あきつ丸「・・・どうして固まっているのでありますか?」
南渡「・・・久しぶりだな。あきつ丸」
わざと、嫌そうな声でそう答える。
出来ればこいつとは会いたくなかった。
理由としては、陸軍の回し者であるだろうから、必ず何か裏があるだろうということ。そして、こいつの相手をするのが非常に面倒臭いのだ。
例えば、一々、人の揚げ足を取ろうとしたり、人がやったことを、わざと誤解を生むように周囲の者に言いふらしたり、数えればキリがない。
南渡「で、何の用だ?」
あきつ丸「はぁ、提督殿は相変わらず冷たいでありますなぁ・・・。」
わざとらしく肩をすくめながら、あきつ丸はそう言った。
あきつ丸「まぁ、お話は後でするとして・・・。」
そこであきつ丸は一呼吸置き、
あきつ丸「確か、多譯殿でしたか?提督殿と、二人きりでお話したいことがありますので少し席を外していただいてもよろしいですか?」
先ほどまでの態度とは一転、真面目な顔になった。もしかしたら、今までで一番真面目な顔だったかもしれない。
南渡「・・・何故だ?」
あきつ丸「さすがの提督殿にも、今答える訳にはいきません。」
強い口調であきつ丸は言った。
多譯「・・・提督、少し前線部隊の激励に行って参ります。」
南渡「頼んだ。」
多譯もその態度に何かを察したのか、足早に部屋から出ていった。
多譯「・・・失礼しました。」
ガチャリ、といつもより扉の閉まる音が、大きく聞こえた。
あきつ丸「やっと2人きりになれましたな。」
先程までと同じく、ニヤリともせずアキツ丸は言った。
南渡「それで、話とは?陸軍から何か用か?」
あきつ丸「いえ、そんなことではないのであります。大本営から聞いてきた話であります。それも、とびきり重大な。」
ここまで状況を作りあげたのに、珍しく、いまだにいいあぐねているように思えた。
さらに、何故そんな大切な話をもっと早く言いに来ないのだろうか。
南渡「勿体ぶらず、早く言え。」
やっと、あきつ丸はしゃべり出した。
あきつ丸「・・・北方戦線は勿論ご存知ですよね。」
南渡「・・・あきつ丸は私を馬鹿にしに来たのか?」
あきつ丸「いえ、そんなことは無いのであります。・・・実は、その北方戦線において2週間ほど前、北方連邦(※)が一大攻勢を仕掛け、深海棲鬼艦隊の前衛を、一時的に壊滅状態にしたのであります。」
※(北方社会主義連邦の事。東洋帝国と昔、戦争状態にあった。)
今の言葉に自分の耳を疑ってしまう。
南渡「!・・・北方戦線は確かずっと押され気味だ、と聞いた事がある・・・。そしてそれは、東洋帝国が抱える全ての戦線、西方・東方・北方・南方のみならず、世界中の全ての国においてそうだ。と、習ったのだが。」
あまりの衝撃に声が震えてしまう。
が、直後それ以上の衝撃が僕を襲った。
あきつ丸「・・・ええ、北方連邦が艦娘『師団』を2個投入するまでは。」
南渡「は?」
思わずすっとんきょうな声を漏らしてしまう。
は?なんだと、艦娘師団?
南渡「なんだ、それは?艦娘が師団単位でだと・・・?」
艦娘とは、国民の1%にも達しないほど適正者がいないのだ。さらに育成の中でも大半が脱落するか、死んでしまうのだ。一体どれだけの犠牲がそれまでに生まれたのだろうか・・・。
あきつ丸「本題はここからです。」
南渡「まだ、何かあるのか・・・」
はっきりいって、さっきの話だけで終わってほしかった。
しかし、運命というものは余りにも無情だった。
あきつ丸「さらに北方連邦はこちら側に攻撃部隊を用意し始めました。」
南渡「おいおいおいおい、共通の敵と戦っているのにか・・・」
嘘だと思いたかったが、さすがのこいつでもそんな冗談は言わないだろう。
あきつ丸「ので大本営からは『中央大海や、ノビール諸島(※)の資源地帯へのルートを確保するためにここからの撤退は、絶対に認めない。戻ったときは・・・』と、伝えるように言われたのであります。」
※(熱帯に属する多くの島からなる資源地帯。その中でも天然ゴムや、特殊鉱石が多く取れる。現在、東洋帝国が(委任)統治している。)
南渡「こんなこと、新入りに任せる事じゃないだろうに・・・。」
無理だ。そんなこと。
だから嫌いなんだ、軍も戦争も。
ふざけた事ばかり、僕にやらせようとする。
それでも、
南渡「・・・善処はする。」
「ノー」と言えないのが、今の僕の身分だった。
あきつ丸「あぁ、そういえば。」
そしてひとしきり言い終えたあきつ丸は、
あきつ丸「明日から私も戦闘に参加するので悪しからず、なのであります!」
いつもの顔に戻るのであった。
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甲戦線にて
工兵1「分かってはいたけど、やっぱり軽トーチカは脆いなぁ。」
工兵2「お陰でこっちの仕事は倍増やからなぁ・・・」
工兵3「よいしょっ!・・・あっ!衛生兵!衛生兵!」
工兵2「またかよ・・・。くそっ、ホンマあいつら、ひでえことしやがるなぁ。」
そこにはトーチカの瓦礫に押し潰された、仲間だった物があった。
トーチカは、突貫工事で作った、コンクリートも使われていないような木製トーチカがほとんどを占めている。なので、一度位地がバレれば簡単に撃ち壊されてしまうのだった。
さらに、木製のそれといってもある程度の重量もある。もし敵の砲弾に当たらなかったとしても、トーチカが崩れれば、中にいた兵士はミンチにされてしまうのだった。
衛生兵1「・・・既に、死んでる。」
工兵2「・・・そうか。」
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入渠施設にて
大和「何とか耐え抜けましたね・・・」
長門「あぁ。危ない時も何度もあったがな。」
既に時刻は9時を過ぎていた。戦闘が終わったのは2時間前。入渠を終えた者も出始めていた。
こういう時に戦艦というものは苦労する。戦闘能力が高い分、その時間が長くなってしまうのだ。
大和「やっぱり制空権をとられているのはやりにくいですね・・・」
長門「予備機も少ないそうだ。仕方ない・・・と、分かっていてもあってほしいものだな。」
大和「えぇ、ほんとに。・・・制空権を取られている状態での次の補給は、いつになるんでしょうかね・・・」
長門「やはりそこだな・・・」
食料はまだ割と余裕がある。ここが補給施設であったからだ。しかし、それでも弾丸の量が心もとなかった。
新式小銃は異常な程に弾を食うのだ。補給が来なければあっという間に、底をつきるだろう。
長門「ふぅ。」
主力は大和達がほぼ潰してくれたので、こちらの入渠時間はかなり短くすんだ。
大和「あ、おやすみなさい。長門さん。」
長門「ああ、おやすみ。明日も頼むぞ。」
そうして私は、入渠施設を後にした。
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深海棲鬼軍参謀本部にて
ル級admiral「ドウシテ、アンナ小島一ツ1日デ陥トセナイノダッ!」
深海棲鬼参謀は大混乱に陥っていた。1日で陥とせると思っていた敵の拠点に、痛い反撃を食らったのだ。
こちらはこちらで、不味い事になり始めていた。兵站の問題である。
広く引き伸ばした戦線はどんなに味方を生産しても、カバーが出来なくなり始めていた。
そんな中やっとの思いで強襲作戦に出たというのに結果はこれだ。
タ級admiral「一旦、態勢ヲ整エテカラジャナイト、アソコハ陥セナサソウダゾ。」
ル級admiral「イヤ、ソレデハ時間マデニ間ニ合ワン」
この部隊に与えられた、この島に対する攻略日数はたった1週間。もしクリア出来なければ、物理的に首が飛びかねない状況なのだった。
ヲ級admiral「何カ手ハ、ナイモノカ」
ル級「ウーーーム・・・」
その夜、参謀室から光が消えることはなかった。
そこは、元々執務室と呼ばれていた場所だった。
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波止場にて
今日の夜はどうしても眠れなかった。なぜか、瞼を閉じただけで、あの時、北上さんが目の前で轟沈してしまった時の光景が甦って来てしまうからだ。
そんなことを呆然と考えながら歩き回っていたら、波止場の先に人影が見えた。
吹雪「・・・」
後ろから近寄る。
大井「吹雪ちゃん?」
吹雪「わっ!」
吹雪は慌てて何かを服の襟に隠した。
それは、写真か何かのように見えた。
大井「どうしたの?こんな時間に?」
吹雪「いえ、何も・・・。ただ夜風を浴びに来ただけです。」
今の語尾に昼のような勢いというか、気迫がなかった。
大井「・・・そう。・・・ところで今、何を見ていたの?」
吹雪「え・・・。いえ、特に大した物ではないので気にしないで下さい。」
少し気になるが、吹雪にとって触れられたくないことなのだろう。ここは触れないで置く。
大井「・・・凄かったわね、今日の吹雪ちゃん。」
話題転換、と言えば露骨すぎるそれをする。
吹雪「いえ、長門さんや大井さんに比べれば、まだ足元にも及びませんよ。」
話題転換は成功したようだ。
大井「そうかしら?」
しかし、吹雪の台詞に思わず苦笑してしまう。今日の吹雪の当たり方は私が見たこともないくらい凄いものだった。
吹雪「・・・それじゃあ夜も遅いのでもう寝ますね。」
私がもう一言付け加えようとした時、吹雪はそう言って宿舎の方へ走って行った。
大井「はぁ・・・」
空を仰ぎみれば、空には綺麗な朧月が掛かっていた。
大井「私も寝ましょう・・・」
快眠は出来ないだろうが、明日も戦わなければならないのだ。目をつぶるぐらいはしよう。と考え、私も宿舎へと戻るのだった。
☆各戦線における艦娘の配置場所:()は、本日の、大まかな被害状況を表す。
甲戦線:第4、6、7艦娘部隊(戦没艦娘なし)
乙戦線:第2、3、8艦娘部隊(戦没艦娘なし)
丁戦線:第1、(5)艦娘部隊(中破以上なし)
(除名:白雪(轟沈、後送予定)、春雨(轟沈、死亡))