魔法科高校のアンチテーゼさん   作:あすとらの

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たまにアプリが落ちたりキーボードがバグったり萎えたりして感想の返信ができませんが、私は元気です。感想見ては嬉しくてニヤニヤしています。多分近いうちにまた再開できる。


新生の決壊、狂気の瓦解

保健室の扉が開く。それがまったくの偶然であることは、女の表情が何より物語っている。あまりに突然の介入者に目を丸くして驚き、構えたまま固まっていたが、それが天恵だとばかりに白い歯を見せて口角を吊り上げ笑う。それと反比例するように、修平の顔付きは厳しく、青ざめていく。

 

「修平?ちょ、どうしたのその血!?」

「て、手当てしなくちゃ!」

 

その突然の介入者というのが、一科生の光井ほのかと二科生の千葉エリカ。よりによって友人と呼ぶ存在が扉を開けてしまったのだ。そして彼は、それを拒絶した。修平は、自分にこれほどの声量があったのかと自身で驚愕するほどの大きな声で、手当てをしようと近寄った二人を真っ向から拒絶した。

 

「来ないでくれ!こんな………こんな時に………君らにはこんな姿見られたくなかったッ………!」

 

これまでに見たことはないほどの狼狽。というより、隠したいものを隠せないというショックで混乱しているように見えた。敵である女に背を向けてまで友人達に何と言葉をかけてこの場をやり過ごすか、それに全ての神経を総動員させているようにも見える。

 

「修平君………と、とにかく傷の手当てをしないと、危ないよ」

「そうよ修平。そんな怪我じゃいつか倒れるわよ」

 

とにかく、生命の危機を最優先に。そうしてとにかく戦闘行動から離脱させる理由付けをさせたかった。しかし少々、その策は学生らしいながらもいささか浅はかだった。彼に考えさせるという行いは、様々な感情を揺さぶる要素が溢れたこの状況で、下策となってしまう。

 

「はははッ。あはははは!!あはははっははははは!!!」

「こんのアバズレ………」

 

彼女の狂気と狂喜が交錯して不協和音を奏でながらこだまする。今まで見せた怒りほどに怒りをぶちまける修平は、人格がどうだ、という域を超えてしまっている。懐から、隠し持てるサイズの回転式拳銃を抜き躊躇うことなく全ての弾を発射する。

 

「ははは………ああ〜………あははッ」

 

壁にぶち当たって吹っ飛ばされたように床に倒れ伏し、身体に開いた六つの穴から血潮を吹き出しながらも、彼女はまるで壊れた蓄音機のように笑いを漏らすばかりだ。

 

「ふふふ………。あっはは………。流石、魔女狩りの面目躍如ですね。一時はどうなるかと思いましたが、よかった」

「黙れ。ぶち殺してやる」

「その拳銃、学生の道楽で終わらせるにはもったいない仕上がりです。売りに出せば、本家を凌ぐのでは?」

「黙れっつってんだろ」

 

意外なことに、彼は口でこそ激情を隠せていないものの、その表情は決してそれだけで狂ったような怒りが見て取れるというほどの形相ではない。歯を食いしばり、眉をひそめているその顔は、怒っているというより苦悶で表情を歪ませているといった方が正しい。二人の構図はまるで逆転しているようで、再装填した銃を眉間に突き付ける修平は苦しみ、瀕死の重傷を負っている女は狂喜している。

 

「貴方の()()は不要です。さあ、ぶち殺してください。さもなくば、私があの二人を殺します」

「てめえ………」

「ふふふ………迷っておられますか。変わりましたね」

 

狂っているというのは、たとえここにいたのが二人でなく十人だとしても、全員が思うことだろう。問題はその狂気が外に向かっていってしまうことだ。非常に残念なことだが、彼女達は高校生、まだ大人ではないのだ。今までの敵襲が手緩かっただけに、彼女達には足りていなかった。殺すという直接的過ぎる言葉をこれまたストレートに投げ付けられるという恐ろしさを、忘れていた。まったく無双というのは恐ろしいもので、人の感情の大事なブレーキ役である恐怖を麻痺させてしまうのだ。

 

「ふざけんなよ………てめえッ、どこまで汚ねえ真似しやがる」

「大真面目です。大真面目に、貴方を魔女狩りに戻すつもりですよ。さあ、私が憎いのなら殺してください。そうすれば思い出す筈です。怒りに駆られて殺人を行う過去の貴方自身を」

 

徐々に、拳銃を持つ彼の手が震え始める。明らかに、追い詰められている。精神に攻撃を受けてもその動揺を抑えられないほどに。

 

果たして助太刀するべきか。今の今まで賊を相手に圧倒したせいで根拠のない自信を身に付けた二人、特にエリカはそう考える。確かに、修平との徒手格闘を見ても只者ではない。しかし、そうであるのは自分も同じ。彼の力を借りれば、ここで無力化も可能なのではないか、と、得物の伸縮警棒を持つ手に力が入る。

 

「ブランシュもエガリテも、理想論だけを語る唐変木ばかりでしたが、役には立ってくれました。混乱は収束しつつありますが、完全ではありません。貴方の実力で、この学校を壊滅させることなど容易でしょう」

「てめえ何がしたいんだッ。遂にイかれたのか!?」

「もう貴方と会った時からイかれてますよ。それに何がしたいだなんて、さっきもお話ししましたよ」

「……………」

 

歯を食いしばり、今すぐにでも撃鉄を起こしたい衝動を論理でどうにか抑え付ける。ここで撃ってしまえば、彼女の言う通りに狂人に成り下がってしまう。

 

「俺は、あれが間違ってるとは思わない。だけど、もう人殺しは無駄だって分かったんだ。お前にも話しただろ!だから七草真由美を殺さなかった!」

「それは納得しました。しかしこちらもお伝えした筈です。二年もの間私から離れた貴方が、正気を保っているとはとても思えません。だから戻すんです。荒療治ではありますがね」

 

沈黙は金。彼はそれに対して、何も言わない。ただ、変わらぬ敵意で、拳銃を向ける。どうしたって話し合えないことは分かっていた筈だが、それでも彼は話すことを諦めなかった。その理由は平和主義がどうとかそんな倫理がどうとか、そんな道義に溢れたものではない。ただこれ以上、友人である二人にとっての汚点でありたくないというのが()()の願いだったから。しかしその願いも砕かれてしまった。ではいかんともしがたいこの現状で狂気をのさばらせておくままとなるのか。それもまたそういうわけにはいかない。

 

「っしゃ!」

 

対処するに必要なのは言葉でないとは分かっていた。だからこそ行動に移るまでが早かった。彼は背中を向けると、脱兎のように走り出す。そして、呆然と立ち尽くすエリカと美月に対して、両腕でそれぞれを突き飛ばすように保健室の外へ出すと、扉を閉めた。

 

「健全な少年少女にゃ見せられん」

「………ああ、それでこそ、私が敬愛する方」

 

その後、エリカと美月が聞いたのは、一発の乾いた破裂音だけだった。

 

◆◆◆

 

その後、ニュース速報によって校外で起きた事態の全てが明らかになった。襲撃者が拠点にしていた廃工場に警察の特殊部隊が奇襲を仕掛け壊滅。エガリテは魔法師との戦闘を備えていただけに一般的な武器を使う特殊部隊に対してなすすべもなく、制圧には30分とかからなかったらしい。そして情報を掴んだある女性警察官は、この功績で賞与が出るそうだ。家族への報復という危険性から、特殊部隊に所属する隊員は素性を明かされない。だからこそ機密保持が可能になる。そんな特殊部隊の特性を生かした情報保全について流石というか、安定しているというか。そして更に、仕事についての言葉があった。

 

「それと、姉ちゃんから伝言だ。『この程度のはした金で賞与なんて、七草も随分ケチくさい名家になったものね』だと」

「………重く受け止めるわ」

 

生徒会室のソファーで寝転ぶ修平と、机に両肘を置いて両手を口元に持っていく姿勢の真由美。真面目と不真面目を体現した二人は、生徒会のメンバーを交えずに会話をしている。

 

「いやあホント………一時はどうなるかと思ったけど、新入生に強い子が多くて助かったわ」

「あーね。特に達也ヤバかったなー」

 

話題は、やはりというか、襲撃事件で活躍した金のタマゴ達、その中でもすでにその身を昇華させた達也についてだ。

 

「彼、強いわよねえ。才能なのか、専門家にトレーニングでもつけてもらってるのかしら」

「だろうな。じゃなきゃ高一でアレはありえねえだろ」

 

修平はまだ、彼の力の一端だけを垣間見たに過ぎない。服部副会長との模擬戦、今回の襲撃事件、そして『アイネブリーゼの帰路での襲撃事件』。しかし模擬戦は服部が油断していたせいで彼も本気を出し切ることなく勝利し、今回は強力な友人達のおかげでまたも本気を出さず、アイネブリーゼ帰りはそもそも戦ってすらいなかった。それでも、彼の実力は魔法師の中で随一だろう。それは、魔法による強さというだけでない。

 

「いやそれ………修平君が言う?」

 

もっとも、異端という意味では彼も間違いではないが。

 

「俺はいいんだよ。やってきた努力が違うんだから。まあ一番の脅威は達也で間違いないだろうけど」

「じゃあじゃあ、妹さんの方は?」

 

そしてこれから先は、単なる真由美の興味本位で、期待の新人達の実力を、信頼している人間の分析による見地から知りたいというものであった。しかし、彼は顔をしかめてそんな質問してんじゃねえよとばかりに苦々しそうな顔を向ける。

 

「あ、あら?」

「お前俺に何言わせようとしてんだよ」

「どうして……………あ、ああ………」

 

自分で言っておきながら、十数秒ほどたっぷり使ってようやく理解する。彼女は、現代魔法においての才媛である。その実力は圧倒的で、他の追随を許さない。処理速度、演算規模、干渉強度のどれを取っても前代未聞であるが、修平にとってはただそれだけの存在。

 

そもそも発動する魔法に対して確実な非魔法的アプローチなどということが可能なのは彼くらいなのだが。むしろ魔法を取り払えば、彼女は『同世代よりちょっとタフなただの女子高生』にしかならない。

 

「俺にとっての脅威は、魔法に頼り過ぎない奴。そういう意味ではレオとエリカの方が彼女より百万倍くらい恐ろしいね」

「分かってはいたけど、何だかもったいないわね。司波さんは魔法師の未来を変える存在になるかもしれないのに………」

 

それは修平の素人目から見ても分かる。十師族の太鼓判ともなれば、影響力は魔法師という世界にも響くことだろう。しかし、それもまたそれだけ。

 

「魔法師はそうだろうな。でも人類の未来は変わらないさ。何かを燃したいなら火炎放射器があるし、凍らせたいなら冷気噴射器(クライオレーター)がある。空飛びたいならジェットパックでお手軽に、永久機関はヘンダーショット式で証明済み、銃弾を受けたくないなら防弾チョッキでどうぞ」

 

彼の言葉は痛く刺さる真実というか、それを言ったらおしまいだよと言いたくなる言葉だ。加重系魔法の難題の一つに、空を飛ぶ魔法というものがある。しかし、空を飛ぶという難題はあくまで魔法に限った話。人類は、今から190年以上前に空を飛べるようになっている。普及している防弾チョッキは新素材によって、高速徹甲弾でも貫けないものとなっている。

 

そして加重系魔法の難題が解決されれば、魔法の歴史にとって革命となるだろう。発明者は魔法における天才と囃し立てられるし、それによって魔法は新たな進化を遂げるだろう。

 

しかしそれは、魔法にとっての進化だ。人類にとっての進化ではない。彼の言葉はそういうことなのだ。人は空を飛べるし、ヘンダーショット発電機を用いた永久機関も実証済み、熱核融合炉の制御は核プラズマを分子衝突によって発生させ、磁場閉じ込め方式ではなくレーザーを用いた慣性閉じ込め方式を採用すればそもそも重力による制御は必要なくなる。

 

「ショボいよなあ、魔法って。空を飛ぶのが難題なんだから」

「………そう」

「才能が必要ってのも、何かねえ。才能なかったサイドから話すと………ああ、これ以上はやめよう。魔法科高校でするような話じゃない」

 

空を飛ぶメリットが少ないなんて言われればそれまでだが、それに目を瞑るにしても、魔法を用いなければ数万円の出費で高性能ジェットパックでも何でも買えるのだから。

 

「あーあ、何だか気分が下がっちゃう」

「間違ったことは言ってないジャン」

「そうなんだけどねえ………」

 

実際、彼の言葉はそれ自体が的外れで論ずるに値しないというわけではない。しかし、魔法師であるという贔屓目がなくても真由美にとっては納得しがたいものだ。そうして魔法師と互角以上に戦えるのも、そのために開発したツールも、それらは紛れもない彼の機械、電子工作の才能と発想力が可能にしたものだ。魔法師は選民思想、家柄が左右する、あるいは才能という不平等で不条理な世界とよく言われるが、しかし。楡井修平が魔法師に対抗するために編み出した術もまた才能によって生まれたのだ。

 

不条理を生み出すのは才能という生まれ持つものだが、その才能という不条理に対抗出来るのが別の才能という矛盾。頭が痛くなるような話だ。なので、ここで話題を変えることにした。それについてはまた、襲撃の件が十師族の中で決着してから、彼についての対処となった時に話せばいい。寧ろ彼に聞いて確実性が欲しいのはこちらの話題だった。

 

「貴方にとって、司波深雪さんの脅威度は?」

 

七草真由美にとって、入学式の時点で今年の最重要ニュースは決まっていた。高校生離れ、どころか最早人間離れした魔法力を有する才媛、いずれ十師族とさえ肩を並べるという危機感を始めて真由美に抱かせた司波深雪について。そして全魔法師の天敵、現代兵器でもって魔法という革新的だった筈の戦法を完全に封じ込めることが出来る戦士、楡井修平。魔法師の中の異端児、司波達也については後に知ったことなのだが。では、正統派魔法師としてトップクラスの実力を持つ深雪は修平にとってどれほどの存在なのか。

 

「………お前これ、達也の前では絶対言うなよ?」

「言わない、言わないから」

 

友人に配慮しているのだろう。室内を見回して、真由美を自身の方へ呼び寄せる。そしていくらか声のボリュームを抑えて話した。

 

「正直、俺が出会ったどの魔法師よりも脅威を感じない。実力の九割九分九厘が魔法に極振りされてるから、俺と戦ったら多分誰よりも弱い」

「………そう、そっか」

 

まあ、致し方なし。いつか修平本人が言ったように、彼に立ち向かうならば魔法を使うことそのものが悪手なのだ。彼女は魔法師という枠に嵌れば最強に近い才媛だが、その枠の外にいる修平と戦ったら?などという問いそのものがナンセンスなのだ。

 

「お前とおんなじだな、七草」

「もう」

 

そこは一言余計だと、彼女は怒ったというよりも、注意して言い聞かせるようにして、寝転ぶ修平に向かって飴玉を投げ飛ばす。

 

「シケてんなあ」

「文句言う子には、もうあげないわよ」

「あいあい」

「話は戻るけど、実際脅威なのは魔法以外の戦う術を持ってる人間ってことね?」

 

飴玉を転がしながらリラックスする彼は、比較的整った顔立ちもあって、見栄えもいい。顔の見栄えとは対照的に、首から下はまるで大砲で撃たれたように、固まった血で真っ赤に染まっているが。

そんな彼に、真由美は単純に自分知識欲として疑問をぶつけた。少し考えれば分かることでも、本人の口から出る言葉というのはまた重みが違うのだ。何より戦いという、間違うことが即時死に繋がることについては確実な答えが欲しいのだ。それを律儀に答える彼も彼だが。

 

「いやまあぶっちゃけ、魔法封じて銃弾(タマ)撃ち込めば全員同じだけども」

 

そうして彼の異常さを知れば、ますます手出ししようなんて考えも起こらなくなる。ここまで彼の思惑にしっかりとはまっているのだから、自分もつくづく都合のいい女だと真由美は思う。

 

「ぶっちゃけたわね………」

「実際そうだからなあ」

「じゃあ、司波達也君と戦ったら勝てると思う?」

 

こうして、規格外を肌で感じたいと思っている自分はすでに手の施しようのないのではという自覚は、当然ある。

 

「先手を取れば100パー勝てる。逆に取られれば確率五分五分。お互い見つめ合ってよーいドンなら………どうだろ、分からん」

「………つまり?」

「実力と確率と運を信じれば勝てる」

「へえ〜………ふーん………」

 

状況次第で負けるというの修平の姿が想像出来ないのは、贔屓というわけではない。単に既知と未知の差異でしかない。ここで注目すべきは、未知の方。真由美にとって修平は天敵であり、『魔法師七草真由美』に立ちはだかる絶対的な壁だ。しかしその本人が、自分は打ち崩されるかもしれないと言ったことだ。

 

「やっぱり今年は豊作ね。いやあ、前途有望な子が沢山だわ」

「それ俺の前で言うか?」

「貴方の前なら優秀とかそうじゃないとか関係ないじゃない」

「そりゃそうだけれども」

 

彼の前では、魔法の実力の良し悪しなど関係ない。そういう意味では平等だ。全て等しく彼のツールの前では消え去る他ないからだ。しかしそれに風穴を開ける存在になるかもしれない。そういう意味でも、特に二科生は中々粒揃いだ。そうなれば、一泡吹かせるくらい出来るのではないかとうんうん唸っていた時、それを遮るようにして彼の声が飛ぶ。

 

「それよりお前さあ、呑気に俺とくっちゃべってていいのか?」

「後は摩利と十文字君が引き継いでくれたし」

「何で俺が生きてここにいるか、普通に考えて分かれよ」

「だってガスマスクの秀平と戦っ………あ゛ぁ!!」

「馬鹿かお前。馬鹿だろお前。この学校に死体袋なんてもんがあると思ってんのか」

 

徐々に彼女の顔が青ざめていく。彼女も魔法師の名家の人間として様々な異常事態をシミュレートしているが、今回はそれにまた異常事態が重なってその対応に追われていた。そんなイレギュラーが様々あったせいですっかり抜けてしまっていたが、魔法科高校の裏庭はまだ、血を流して事切れる人間の死体が転がっているのだ。

 

「ええ〜だって、ええ〜!?そういうのって普通やってくれるんじゃ………」

「この学校にあんのはゴミ用のポリ袋くらいだ。ちっこい袋に?人間を?()()()()()()しろと?」

「ごめん、ごめんなさい。謝るからそれ以上話さないで」

「じゃあお前もお前で風呂敷広げんじゃねえよ」

 

実際問題、戦いとはそういうものだと釘を刺すように強い口調で話す。

 

「ちゃんと片すから心配するな。それよりお前は自分の心配した方がいいぞ」

 

ここまでは茶番でしたとばかりに、急に彼は襟を正すように、自分の心配をの辺りから深刻そうな口調で話し始める。自分の分身を殺した話であるとか、それをどう処理するかの話であるとか、話すことさえ憚れるようなバイオレンスでエキゾチックな話をした挙句それを放り投げる点については、彼の図太さと言うべきか不条理と言うべきか。

 

「そうね。内部の協力者がいたとはいえ、まさかこうも簡単に侵入を許すなんて———」

「そうじゃない。いやそれもあるけど。もっと深刻な問題だよ」

「……………?」

 

真由美の話は、生徒会長としてはそうではあるが、七草家としてはそうでない。矛盾のようだがそれもまた違うのだ。

 

「分かってるだろ。俺の人格の支配率は、話し合いたい系と十師族絶対許さないマンが同じくらいなんだよ」

「ええ、そうね」

「正直、かなり揺らいでる。あのサイコお嬢様と話しちまったのは失敗だったなって思ってる自分と、よかったって思ってる自分が両方いるんだ」

「……………それは、つまり」

 

今の今まで、嫌な予感というのはしなかった。しかしそれによって真由美は、自身の第六感は決して機能していないのではという疑惑を確信に変わらせてしまった。

 

「全員殺して手っ取り早く復讐完了だと思ってる。だから、俺と話す時だけでいいから、あまり三年前の話はしないでくれ」

「………分かったわ。その、今は………どうなの?」

「今のところは大丈夫だ。今のところはな。あの鉄壁ゴリラにも伝えておけ。俺のことを暴こうもんなら、てめえの眉間に開通工事してやるって」

「………そう。何かあったら私に知らせてね」

「言われなくても」

 

衝撃的とは思わなかった。修平からすれば、歪んでいても自分を慕う女性からの熱いアプローチであり、それを信じてしまいたいと思うのは人間として当然の思考回路だ。そしてそれ以前に、彼女の思想はかつての彼のものを受け継いでおり、今も彼の中の40パーセントはそれで出来ている。そのような物騒な思想は新しく植え付けられたのではなく、元々あったものを増幅させたに過ぎないのだ。

 

「そんじゃ、片付けてくるわ。分かってると思うけど誰も入れんなよ」

「ええ」

「お前も入んなよ」

「入らないわよ」

「警官も入れんな」

「入れないから」

 

その後も問答が2分ほど続いたのちに、彼は生徒会室を後にした。

 

「あ、ちょっと待って」

「あんだよ」

 

そういえばまだ聞きたいことが終わっていなかったと慌てて廊下に出て、アスリート顔負けのスプリントで廊下を疾駆する直前の彼を呼び止める。

 

「その、彼女はどうなったの?」

「あいつがお前を殺さなかったのは残念だが、それ以前にあいつがここまでゴリ押ししてくることを予想しなかったのは俺の落ち度だ。だからきっちり俺が終わらせたよ」

「……………そう。それは、よかったわね」

「ああ」

 

手を振って彼は走り出す。これで自分の命を狙う者が一人減って安心するのは、果たして罪なのだろうかと、彼女の胸の中に湧いた新たな疑問が彼女を縛めた。




なお襲撃者さんに名前は与えられない模様。オリキャラなんて二次創作のスパイスだと思ってぶち込んでます。やたら会話が多いのは、そういう回です。はい。

それと途中で出てきた加重系魔法に関する情報は完全にリア友の受け売りですので、間違っている可能性があります。もし「違えよド馬鹿」という方がいらっしゃいましたらご指摘願います。
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