魔法科高校のアンチテーゼさん   作:あすとらの

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ワズライの二重

一連の事件は途中のハプニングとして処理されながら、九校戦は中止されることなく、また第一高校の参加が撤回されることもなかった。

 

「は?何で?ナンデ?NA☆N☆DE☆?襲われたのよ俺たち、ワケの分からん爆弾犯に。殺されかけたのよ、ここにいる全員。分かるか、分かるよね、分からないと頭おかしいよ、病院行ってこいよ」

「わ〜た〜し〜に〜言われても困るの〜。それに、私だって嫌なのよ」

「クソかよクソがッ!!」

 

それを知った修平はかなりご立腹で、それは怒り狂っていると言ってもいい。道路標識を素手で叩くと、まるで包丁で野菜を切るように金属製の柱が真っ二つに切断され、地面に倒れたそれを勢いよく蹴り上げるとそこら辺の建物の壁に深々と突き刺さる。ここまで激しく物に当たる彼というのも中々珍しく、時折彼の怒声には低感度のラジオのようにノイズが走る。彼の脳内が荒ぶっていることを現しているのだ。

 

「会長……」

「相当頭にきてるみたいね。珍しい」

「やはり私たちを庇ったことでしょうか」

「そんなわけないでしょ。もしそうだったら、私ら今頃あの子にネチネチネチネチね……」

「そうですか……。彼は何にあそこまで腹を立てているのですか?」

「それはもう、一つしかないでしょ。運転手さんが亡くなったのよ」

「……まさか、それでですか?」

「いやそれナチュラルに失礼……。気持ちは分かるけど……」

 

そうなってしまう原因は一つ、先の攻撃によって運転手が死亡してしまったことにある。今回の車両の爆発が何者かによる攻撃だったこと、それによって運転手が死亡した旨の一報を聞いた時の修平の顔は、それはもう達也が殺意を察知して身構え、真由美が興奮のあまり赤面するほどであった。

 

「でもそんなところもステキ……」

「……前々から思ってましたけど、会長って」

「いやいや、違うから。そうじゃないから」

「まだ何も言ってません」

「あり得ないから〜!私ちゃんと清純派で通ってるから〜!」

 

真由美が遠巻きに眺めている修平はまだ怒りが収まらない様子であるが、そこに誰かから着信が入ると一変する。完全に払拭されたというわけではないが冷静に話をするようになり、落ち着きなくグルグルと周回しながらではあるが暴力性はなりを潜めるようになっていった。

 

「……おっけぃでぃす。じゃあそんな感じで。おい七草、お前の飼ってる奴全員呼べ」

 

が、真由美に向かった瞬間彼の言葉は低くドスの効いたものになる。電話の相手は公安に勤める姉だろう。

 

「貴方ねぇ、生徒会長に使いっ走りさせるってどういう了見よ」

「お前はいいんだよ。さっさと呼べ、でないと目玉をほじくるぞ」

「冗談にならない……。いくわよリンちゃん。目玉ほじくられるから」

「はい」

 

そうしてなんの躊躇いもなく真由美に使いっ走りをさせて集合をかけたことで、生徒会のメンバーと修平が相対する形になった。これからよくないことを話すということで無意識ながら雰囲気の圧力が強くなるが、修平は上級生数人から発せられるプレッシャーをものともしない。元より生徒会の役員たちは上級生だが、修平にとってはただそれだけの存在なのである。特に服部からの殺意にも似た圧に対しては笑顔で手を振り煽るような余裕さえある。

 

「テロだった。公安が捜査に入ってる。今は公機捜が現場に初動捜査で入ってて、魔法を使用した痕跡が見つかってるらしい」

「やはりか……」

 

修平の言葉は淡々としている。そこには憤怒やその他の情動が込められておらずただ事実を事実のまま機械的に読み上げているようだ。ニュースキャスターが一字一句違うことなく原稿を読んでいるようなものだ、そこには感情のようなものはない。

 

「魔法が使われたのは全部で三回、いずれも車内からの行使。んで魔法式の残留サイオンも検出されなかった。ドライバーは中々優秀らしい」

「ん?ちょい待ちなさいな修平君。要するにドライバーが犯人ってこと?」

「まあそういうこって。明らかに専門訓練を受けてるってことで、バックになんかしらいるだろうな。だとしたら第二波第三波もあるんで各自警戒を怠らないように。以上、ハイ解散」

 

特に思うようなところも、あるいは感想も義侠心の動きのようなものもなかったのだろう。さっさと報告を切り上げ、修平は誰よりも早くホテルに入っていった。

 

「七草ァ、これくっつけてくれ。得意だろこういうの」

 

用事は終わったとばかりに、修平は私用の話をする。つまり自分の体の不足、より正確に言うならば切り離された右手のことだ。真由美の手先の器用さを見込んで、お願いと言うにはあまりに高圧的であるがとにかく縫合して元に戻す作業を要請する。

 

「はいは〜い♪ちょっと待っててね〜♪」

 

真由美はそれに大変機嫌をよくしたようで、声をかけられて露骨にご機嫌な様子でその後を付いていく。効かないと分かっていてもしっかり猫撫で声でアピールしながら。

 

「会長にあんな一面が……」

 

その一部始終をバッチリ目にしていた花音はまるで変人を観察するような無遠慮な視線を真由美に送る。そして摩利はそれを咎めることができなかった。

 

「私もあんな彼女を見るのは初めてだよ……。おおかた頼ってくれて嬉しいとかそんな感じだろうが」

「いやあシチュが猟奇的過ぎる……。彼、本当にあんな状態でケロっとしてるんですね」

「彼については深く考えない方がいい。疑問が増えるだけだ」

「はあ……そうなんですか。そういえば渡辺先輩、彼と戦ったって本当ですか?」

「そのウワサ、広まってるのか?」

「ええ。強かったですか?」

「それはもうなんとか()()()()()()()()よ。正直五体満足の彼と戦っていたらと思うとゾッとする」

 

実際、摩利も同じ思いだからだ。確かに修平はその人格、体質共に謎が多く興味深い存在であるがそれだけ。そこに魅力など感じられないし何なら不気味なので可能な限り近寄りたくない。もしも彼が高校の後輩ではなく街角で出会っただけだとしたら、意図的に接触を避けるだろう。だからこそ真由美のソレは理解の範疇にない。因縁がなくてもそうするのだ、因縁がある彼女があそこまで入れ込むというのは数奇者では済まない。

 

「改造人間とかじゃないですよね?」

「まあ、特に人体改造の類は受けていないらしいが……」

「でも手首から先がなくなってもケロッとしてしましたよ」

「だから考えるな。人体の神秘とかそんな感じのものだ、きっと」

「は、はあ……」

 

花音にそう言ったのは単なる忠告という意味合いもあるが、それ以上に自戒の意図もあった。今はまだいい、どういうわけか修平も摩利や克人や一年生が自身を探ることについて気付いていながら黙認している。だがそれがいつまで続くか分からない。いつか彼の、生い立ち以上に重要な何かを知った瞬間にその銃口が知ろうとする人々に向き、躊躇なく弾丸が発射されるかもしれない。そうなる前に手を引くべきなのだ、それは分かっている。

 

「死にたがってるようにしか見えないぞ……」

「へ?」

 

それでも、知ってしまった以上後戻りはできない。出過ぎた真似だとの批判はいくらでも受けるが、やはりそのまま放っておくことができなかった。

 

「なんでもない。それより花音お前、五十里はいいのか?」

「いいんです。技術スタッフはなーんか仲良さげに固まってたので。こっちはこっちで話せる人いない同士、仲良くしましょ」

「私をそんな不名誉なカテゴリに入れないでくれ」

 

◆◆◆

 

第一高校のバスが()()()()に巻き込まれたというニュースは警察の情報規制がある程度解かれたことで発生から三十分ほどで大会関係者の耳に入った。まさか九校戦開催前に選手が故障したのかと関係者一同は暫く生きた心地がしなかったが、()()に怪我人は一人もいなかったという続報が入って胸を撫で下ろした。しかしそれは個々人に無関係な人間が抱ける無責任な感想であり、巻き込まれた者と親しい人間は心配せずにはいられない。少々特殊なケースであるが、この二人もそうだった。

 

「本当にいいの?情報を開示しないって……。修平君がやったこと、知られないってことだよ?」

「やったことってなんだ七草。お前の雨除けになってやったことにそれほどの価値があると思ってるのか」

「むう……。それはそうだけど。こういうのって手当て出るんじゃないの?」

「俺はエスだぞ。警察官じゃない。危険手当てなんざつかないっての」

「じゃあ私が払おっか?」

「お前の出る枠じゃねえから大人しくしてろ」

 

ホテルの一室で二人は向かい合って座り、いつも通りふざけたような会話を展開する。着地点が特に定められていないぐだぐだとしたものだが、周囲の生徒会役員の面々はそれどころでない。

 

「はわわ……はわわわわわ……」

「そんなに辛いなら外に出てれば?」

 

主にあずさが顔面蒼白である。というのもなんてことのないように話しながら真由美は切断された修平の手を縫合し、彼もそれを受け入れている。当然麻酔などという上等なものはなく、真由美は布を縫い付けるように一切の躊躇いもなく肌に針を突き刺して糸を通していく。それが痛々しいのだ、普通の感性の人間にとっては。

 

「うわ、刺っ……!」

「あーちゃん、そんな無理にみてなくていいのよ?」

「つーかなんでいるんだよ。ギャラリー呼んだ覚えはないぞ」

 

修平がジロリと睨むと、元々押しが弱く小動物的なあずさは縮み上がってしまう。

 

「こら、リアクション返ってくるのが楽しいからってあーちゃんのこといじめないの」

「別にいてもいなくても変わらないだろ、こんなの」

「こ、こんなの……」

「はいはいそこまで。これでもB君の方は結構あーちゃんのこと気に入ってるんだよ?」

「B………?」

「あの日和見野郎のことは言うな。あんなのがいるから今になってもやることやれねーんだ」

 

完全に縫合が完了してから五分か十分経ったところで、青白くなっていた右手に血が通っていき健康的な血色が戻っていく。そこから更に三分ほど経つと指が動くようになっていくのだが、痛々しい縫合の結果を見なければ一度切断されていることも分からないほどに自然な動きだ。

 

「うっわあ……。もう動いてる。うっわあ……」

 

あずさは見てはいけないものを見てしまったように……というか彼女にとっては見てはいけないものなのだが。

 

「はい、あんまり無茶はしないようにね」

「無茶はさせないでくれよ」

「ディナーくらいご一緒してくださらないかしら」

「御心のままに。ただしどうなっても知らないからな」

 

彼女にとっての一大事も、何も触れられることなく当然のような流れのままに終結した。

 

(あれ?もしかしてこれって私の方がおかしいの?)

 

一瞬あずさは自分の感性に疑問を抱いたが、やはりそんなわけないと首を振る。動じない性格の鈴音と克人にそれらしい感情を期待していないが、修平と真由美はもう少し人間らしいと思っていただけに衝撃だった。慣れている、ということなのだろうか。

 

「それで、生徒会の皆々様が何用で。あんだけ体張ったんだ、俺はもう休みたいんだけど」

 

真由美の部屋にいる用事はこれで終わったのだが、周囲はそれで終わらせてくれそうにない。

 

「まあそう言うな。少しだけ聞いておきたいことがあってな」

「あんだよ」

 

このまま押し通るのは簡単だが、警察の協力者としての立場を無にするようなことも憚られる。

 

「九校戦を開催して問題ないとしたのは誰の決定だ?」

「そんなもんお前の実家辺りが一番詳しい……。ああ、蓋されてるのか、不便だねえ権力っていうのは。ダメなもんがダメなまま動かない」

 

そう憎まれ口を叩きながらも、修平はそれに対して明確な答えを用意していた。

 

「つっても薄々分かってるっしょ、ミスターゴリラ。この魔法師だらけの大運動会が中止になったら、どいつがどう優秀なのか分からないわけで、それで困るのは『採用する側』のギャラリーの方々なわけで。な?」

「……なるほどな。そうか、まさか本当だとは」

 

少々遠回しではあるが克人は納得した様子。しかし表情は答えが分かったという嬉しさのようなものはなく、ただ深刻な面持ちで考えるばかりである。

 

「やっぱ分かってたんじゃん。俺に言わせる必要あった?」

「確証が欲しかった。身内からの言葉にはバイアスがかかりやすい、お前のような立場の人間の言葉がなければな」

「そいつはまた、修平さん嬉しいよ。で、それを踏まえてどうするんだい。テロに巻き込まれて運転手が死んで生徒一人は右手首から下を切断する大怪我を負ったわけですが、それでも中止するつもりはないのかい」

「残念ながらそのようだ」

「クズっぷりが安定してんなぁ。安心と信頼のクソだわ」

 

やはりというか、表情から碌でもないような真実を聞かされるとは修平も思っていた。だがこれはあまりにも……。この場にいる全員がそれぞれ思うところがあり眉をひそめた。

 

「とはいえ公安は絡まないだろうね。魔法師同士が勝手に殺し合ってるならそのまま高みの見物ってところか」

「それじゃあ……。このまま競技をしなければならないんですか?どこで誰が襲われるか分からないのに?」

「そういうことっスよあーちゃん先輩。まあこっちも仕事はするんで、そっちが無茶苦茶しなけりゃ守り通しますよ。不本意ながらね」

「修平君ってば一言余計〜」

「お前もちゃんと俺の右手さんに詫びとけ」

 

特に礼を言うでもなく、修平は居心地の悪さに舌打ちで抗議しながら部屋を出た。

 

「このお礼は1日デートで———あれ?」

「もう出ていきました」

「ちょっとぉ、早くない!?ねえ早くない!?カムバーック!!」

 

どこか既視感のある光景だが、今回は真由美が廊下に出るとすでに修平の姿はない。どうやら全力疾走で廊下を駆け抜けていったようだ。

 

「逃げられた……」

「会長、そろそろ彼と仲がいいのか悪いのかハッキリしてくれませんか」

「仕方ないじゃない。どの修平君が表になってるかで変わるんだもの」

「だが七草と話している時の楡井は大抵攻撃的な人格のようだが」

「やっぱり嫌われてるんじゃないか?」

「ありませ〜ん!そんなことありませんから〜!!あの子はただツンデレなだけですから〜!!」

 

と、真由美への対応は始終散々であったが本人は頑なにそれを認めようとしない。だが実際彼女の言うことも一理ある。攻撃的というのも彼の上限不明の人格の一つであり、どれを本質と呼べるのかは定かでない。

 

「それを確かめるために、中条を傍に置いておくという話ではなかったのか?」

「いや〜でも、居心地悪くなるようなことはするなって言われちゃったし。今はそっとしておくべきじゃない?」

「中条なら無害な人格が出てくるかもしれんぞ」

「十文字君ねえ、私が彼のために仲間を安売りするような奴だと思われても困るんですけど。生徒会のメンバーの中で修平君とかち合って相性最悪なのは私とあーちゃんなんだからね。魔法を封じられたらおしまいなんだから。そういうのは対処できる人がするの」

「五体満足の彼と真正面から当たるのは私も避けたいぞ。というかそんなことしたら殴り合うまでもなく射殺される」

「ほら〜摩利もそう言ってる。これはもう、私たちが出たらスイスチーズもびっくり穴開き模様にね」

 

生徒会の面々の間に沈黙が流れる。今問題になっているのは、つまりどの人格が誰に対して敵対的、誰に対して柔和なのかが分からないということだ。前々から疑問に思っていたが、今回はそれが分からないことの問題が顕著に現れた。

 

「バスの中で七草を庇った時の楡井は確実に最も攻撃的なA人格だった。それにあの状況、七草が死んでいても体面は悪くなるが言い訳もできた」

「やっぱり相思相愛———」

「お静かに願います」

「人格の差異はあっても、それ以外の目的意識のようなものは同じということなのか?」

「いや分かんないわよ。私に聞かれたって。知ってるのは本人だけ……()()を本人って呼ぶのかは知らないけど」

 

そしてまた、重い沈黙が流れる。そして鼻の頭を親指と人差し指で押さえながら克人は神妙な顔つきで溜め息を吐き、

 

「どうして九校戦で特定の生徒の話をしなければならんのだ」

 

忌々しそうにそう言って自室に戻っていった。

 

「議題に上がるほど強くなった原因は私たちでしょ〜。自業自得みたいなもんよ」

 

真由美も『二人分のディナーの席を予約しておかなくちゃ』と部屋を出る。二人目が誰なのかは考えるまでもないが。

 

「確かに。強くなった()()の彼を咎める資格はないな」

「しかし、事が大きくなり過ぎればそうも言っていられませんね。攻撃的な人格がいつどんな行動を起こすか分からない。そうなった時は一巻の終わりですね。魔法なしで銃弾を捌けない限り」

 

摩利も鈴音も部屋に帰っていくが、あずさは廊下で立ち尽くす。やはりというか、彼女は他の面々と違って善良過ぎるのだ。そのせいであれやこれを考えてしまう。独善、あるいは偽善の域にまで達してしまいかねないほどに。

 

「あっ……楡井君」

「中条氏。いや済まないね、先程の私が」

 

しかしそう呼んでいいものか、開幕の一声で早速躓いた。

 

「だが了承いただきたいのは、彼はあんなだが楡井修平を構成する重要な要素なのだ。彼がいなければ自己防衛さえままならない」

「は、はあ……。いえ、私は気にしていませんが……」

「そうかい?まあ非礼に変わりはないので謝罪させていただく。そうしなければ立つ瀬がないのでね。本当に済まなかった」

 

今まで、主に三巨頭に対して命令口調で話したり罵詈雑言を飛ばしたり皮肉ったりと粗暴かつ粗雑な面が前面に押し出されていたが、今の彼はそれとは真逆である。紳士的で知的な雰囲気が漂っていて、決して悪くない顔立ちもあってその全体像は女性の理想が詰まっていると言えなくもない。

 

「少し話をいいだろうか」

「わ、私とですか?」

 

思わず歳下だというのに敬語を使ってしまう。だが修平はそれを特に気にする様子もなく、人格は変わっても歳上が敬語で歳下がタメ口という奇妙な会話に変わりはない。

 

「何、あのA人格が唯一無害化される人間がどのような人なのか、私の興味本位だ。嫌なら嫌だと言って欲しい」

「嫌……ではないです。私も聞きたいことがあって。楡井君があんな感じだから全然聞けなかったけど」

「むう。やはりあいつは非礼が過ぎる。私こそA人格に相応しいのではないか?」

「あの……」

「いや、なんでもない。そちらの聞きたいことからどうぞ」

「あ、はい。じゃあ……」

 

あずさはそこまで言って今更ながら尻込みする。禁忌に触れていきなり銃弾が飛んでこないか、もしそんなことになったらここで若き人生を散らすことになってしまうが。

 

()も君をあまり脅威として見ていない。宣戦布告でもない限り君に危害を加えることはないよ」

 

感情の遷移を敏感に受け取った修平は言う。気休め程度ではあるがなんの言葉もないよりはいい。おずおずと、しかし確実に切り出す。

 

「楡井君は……私たちの味方なんですか?」

 

修平はその言葉に対して怒りはしなかった。どういう意味だと問うこともなかった。あるいは、はぐらかすようなこともしない。

 

「もちろん。私は善良な人々の味方だ、つまり君たちの味方だとも」

 

きっぱりとそう断言した。善良でない人々にとっては味方でないと。

 

「………」

「納得できないという顔をしているね。私としてはこれ以上ないくらいシンプルかつ分かりやすく言葉にしたつもりだが……。時に中条氏、この世で最も辛いことはなんだと思うね」

「それは、質問に関係あることですか」

「ああ」

「……死ぬことです」

「違う」

 

隣を歩く修平の足が止まり、それに釣られてあずさも止まる。修平は彼女の目をしっかりと、怜悧だが心の内まで見透かすような眼差しで見ていた。

 

「死ねないことだよ。生き死にさえも他人に縛られて、望む時に望んだ結末を迎えられないことさ」

 

そして口角を吊り上げて笑う。まるで、今言ったことを楽しむように。

 

「死んで楽になろうなんて許さない。私たちの復讐は、奴らの生死を支配してようやく始まるんだ」

 

どいつもこいつも、長く生きることがいいことだと思い込んでいる馬鹿そのものだ。最後にそう吐き捨てると彼は引っ込んだ。

 

「……あん?どした中条。俺の顔になんかついてっか」

「……ううん。なんでもない。会長が楡井君とディナーを一緒にって言ってたよ」

「断っとこ」

 

修平はかったるそうに自室に戻っていく。修平はあずさに対して脅威に感じていないと言っていたが、この先そうならないとは一言も言っていない。道を間違えれば悲惨な結末を辿るだろう。

 

だが魔法師としての道を歩くというのは必然的に彼と敵対する道を歩くのと同義なのではないか。あずさの中に一抹の悩みが芽生えた。

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