Fate/GravePatron   作:和泉キョーカ

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◆アヴェンジャー?
真名:ネロ・クラウディウス
性別:女性
筋力:C 耐久:D+ 敏捷:A 幸運:C 魔力:A+ 宝具:A+
スキル:対魔力C+、騎乗B、頭痛持ちA、黄帝特権EX、三度、落陽を迎えてもA、炎の喝采A
宝具:『灼き滅ちる黄金劇場(ブルチャート・ドムス・アウレア)』
→104年の大火災によって焼失したドムス・アウレアを再現する固有結界。内包した人間を焼き尽くすまで何度でも大火災が再演される。
『???』
→陛下は眠っておられる。浪漫の焔は二度落ちた。三度、落ちてしまうのか。


Fate/Grave Patron ①

「あなたは……誰……?」

 ゾーエの問いに、アロイジウスと名乗った英雄は手にした純白の槍をぎゅっと握り締める。

「――誰でもないさ。ただ、君を助けてあげたいと思って無理矢理自分から召喚されただけの出来損ない(・・・・・)だ。……さぁマスター。僕様は何をすれば良い?」

 その時、すべての攻撃を耐え抜いたプラムたちが何処かへと去って行こうとするのが見えた。咄嗟に、ゾーエは目の前の英霊へ命じる。

「追いかけよう――アロー(・・・)!」

 あるいは、一瞬の歪み。本来、彼女が知るはずのない愛称。それでも、名も無き英霊は確とその鼓膜で捉えたのだ。それだけで、彼女が奮い立つには充分であった。

 

 射出された炎の矢は、着弾するよりも早くすべて地上から発射された無数の剣によって相殺される。同時にそれと代わって空から無数に落下してくるのは同様の剣。一振り一振り作りも拵えも違う剣は、地面にガツンと大きな音を立てて突き刺さると、その割れ目から励起した魔術回路の如き紋様が広がっていき、それぞれがそれぞれの紋様と繋がっていき、ひとつの巨大な魔術回路が組み上がっていく。

「So as I pray――!」

 どこからともなく、詠唱が聞こえてくる。詠唱が編み終わると同時に空中には巨大な歯車が幾数個生成され、漆黒の大地は見る見る間に荒野へと成り代わっていく。それでも現実世界を完全に塗り替えるには至らず、墓標のように突き立てられた荒野の奥には火山、曇り空に歯車が浮いているだけの中途半端な結界と化してしまう。

「――UNLIMITED BLADE WORKS!!」

 詠唱を終え、自らの心象風景を現実へと上書きすると、赤毛の青年はクロウの前に着地した。

「シロウさん!?」

「やっぱりお前も来たか、玖郎。……セイバー・レイヴン。これまで玖郎を守ってくれてありがとな。」

「当然の責務だ、シロウ。私はマスターの剣であり鎧なのだからな。」

 士郎はそのセイバーの返答に頷くと、ひと跳びの跳躍でこちらへとやって来た尼僧をキッと睨みつける。赤黒い魔力で構築された幻像の翼を用いてビーストとクロウたちの間に阻むように優雅に着地すると、尼僧は歪んだ笑顔をクロウ達に見せた。

「――おや、おやおや。嬉しいですね、私の『今は死ぬな』というお願い、きちんと聞き届けてくれましたか。」

「生憎とな。」

 すると、シスター・プラムを追うようにその場にもう一組のマスターとサーヴァントの集団がやって来た。そのうちのひとり、ゾーエはクロウを見ると、驚きと見知った人間に出会えた安堵を表情に見せ、元気よく手を振って見せた。

「セイバーのマスターさん、久しぶり!」

「ゾーエ……悪いな、凄いことに巻き込んじまったみたいだ。」

「ううん、いいの! ここに立っているのは私の意志だもの!」

「マスター、あまり無理はするなよ。」

 明るく振舞っていたゾーエだったが、アロイジウスに淡白に指摘され、不意に顔に陰りを見せてしまう。

「……うん。」

 その短い応答の声だけで、クロウは何となく察してしまう。ゾーエがこれまで多くの出会いと別れを経験してきたことを。そもそも、ゾーエの事を『マスター』と呼んでいるサーヴァントは、ライダーではなく何の因果か『向こう側』で死したと聞いているアロイジウスだった。きっと、クロウには到底想像もできないほどの悲しいことがたくさんあったのだろう――。

 しかし、今にも涙をこぼしそうなゾーエの背中を叩く人物がいた。

「よっ! シケた顔するなよ嬢ちゃん!」

「あなたは……?」

「おれはジャクリーン・リッジウェイ! 名前、聞いたことないか?」

「リッジウェイの娘さん……! あなただったの!?」

「ああ! ジャックって呼んでくれよ。初めまして(・・・・・)、ゾーエ!」

 天体科の名家に生まれた二人の少女は、挨拶を交わして初めての握手をする。クロウとズーハオも、それぞれがそれぞれの目を見た瞬間に何かを感じ取ったのか、拳を突き合わせるのみではあったがこの世界において初めての出会いに互いを讃え合った。

 それを見届け終わると、シスター・プラムはビーストへ問いかける。

「さて、それではどうしましょうか、ビースト。」

「無論、須らくの駆逐だ。ここですべての因縁に決着をつける……!」

 シスター・プラムとビーストがまるで仲間であるかのようなそのやり取りに、クロウは声を荒げる。

「なっ……お前らグルだったのか!?」

「えぇ、正確にはグルに『なりました』。」

 直立したまま微動だにせず、口だけを動かしてシスター・プラムは肯定する。

「私はもとより『神』なる不確定な存在を信仰していませんでしたから。」

 そう、修道服を身に纏う悪魔は不遜に宣う。

「大変気になっていたのですよ。『神』とは何なのか。原初に世界へ降り立ち我が物顔で罪を定め愛を定めたくせに、人ひとり救うこともしなかったその『神』とやら……一度この目で見てみたかった。ですのでまぁ、利害の一致と言いますか? 私はビーストが『神』へと昇華する補助を行う。ビーストは私に『神』を見せてくれる。ウィン・ウィンだと思いますねぇ。」

 耳まで裂けるかと思うほどに口端を吊り上げ、シスター・プラムは蝙蝠のような笑い声をあげる。しばらく睨み合っていた双方が動き出したのは、ビースト目掛けてテラが飛び出した瞬間だった。

 

 まっすぐビーストへ向かって突進していくテラを追いかけ、ゾーエとアロイジウスも前へ出る。しかし当然の如く、その進路上にはシスター・プラムが立ちはだかった。腕に纏った赤黒い魔力を剣立つ荒れ地へと浸透させると、地表から無数の鉄杭がゾーエたちへと迫りゆく。

「やらせは――しないっ!」

 幻想の具足を展開し、一時的にその猛攻を防ぎ切ったのは、ズーハオを担いでシスター・プラムを牽制するように勢いよくその場に着地したランサーであった。ズーハオをその場に降ろすと、ランサーは頭の上で兄の大槍をぶんと景気よく振り回し、背後のゾーエたちへ声をかける。

「この尼と剣士はボクらが引き受けた! ビーストを倒してこいっ!」

 ゾーエとテラは躊躇いなく頷き、シスター・プラムの横を通り過ぎていく。それを阻むように腕をゾーエへ向けたシスター・プラムの手首を槍で突き刺すランサー。

「っ、ぐ、ぅ――!」

「行かせないさ、あの子たちの元へはな!」

「ふふ、主君ひとり守り切れなかった腹心が、ここまで来て何を言いますか。」

「ッ――!」

 いくら温和なランサーであっても、その言葉だけは看過できなかった。漏れ出した魔力が紅蓮の炎となってランサーの体躯を舐めるように焦がしていく。しかし、その背に触れたズーハオの言葉が、ランサーに理性を呼び戻した。

「なっちゃん。守れなかったのなら次は守ればいい。言われただろう、『儂の分まで最後まで生き残れ』と!」

「――うん。」

 すぅ、とランサーは深く息を吸い込み、浅く吐き出す。開いた眼で不機嫌そうなシスター・プラムを睨みつけ、再度肯定の宣言を言い放つ。

「うん! 守ろう、守るんだ! 世界を、みんなを、ズーちゃん(マスター)を! 行こうズーちゃん――ここがボクらの、本能寺だッ!!」

 シスター・プラムと衝突するように前へと出ると、過ぎ去っていくゾーエへ背を向け、庇うように立ちはだかる。そして槍を地へと音高く叩きつければ、そこには三界神仏を灰燼と帰さんまでに燃え盛る紅蓮の焔が壁のように立ち上がり、炎上する仏寺を形成していった。

「さぁ! 阻まねばならぬものを得た森蘭丸は往生際が半端なく悪いぞ! ()を倒せるものなら、やってみろッ!!」

 燃え上がる幻想の本能寺へと追い打ちをかけるように、月桂冠のサーヴァントの火炎がランサーたちに迫りくる。その炎をガンドを使って払うズーハオと、攻め入るシスター・プラムに刃を向けるランサー。

 しかしその直後、ビーストの動きに変化があった。ビーストの上半身と下半身がバックリ割れたかと思うと、その内部に広がっていた虚空から、無数の人型の怪物が溢れ出してきたのだ。まるで洪水のように我先にと外界へと飛び出し、地面へと墜落し、その場にいるすべてへ襲い掛かろうとするその姿は、さながらにビーストが取り込んだコーニッシュの宝具、『全ての死に祝福あれ(ブラッド・シェイク)』のようであった。

「あいつ……自分が食べたサーヴァントの宝具が使えるの!?」

 驚愕するランサーの視線でゾーエやクロウたちに襲い掛かろうとする死の洪水はしかし、コーニッシュの用いていたものとは違い、動く死体ではなく、イヌ科の頭部と蹄を持つ怪物であったのだ。その怪物たちは一斉にクロウたちに襲い掛かったが、その道中で軌道を変え、別の一点へと集中して雪崩れ込み始めた。その場にいたのは――。

「……ッ!」

 咄嗟にその場を離れたのは、ズーハオであった。ランサーには何も告げず、怪物の一斉行軍が押し寄せるその場所目掛けて身体強化を施した脚で急行する。

 

「この――馬鹿野郎!!」

 そこへ辿り着くや否や、ズーハオはカイリの頬を殴り飛ばす。

「死ぬ気か! セイルが死んだから自分も死のうと言うのか!?」

 カイリは激情を露わに逆にズーハオの顔面を殴り返すと、声を荒げて反駁した。

「あぁ、あぁそうだよ! 悪いのか!? あたしらはなぁ! いつも二人で一緒だったんだ……こんな、こんなことにお前が巻き込まなきゃ、セイルはまだ生きてたんだぞ!! お前がセイルを殺したんだ、お前が、お前が……ッ!」

「……だが。」

 殴られた傷をあえて治療することはせず、涙を流すカイリの肩を掴む。

「それをセイルは最も望まない。もし立場が逆だったら。もしお前が死んで、その後をセイルが追おうとしていたら――お前ならば止めようとしないか!?」

「止める……止めるよ、その手段があったなら! だって、だってそんなの、あたしは望んじゃいない! あたしが死んだからって、セイルには生きてほしかった! でも……!」

「ならば双子なんだ、考えることは同じだろう! セイルはお前に生きてほしがっている! 別れも言えなかったかもしれない。最期に抱擁も交わせなかったかもしれない。だがセイルはそれでも、覚悟を以てあの尼僧に立ち向かったんだ! あぁ認めよう、オレが殺したも同然だ!」

 普段仏頂面しか見せないズーハオが、この時ばかりは好敵手の無謀を糾弾していた。人間の体温ではないと断ぜられるほど冷たいカイリの肩を爪跡が残るほど握り締め、牙を剥いて吼えていた。

「その裁きはいずれ受けよう! だが今ではないだろう、三塚月カイリ!!」

「そう……っすね。ごめんなさい。あたしどうかしてた……。親友を目の前で喪ったゾーエですらあんなに気丈に振舞って、目の前の困難に自分から挑んでるってのに……あぁ、そうっすよ。」

 カイリは天を仰ぎ、ズーハオの手を払って異形の大群に面と向かって対峙した。

「あたし、ズーハオに今までずっと勝てなかったものがあったんすよ。」

 カイリの腕から冷気が漏れ出す。恐らく、三塚月の熱伝導魔術によるものだろう。怪物たちはまるでより温度の低いものを感知しているかのように、まっすぐカイリ目掛けて押し寄せてきた。

「心の強さ、っす。」

 まず真っ先に飛び掛かってきた怪物をアッパーカットで吹き飛ばす。間断なく攻めて来る怪物たちを、カイリは口を動かしながらも次々に屠っていった。

「そりゃあ? ズーハオよりも天才だったし、今でもズーハオより強いと思うぜ?」

「……。」

「でも……さ。心の強さだけはいつまで経ってもお前には勝てないんだ。修行もすぐ音を上げてたし、すぐ見栄張るし。その点……ズーハオは頑固だったし、愚直だったし、直情馬鹿って感じだったっすけど。」

 その時、カイリの視界に小さな光が映り込む。それは、内に溜めた魔力を解放する宝玉の輝きだった。その白い光はふわりと漂ってズーハオの肉体へと吸い込まれる。それと同時にカイリよりズーハオを優先するように怪物たちが動き始めた。

「そうだな。お前は昔から逃げ癖が強かった。だがお前はこうしてここに立てているじゃないか。……お前も立派になったよ、カイリ。」

 周囲に色彩々の宝石をいくつも飛び回らせながら、ズーハオは死の河を堰き止めていく。

「――よく笑うようになったっすね。」

「そうだな。オレもそう思う。」

 二人の藍燕武術使いは、アームレスリング式の握手を一瞬だけ交わすと、到底二人だけでは止められないような物量の怨嗟を前に猛攻を仕掛けるのであった。

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