真名:宇宙船地球号(スペースシップ・アース)
性別:男性
筋力:C+ 耐久:B+ 敏捷:B+ 魔力:A++ 幸運:D 宝具:EX
スキル:対魔力A、騎乗EX、陣地作成A、単独行動EX、神性E-、惑星躯体A++、原初の意思A、生命愛EX、抑止力EX
宝具:『???』
眷属たちが自らの意思に逆らい、ズーハオとカイリに襲い掛かるのを見たビーストは見るからに不機嫌そうな表情を見せ、再び上半身と下半身を咢の如く大きく開け放つ。
そこから放出されたのは、虚影の兵士たちであった。見覚えがあるのか、藤丸が呟く。
「シャドウ・サーヴァント……!」
「なんだ、それ?」
「サーヴァントの霊基を模した影のような存在です!」
ジャクリーンの問いに答えたのは、マシュであった。ビーストは数十騎以上のシャドウ・サーヴァントを腹部から吐き出すと、また上下半身を接合させ、ヒトの姿へと戻る。
「ただの魔力の塊だったり怨霊みたいなものだけど、実力は本物のサーヴァントと大差ないんだ! それが、こんなに……!」
だが、立ち止まる一同の中でただ二人だけ、暗黒の大軍団の渦中へと飛び込む姿があった。
「ナリはサーヴァントなんだろ!?」
「心臓と霊核はあるはずだ、柄でもないが――食い止めるぞ、アサシン!!」
面々の中で最も協力する素振りを見せなかったボドヴィッドとアサシンだった。アサシンはモシン・ナガンのハンドルに掌を、引き金に小指を添え、銃床を肩に抑えつける体勢で的確に脳天を穿つ早撃ちを披露しつつ、呆ける背後のクロウたちへ声を荒げる。
「早く行けってんだよッ!! ついでにお前らも殺すぞ!!」
はっと我に返り、クロウたちは行く手を阻むシャドウ・サーヴァントたちを数体迎撃しながらビーストの元へと急行する。その間も、クロウたちに襲い掛かるシャドウ・サーヴァントが次々にアサシンの狙撃の餌食になっていった。
「……本当に、柄でもない。どうして私はこんな……。」
手にしたオートマチック式の拳銃で周囲のシャドウ・サーヴァントにダメージを与えながら、ボドヴィッドは己の衝動に疑念を抱いていた。
「本当だな、ボドヴィッド。お前、生きていたかったんじゃないのか?」
「そうだな……。」
背中を密着させ、ひたすらに眼前の敵を蹴散らしていくアサシンに嘲笑され、ボドヴィッドも皮肉じみた笑顔を浮かべる。
「自分から死にに行くような真似を。……きっと、全部あいつらのせいだ。」
「クロウか?」
「あぁ。あいつを殺すことに何も変わりはない。今すぐにあいつを背後から撃ち抜くことだってできる。だが――だが!」
唇を噛み締め、ボドヴィッドは吼える。
「あいつしかいないんだ! こんな状況……。あいつを今すぐに殺しても、好転するはずがない……それどころか、私たちが生還できる確率も大幅に低下する! だから……だから癪だが、ここは任せられてやる!! 私が生き残るために、こんなクソたいな地獄を打破してみせろ、若鴉!!」
その咆哮に呼応するように、アサシンも腹の底から声を出し、前を征くセイバーの背中へと彼女なりの激励を飛ばすのであった。
「セイバー! お前の脳天、あたいが予約してるの忘れんじゃないぞ!! それまで死ぬな! あたいに殺されるまで生きて戦え!!」
ガチン、とコッキングハンドルを引き絞りながら笑うアサシンの魔弾は、目の前にいたコーニッシュのような姿のシャドウ・サーヴァントの頭蓋を吹き飛ばして見せた。
やがて、クロウとセイバー、ジャクリーンとオウス、レイラとバーサーカー、そして藤丸とマシュは、ビーストのほぼ真下へと辿り着く。
「蛮勇を。」
嘲笑うビーストの体躯からは、獣の脚部や臓腑で構築された触手がその皮膚を突き破って露出していた。
「しかし不可解だな。私のこの姿を直視しても正気を保てているとは。」
首を傾げるビーストに対し、突如としてレイラを肩に乗せていたバーサーカーが吼え猛る。その姿を見たビーストは、合点がいったように何度も首を縦に振った。
「……なるほど。インターネットミームの怪物……。私の狂気ですらもインターネットミームとして脅威性を取り込んだか。それはマスターの命令か――いや。」
何のことかわかっていない様子のレイラの表情を見たビーストは考えることを止め、魔力を一気に周囲へ撒き散らし始めた。暴風となって一行を襲うその魔力はやがてビーストの霊基を侵食し始め、ビーストの高笑いと共に冒涜的な材質の触手を形成していく。
「理性がなくともマスターを慕う想いは誰より強い……と! フ、フフ、ハハハハハ!!! 滑稽だ!! ただの名も無き化物にすら哀れに思われるとは、これだからヒトというのは憂うべき知性体なのだ!!」
臓器と臓器がぐちゃり、ぐちゃりと融合していく。結合していく。どろどろに溶け合ってひとつのカタチを成していく。ビーストの姿は最早人間の原型を留めておらず、肩口から、股関節から、首から、腹部から、背部から、大量の触手を吐き出すだけの出力機へと成り果てていた。
――かくして、ここに人類悪、その真なる姿が顕現する。その名は『変貌』。見上げるほど高く高く、雲を貫くほど高く高くまで聳えるその威容は、『樹木』であった。触手によって構成された幹を天へと突きあげ、触手によって編まれた枝を天蓋へと食い込ませていく。その根は固化溶岩を砕き、抉り、深く深くへと惑星を蝕んでいく。
『ハ、ハハ!! モロい、モロいなァ、セカイとイうのは!! どうだ、ワタシのエダはイマにも、ベツセカイへとシンショクをハジめんとしているではないか!!』
「う、ああ、ああああ――っ!!!」
クロウが苦しむ声に振り替えれば、そこには血反吐を吐いて倒れこむテラを抱き起こすゾーエの姿があった。
『ハハハハ!!! ネもホシのフカくへ、聖杯へとトウタツしたぞ!! ナガくマたせたな、ワがセカイ!! これより、このセカイのホウソクをホカのセカイへとテキヨウさせるダンカイへとイコウする!! ゼンジンルイが、シンにコウフクでいられるセカイを――ワがテで! ソウゾウするのだ!!』
直後、マシュが携帯していた通信機から幼い少女の声が鳴り響いた。
『――シュ、マシュ! 藤丸くん! 聞こえているかい!?』
「ダ・ヴィンチちゃん!」
藤丸が『ダ・ヴィンチ』と呼んだその幼い少女の声の主は、藤丸とマシュに事態の説明を要求する。言われた通り手短にマシュが報告を終えると、ダ・ヴィンチは切羽詰まった声音で自らのいる場所の状況について発言した。
『まずいぞ、こちら側でも不可解な魔術的干渉が計測された! その人類悪の成りかけがこちら側の世界に枝を伸ばした影響でパスが生まれて通信機が正常に作動したんだ! 一刻も早く、その人類悪の成長を止めるんだ!!』
「そんな事言ったって、どうやって――!」
ジャクリーンの疑問に答えたのはオウスだった。
「……奴の幹には未だ粗が残っている。通常の樹木で言わば、『虚』だ。その虚から内部へ侵入し、成長を阻害するような手立てがあれば、よもや……。」
「……。」
オウスの提案を聞く一同の中で、ひとりだけ思い悩むベクトルの違う表情を見せる少女が居た。レイラは自らの掌をじっと見つめ、苦悩している様子だった。そんなレイラの膝に、そっと指を乗せるバーサーカー。
「■■■■■▪▪▪▪――。」
「うん。……うん。わかってるよ、バーサーカー。きっとここが運命の分かれ道。ここでやらなきゃ、きっと全部ダメになるんだ。わかってる……わたくしだって、覚悟決めてきたもの。」
レイラは表情を引き締め、その場にいた全員に問う。
「あのビーストを倒す手段はある!?」
「ぼ――く、が。」
ゾーエに支えられながら、憔悴しきったテラが挙手する。
「ビーストを……止められるの、は、グランドクラス……だけだから。でも、レイラ……それで、いいの?」
すべてを理解しているかのようなテラの質問に、レイラはぐっと拳を握り締めて肯定する。
「――ええ。わかっています。でもこれは、この星のため。」
レイラは樹木と化した人類悪を見据え、バーサーカーに指示を飛ばす。
「行くわよ、バーサーカー! わたくしたちで道を拓きましょう!!」
咆哮えるバーサーカーの肩にしがみつきながら、レイラは手元に純白の魔術礼装を呼び出す。
「これはわたくしが元々在ったとある礼装を改造し、数十年の歳月をかけて生み出した、聖杯を破壊するための礼装……その名を、『堕天の
『堕天の衣』を躊躇なくその身に纏うと、レイラの瞳から光が消える。最後にこれもまた純白の王冠を戴き、クロウたちに言葉を残すと、レイラはバーサーカーと共にビーストの根本へと去って行った。
「……それでは皆さん、ごきげんよう。わたくしたちの想い、未来へ届けてくださいね。」
「レイ――!」
ジャクリーンの呼び掛けも空しく、その時には既にレイラの姿は遠く離れてしまっていた。
疾駆するバーサーカーとその肩に腰かける堕天の衣纏うレイラが根を駆けあがっていく道中、眼前にシャドウ・サーヴァントが数十体、根から生まれ落ちるように這い出して来る。バーサーカーと頷き合い、レイラはその場でバーサーカーの肩から飛び降りる。
「――っ!」
既に自己の自由と制御が効かなくなっている身体に鞭打ち、レイラは遠く遠く離れた幹へと、肉の表皮を走っていく。
「■■■■■■■■■■――!」
背後で、バーサーカーがシャドウ・サーヴァントたちの猛攻に悲鳴を上げているのが聞こえる。レイラは唇を噛み締め、手元の令呪を見下ろす。
「もう、心残りなんて――!」
目尻から溢れる涙を令呪が刻まれた右手で拭い取り、レイラは令呪を天高く掲げ、腹の底から声を振り絞って叫んだ。
「やっちゃえ――やっちゃえ、バーサーカアアアァァーーーッッ!!!」
三画満足に残っていた真紅の刻印はその瞬間にすべての輝きを失い、代わりに背後のバーサーカーの悲鳴が雄叫びへと成り代わる。
しかし、それでシャドウ・サーヴァントの問題が解決したわけではない。走るレイラの周囲にも、シャドウ・サーヴァントや鋭利に尖った触手が湧出しつつあった。悔し気に歯を食いしばるレイラの頭上から、突如女声が降り注ぐ。
「葦原の子、歪んだアインツベルンの子、レイラ・アダモーヴィチ・アインツベルン! 虚への水先案内人、このオウスノミコが引き受けよう!!」
オウスはレイラの眼前に着地すると、白く輝く剣で触手やシャドウ・サーヴァントを討ち祓い、前へと飛び出していく。その姿はやがて堕天の衣にも負けず劣らない純白の光を放ち、大いなる翼を持つ白鷺へと変わっていった。
「子ら、我が翼の元に未来を抱け! この目、三世を見守る抑止の霊魂!! 『
光り輝く白鷺は、燃える翼を羽ばたかせ、レイラの征く道を阻む障害物を吹き飛ばしていく。そして、ビーストの幹へと特攻を仕掛け、その壁面に巨大な空洞を覗かせる大穴を生み出して見せた。
ビーストも痛覚が残っているのか、苦悶の声をあげながらシャドウ・サーヴァントを吐き出す行動を止める。そのチャンスを決して逃さず、レイラは全力で前へ走り抜けた。魔術回路が熱を帯び、少しでも気を緩めれば失神しかねない激痛が全身を駆け巡っても、レイラは絶対に足を止めなかった。頭上の枝から照射される熱線に肩や片目を貫かれても、レイラは絶対に足を止めなかった。
自らの足でようやくオウスが捨て身の宝具で崩壊させた虚へと辿り着くと、ふとレイラは眼下を見下ろした。生憎の曇り空だが、レイラの目にはその世界は愛おしく思え――。
「っ……!」
だからこそ、その残った右眼に映った少年少女たちの姿に、涙が込み上げた。それでも。
それでも、レイラは虚の内へとその身を投げ出す。どこまで行っても果てなど見えない漆黒の空間の奥底へと堕ちていく。
あぁ。願うなら。
「最期も一緒に、居たかったなぁ――。」
その脳裏に浮かぶのは、何度もレイラを気遣ってくれた、理性無き無辜の怪物の姿。やがて落下していく感覚も麻痺してきた時、レイラの耳朶に触れる耳障りな声があった。
「――!!」
おもむろにレイラが瞼を開ければ、そこにはバーサーカーがいた。必死にレイラへと手を伸ばし続けるバーサーカーの姿に、レイラは涙を零しながらも笑って見せる。
「もう、本当に律義な子なんだから。いいよ、一緒に堕ちよう……!」
その手を取ると、バーサーカーはレイラの身を抱き締め、か細い声で鳴くのであった。
「――レ、イ、ラ――ア、ァ!」
「……なんだ、ちゃんと呼べるじゃないの……。」