仕事はまったく問題なく進んでいった。
大井『巡視範囲80%を越えました。』
南渡「了解した。」
嫌な予感はしていたが、それは夕張の件だけだと思い安心した。
その直後この世には、言霊というものがあるのだと思い知らされることになる。
大井『こちら大井、味方の艦隊を複数視認。・・・え、』
背中に嫌な汗がたれる。まさか、
大井『こちら大井!味方艦ほとんどが大破!なっ、敵複数視認!』
おいおいおいおい、何が起こっている?一瞬で僕まで混乱してしまう。
南渡「全艦に告ぐ‼総員対艦戦闘用意っ!敵艦隊に対して無制限発砲を許可する‼ただし、味方艦隊の救助を優先せよ‼」
夕張「うーん、それは厳しそうですねぇ。敵は少なくとも2艦隊で来てます。こちらの砲量がすでに負けてますよー。」
現在の時刻は1時半。夜戦には持ち込めそうにない。さらに朝の天候観測班の情報では、今日一日快晴だそうだ。と、ここであることに気づく。
南渡「貴艦らの中に煙幕展開装置を持ってるやつは、いないかっ‼」
曙「申し訳ありません!持っておりません!」
弥生「そんなものがあったら、とっくの前に使っているっ!」
卯月「持ってないぴょ、はっ、持っておりません!」
不知火「申し訳ありません、私も持っておりません!」
大井「私にそんなものがあるわけないでしょう!」
夕張「幾ら重装でも煙幕はありませんねぇ。」
どうしろと言うのだ。戦う能力がない艦隊がどうすれば味方の逃走劇を援護できるというのだ‼
必死に頭を回す。打開案は。制海権は制空権は。
一回コーヒーを飲んで整理する。
まずこちらが劣っている点を洗い出す。
・砲量
・艦数
・敗残艦隊を抱えている
では、こちらが有利な点は?
南渡「大井、至急その艦隊と無線を繋いでくれっ!」
大井『了解』
何秒かノイズが聞こえてきた後に段々声が聞こえてくる。
???『こちら<第11鎮守府>第2艦隊旗艦長門だ‼現在私を含め全員大破!さらに戦艦陸奥は、第3番砲塔誘爆のため、出しうる速力5ノット!』
陸奥『長門、みんな・・・私のことはいいから早く逃げて・・・』
長門『何を言うんだ‼しっかりしろっ‼味方の援護もきてくれた‼後もう少しだっ!』
阿鼻叫喚としている。こちらの砲がまだ使えればあるいは、と思ったのだが。
その時僕の頭に電流が走る。
南渡「高速修復材を持っているやつはいるか?止血ができる程度でいい!」
夕張『それなら、私が試しに作って見た携行用のヤツがありますよ。』
南渡「今すぐそれを戦艦たちに優先して使え!」
夕張『了解しました。一体何をする気何ですか?』
南渡「これより第2艦隊の指揮権を私が継承するが問題ないか?」
長門『ああ、問題ない。』
南渡「今から、気違いな賭けに出ようと思うが問題ないか?」
長門『さっさとしてくれっ!時間がないっ!』
南渡「すまない。では、大井達、長門と陸奥の艤装を外してくれ。」
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多分、私長門がそれを告げられた日のことは忘れることは、無いだろう。
南渡『すまない、では、大井達、長門と陸奥の艤装を外してくれ。』
その場にいる、誰もが固まった。敵が押し寄せている中で艤装を外す、つまり自害しろ、といっているのか?
大井「提督は何をいっているの?!長門達を見捨てる気?!」
私の考えていたことを大井が代弁してくれた。
私も私でやり残したことは多いのだがなぁと思いながら、空を見上げた。そこには、雲一つない青空が広がっていた。
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まあ予想通りの返答が帰ってきた。
説明していると時間がかかってしまう。なのでかなり卑怯な方法を使う事にした。
南渡「君達のトラウマかもしれないが、提督命令だ。従ってもらう。安心してくれ。何もしないよりは成功率は高い。」
卯月『・・・失礼するっぴょん。』
弥生『卯月?』
大井『ちっ』
悪態をつきながらもなんとか言うことを聞いてくれている。
不知火『次は、何をすればよいのですか?』
南渡「長門と陸奥を誰でもいいから背負ってくれ。ああ夕張以外でだ」
夕張『と、言うことは、私に何かしろということですよね?』
賭けだが、携行用の高速修復材をつくる位だから工作は、得意なのだろう。
南渡「長門と陸奥の艤装に追加の爆薬と、起爆装置を破損箇所から詰め込んでくれ。」
夕張『了解しました‼というか、私がよく工作が得意だと気付きましたねぇ!』
一つ目の賭けには成功したようだ。
さて、このまま賭けに成功し続けるといいのだが。
その時、ある無線兵が叫んだ。
無線兵「提督‼大本営より無線通達!読み上げます。『本日明ケ方、深海棲鬼部隊ハ愚カニモ我ラガ第十一鎮守府ニ対シテ攻撃ヲ仕掛ケタ。我ラガ必殺ノ艦娘部隊ト海戦隊師団ハ、圧倒的兵力ヲ持ツ敵ニモ勇猛ニ立チ向カイ、敵ニ大キナ被害ヲ与フル事ニ成功、シカシ、ソノ数ノ敵ヲ前ニ我ラガ部隊惜シクモ力及バズ第十一鎮守府ハ占領サレツツアリ。第四十一鎮守府補ト第二十三鎮守府補ハ残サレタ兵力ヲ集結シソノ場ヲ死守、ソシテ、第十一鎮守府ヲ奪還セヨ‼健闘ヲ祈ル。』以上です。」
つまり、最前線の鎮守府が陥とされたので、そこまで敵が押し寄せてくるから、死守そして隙をみて反撃しろと?
南渡「むちゃくちゃだろ、おい。」
理由その一、どうやって最前線の防御網ですら抑えきれない敵の量をなんとかしろと言うのか。
理由その二、編成と指揮権の継承はそんなにうまくいくはずがないということ。
メインはこの2つだ。
まあ、今は取り敢えずこちらだ。
そうして僕は、再びマイク台へと向き直った。
南渡「終わったか?」
大井『終了しました。長門さんは私、陸奥さんは弥生がおぶっているわ。』
夕張『こっちも準備万端です!』
南渡「よし全艦一番遅い奴にあわせて出しうる限り全速でここへ帰ってこい!長門と陸奥のスペアの艤装も用意する‼」
夕張『え、これはどうするんですか?』
南渡「私が指示したタイミングで爆破しろっ!急げっ!」
そうして命がけの逃走劇が始まった。