。解せませぬ。何故、拙僧めは己を憎んでいるのか。我が内に宿る無数の『義経伝説』達が頻りに騒ぎ立てるので御座います。
此度も見逃すか。此度も諦めるか。此度も見捨てるか! 其れが牛若丸か、其れが源義経か、其れがオイナカムイか、其れが成吉思汗か! 去りし日、古代バビロニアに於いて拙僧めを英雄と讃えた少年に応える自らの在り方か! その記憶は拙僧めには無い。ただ、拙僧めを構成する一つの要素が訴え掛けるのみ。だが――。
我らは英霊。人類史に刻まれた、嘗て在りし人の影。我らの存在は、人類史の存続に依って報われる。そう――拙僧めが欲しかった明日を、千年の後の世に於いて尚も欲しがり無様に足掻く子が居た。それだけで――拙僧めを突き動かすに足る。仮初めの命を懸ける価値が、有る!
為れば、私は――!!