真名:???
性別:???
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:C 魔力:E 幸運:C 宝具:EX
スキル:対魔力D、単独行動B+、追い風の航海者A、など
宝具:『???』
「お嬢さん、海はお好き?」
赤髪の女性は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、セイバーに問う。
「個人的な見解を述べるならば嫌いではない。公的な意見を述べるならば――少々不得手、であるな。」
「そう。私は好きよ、海。私、元々海軍のお偉いさんの孫でね。ちょっと手違いで変なことに巻き込まれちゃったんだけど、昔からお爺さんの演習に連れてってもらってたわ。」
女性は懐かしそうにサングラスの奥の目を細めながら、水平線を眺める。セイバーはいつでも行動を起こせるように少しずつ両手の拳に魔力を溜めながら、慎重に会話を続けた。
「……その拳銃、何か特別な物なのか?」
「ん? いいえ、拳銃自体は何も特別な物じゃないわよ。どうして?」
何食わぬ顔で逆に問いかける女性。セイバーは何とか自身の正体を明かさぬように振舞いながら彼女の正体を探ろうとするが、彼女も同様の事をしているためか、なかなか重要な情報が得られない。
「いや……海軍の家に生まれたのならば拳銃のひとつくらいオーダーメイドでプレゼントされそうなものだと偏見に満ちた想像をしたまでだ。気にしないでくれ。」
その後も互いに腹の探り合いをしていたが、途中で全てが面倒になったセイバーが不機嫌な表情と声音でとうとう吐き捨てた。
「――で、貴様どこのサーヴァントだ。」
「あら、大胆ね。女は我慢強くなくっちゃ男を御せないわよ?」
くすくすと含み笑いを漏らしながら、美しい両の脚を組み換える女性。
「貴方、パリの街で宝具を使った騎士王さんでしょう? お伽噺で聞くよりも随分とヤンチャな性格をしているのね?」
「私は所詮『彼女』の半身である野良カラスだ。『彼女』が崇高なるブリテンの栄光そのものを体現するならば、私はブリテンが現代に至るまでに辿ってきた暗黒の歴史そのもの。レイヴンは噛み癖が悪いんだ。いたいけな少女と侮ればその死肉、骨だけになるまで啄んでやるぞ。」
そう言い捨て、『
「こら! この水着、安くないのよ?」
その声も無視し、セイバーはアイスクリームを一口で飲み込むと女性の懐に飛び込み、次々に『
「その身のこなし……やはり貴様ただの人間ではあるまい!」
「いやだわ、この程度を躱しただけで人外扱いなんて。ちょっとしたおまじないよ?」
パンチだけではなく、同様の力を上乗せさせたキックも混ぜ合わせて女性に連撃を叩き込もうとするが、セイバーの攻撃の一切合切は女性に届くことは無かった。
「ひとりでキャットファイト? あらあら、英国淑女ともあろう騎士王様がお下品よ?」
その一言で堪忍袋の緒が切れたセイバーが瞳孔の開き切った瞳で右手を開き、鴉羽の聖剣を握ろうとした――その瞬間。
気付くと、セイバーは宙高くくるくると放り投げられていた。目まぐるしく回転する世界の中で、セイバーは内に秘めた魔力を解放して漆黒のドレスに赤黒い甲冑姿の戦闘形態に変身し、水面に両足で勢いよく着地して見せる。
即座に顔を上げると、眼前に白髪に白髭の筋骨隆々な老爺が迫っていた。手にした日本刀の切っ先を天蓋に向け、ひたすらにセイバーへと突進してくる。そのまま刀を大上段に振り上げ、野太い怪鳥音をあげながらセイバーに斬撃を放つ。
「ちぇええええすとおおおッッ!!!!」
そのあまりの速度に後退する余裕もなく手甲でそれを受け止め、豪快な水飛沫と共に後方へと吹き飛んでいくセイバー。直後、彼女が再度前方に視線を向けると、老爺がまたも大上段からの一撃を放とうとしていた。
「ちぇええええ――ッ!!」
しかし、その攻撃がセイバーに届くことはなかった。老爺がセイバーに肉薄した瞬間、老爺を蹴飛ばす一人の人物がいたのだ。
「マスター!?」
誰あろう、クロウであった。その右手の甲に刻まれた翼を広げた鴉のような意匠の令呪は、三画のうち一画が消費されていた。魔力切れを起こしたサーヴァントの魔力を最大の状態まで回復させる事すら可能な超大規模魔術を一筆書きの一画に閉じ込めた魔術装置の力を、己の肉体の強化のためだけに使ったのだ。しかし、その分クロウの身体能力や筋力は下級サーヴァントのそれと同等程度まで底上げされていた。
「セイバー! 俺を飛ばせ!」
だがクロウとて人間、セイバーのように水面を歩く能力は持ち合わせていない。それを理解しているセイバーは迷うことなくクロウの脚をバレーボールのレシーブのように天高く打ち上げた。
クロウが上空から周囲を確認すると、砂浜から遠く離れた沖合にいるのは水面に立つセイバーと同様に水面が地面かのようにしっかりとその場に立っている老爺、そして宙を舞うクロウだけで、先程の女性はセイバーたちを追ってくることはなかったようだ。
「セイバー!」
クロウがまたも一声かけると、セイバーが何も答えぬまま弓の弦を引き絞るように右手を引き、クロウが自らの眼前に落下してきた瞬間に彼の足の裏を全力で殴り、前方に向かってクロウを弾丸の如く射出させた。
老爺は飛び掛かってくるクロウの腕に手にした日本刀を突き立て、そのまま勢いを横へずらそうとした――が、叶わず、確かにクロウは老爺から見て右側へと吹き飛んで行ったが、それは老爺が手にしていた日本刀ごとであった。
そのまま左掌に突き刺さった日本刀を力任せに抜き取り放り捨て、筋肉の動かなくなった左腕をぶらりと振るい、ナポリの青い海に紅色の染みを浮かべながら水底へと沈んでいくクロウ。
「……子供を殺すのは心苦しいんだがなぁ……。」
そこでようやく老爺が怪鳥音以外で声を発したが、それは何と流暢なイギリス英語であった。同郷の言語を聞いたセイバーは凄まじい違和感に駆られる。
「……貴様、ブリテンの者か?」
「サッカーを観るのは好きだぜぇ。」
皺だらけで真っ白い髪と髭に覆われた不敵な笑顔は、しかし確かにアジア系の顔立ちであった。そして先程の怪鳥音を伴う日本刀。どこの誰よりもブリテンという地を見守り続けてきたセイバーは、限られた情報を脳内で纏め、ようやくその人物に辿り着いた。
「トゥー……。」
こと、ブリテンに縁ある人物が相手ならば、ブリテンの歴史の子細までを記憶しているセイバーはAランクにも相当する真名看破スキルを持っているに等しい。
「ゴー……。」
その人物が若かりし頃、散々馬鹿にされる際に使われたその罵倒の言葉を口にすると、老爺の表情が一瞬で険しくなる。
「チャイナ!!」
「……言ってくれるじゃあねぇか嬢ちゃん。久々に聞いたぜぇ、その言葉。」
次の瞬間、セイバーの視界が真っ白になるほどの水柱がいくつも立ち上がった。
老爺が放っているのは、魔力によって構築された戦艦主砲級の砲撃。それを裂帛の気合と共に虚空から射出している。
「ウォースパイトにドレッドノート……様々な戦艦を目にしてきた訳ではあるが、そのいずれもこれほどまでの砲撃手段は有していなかったな……。
「それ、お前さんのマスターにも言えるのかい?」
「私のマスターは貴様らのような大艦巨砲主義ではない。民族を一枚岩に考えるのは愚の骨頂だぞ、提督殿。」
「全く以てその通りだぜ、イチャモンの付けようもねぇ。確かにわしらはちっとばかし馬鹿をしすぎた。」
しゃがれた声で呵々大笑しながら、次々とセイバー目掛けて砲撃していく老爺。セイバーはそれを水面を滑るように跳躍しながら躱していく。
「貴様はライダーのサーヴァントか?」
老爺はそのセイバーの問いににやりと笑みを浮かべ、小馬鹿にしたような声で答える。
「さぁなぁ? わしの真名がわかっとるんならライダーだと思うだろうなぁ。だが英吉利のセイバー、そうとは限らんよなぁ? キャスターやも、アーチャーやもわからんぞ?」
セイバーは細く長く息を吐くと、一度足を止め、自身に向かってくる砲撃に全意識を集中させるように瞼を閉じた。そして、短く切るように吐く息を止め、瞼を見開く。瞬間、爆音と共に魔力砲撃は真っ二つに断ち切られ、海の中に沈んで爆発と共にセイバーの左右両側に水柱をあげた。
余裕そうな老爺の表情が一変するのと同時に、セイバーが一気に老爺目掛けて距離を縮めた。その間も老爺は砲撃を繰り返していたが、その悉くはセイバーの聖剣によって斬り捨てられてしまう。
老爺の目前まで迫ったセイバーが振るう聖剣の動きを注視していた老爺は直後、天高く放り投げられた剣に気を取られてしまった。
「しまっ――!」
気付いた時には、セイバーは『
「がはっ……!?」
老爺は遥か彼方へ紙切れのように飛んでいくものと思われた。しかし、セイバーの予想とは裏腹に、老爺は何もない場所に背をしたたかに打ち付け、海面にばしゃりと倒れ伏してしまった。老爺の注意が逸れてしまったために、老爺が衝突した
カモフラージュが解けるように霧の中から現れたそれは、巨大な主砲を前方に二門、後方に一門、各種対空砲や偵察機発艦用の小規模カタパルトまで完備し、天までそびえる艦橋を持ち、艦首には菊の紋を煌めかせる大日本帝国海軍最後の切り札、大和型戦艦一番艦の戦艦、大和そのものであった。
「やはりか……。」
セイバーは自身の真名予想が当たっていたことを確信すると、再度老爺に切っ先を向けた。
「さぁ、かかってくるが良い、
老爺は悔し気な顔で立ち上がると、濃紺の海軍将校服へと姿を変化させ、右の白手袋を外すと、一帯に響き渡るほど音高く指を鳴らしてみせた。
「これは……!?」
その号令によって現れた光景に、セイバーは愕然とすることになる。
それとほぼ同時刻、ナポリ名物のピッツァを片手に持ちながら、セイバーと老爺の対決を超遠距離から眺める一組の男女がいた。
「……いつまで待つんだい、これ。」
「耐え忍ぶのには慣れているんじゃなかったか。」
「……オーケーだ、
ビジネススーツ姿の痩身の男と、狙撃銃を構えた幼い少女であった。