この度は長らくお待たせして申し訳ありません。どうやろ、この先投稿ペース、上がるかなあ……。
会議室が喧騒で溢れたのは僅かに十数秒のことだった。というより彼女が連れてきた屈強な男たちが半ば強引に、自分たちに関わる人間以外を外に出したのだが。国家権力に逆らうような真似もできず、口だけで反抗しながら退出させられ、部屋に残った生徒は三巨頭と修平と達也の五人だけであった。口喧しい生徒たちが退室してからようやく彼女は口を開く。
「強引な方ね。摩利まで追い出すなんて」
「生徒の教育がもう少ししっかりしていればこんなことする必要もないのにね。お、じょ、う、さ、ま」
開口一番がこれであるが。会話を始めるよりも前、出会った途端にバチバチと火花を散らす真由美と若菜。これは長くなりそうだとそれより前に修平が待ったをかける。
「姉ちゃん、今お仕事中だべ?」
「あんたがそこら中の骨折ってこなけりゃ私もこんなこと言う必要もないのよ。本当に警備の話だけしに来たと思ってるの?」
「あの、楡井係長、それはどういう意味で?」
「貴方にも関係あることよ修平の親友クン。反魔法師のテロリスト連中と、頭のネジが吹き飛んだ馬鹿が二人襲撃に来たでしょう」
「ええ………そうですが」
ただ仕事に私情を挟んでいない、というだけでない。明らかに若菜はこの環境とそれを取り巻く人々をまるで敵を見るように警戒している。腰のホルスターの拳銃をしきりに触っている他、一挙手一投足に注目しているのはここで何か
「本当にあの二人が、形だけとはいえ反魔法師団体と同調するとお思いで?二人だけでこの学校の生徒の八割を亡き者にできるというのに、どうして有象無象のブランシュやらエガリテと手を組んだの?」
「そりゃあ、残りの二割を仕損じないために?」
「その残りの二割にあんたが入ってるってことよ、修平」
「……………まさか、そんな」
「まあ正確には、この高校のエースとあんたを殺すのがあの二人で、他のモブどもを殺すのがエガリテなんでしょうけど」
みるみるうちに修平の顔が険しくなっていく。
「公安部は十師族ならびに師補十八家が今回のゲリラテロ事案に関わっていると判断して捜査を行っています。はい、通達終わり」
さあ仕切り直そうとばかりに手を叩く若菜だが、残念ながらそれは不可能に近い。彼女は導火線に火をつけたようなもので、着火された時限爆弾こと修平は射抜くような視線で探るように克人と真由美を交互に見る。克人の方は深刻そうに何かを思案しているようで、真由美はすっかり顔が青ざめている。両者は顔を合わせようとしないところにおいて共通しているが、プレッシャーに押されたということはないと修平は考える。自惚れる人間を演じることはあっても自惚れることはないので、自分が大きいとも相手が小さいとも考えない。
「メンチ切ってるとこ悪いけど修平、多分その二人は何も知らないわよ」
「あ?」
「姉貴にそんな顔しないの。お上が勝手にやったんでしょ。流石お国と条約結ぶだけあって、憲法もクソもあったもんじゃない自作自演ができるもんだわ。あなた達、十師族の代の中でも五指に入る傑物だって聞いたけど」
「恐れ入ります」
「真面目ねえ。蛙の子は蛙って言うけれど、案外そうでもないかもね」
「………?」
修平を含めて意味深な言葉に全員が疑問符を投げかけるが、若菜はそんなもの知ったこっちゃないとばかりに話を切る。風呂敷を広げるだけ広げて畳まないのは彼女の悪い癖だが今に始まったことではないし治療も困難だ、そういうものだと諦める他ない。
ただ予測はできる。子息は傑物なのに親はそうでもない、と言いたいのだろう。何においてかと問われれば、謀略の能力だ。あれこれ消す手立てを考えたのだろうに、結局やり方はおざなりになってテロリストをけしかけるという力押しになってしまった。その能力の低さでもって、蛙の子は蛙というのも中々正しくないと言ったのだろう。
(何で姉貴の会話は会話するだけで疲れるんだ)
何が楽しくて別に高度でもなんでもない会話に推測の余地を挟むのか。そこは敬愛する姉の不可思議な面である。
「本題入ってよ、姉貴」
「はいはい本題ね。本題……。なんだっけ」
「警備の話だろ。九校戦の」
「ああ……。そうだったわね」
分かりやすい。若菜は実に表情の変化が分かりやすい。そういやそんなこともあったねとばかりに遠い目をして眠たげな表情で唸るように顎に手を添えて考える。
「まあ、うん。いいんじゃない?いつも通りで」
「いや何しに来たんだよ姉貴」
「顔見せ。あとはまあ、愛する弟に忠告をね」
「白々しいなあ。ここで手錠かけないってことは状況証拠くらいなんだべ?」
「マジレスすると警察内部でも九校戦の警備って優先度低めなのよね」
あからさまにやる気をなくした若菜が吐き捨てるように言う。魔法師の前でしかも出場校の前、それも出場選手の前でそうカミングアウトできる図太さは、血は繋がっていないというのに修平とよく似ている。
「それは……どうしてですか?」
達也がそう問いかけると、面倒臭そうに間延びした声を発したあとに
「そりゃ当たり前でしょ。生まれついて人間兵器になる運命の魔法師に割く余裕は公務員にはないのよ」
「それは……どういう……」
修平をこの場にいる全員の顔が険しくなる。反魔法師の常套句を修平の姉、警察官から聞くとなっては警戒心も強くなるし心象も穏やかではない。
しかし彼女も退くような気配はない。若菜という警察官の本懐は自分を守る力がない弱者をあらゆる人権の侵害から守ることで、軍がどうとか政治がどうとか、そんなクソ複雑になった高校生大会でお守りをすることではない。まして彼女にとってのたかが九校戦に公安の一部署が出張るなんて。この手の管轄は普通警護課かあるいは人手が足りなければ民間から引っ張ってくればいいものを。
「私たちは人間です!どうして貴女まで、そんな……」
最も声を荒らげたのは深雪だった。彼女は敬愛する兄が侮辱されたという怒りと、非魔法師にしては話が分かる方である修平の姉がそのようなことを口走る混乱で語気を強めたが、徐々に消え入るような声になっていく。恨めしそうな目が若菜に刺さると、彼女はフッとため息を吐く。
「そうね。ハッキリさせておきましょう。修平がこの学校で友達ができるのは予想外だったけど知ったものですか」
それは修平に対する深雪の友人としての義理立てのようなもので、自分の友達なのだから分かってくれるという期待のようなものなのだろう。純真無垢というか雛鳥のようというか、疑いを知らないというかパーソナルスペースに入られると弱いというか。
「反魔法師は平等な人類がどうとかほざいて人々に弱くあることを強制するけど、あなたたち魔法師は強い一部分が私服を肥やすために人々に弱くあることを強いる。力のある危険思想の持ち主という点において魔法師もそれに類する活動家も、反魔法師団体となんら変わらない。少なくとも私はそう考えているわ」
「………それは………どういう………意味、ですか?」
「第三次世界大戦が終わって世界の中心は戦争で大活躍した魔法師になったでしょう。そこに問題はないわ、ええ、戦争で武勲を立てた人間が政治に入り込むなんて昔からある話だもの」
でも問題はその後なのよ、と若菜は続けた。
「厳しい男尊女卑の制度が敷かれたある国で革命が起こり、それまでの政権が倒されて新政権が樹立された。やっとこさ自由になれるという国民の期待は当然大きなものだったけれど残念ながらまたも男女間の問題で叶わなかった。は〜い司波達也君、その理由を述べなさい」
「女性が強くなり過ぎた………ですか?」
「大正解。新政権の女性リーダーはこれまでの鬱憤を晴らすみたいに女性に有利な法案を通しまくった。まあそんな感じで男尊女卑の軍国主義国家が打倒されて生まれのは結局女尊男卑の帝国主義国家でしたとさ。あーめでたくない」
「姉貴さあ、回りくどいんだよ。要するにどういうことよ」
そこまで聞いて、必要以上に理屈っぽく長ったらしい若菜にうんざりとした様子で修平が食い気味に問いかける。
「大戦終結から今に至るまで、もっと激しい差別があった。魔法師に対する風当たりはもっと強かった。サイレントマイノリティーだった魔法師は日本国の法律の名の下に差別される弱者だったけど今は政治の中枢に入り込んでる。弱者が強者になったらそりゃサクセスストーリーだけど、なった結果がこれ。それまで差別をしていた非魔法師とされていた魔法師の立場が逆転しただけで何も変わっちゃいない」
普通ならば、弱者が成り上がって強者になるというのは喝采に値する物語になるだろう。若菜の言うように民衆が持て囃し、ノンフィクションとして後世にまで伝えられるべきハッピーエンドのサクセスストーリーなのだろう。だが魔法師は、成功し過ぎた。
強く権力を持ち過ぎたがゆえに、非魔法師の才能が恨めしいという子供のようなワガママが通った。そのせいで彼は肉親を惨たらしく殺され天涯孤独の身となって人格に障害が生まれて異常者になった。殺意を見せずとも明確な敵意を見せた若菜は食ってかかるような勢いで元凶の家である七草の令嬢、真由美を射抜くように睨む。
「被差別階級にあったなんて免罪符にならないのよ。私たちは貧民も富豪もその中間も等しくとっ捕まえる警察官、学校あるいは生徒一個人と百家の濃密な癒着が判明次第手錠かけてしょっ引いて絞首台に送ってやるから覚悟なさい。そこの筋肉ダルマ君もよ」
「お言葉ですが、免罪符にならないというのは楡井も同じことでは?」
「あ゛?」
今度はドスのきいた声とともに十文字にその目が向く。しかし彼の真っ直ぐな目を見て削がれてしまったのか、溜め息を大きく吐いた。
「やっぱり、蛙の子は蛙だったわね」
「どういう意味ですか?」
その言葉に若干苛立った克人が語気を強めて目を鋭くするが、若菜は意に介する様子もない。
「才能ある非魔法師に嫉妬して、苦痛を与えるために彼の両親を殺した。そんな無茶苦茶やったクソ野郎とその愉快な仲間たちが、警察にマークされないとでも?本気で思ってたの?バカなの?死ぬの?体だけと言わず脳ミソまで筋肉でできているのかしら」
ここで両者には大きな前提からの間違いが存在する。国とはそこら辺を含めて条約を結んでいる筈だと驚く十文字と、さっきからしょっ引くって言ってるだろうがと対面の頭の弱さにうんざりする若菜である。まさか警察官が逮捕するという言葉を口にした時冗談だとでも思っていたのか?それとも自分の家は無敵だと勘違いしていたのか?それは最早怒りを通り越して哀れにさえ思えてしまう。その可能性を考えた若菜は、どうやら自分の言葉を本気で想定していなかったらしい克人に対して口角が引きつりながらなんとか無表情を保とうとしている、いわばドン引きの状態である。
「ウチの部署で一番ホットな話題はあなたたちがいるゴミクズ家に決まってるでしょう?まさか本当に捜査の手が伸びていないと思っていたのかしら」
「いや……しかし、それでは……」
それで全ての議論に決着がついた、ということではないらしく克人の歯切れは悪い。しかしその疑問を、彼女は一瞬で解消した。
「
「何……?どうして殺人鬼である楡井が?」
「あら、公安っていうのは公共の安全を守る部署よ。そう例えば、嫉妬に狂って無辜の民を二人殺して子供に消えない傷を与えた人でなしが安全を害しているから、それを取り除いただけ。表彰モノの大活躍でしょう?」
それを聞いていた真由美は歯痒さ、申し訳なさ、後悔、ちょっとした怒り……。様々な感情がごちゃ混ぜになって思わず目を伏せた。きっとこれはこの場にいる全員が同じ思いを抱いていることだろう。
何も間違っていない。若菜の言葉は、否定したくなるが何も間違っていないのだ。彼は被害者、真由美たちは加害者、そして彼が行なった殺しは復讐という名の執行であり、両親を殺した犯人は罰を受けずのうのうと暮らしていたため死という罰を下した。部下である魔法師を殺したという怒りを抱く権利は、加害者にはない。目には目を、歯には歯を、殺しには殺しを。
「権力を笠に着てのうのうと暮らす殺人犯を裁いた。また一つ、世界平和に近付いたと思わない?」
誰も、何も言わなかった。誰もが恨めしそうに笑った若菜を見るが肝心の彼女は気に留める様子もない。それがまた彼女の不気味さをよく煽る。
警察は法執行機関であり殺し屋でも過剰防衛の自警団でもない。法に基づいて罪人を罰するのは警察ではなく裁判所であり、略式処刑は本来許されないものなのだ。だが彼女はその許されない行為を隠すどころかひけらかし、あまつさえそれが平和のための行為だと叫ぶ。
この若菜の言葉に対して抱く感情は三者三様だ。司波兄妹は修平の両親殺害事件についてまったくの無関係であるために、若菜の言葉は到底理解できるものではない。理論においては犯罪者が排除された方が平和に近付くというのは正しいかもしれないが、それは現行の法律に隷属する警察官という立場においてはタブーなのだから。だが十師族の二人の心には深々と刺さるものである。特に真由美には。
そう、あの時———。襲撃が成功したと聞かされたあの日、盲目的に家の言葉を信じた私は彼の両親をテロリストと罵り、彼に対して犯罪者の両親が死んでよかったとさえ思ってしまった。度し難い、まったく度し難い。過去に飛べたとしたら、真っ先に過去の自分のスカした顔面に二、三発おみまいしているところだ。
「しかし———」
「いいのよ司波さん。これは十師族の汚点であり、最大の過ちなの。倫理人道の観点からも許される行為ではなかったの」
熱を帯び始めた深雪の言葉を、やや俯きがちに真由美が遮った。十師族の汚点。その言葉に対して若菜は舌打ちをして苦々しく顔を歪めると、まあいいわ、と話題を切った。
「そうだ修平。第三の一条とかいうの、貴方にお熱みたいよ」
「やだん、気持ちは嬉しいけど俺ってば女の子が好きだから」
「そうね。アプローチは熱烈だと思うけど、気張りなさいな。はい、お話終わり。邪魔して悪かったわね。あとは学生諸君で青春を謳歌してちょうだい」
負の感情を顔に出すか、あるいは無表情か。最後までそのどちらかしか見せなかった若菜は部下を引き連れて帰っていった。大喧嘩があったわけでも乱闘があったわけでもないのに、何故だか台風一過のような疲労が全員に襲いくる。
「修平君のお姉様というのは、なんというか……」
少しだけとはいえ直接衝突した深雪はどう表していいか迷い言葉を濁す。第一印象もその後の印象も悪いが、やはり人様の家族を直接罵倒するというのは憚られる。さて、不自然なところで言葉を切ってしまったが、深雪の二の句について修平はこともなげに言った。
「うざったいでしょ」
「いや、そんなことは……」
こともなげに、そしてあっさりと、言葉を繕うこともなく。修平は言った。あまりにあっさりし過ぎて深雪はたじろぎながら否定の意を唱える。面食らったせいで、その旨を伝える筈だったがまったく逆のことを言ってしまう。
「いいって。俺もそう思ってるし。なんか理屈っぽいし正論至上主義だし、論理で動かない奴を見下してるっていうか。正直拾ってくれたっていう恩がなかったら俺もキレるような人だから」
「そ、そう……」
まるで日頃の鬱憤を晴らすが如く、弾丸のように姉に対する愚痴が放たれて止まらない。
「姉ちゃん、仕事もできるし美人だけど性格だけはとことん最悪だ」
「そ、そうなんですか……」
「まあちゃんと正義の人っていうかちゃんと義侠心もあるし実際いい警官なんだけど。その反動が家族に来るってどうなのさ」
「は、はあ……」
「つか公安の一部署だつってんのに、引き受ける方も引き受ける方だよ。その辺非情になりきれないクセにクールなデキる女気取ってるから優先度低い仕事も押し付けられるんだよ」
「ええ……」
「そもそもキャリア組の警部補で刑事課すっ飛ばしてこんな国内向けの防諜組織に……。ブツブツブツ……」
「あのー……」
感情が死んで自分の世界に没入し始める修平に対して、深雪は距離感を図りかねている。いよいよ、我が姉を出し抜いてやろうかなどと不穏な言葉を口走り始めたところで、パンパンと真由美が手を叩く。
「ほらほら修平君、もういいでしょう。家族のことは家族の間でね」
「じゃあ俺、
「おい修平……」
こともなげに右手を上げて、それじゃあなと回れ右して帰ろうとする修平を克人が引き止める。
「なんだよゴリラ。姉貴に言い負かされたのがムカつくからって弟に突っかかるな。俺が呼び出された理由はコレだったんだろ?じゃあこれ以上ここにいるこたあねえだろうが」
先程よりも顔付きも言葉も厳しくなった克人の穏やかでない心象を見破った修平は、火に燃料を注ぐが如く嘲るような笑みを浮かべてからかうようにそう言った。
「待て修平、お前もここの生徒で選ばれてここにいる以上ここの規則に従わなければ」
場の雰囲気が険悪になってしまった。達也は事態を悪化させている、つまり平和的な解決を放棄している修平に注意を呼びかける。すると彼はピタリと黙り込み、その表情を見た真由美の顔は青ざめる。
「まさか師族会議の決定だけで十文字と七草が同じ学校でかち合うと思ったのか?」
「……どういう意味だ?」
怒気を向ける克人と、殺意を向ける修平。二人は周囲など見えず声も聞こえていないように相対しているが、その一触即発の状態は修平の方が譲ったおかげもあってか、あるいはただの気まぐれか。そんな言葉だけを残して彼は背を向けてドアの方に歩いた。
「あ、ちょっと待ってよ修平君!あッ、解散!とりあえず話したいことは話したからここで解散ね!ねえ待ってよ!修平君ってば!ね〜え〜!!」
修平は緩慢な動きで歩いていたが、真由美が付いて回るとスプリンター並みのスタートダッシュで部屋を出てそのまま廊下を駆け抜けていった。
「なんで逃げるのッ!?」
「お前が追いかけるからだわ!こっち来んなメンヘラ女!」
「酷い!私はただ君のことを想ってるだけなのに!」
「うっせえ!寄んな!」
言い争う声と走る音は距離が離れていくとともに弱まっていき、そして消えた。
「今凄まじいスピードで楡井が走っていったが……」
入室した摩利が、怪訝な顔でそう問いかける。しかし誰一人として口を閉ざしてそっぽを向くほかなかった。
◆◆◆
「お前、そんなになるなら追いかけてくんなよ」
「ひゅー……。ひゅー……」
所変わって校舎裏。一度は真由美の追跡から逃れた修平が隠れるという名目でこの後予定される学校での用事を全てサボってやろうと画策していると、自力で彼の居所を探り当てた真由美がやって来た。最初の方こそ『これで逃げられないわよ、さあ覚悟して体を差し出しなさいぐへへへ』などと意味不明なことをのたまっていたが、やがて修平と同じペースで走った時の疲労が限界に達したのかその場で倒れ、うつ伏せになりながら肩で息をしている。
「生きてっか?」
「も……むり……。じぬぅ……」
「温室育ちが無茶苦茶やるからだ。ちなみに水はない。お前が勝手に追いかけて来たんだからてめえだけでどうにかしろ」
「きちくう……」
「よく言うぜ……。トドメがご所望ならそうしてやるが」
「も、もーちっと待って……。あ、できれば修平君膝貸して」
「ぶっ殺すぞクソアマ」
最初の方こそまるで瀕死の重傷を負っているような苦悶の表情を浮かべていたが、徐々に息を整えると軽口を叩くようになる。正直修平にとっては最初の方がよかったが。
「それで、何の用だよ」
「ほ?」
「ほ?じゃなくて。意味もなく鬼ごっこしたのか?」
「まさか。意味はあるわよ」
「しょうもない用事だったら鳩尾に一発だからな」
「やだん、修平君ってば激しい……」
「そんな物欲しそうな顔するな。あばらまで折りたくなる」
「待って!武器はダメ!それは反則!」
こうなるから余計に、大人しい方がいい。バッと起き上がって両腕で胸を隠すような仕草は、十中八九修平をからかっているのだろう。そういう行動がいちいちカンに触る。
「で、マジに何の用だ。九校戦のことか?」
修平の声色で真由美は落ち着いた表情になり、彼の隣に座る。彼女は『本当に本当の用事よ?』と前置きをした後、その言葉の意味を図りかねている彼の理解よりも早く言う。
「ずるいわ、十文字君だけ。私だって修平君にあんな風にゴミを見るような目で見られたい。命は修平君次第なんだって直接感じたいのに。最近はおふざけばっかり。どうして?司波君たちが四葉の者かもしれないって分かってから冷たいわ」
まるで恋い焦がれる乙女、やきもちを妬く可愛らしい少女。真由美は隣に座る修平の顔を見上げてぷくっと頬を膨らませた。
「あなたに私の全てが握られていないとダメなの。だからお願い。嫉妬しちゃうからそういうことするのは私だけにしてよ」
表情だけ切り取れば、むくれる愛らしい少女だというのに。真由美の言葉を受け止めきれない修平は、彼女の顔から目を背けた。
今更ながら、 なんだか独自設定過多の本作。まあ趣味全開だからね、仕方ない。