「あたし、寝ないから……!だからアイス買って!」
これは、G11が色々な口実で仲間を言いくるめ、なんとかアイスを買ってもらおうと頑張る奮闘記(?)である。
タイトルやあらすじからわかる通り、ほのぼの系です。読んで、四人の仲良さに和んでみてくださいな。
例のごとく感想やら頂けると非常に嬉しいです。
あと反響があれば続きます。
「――G11、G11!さっさと立って!もうそろそろ着くわよ!」
「……ふあぁ、まだ食べ終わってないよ……」
「この寝ぼすけ野郎!」
「あだっ」
G11と呼ばれた少女は、頭にげんこつを食らって目を覚ます。
ここはヘリコプターの中。G11を含め、彼女の所属する小隊は、とある任務を受けて空路を移動中であった。
「あっはははっ、懲りないねーG11」
「本当はあたしだって好きで寝てるわけじゃないんだよ、ナイン。ただついつい眠たくなっちゃうだけ……」
「それでも寝てることには変わりないじゃん」
UMP9、小隊員からはナインと呼ばれている彼女は、G11を見つめてにんまりと笑う。
彼女は部隊のムードメーカー的存在だ。いつも明るく振る舞い、誰とでも親しげに接する。だがそれは結果的にG11の安眠を邪魔することになるので、彼女にとっては面倒な相手だ。
「ほらまた寝ようとしてるー!起きてー」
「いだだだだ……!ほっぺ、つねらないで!」
今のように、彼女は睡眠の敵の一人である。
敵の一人ということは、睡眠を邪魔するのはナインだけでは無い。最初にG11を叩き起こした犯人である416や、ナインの隣でヘリコプターの壁に体を預けているUMP45も例外ではない。
「やっと目を覚ましたみたいね、全く……。なら早く降りる準備をしてくれる?」
「言われなくても分かってるよ……」
416の言う通り、彼女達が乗っているヘリコプターは着地体勢に入っていた。あと十数秒もすれば、機体は地面に着くだろう。
G11は霞む目を擦りながら、ベルトをだらだら外していく。
その間とっくにベルトを外し終わって立ち上がっていた416は、あからさまにいらだちを見せていた。
「ああもう!どうしてあんたは何もかも行動が遅いのよ!」
そういうと彼女はG11を縛り付けるベルトをテキパキと外し始める。
「いつも怒ってるわね。そんなんじゃ早死するんじゃない?」
「うるさいわね。早死するのはそれこそこいつよ」
45がため息混じりに口を出すと、416は怒りながらG11を指さした。
「ある日寝ている途中に、ぽっくり死んでもおかしくないわ」
「永眠〜」
「ええ……、やだよ。それじゃあアイスが食べられなくなるじゃん」
G11はあくびと共にゆっくりと立ち上がる。その眠たげな顔は、416の怒りをさらに加速させる。
「さあ、着くわ。皆降りる準備は出来てる?」
「おっけー」
「こいつ以外はとっくに準備完了よ」
「あたしだってもう降りれるよ……」
G11は自分の背丈ほどはあるライフルを抱え、いざ降りようとした時、
はっと何かを閃いたような顔をした。
「416……!」
「何よ。まさかまだ寝足りないとか言うんじゃないでしょうね」
「それはあるけど……、違うよ!ねぇ416――」
G11は416を見上げて、目を輝かせながら言う。
「416、アイス買って!」
G11以外のその場の全員が、面白いように口を開けっ放しにする。だがG11はにやりと笑いながら、416に上目遣いを向けていた。
「……何言ってんの?」
「ほら、あたしラムレーズンアイス好きでしょ?それがもし作戦が終わった時に食べられるなら、あたしやる気出るかも……!」
「うわっこいつ……」
416がため息をつく。
世の子供は、結果を出せば〇〇をあげよう――と報酬を提示すれば、努力をすることがそれなりにある。思考がまだ単純なために、現金なのだ。G11はそれを逆手にとり、自ら報酬の請求を行った。
自分の欲しいものを手に入れようという彼女のずる賢い作戦であった。
「ねっ、ね?悪くないと思うんだけど……どう?」
G11はしたり顔で416にすり寄る。この契約はものにしただろうと、慢心している様子だった。
だがこの作戦には欠点があった。
「残念ね。普段努力のひとつもしないようなやつに、買うアイスなんてないわ」
例えば、怠慢な子供をもつ親が、突然子供におねだりをされたとする。あれをやるから〇〇買って。勉強頑張るからこれ欲しい――。だが親から見れば、どうせまた三日坊主になるに違いない、やらないに違いないと、要望に応えるはずが無い。
つまりのところ、G11の作戦は、自分の普段の行いのせいで完全に玉砕したのだ。
「えーっ、お願い、ちゃんとやるからさあ……」
「無理なものは無理よ!諦めなさい!」
「絶対寝ないからぁ……!」
G11は涙目になりながら、右手を伸ばして416の腕を掴む。416はどう見てもうざったそうである。
「まあまあ416?G11がこうやって直接交渉なんて珍しいじゃない。たまには誘いに乗ってあげたら?」
「嫌よ。何でこいつなんかのわがままを聞かなきゃいけないわけ?」
すかさず45が事態に介入してくるが、416は難色を示し続けている。
すると45はそっと耳打ちをする。
「これで本当に寝ぼすけが働いてくれるなら、任務にも大きなメリットがあるでしょ。いつでも指示ひとつで目標を吹き飛ばしてくれるのよ。もしまた寝ているならアイスを与えなければいい」
「――それはいいけど、癪に障るのよ。それに、これでアイスなんか与えようものなら絶対調子に乗るわ」
「頑固だねー。いいじゃんアイスの一個くらい」
「ナインねぇ……」
ちらりと目配せすると、となりでは目を輝かせてじっと自分のことを見つめるG11の姿がいた。
「……」
眉をひそめながら416はG11を見下ろす。腕を組み、顔に手を当て考え込む素振りを見せると、ようやく重く閉ざしていた口を開いた。
「仕方ないわね、今回だけよ」
「え……!本当?やったぁ!」
それを聞くと、彼女は気持ちを抑えられずにぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
「その代わり、ちゃんと寝ないのよ。分かった?」
「うんっ、あたしちゃんと守る!」
G11が嬉しそうに頷くと同時に、乗っていたヘリコプターが地面に着地する。
ドアが開くと、我先にとG11は飛び出していった。
「早く!さっさと任務終わそう!」
「元気だねー!いつもそうならいいのに!」
それに続いてナインもヘリコプターを飛び降りた。彼女はG11に追いつくと、手を繋いで歩き始めた。
「はぁ……。私、最近どんどん甘くなってきてる気がするわ」
仲良く歩いていく二人を見ながら、416は思わずため息をつく。
「いいじゃない。まるでG11の母親みたいで」
「はぁ!?ふざけないで!」
「あははっ、怖いわね」
「待ちなさい!」
そう言って残りの二人も、走りながらヘリコプターを飛び出した。
◆ ◆ ◆
「敵発見。撃っていい?」
「待ちなさい、あの二人が突入すると同時に撃つのよ」
「分かった。あたし待ってるね」
そう言うと、G11はスコープを覗きながらじっと待機する。
普段の彼女ならこの時点でうとうとし始めるが、416がそっと横顔をのぞいても、G11は目を凝らして敵地を見ていた。
「こいつ本当にG11なのかしら……」
あれだけ機体の中ではうとうとしていた彼女が、今では別人のようだ。狙撃ポイントに来る前に一度不意打ちを受けていたのだが、その際G11は凄まじい反応速度でそれらを撃退している。
「もはやここまでくると気持ち悪いわね」
「そんなこと言ってる暇あったらあっち見といてよ。……あっ、入った!撃つね!」
「ええ……」
正直普段とのギャップが大きすぎて、416はドン引きしていた。いつもこうならいいのにと思う一方で、こんなのG11じゃない、と思う気持ちもあった。
敵地を見ると、そこにいた鉄血兵がバタバタと倒れていくのが見えた。これは、G11が全て急所を狙って射撃している上、そのほとんどを命中させているために起こる現象だった。
有能すぎる。これは夢ではないかと勘違いするほどに。416はこの光景をただ見ていることしか出来なかった。
――そして数十分後。
『制圧完了。G11、よくやったわ』
「すごいでしょ。あたしだってやればできるんだよ」
無線機に45の賞賛の声が入る。それを聞いたG11は誇らしげだ。
『大丈夫?寝なかった?』
「おかしい事にずっと起きていたわ。まるで別人ね」
『へー。明日は槍でも降るんじゃないかな』
『降ってもおかしくなさそうね。じゃあ今から帰投するわ』
無線が切れる。それと同時に、G11が416の方を向いた。
「約束……!」
「……分かってるわよ。約束はちゃんと守るわ」
「やったぁ……!ヘーブンダッツ買って!」
「うっ……、仕方ないわね」
その返事を受けて、G11は立ち上がって喜び始めた。最近では珍しく、心からの笑顔を浮かべていた。
嬉しいような悔しいような。そんな感情を416は味わっていた。寝ずに任務を越したのは多少嬉しいのだが、こうも調子に乗られると悔しくなるものだ。
「まあ、たまにはいいか……」
だが言うほど悪い気分はしない。むしろここまで働いてくれて誇らしいくらいである。416は腕を組んで、無意識に少し微笑んでいた。
「さあ、早く帰ろ?アイスが待ってる!」
「ちょっと、引っ張らないで」
G11は416の手を引いた。このままライディングゾーンまで帰ろうというのだろう。
だが416も、今日くらいは付き合おうと、張り詰めていた気を緩めて大人しく連れていかれていく。
今は夕方時。地平線へと沈んでいく太陽に、まるで親子のように手を繋いだ二人は鮮やかな橙色に染められていた。
ちなみにこの後、G11がアイスを三個要求して却下されたのはまた別の話である。
反響や続けて欲しいとの感想があればつづくかもしれません。
最近は殺伐としたものばかり書いていたので、たまにはこんなほのぼのしたのが書きたかったのです。
書いてて新鮮で楽しかったですね。